1:裁判の進行

1:はじめに

ここでは起訴から刑の確定までの刑事裁判の進行について述べる。
ただし、ここでは一審裁判所を地方裁判所という前提で記述する。
一審が簡易裁判所にて行われる刑事裁判とは、刑が罰金のものが含まれる罪にのみ限定されている。(代表は道路交通法違反)
また、共同被告人(いわゆる共犯)がおり、その共犯との審理を分離する場合などは特に記述しない。
その他特殊な例も特に考慮しない。例えば被告人死亡の場合や、被告人の逃亡などによる不出頭、起訴手続きの不備などに起こることなどである。


2:一審(地方裁判所)

 地方裁判所は全国各県に1つずつあり、さらに支部が数カ所にある。一審はこれら地方裁判所の本所・支部で行われる。なお、最高刑が死刑、無期懲役・禁固の事件及び、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件は、裁判員が参加する刑事裁判(以下、裁判員事件という)となる。

起訴
 最初に行うのが起訴(検察官が裁判所に起訴状を提出すること)である。
 起訴状の内容は、被告人に関すること(氏名・本籍など)、被告人の行った違法行為の内容(訴因という)、罪名の3つである。(刑訴法256条)

公判前整理手続(裁判所が継続的・計画的・迅速に公判を行う必要を認めた場合)
 第一回の公判期日前に、裁判官、検察官、弁護人の間で、争点及び証拠の整理を行う。(刑訴法316条2から39)
 なお、裁判員事件は、必ずこの手続きを経る必要がある。(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律49条)
 また、鑑定を行うこともある。(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律50条)

冒頭手続き
 裁判の最初に行われる手続きである。裁判長は被告人に対し、起訴状に示された本人であるかを確認し(人定質問という)、検察官による起訴状の朗読が行われる。(刑訴法291条1項)
 そして、裁判長が被告人に黙秘権があることを告げる。(同2項前段)
 最後に被告人及び弁護人に対し、事件について意見をいう機会を与える。(同後段)
 実務では、この機会に被告人に公訴事実に対する認否をさせ、争点を明確にする(罪状認否)

証拠調べ
 まず検察官が証拠により証明しようとしている事実を明らかにする。これを冒頭陳述という(刑訴法296条)。そして、弁護人にも証拠により証明しようとしている事実を明らかにすることが許される(刑事訴訟規則198条)
 検察・弁護側が示す証拠が、該当犯罪に関する事実に対してどう関わるか、証拠を提出した側が関連づけ、それに対し反対側はその関係を崩すような証明を行う。
 なお証拠は、物的証拠・人的証拠に大別される。人的証拠は、主に法廷での証言に該当する(刑訴法3章第2節)

被告人質問
 おおむね証拠調べの後半で、被告人質問が行われる。
 裁判官・検察官・弁護士・共同被告人は被告人に対し、必要事項に関して供述を求めることが出来る。

弁論
 証拠調べが終了すると、まず検察官が事件について最後の意見陳述を行う。この検察官の弁論を論告といい、求刑(起訴状に書かれた罪名の刑の範囲内で、被告人に対して一定の刑を科するよう裁判所に請求すること)はこの機会になされる(刑訴法293条1項)。
 次に弁護人・被告人が最後の意見陳述をする。(同2項)これを最終弁論という。
 特に被告人の弁論を最終陳述という。

判決
 判決の言い渡しは必ず公開法廷において、被告人に口頭で告知する形で行う。
 判決文には被告人に関すること(氏名・本籍など)、主文(判決の結論を簡潔に示したもの)、理由(主文を導くための法理論的過程で、裁判所が認定した犯罪の事実・証拠に関する認定・認定した罪名・法令の適用が書いてある)からなり(刑訴法333条、335条)、これを裁判長が読み上げる(刑事訴訟規則第35条1項)。
 死刑判決を言い渡す場合、主文には「被告人を死刑に処する」と書かれている。宣告の順序までは規定されていないが、主文を読み上げたあとに理由を読み上げるのが普通(同2項)。しかし、死刑判決を言い渡す場合は主文を後回しにして理由から読み上げるのが慣例。これは、最初に「被告人を死刑に処する」と宣告されると、まともに理由を聞くことができないからである。

控訴
 検察・被告人は判決に不満がある場合、高等裁判所に控訴できる(刑訴法372条)
 高等裁判所宛の控訴申立書を書いて、第一審裁判所に提出する。だだし、控訴の提起期限は14日以内で(刑訴法373条)、控訴しないと判決から15日目となる午前0時に、刑が確定する。だだし、2週間目が休日ならば、その休日明けが控訴期限になる(刑訴法55条3項)
 その後、控訴理由を記した控訴趣意書を書いて高等裁判所に提出する(刑訴法367条)


3:二審(高等裁判所)

管区とよばれる地域に1つづつある。札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・高松・広島・福岡の8カ所あり、さらに仙台高裁秋田支部・名古屋高裁金沢支部・広島高裁岡山支部・同松江支部・福岡高裁宮崎支部・同那覇支部の6つの支部がある。一審裁判所のある管区の高等裁判所が二審裁判所になる。

控訴趣意書の調査
公判に入る前に控訴趣意書の調査を行う(刑訴法392条)
この調査で出された判断としては、97年に、ある共犯事件で、一審段階で2名の被告人に対し、1名の弁護士しかつかなかったため(刑事訴訟規則29条第2項違反)、破棄差戻判決(上級の裁判所が元の裁判所に審理のやり直しをさせること)が下ったことが挙げられる。
一方の被告の二審段階の弁護士が、この手続き違反を控訴趣意書に記述したためだった。

公判
 まず、控訴趣意書に基づいて、検察・弁護側がそれぞれ弁論をする(刑訴法389条)。
 そのあとは、証拠調べ・被告人質問が一審と同じ形で行われる。証拠調べが終わったら検察官が弁論を行う。ただし、求刑をすることはない。そして、弁護人が最終弁論を行う。
 一審では原則被告人が出廷しなければ開廷することができないが(刑訴法286条)、二審では被告人が出廷する必要はない(刑訴法390条)。
 なお、被告人が自ら控訴取り下げ書を提出した場合、提出日をもって刑が確定する。

判決
 判決文には被告人に関すること、主文、理由が書いてある。二審では審理をやりなおすのではなく、一審の判決に間違い(量刑不当・事実誤認・法令違反など)がなかったかどうかチェックすることを行うため、理由には主に控訴理由に対する判断が書かれている。
 一審の判決を支持して、控訴を棄却する場合は、「本件控訴を棄却する」と書かれている。
 また一審の判決と違う判決をする場合、例えば一審が無期懲役で二審が死刑の場合は、「原判決を破棄する。被告人を死刑に処する」と書かれている。

上告
 二審の判決が、憲法に違反する場合と最高裁判所の判例とは違う場合に上告できるとされているが(刑訴法405条)、実際にはそれ以外の理由で上告されることが多く、その場合「上告理由にあたらない」とされて、弁論を経ずに上告棄却の「決定」がなされる(刑訴法414条・386条1項第3号)


4:三審(最高裁判所)

 全国に1カ所(東京)にあり(裁判所法第6条)、5人で構成する3つの小法廷で審理する(同9条)
 ただし、憲法違反(同10条第1号)、判例違反(同条第2号)、または最高裁の判例に変更がある場合(同条第3号)は、小法廷ではなく、15名全員で構成する大法廷に事件を委託する。

上告趣意書の調査
上告の内容が適正ならば、最高裁調査官が事件についての調査をする。その調査書に調査官の意見を添付して、担当裁判官に送る。この調査書を元に判決を決める。ただし、裁判官が再調査を命じることもある。

口頭弁論
 最高裁では事実審理は行わないが、限られた場合のみ口頭弁論を開く。
 死刑事件で開かれる口頭弁論は一回だけで、上告趣意書に基づいて検察・弁護側がそれぞれ弁論をして結審する。
 二審同様、被告人が出廷する必要はないとされている(刑訴法409条)。
 二審では控訴裁判所の所在地の拘置所に被告人を移すため(刑事訴訟規則第244条第2項)、出廷する被告人も多いが、上告審の場合被告人を最高裁に近い拘置所に移す必要はないとされており(同265条)、被告人が出廷することはほとんどない。
 三鷹事件の故竹内景助元死刑囚(1967年獄死)に対する1955年の大法廷判決をきっかけに、死刑事件に関しては最高裁で必ず口頭弁論を開くようになった。

判決
 判決文には被告人に関すること、主文、理由が書いてある。上告を棄却する場合は「本件上告を棄却する」と書かれている。
 上告できる理由は憲法違反などの場合だけだが、そうでない場合であっても、量刑が甚だしく不当、判決に影響を及ぼす重大な事実誤認や法令違反があって、著しく正義に反する場合は二審判決を破棄することができる(刑訴法411条)。
 最高裁判所は事実審理中心の下級裁判所とは違い、憲法違反や法解釈の問題を審理する法律審であるという建前上自ら量刑を定めることは少なく、二審判決を破棄する場合は、二審の裁判所に審理のやり直しをさせることが多い。これを破棄差戻しといい、この判決を出す場合は「原判決を破棄する。本件を〜高等裁判所に差し戻す。」と主文に書いてある。
 最高裁の判決公判では、被告人が出廷しないため主文の言い渡しのみを行い、理由を読み上げていなかったが、2004年1月から各小法廷及び大法廷が相当と認める場合は理由の要旨を読み上げるようになった。
 なお、上告期間中に上告取り下げ書を提出した場合、提出日が刑の確定日になる。

判決訂正申立
 最高裁「判決」日から10日以内に判決訂正申立ができる(刑訴法415条)。申立がない場合、判決日から11日目に刑が確定する。判決内容に不備がある場合に申立が出来るが、そうでなくても死刑判決を受けて上告を棄却された被告人の多くはこの申立を行う。
 訂正判決が出た日または申立てが棄却された日が申立をした被告人の刑の確定日になる。
なお、判決ではなく、決定が出された者は、三日以内に異議の申立(刑訴法414条・386条2項・385条2項・428条2項)をすることができる。


Thanks to Doneさん、Luciusさん



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