刑務官の苦悩


 下には暗い文章が続くので、そんな文章を読みたくない人は、風太さんの小説「光と闇と」「Natura」内)をオススメしたい。日本の刑務官の心の苦悩を十分に盛り込でいる作品である。しかもこういうテーマでは、難しくて暗くなって救いのない話になりがちだが、この作品は分かりやすいうえ、救いのある内容なので、読みやすい作品である。フィクションならではの、なせるわざだろう。
 ちなみにこの作品の舞台は、日本ではなく、仮想の世界である。(中世の西欧をイメージさせるものがある)

 さて、ここから本文〜
 死刑執行に関わった刑務官は苦しむそうである。その理由は殺人を行うからであるという。もちろんここでいう「殺人」とは刑法199条にあてはまらない、「合法的」な殺人である。
 合法的なので、誰からも非難されないはずなのに、なぜ苦しむのか?それは彼ら自身の良心が疼くからだろう。
 彼らは、良心よりも職務が優先されるため、死刑執行に従事する。しかし心の内では、「人殺しは悪いこと」という子供の頃から培ってきた道徳観が、職務の責任感を押しのけて出てくるのだろう。
 その良心の呵責から逃れるために、執行の時には心を殺したり、これから執行する死刑囚は極悪人だと言い聞かせるのである。
 しかし執行する死刑囚が、その刑務官にとって日頃一緒にいた者だとどうだろう?これから自分が殺す者の喜怒哀楽を長年見てきたのだ。いままで話してきたこの男が、自分が殺すことによって、話すことも笑うこともできなくなる・・そう思うと刑務官の心の傷は、さらに大きなものになるだろう。その傷は、ストレスによって寿命を縮めるという形で現れるようである。ある保険会社員の調査によると、公務員の中で最も保険受け取り期間が短い(寿命が短い)のは刑務官であるそうである。

 もちろん、彼らが苦しむから死刑を廃止するというのは本末転倒であるが、死刑制度の陰で、こんな形で苦しむ人達がいることを知っておくことは、悪いことではない。


(C)笑月


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