恩赦阻止－検察に憎まれ恩赦を阻止され続けた男－ | |||||||||||||||||||
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平沢貞通1892.02.18 - 1987.05.10職業：画家（テンペラ画） １０代後半頃に横山大観に師事し、雅号を「大暲」として画家となる。 ２２歳のときニ科展に入選し、２５歳で東京美術学院の講師になる。この頃からテンペラ画（絵の具の材料が違い、卵などを使うようである）を始める。 現・日展である帝展に連続１６回入選して無監査（出典に際してのシード権）となる。その後、テンペラ画壇の会長になる。 |
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－概要－４８年１月２６日、豊島区にあった帝国銀行椎名町支店に東京都防疫課・山口二郎と名乗る男がやってきて、「近所で集団赤痢が発生し、警察から報告を受けたＧＨＱの調査の結果、その家に同居している人がこの銀行に来ていることが分かった。ゆえに消毒する必要があるので、その前に予防薬を飲んでくれ。」という。ＧＨＱの名前を聞いて疑う者はいない。続けて男は「２つ薬がある。最初の薬を飲んだ後、１分くらいして次の薬を飲む。飲み方は実演するから、同じようにして飲んでくれ」といって、茶碗に注いだ液体をのどの奥に流し込むように飲んでみせた。 こうして二つの薬を手本通りに飲んだのは１６名いたが、１２名が死亡した。助かった人も苦しんでいる中、男は１６万４千円と１万７千円の小切手を奪って逃走した。 全員が飲まされたのは、青酸化合物だった。 －逮捕－捜査本部は、疑わしい人物の中から、７３１部隊に所属していた諏訪中佐に目を付ける。７３１部隊は満州において、薬品や細菌の研究のため、生体の人体実験を繰り返していた研究部隊である。その部隊員は、薬品の性質や扱いにはなれているはずである。しかし彼の行方は分からない。そんな中、ＧＨＱから７３１部隊関係者への調査をやめるよう、圧力がかかる。ＧＨＱは７３１部隊の成果を利用するため、関係者を保護する必要があったのだ。 一方、この事件の３月前にも、類似事件が起こっており、その事件の遺留品である「松井蔚」の名刺から捜査をするメンバーもいた。松井は実在の人物だが、アリバイがある。そこで刑事達は、松井と名刺交換した人の中で、現在「松井の名刺」を持っていなかった者の中からアリバイを調査し、残った者の中から「名前判断師」によって「犯人」を割り出した。それが平沢だった。 平沢には、事件直後に１３万円４千円を所持しており、刑事がこの金の出所を追求すると、彼は口をつぐんでしまう。死刑確定直後の彼の告白によると、「春画（今で言うエロい絵）」を描いた代金だったという。生活の為に描いたのだが、彼にとっては、このことは死んでも口外したくない汚点だったようだ。このとき描いたと思われる春画は、最近になって、養子である武彦氏によって発見されている。 まだ「自白が証拠の王様」の時代であり、１月以上も拷問を受け、ついに自白してしまう。その間何度も、死ぬことによって無実を訴えようと、自殺を図っている。 －裁判－裁判の最大の争点は、「松井の名刺」である。松井は平沢に渡した名刺の裏に、自分の住所を書いているが、遺留品の名刺には何も書いていない。さらに平沢は、名刺を無くした理由として、名刺入りの財布をスリに盗まれたと主張しており、それを裏付けるように被害届も出ている。また、事件現場からは平沢の指紋は出ていない。しかし、東京地裁は「自白」と「明確なアリバイがない」ことを理由に有罪と認定し、死刑判決を言い渡す。 控訴も棄却され、最高裁も５５年４月６日に上告を棄却し、死刑が確定した。 －獄中で－再審活動平沢冤罪と見ている人は早くからおり、支援団体（平沢貞通氏を救う会）も出来る。それには、戦前に無実の罪で父を投獄された森川哲郎、作家の松本清張、自民党の大野伴睦、死刑廃止論者の磯部常治弁護士などが参加した。 確定から１０年近くたった頃、野上晴彦という人物が「事件の３月前に平沢の絵を１５万円で買った」という証言をした。この証言を「新証拠」として、東京高裁において再審請求審（第四次）の事実審理が始まった。 審理では、平沢も「売りました」というし、野上が平沢の絵を見せたという会社役員も「見ました」という証言をした。 しかし、決定は「請求棄却。野上証言は事実を著しく曲げたものである」というものであった。しかもその直後に東京地検特捜部は「救う会」の事務局長である森川及び野上を逮捕し、主任弁護士である磯部の事務所を捜索したのだった。 決定及び逮捕の理由は、野上証言の翌朝、鈴木英夫弁護士が東京高検に行き、「野上証言はウソです。野上が絵を買ったのは１９５０年のことです」と明かしたためだった。また、逮捕直後に野上も偽証であったことを認めた。 こうして「野上は売名のため、森川は法秩序に挑戦しようと挑んだ」と認定され、森川は懲役１年６月の実刑を受ける。 有名死刑囚の処刑と宮城刑務所への移送 １９６０年代初頭には、４名の死刑囚に対して有力な支援団体がついており、法務省はそれを苦々しく思っていた。４人とは、平沢（東京拘置所）、神戸の老夫婦殺しの犯人で拘置所の処遇に対して「行政訴訟」という形で不満を訴える孫斗八（大阪拘置所）、ライ病で不当な裁判で死刑になったと訴える藤本松夫（熊本刑務所）、小松川事件の李珍宇（東京拘置所）である。 そこへ６２年７月に、死刑執行推進派である中垣国男が法相に就任。法務省幹部は、この法相の協力を得て、４人を次々と葬り去ろうと考える。 まず９月には十七話にあるとおり藤本が、１１月には李（宮城移送は９月）が、翌年７月には孫が処刑される。 時間は前後するが、６２年１１月２４日、平沢も李に遅れること２月で宮城刑務所に移送された。しかも、通常「宮城送り」は上野発青森行きの常磐線特急「みちのく」でなされるのが普通だが、平沢の場合は特別にワゴン車でなされた。 「救う会」のメンバーはあせった。メンバーはマスコミに情報を流して、執行阻止を訴えたりした。また、メンバーには国会議員も多くいたので、それら議員達による国会質問という形で法相や法務省にたいして牽制をかけた。その結果、中垣法相は「万策つきた上なら別だが、軽々しく死刑を執行する考えはない」と発言するに至った。 平沢の状況が一般に公開された上、平沢執行に動こうとすると国会でたたかれる、といった状況が、その後の法務大臣に「平沢執行」に対する躊躇を生むことになる。と同時に、「救う会」側の執拗な執行阻止活動は、検察や法務省内部に、「平沢憎し」の遺恨を残すことになった。 前者は、６７年１０月の田中伊三次法相による２３人執行の時に顕著に表れた。田中が、「決裁してやるから、どんどん持ってこい」といい、次々サインしていく中で、平沢の執行起案書が出てくる。 「あ、こいつは無実というじゃないか。無実の人間殺したら成仏できんぞ」 といった具合で、この時点ではもう「平沢執行」は法相にとってババを引くようなものになっていた。 一方、後者は検察が平沢恩赦をことごとく潰したという形で表れる。 恩赦 最初は、６８年の「ＧＨＱ占領下で起訴された死刑事件６件７名」に対する恩赦検討（詳細は十三話）時である。 宮城刑務所該当２名という話が出てから、平沢は減刑されることを確信していたようで、周りの人に挨拶などをしていたようだ。だが、減刑の言い渡しを受けたのは、支援組織のなかった山崎小太郎であった。でも次は・・と思う平沢に言い渡されたのは「恩赦不相当」だった。 実はこの山崎恩赦時(1970)、当時の小林武法相は、「（平沢を）執行できないなら恩赦にしたらどうだ」と言ったのだが、担当者は「平沢を恩赦にすると運動に負けたことになる」と言ったと伝えられている。 この件で平沢は衰弱し、さらに７４年６月には長年無実を訴えていた「日光中宮事件」の２死刑囚が執行されたことにより、ショックを受けて７月２日、心臓発作で倒れる。 このとき法務当局は、平沢執行に動こうとしたが、当時の浜野清吾法相は「身内に宗教家がいるから」と言って決裁しなかった。一方「救う会」は「病気だから、獄外で治療させろ」と主張し、平沢を一時的に宮城刑務所から出すことに成功（翌年には復所）。こうしてこの時も平沢は処刑を免れた。 ７９年、古井喜美法相が「（平沢を）執行できないなら恩赦にすべきだ」と言明。また、８０年１１月頃になると、恩赦を決定する中央更正保護審査会でも平沢恩赦にほぼ固まっているといった話が漏れてくる。 ８０年１２月１９日、平沢恩赦「不相当」の結論が出される。 法務記者を務めた勢藤修三は、この１月の間の事情を、「恩赦にするなら、その前に処刑してやる」という検察首脳部からの圧力があったと言っている。 ただ、この時点では法務当局も、もはや平沢執行をあきらめていたようだ。支援団体の妨害はもとより、平沢本人が８０代後半の高齢の上、病気で、とても執行できる状態ではなかったからだ。ならば後は静かに「獄死」してくれというのが、彼らの今後の方針となっていた。 ８５年には、「救う会」による「死刑の時効」訴訟がなされる。これは刑法３１条にある「刑の確定した者が、刑の執行を受けられない状態で一定期間が経過すると、時効が成立する。死刑の場合３０年」というのを根拠とした訴えだった。 しかし裁判所は「拘置されている状態は逃亡している状態とは違って、刑の執行を受けられない状態ではない」として、却下した。 獄死 ８５年４月、法務当局は平沢を八王子医療刑務所に移送した。執行をあきらめた以上は、世間の非難を少しでも和らげるために医療設備の整った八王子で最後を迎えさせようと考えたのだ。 ８７年５月１０日、平沢貞通は肺炎で死去。享年９５歳。獄中生活14,142日だった。 | |||||||||||||||||||
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(C)笑月 | |||||||||||||||||||