味噌チーズラーメン


 いや、ネタではなくて本当にこういう名前のメニューがあったのである。
 場所は私の会社の入っているビル内の食堂で、安いがまずいメニューが並ぶ店である。まずいといっても、並にまずいのであり、たまにはそこそこ旨いメニューもある。
 また、この食堂は、ラーメンコーナー、うどん・そばコーナーと、いくつかのコーナーに分かれており、一部のコーナーを除いて、二日おきくらいに、メニューが変わる。
 さて、この食堂のラーメンコーナーでは、いつも2つのメニューが選べる。一つは醤油・味噌・塩などの、基本的なメニュー。こちらは主に男性陣が利用する傾向がある。もう一つはチャーシュー(醤油ベース)・もやし味噌・塩バターなどのオプション付きメニューである。50〜80円くらい高めで、これも、時によって違うことがある。こちらは女性陣が利用する傾向がある。そう、この話は味噌のときのオプション付きメニューの話なのである。

 味噌チーズラーメン・・誰が頼むのかと、長い行列に並んでいると、男も女も「味噌」「味噌」「味噌」・・勇者は一人もいないらしい・・
 ちなみにチーズラーメンの原料である「チーズ」を見てみると、減っている様子がない。当然か・・
 とはいえ、誰も食べてくれないと、感想の聞きようもない。しかし自分が食べたくはない。(爆
 それでも、きっとこんなラーメンに出会えるのは一生に一度だけだと思うと、心は揺れる。そこで、「行こうか、逝こうか」と心の中で葛藤しているうちに、自分の番が来てしまった。しかし、元来チキン野郎の笑月は、反射的に「味噌」と言ってしまったのであった。

 翌日、今日は絶対に逝ってやると思いつつも、一人で地獄を見るのはいやなので、一緒に働いている人(しかも外注さん)に「アレうまいですって!一緒に食べましょうよ」などと誘ってみたりしたが、当然やんわり断られ、一人で逝くことになってしまったのあった。
 今日も前の連中は「味噌」「味噌」「味噌」・・心の中で「チキンどもめ!」と毒づきつつも、やはり胸の高鳴りは押さえきれない。そしてついにオーダを聞きに来た。前の二人とセットで聞かれた。
 「味噌」「味噌」「チーズ・・」
 そのとき、ラーメンコーナーのおばちゃんは、思わず私の顔を見た。それは間違いなく、
 「え、本当?」
 という顔だった。それを見て、急に心の中にレッドランプが光り出した(遅すぎ)
 それでも、心の中で、「いざとなったら、上に乗っかったチーズを、どかせばいいや」などと思っていたが、作り方を見ていて愕然としてしまった・・
 まず、麺に通常の味噌スープを加える。ここまでは味噌ラーメンと同じだが、その次に、いきなりミルクチーズをどんぶりに満遍なくふりかけ始めた。そして、粉チーズを麺の上にかけ、さらにとろけるチーズをかけ、お節介にも麺をつまんでかき混ぜ始めたのだ。

 「逃げは許さないということか!」

 その様子を見ていた、次に並んでいる人が、無声音で「チーズ・・」つぶやいたのは、一生忘れないだろう・・
 そして、半ば呆然としていた私に、おばちゃんは、「ネギは入れますか」と聞いてきた。この食堂で、トッピングの選択を迫られたのは、初めてだった。聞かれた瞬間・頭があまり回ってなかった私は「ウ、アア・・」と返事とも呻きともつかない言葉を発すると、「OK」と判断したおばちゃんは、たっぷり刻みネギを入れてくれた・・

 後悔は、立ち上ってくるチーズの匂いを嗅いだときから始まった。味の方は、スープはさほどまずくないが、麺にチーズがとろけて絡まっていたり、スープを飲むとわずかに糸をひくのには、かなりブルーになった。

 最後に確認したかったのは、あのメニューは、ちゃんと誰か試食したのかということと、二日間でどれくらいさばけたのかということである。



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