死刑囚再審に対する法務省の態度の変化


 法務省の各検察庁・拘置所・刑務所に発令した命令を見ていると、死刑執行に関するものもいくつかあり、時代時代によって法務省の態度が変わっているのが分かって興味深い。

 その中で、死刑囚の再審請求に関する通達がいくつかあった。
 1951年9月に「再審請求中に死刑執行できないという法文はないが、請求中の執行は人道上好ましくないので、各拘置所、刑務所は死刑確定者が再審請求を上申した場合、これを速やか報告すること」という内容の通達があった。この段階では、再審請求中に執行しないという具体的な話ではなく、「好ましくない」という法務府(当時)の姿勢が強く出ているに過ぎない。
 同年12月には「法務大臣の死刑執行命令が出た後、執行前の死刑囚が再審請求を申立たときは、法務総裁の指示を仰ぐこと。時間的余裕が無い場合は、一旦執行を停止してから法務総裁の指示を仰ぐこと」という具体的な通達が出されている。この通達以降、当分の間は再審請求中の死刑執行は無くなったと考えられる。

 ところが、再審請求中に死刑執行しないことをどこで知ったのか、この法務省(検察)の習性を利用して、延命の為に再審請求を繰り返す死刑囚が出てきた。正当な理由無く、延命だけの再審請求は、手続き不備等、内容も薄く、しかも棄却されても同じ内容で申し立てるものだから、そのうち法務省(検察)が怒りだした。いや、法務省が怒るだけならいい。再審請求を審理する裁判官も考えが少しずつ歪んで、「再審請求といば棄却」という習性までついてしまった人もいたようだ。これは、正当な理由で再審請求をしている人の足も引っ張りかねない。

 とにもかくにも55年頃には、この再審請求の乱用が法務省内部で問題になっていたようである。この当時の内部報告では、最も回数の多い者で11回。また、一時期は死刑確定者の約半数が再審請求を申し立てているという状況だったようである。
 この状況に対して法務省が取った当面の方法は、再審請求棄却決定と同時に執行することであった。しかしそれにも限度があり、法務省は別の手を考えるようになった。

 「別の手」は57年1月の通達として発令された。
 すなわち、「場合によっては再審請求中であっても、死刑執行もやむを得ない」と、従来の方針を変更した。またその通達では、その「やむを得ないケース」を特定するために、従来では「再審請求がなされた」という事実だけを報告していたのを、今後は「請求の理由」も報告するよう言っている。つまり、その理由が十分でないものこそ、「やむを得ないケース」になるわけだ。
 その結果、57年中に再審請求中の死刑囚12名が執行されることとなった。
 その後、この手の通達は特に見かけられないが、特に変更は無いようである。最近57年1月の通達が適用された例は、99年12月の福岡拘置所の執行に見ることができる。


(C)笑月



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