防空壕


 鹿児島の防空壕で、中学生4人が亡くなるという事故が起きた。この結果、防空壕=危険というイメージができあがり、各自治体などは必死に埋めようとしているらしい。
 確かに崩落の可能性などのある危険な所は埋めるべきだが、一律に埋めるというのは、子供の冒険の場を奪ってしまう一面もあるのではないだろうか。危険を肌で感じることで学ぶこともあるはずだ。
 それに、子供も無計画に潜るわけではなく、中では大声を出すなとか、靴はしっかり履けとか、それなりの注意を互いにしたものである。

 ところで、防空壕を知らないという人もいるようなので説明しようと思う。
 防空壕とは、戦時中に空襲から避難するために、庭先や崖に掘った穴のことである。各家庭の庭先に掘った竪穴はもう殆ど埋められているので、現在一般的に知られているのは崖や斜面に掘った横穴である。
 私の経験では、比較的垂直な崖に掘った防空壕は純粋な横穴が多いが、斜面に掘られた防空壕は、今回事故があった鹿児島のと同じように、斜めに下った後に横穴が続くタイプが多い。
 また、同じく経験では、殆どの防空壕は、入ってすぐに左右のどちらかに折れている。これは爆風の直撃を防ぐためだという話を聞いたことがある。
 防空壕の中は、基本的に通路が続いているが、部屋があるものも少なくない。また、あまり沢山の人数を収容する必要がなかったのか、すぐに行き止まりになったり、横に並んだ複数の穴が少し奥でつながっているだけだったり、入り口から1〜2mで小さい部屋があるだけのような、小規模なものが多かった。

 私が潜った中で最も大規模だったものは、確認できただけで直線距離で約80m(恐らく実際の距離は100m以上)離れた2つの穴がつながっていた防空壕だ。(図を参照)
 私は小学生時代に、同級生と共に、ここに潜ったのだ。



 入り口(穴1)は、放棄された畑跡が雑木林化した谷間の一番奥、雑木と竹が入り交じっている崖下の左側、崖の横から生えている木の根本の下にある。高さは、小学生が身をかがめてようやく入れるくらいだ。
 中は、直線だが、段々床が低くなり、普通に立って歩けるくらいになる。
 数十mほど進むと右に折れるが、この辺りから周りが段々湿っぽい感じになってくる。
 さらに十数m進むと、左に折れる道があり、ここを折れて少し進むと、左側にU字を描くように掘られており、この辺りから登り気味になる。そして、U字のくねりが終わると別の穴(穴2)に出る。
 こちらの穴は、1mほど上に垂直に掘られたあと、前方に傾斜しながら掘られ、外に達している。この形式は、事故のあった防空壕の入り口に近い。
 外から蔓が下がっていたので、それに掴まって外に出ると、かなり急な斜面で、山の中腹くらいと思われた。(後に山の斜面をコンクリで固めるときに、この穴が顕わになったが、この穴の辺りは70度くらいの傾斜で、その少し下は5〜7mくらいの高さの垂直の崖になっていた。付近は人が通れる場所ではないのに、何故このような場所に・・)
 先ほどの分岐点に戻り、まだいっていない方に進むと、足下が泥状態になる。正しくは、泥の上に薄く透明な地下水が膜を張っているような感じである。
 もちろんこんな状態では先に進めないのだが、それでもどうしようか仲間と話していると、仲間の一人が、懐中電灯で天井を照らした。そして我々は見た。真っ白なゲジを!
「ゲジゲジだ〜!」
 この声で全員出口までダッシュ!冒険は終了した(w

 ところで、この防空壕の穴1の向かい(つまり谷の一番奥の右側)にも防空壕があるのだが、こちらには潜らなかった。その穴と峰を一つ挟んだ崖の中腹にも穴(やはり下り傾斜形式)があり、この2つの穴が繋がっていると予想されたのだが、防空壕の近所の人曰く「あの防空壕(崖の中腹の穴)は、中が底なし沼になっていて、泥が渦を巻いているから、入ったら駄目だ」とのことで断念した。
 実はこの「近所の人」は、その数年前に、私の兄のグループと一緒にその防空壕に潜ったらしく、兄に聞いたら、その防空壕と「近所の人」のことを知っていた。

 また、我々が潜った防空壕の泥沼の先も、別の出口に通じているという話で、穴1と穴2の中間地点あたりにある公園(ただし2つの穴とは大分高度が下がる)の奥にある穴と通じているとのこと。確かにこの公園の防空壕も、入り口は中から流れ出た地下水で水浸しで、しかも中は上り階段になっているので、ありえる話である。
 これらの穴は、数年前までに全て塞がれてしまった。複数穴が空いているから、事故のあった防空壕と比べると空気の流れがある分安全とは言えるが、その代わり底なし沼という別の危険があるので、仕方がないのであるが、何となく寂しく思われたものである。


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