近未来の話を書くのは危険


 近未来の話を書くのは危険である。ちなみに、ここでいう近未来とは、話の作者が生きている可能性が高い程度の未来である。
 なぜ危険か?それは、はずかしい目にあうからだ。それが最も端的にあらわれるのが、「北斗の拳」だ!
 北斗の拳の時代設定はこうだ。

 199X年、世界に核の炎が降り注いだ。大地は荒廃し、人々は死に絶えたかに見えたが、人類は滅亡していなかった・・って、この段階で終わってるでしょ。でも、まだ甘い。
 先のプロローグに続いて出てくるシーンが、車に乗った家族を、上半身殆ど裸で、一様にマッチョでモヒカンもしくはハゲで、頭に「Z」の入れ墨を入れたイッちゃった兄ちゃん達が、原型をとどめていない改造バイクに乗って襲いかかる。そして家族から食料や水を奪う。
 貴重なはずの水を「ヒャハハハハ水だ水だ」とかぶる奴(注1)の後ろで、トランクの中から大量の聖徳太子の一万円札(注2)を取り出して、「こんなもの、ケツふく紙にもなりゃしねえのによ」という奴もいる。

 さて、ここで皆様にお気づきいただきたいのは、聖徳太子の一万円札は1985年に福沢諭吉札に取って代わられたという事実である。1990年代に、トランク一杯(約一億円=笑月の憶測)の聖徳太子の一万円札を用意するには、大量に隠しておいた聖徳太子札を、諭吉札には見向きもしないで持ちだすか、郵便局で死蔵しているヤツを盗んでくるしかない。
 まあ、いずれにせよ、作者はそんなこと考えるわけがないよね。だってその話を描いた当時は、一万円札=聖徳太子だったもんね。原哲夫にしても武論尊(注3)にしても、まさか描いた1〜2年後にお札のデザインが変わるなんて思わなかったろうね。そりゃ思わないさ。でも、これはやっぱりハズカしいよね。

 同じようなオマヌーは、諸星大二郎もやってしまっている。1960年代後半に描かれた「生物都市」だ。
 時代設定は198X年の日本。問題は、最初の方に出てきた、何気ないセリフ・・
 木星の衛星「イオ」から帰ってきた調査船を見た人が、TVこないなあ・・と言ったことに対して、
 「このごろでは宇宙船も珍しくなくなりましたからね」
 ヤバイ!ヤバイよ大二郎さん!!だって、僕がこのマンガ読んだのは90年代の初頭だよ!まだ日本は有人ロケットを打ち上げ出来る状態じゃあないよ!

 創作を志す方々に一言。  

「近未来ものはヤメなさい」



注1:


くどいようだが、設定上、水は大変貴重なもののはずだ。それを気前よくかぶったら、彼らのボスである「ジード様」に殺されるものと思われる。

注2:




トランクの中には、1億円近いと思われる一万円札があり、それらは見える範囲では全て聖徳太子札であり、諭吉札などという「不純物」は、一切無かった。
 なお、余談ではあるが、読者はこれで、現場が日本である可能性が高いことに気づく。後に「関東」という具体的な名称が出てくることによって、ケンシロウがいたのは日本であることが確定する。

注3:


原哲夫は北斗の拳を描いた漫画家であり、武論尊は原作者である。おそらくこのオマヌーは、原によるものである可能性が高い。


(C)笑月


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