切符切り


 最近、電車の切符を切るということが無くなった。自動改札機の普及が原因であることは、いうまでもない。
 ご幼少のみぎりに電車コゾーだった私にとっては、寂しい限りである。
 当時は、将来は電車の運転手なって電車を運転したい。それが駄目なら駅員になって改札で切符を切りたい。と思ったものだ。
 しかし長ずるにつれ、電車への興味も薄れ、切符切りにしたって、「同じことばっかやってたら飽きるにきまってんじゃん。大体アレは楽しいからやってるんじゃなくて、仕事だからやってんだよ」などと冷めた見方をするようになってしまった。

 さて、電車熱も冷めた高校生の頃のある日、帰りに駅で電車待ちをしていた。この駅は、構内にちょっとした庭があり、椿の木などが植えてあった。その椿を何気なく見ると、葉っぱの形がギザギザしている。
 その葉をよく見ると、葉の外周に沿って、切符切りで切られた跡が・・しかも殆ど全部の葉が・・。

 駅員だ!駅員がやったんだ!!

 考えてみれば、利用者の大部分は、うちの高校の生徒で、定期利用者だ。そうか、駅員は切符を切る機会がほとんどないのだ!やはり漢(おとこ)たるもの、切符切りを持ったら、切符を切りたいものなのだ。しかし改札を通る者は「定期」などという悪魔に魂を売った者ばかり・・。そしてストレスのたまった(?)駅員はついに椿の葉を・・
 くぅー!そうまでして切りたいものなのか!

 そうだ!やはり「切符切り」は熱い漢の職業だったのだ!(職業ぢゃありません!)

 ここで私の将来の職業候補に、再び「切符切り」という選択肢が持ち上がった。(正しくは「鉄道会社社員」)

 身近にある葉っぱを、つい切ってしまうほど業の深い職業!俺は極めてやる!(どうやって)

 しかし電車に乗った瞬間、「帰ったら何やろうかな」ということに頭を占領された私は、先ほどの誓いを忘れてしまったのだった(だめぢゃん俺)
 私がそんなことを誓ったのを思い出したのは、就職した後のことだった。


(C)笑月


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