クルトの仕事(1)

はじめに

 このリプレイは、家畜泥棒であるクルト・ブーツホルツが、善良なエルフを騙して家畜泥棒の片棒を担がせるという話です。ウォーハンマーの恐怖を味わえる話ではないですが、面白い話なので、一般の人向きだと思います。


新しい国へ

 エンパイアとプレトニアの国境近くを、一台の幌なし馬車が進んでいく。乗っている男は、小柄だが、がっしりした体つきの若い男だ。男の馬車と行き違う人は、ふと男の方を振り返るだろう。彼らは旅の汚れにまみれた男にはふさわしくない、腰までかかる金髪に違和感を感じるからだ。
 男はクルト・ブーツホルツといい、エンパイア生まれの家畜泥棒だ。彼はエンパイアの有力諸侯の馬場から馬を盗もうとして失敗し、指名手配されているのだ。捕まれば縛り首である。当然クルトはこのような若さで死ぬつもりはないので、諸侯の領地から逃亡した。だが、かの諸侯は仲の良い他の諸侯にも頼んで彼を手配したので、彼はエンパイアの中での居場所を失った。そこで隣国プレトニアへと脱出したのだった。
 クルトは道中に牧場を見つけると、付近で小休止を装って、その牧場の馬の鑑定や警備状況、地理などを抜け目無く観察していった。
 やがて彼はプレトニア南東部にある城塞都市・ケネルに到着した。

 ここで彼は早速宿屋で部屋を借り、旅埃を落としてきれいな服に着替えると、市場へと出向いていった。
 彼は、馬を売るために家畜取引所を確認する必要があるのだが、はじめての町なので、どうにも勝手が分からない。そこで、善良そうな中年の商人に声をかけてみた。

 「すいません、家畜取引所はどちらでしょう」
 「おや、この町は初めてですか?」
 「はい、ウチの牧場の馬を売りたいと思いまして、下見に来たのです」
 「ほう、牧場をお持ちですか。どちらのほうに、いかほど?」
 「エンパイアの国境に向かって、いくつか持っております」

 クルトは、逃亡の道々で目を付けた牧場を思い浮かべながら答えた。善良そうな商人は、それを真に受けて、感嘆した。

 「ほう!それはたいしたものだ。お若いのに大したお方ですね」

 こうして彼は、協力的な商人のおかげで、家畜取引所を確認することができた。


笛の音

 クルトは初日の予定を終えると、宿に帰った。考えてみれば、ここ数ヶ月はろくなものを食べていないし、ベッドでゆっくり休むこともなかった。
 昼食をむさぼった後、体を休めようと、二階のあてがわれた部屋に戻って横になった。明日は適当な仲間を捜す必要があるな・・
 と、思いにふけっていると、窓から奇妙な旋律が聞こえてくる。どうやら外から聞こえてくるようだ。
 窓を開けてみると、音は下の方から聞こえてくる。そちらに目を向けると、リコーダーを持ったエルフがいる。町中にエルフとは、めずらしい!
 だが、そんなちょっとした驚きなど、奇妙な旋律にすぐかき消された。決して上手くはなく、決して素晴らしいとは形容できないのだが、何か耳に残る奇妙な旋律なのだ。エルフの周りには人が集まっているが、聞き惚れている様子では、決してない。
 やがて演奏が終わると、エルフは集まった群衆に金を求めたが、払う者は誰一人としてないようだ。それを見たクルトは、下に降りると、エルフに近づいて銀貨1枚を渡した。エルフは銀貨と、そして渡した相手の顔を見ると、我が意を得たりというような表情をして言った。

 「おお!この町には俺様のすばらしい演奏が分からないボンクラ共しかいないと思っていたが、分かる奴もいるんだなあ!」
 「ああ、あの曲のすばらしさが分からない奴は、名曲と騒音の聞き分けすらできない愚か者だな」
 「気に入った!一緒に飲もう!」

 実はクルトが気に入っていたのは、彼の演奏ではなく、彼の装備品だったのだ。クルトは演奏中のエルフの足許に、楯や剣があったのを見逃していなかったのだ。

 宿屋の食堂で、聞いた話によると、エルフの名前はローレシン・エースハーといい、元々はエルフの森に住んでいたが、退屈な生活に飽きて、流れ者となったという。しかし流れ者にありがちなスレたところはなく、むしろ少々単純だが、けっこう正義漢であることが分かってきた。
 クルトは内心舌打ちするものの、彼の武勇談には経験した者にしか分からないすごみがあり、邪魔者排除には、かなり頼りになりそうである。
 クルトは、おもむろに切り出した。

 「お前、演奏ではなかなか稼げないようだが、生活は大丈夫なのか?」
 「時にはそれなりに稼げるんだが、なかなかね・・」
 「実は俺は、さるお方が盗賊団に盗まれた馬を取り返すという仕事を受けているんだが、手助けがいる。どうだ、手伝ってくれないか?」
 「何?お前はそういう仕事をしているのか?」
 「ああ、俺は家畜泥棒や盗賊団から盗まれた家畜を取り返す仕事をしているんだ。それと、この仕事は報酬も大きい。どうだ?」
 「ぜひやらせてくれ!」

 こうして二人は手を組んだのだった。

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