裁判所・部 横浜地方裁判所・第四刑事部合議係
事件番号 平成19年刑(わ)第3049号等 (公判前整理手続適用事件)
事件名 D:殺人、死体遺棄、詐欺教唆、盗品等有償譲受け、覚せい剤取締法違反、詐欺
B:殺人、死体遺棄、盗品等有償譲受け、詐欺
C:殺人、死体遺棄、詐欺
被告名 D、B、C
担当判事 栗田健一(裁判長)香川礼子(右陪席)田中一洋(左陪席)
その他 書記官:鈴木信也
検察官:平野慎
日付 2008.9.16 内容 初公判

 10時からの開廷時間よりやや遅れて、丹沢湖ドラム缶事件実行犯の公判前整理手続きを経たうえでの初公判が404号法廷で行われた。
 検察官は大阪地検で杉田裁判長の公判部に対応していた目つきの鋭い肌黒の男性で、弁護人はC被告に1人、D・B両被告に1人いた。
 傍聴席は当初少なかったが段々と埋まってきた気がする。
 共犯のA等は10月6日に第5刑事部で初公判を迎える。3人とも170cmぐらいで
C被告人・・・一礼して入廷してきた、頭の禿げた色白の特徴のない顔をした痩せた中年男性。ピンク色のカッターに下はジーパンを履いていた。
D被告人・・・目が大きく眉の濃い、ピンク色の額縁の眼鏡をかけて太った人の良さそうな男性。半パンを履いていた。
B被告人・・・色黒でやや太めの大人しそうな顔つきをしたやや消沈した表情の中年男性。黒いスポーツウェアを着用でポマードをつけた髪がてかっていた。

裁判長「それでは開廷いたします。被告人3名は証言台のところに立ってください」
C「昭和40年1月16日生まれ、住所埼玉県北里市、職業は無職」
D「昭和50年3月20日生まれ、住所埼玉県川口市、職業は無職」
B「昭和44年12月29日生まれ、住所東京都渋谷区、職業は無職」

−起訴状朗読−
 振り込め詐欺に関しては被告人3名に共通する部分と2名に共通する部分とがある。騙し文句は別付表のとおりで被告人らは他人になりすましてその親に入金させる、いわゆる振り込め詐欺グループに所属していて、Cは現金を引き出すグループを統括して構成員の勧誘や使用する口座を入手を担当していた。(後述するように被告人らは現金の引き出しを担当、振り込め詐欺のなかでもオレオレ詐欺は詐取金額が他の架空請求や融資保証に比べて大きいと感じた)
 CはBやHと共謀して
1.埼玉県内で同グループの構成員として四街道市のb(当時60年)に息子を装って電話して「先輩に誘われて株に500万円会社の金をつぎこんでしまった。300万円は先輩が払うが、200万円払わないと今日内部監査があるのでバレる。上司にヤミ金から借りるんじゃないだろうなと言われた」と嘘を言って前後3回にわたり三井住友銀行のbの口座から横浜銀行に開設されたオカモトヒロシ名義の普通預金口座に計216万円を振り込み入金させた。
2.同日埼玉県内で同グループの構成員として群馬県伊勢崎市のc(当時63年)に息子のdを装って電話して「ヤバいことになった。警察に捕まる。会社の金216万円を株につぎこんだ。今日の12時〜12時30分まで内部監査が入り、今から取りに行くと遅くなるのでそれまでに振り込んでください」と嘘を言って山梨信用金庫に開設された口座に3回にわたり計216万円を振り込み入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。
 次の起訴状はC、Bが全部、Dが一部関わっています。
3.HやIと共謀して、埼玉県内で同グループの構成員として静岡県伊原市のe(当時76年)にその孫になりすまして文言欄記載の嘘を言ってシミズ銀行マツノ支店の口座から7回にわたり丸の内ビルディング内のセブン銀行サルビア支店に開設されたスズキカツユキ名義の普通預金口座に計602万円を振り込み入金させた。
4.H等と共謀して前後8回にわたり北方市のf(当時63年)他2名からその息子になりすまし文言欄記載の通りの嘘の話を言って誤信させて前後20回にわたり、埼玉県のりそな銀行に開設されたカメヤマシゲル名義の普通預金口座に計1087万円を振り込み入金させた。
5.この件は被告人3名とも関与していてHやIと共謀して、埼玉県内で同グループの構成員として福島市のg(当時58年)他2名に文言欄記載の嘘を言って前後6回にわたり、福島信用金庫の口座から被告人らの丸の内ビルディング内のセブン銀行サルビア支店に開設されたヨネヤマカズヤ名義の普通預金口座に計611万円を振り込み入金させた。
6.HやIと共謀して埼玉県内で同グループの構成員として千葉県匝瑳市のh(当時65年)他1名に孫になりすまして電話をかけて文言欄記載の嘘を言い前後6回にわたり、丸の内センタービルディング内のセブン銀行サルビア支店に開設されたハナオカリョウ名義の普通預金口座に424万円を振り込み入金させた。
7.池田ケンセイ等と共謀して埼玉県内で同グループの構成員としてi(当時63年)に電話をかけて文言欄記載の嘘を言ってその旨誤信させ、山陰合同銀行タケヤ支店の口座からセブン銀行コスモス支店に開設されたオカダ名義の普通預金口座に計214万3000円を振り込み入金させた。
8.3名いずれにもかかるものでHやIと共謀して埼玉県内で同グループの構成員とし前後5回にわたり千葉県匝瑳市のj(当時63年)に文言欄記載の嘘を言い千葉県四街道市の口座から前後9回にわたり丸の内センタービルディング内のセブン銀行アイリス支店の〜ヒロミ名義の普通預金口座に1060万円を振り込み入金させた。
 死体遺棄の事件(平成19年12月14日付起訴状)ですが、被告人3名はEらと共謀してaの死体を遺棄しようと企て自動車でジェイ・ドリームの倉庫に運搬して、ドラム缶にセメントを流し込んで凝固させて死体を隠匿し、普通貨物自動車に積載して丹沢湖のヘイロク橋まで運搬して、そこから丹沢湖に投棄したものである。
 続いて殺人事件(平成19年12月26日付起訴状)ですが、被告人3名はA、E、F、Gと共謀してマンション「パークビュー」内でaを殺害しようと企て、麻のロープをaの頸部に巻きつけて強く締め上げて絞頸に伴う窒息により死亡させた。罪名殺人、刑法199条。
 以上につきご審理願います。

 裁判長は「この法廷で黙ってることも〜」という黙秘権を告知したあと、罪状認否に入った。
裁判長「今検察官が読み上げた事実に間違いはありますか」
C「ありません。間違いないです」
B「ありません」
D「間違いないです」
裁判長「弁護人の方、ご意見は」
C被告弁護人「事実は争いはありません」
B・D両被告弁護人「被告人の述べたとおりです」
裁判長「それでは検察官の立証に移ります」

−検察側の冒頭陳述−
 詐欺グループに入った経緯であるが、Cは中古自動車の修理や売買をする会社を経営していたが、平成18年1月から東ことY1の振り込め詐欺グループから勧誘され、Cの勧めでBや同郷(鹿児島県)のDもそれに加わった。振り込め詐欺グループは高齢者に息子や孫を装って電話で泣きついて騙し、口座が凍結されるまでに現金を引き出すという手口だった。振り込め詐欺グループは実際に被害者を騙す泣きグループと口座から現金を引き出す抜きグループに分かれ、Y1は両グループを統括し、泣きグループはY2が、抜きグループはCがリーダーになり全体の騙した金額の2割を取っていました。(詐取額が100万円以下は1割)
 抜きグループは実行犯から連絡を受けてキャッシュカードを使って現金を引き出すために、平日金融街に駐車して待機し、取り分として2割を詐取し、残りは泣きグループの担当に渡していました。抜きグループにY3が加わったことを機にCはリーダーの座をBに譲り受けた。詐取した金額のうちCが35%、Bが25%、D、Y3が20%ずつという取り分だったがY3の前妻が警察に検挙されてしまった。aは振り込め詐欺のボスから手を引けと言われたとして被告人らに接近し、3人はaに分け前を払うようになった。詐欺の利得額は起訴されたのはCで400万円、Bで320万円、Dで70万円だが、実際の利得額はCで6000万円〜7000万円、Bは5000万円〜7000万円、Dで2000万円に上る。詐取した金員は外車やブランド品の購入、キャバクラやソープランドに使い果たし現金としては存在していない。被害者はジェイ・ドリームの客としてCと知り合い、平成18年3月頃にはZ1組の舎弟頭として、その下にはA、E、Fがおり、GはDの後輩として組に入った。

1.平成18年5月ごろから被害者の金の無心の額が多額になり、Z1組内でも酒を呑んで暴れ始めたら始末に終えないばかりか、Z1組の組長に反抗的な態度を取った被害者に反感を抱いていた。一方BとDは憤懣を強め、コンビニエンスストアでCに今後の対応を相談し、詐欺グループの3人で被害者を殺害することを決定した。GはZ1組組長を殺そうとしている被害者を返り討ちにして殺しても構わないと組員グループは考えていると伝えた。被告人3名は佐賀県武雄市内のレストランで落ち合い戻ったらすぐ被害者を殺害することを謀議した。また報復の心配を取り除くためにZ1組組員の協力を取り付けることにし、A、E、F、Gに打診して詐欺グループの3名で被害者を殺害すること、死体の遺棄は組員グループが担当することにした。具体的な立案として被害者を金員を払うことを口実にBの自宅マンションに誘い出し、待ち伏せした3名で殺害することにして、拳銃での射殺や包丁での刺殺は出血を伴うためにロープで絞殺することにして、呼び出した際に同行者がいないようにすることやジェイ・ドリームの倉庫でコンクリート詰めにすることにした。Cはホームセンターでセメントやポリバケツ、ロープを購入し、701号室で体格の良いDが被害者の体を押さえつけ、Bが締め上げることにしてBは軍手で待機した。被害者に電話をかけてCは被害者と川口駅で合流して701号室に入った。Cが先導して廊下を進み玄関に背を向けて被害者はリビングに行こうとしたが、BとDが後方から襲いかかり、Dが体当たりして被害者をリビングの壁に押さえつけてBはロープで首を締め付けた。被害者は「何でよ、そりゃねえだろ」と言ったが、Bの持ったロープの一端が外れてしまい、その外れた端をCが持ってDは抵抗する被害者を力いっぱい押さえつけて、床に倒れたあとも綱引きのように引っ張った。その後被害者の顔を見たくないのでガムテープで顔を巻いてロープで手足を縛り、701号室からジェイ・ドリームの倉庫に遺体を搬送し、合流したAたちと遺体をフォークリフトで釣り上げてドラム缶に入れてセメントを流し込んでモルタルを作ったが、被害者の顔がドラム缶からはみ出たので頭上に足で乗って沈めた。CがAたちにドラム缶をどう処分するのか尋ねたところ、組員グループが責任を持って遺棄するということだったが、E一人に任せることや計画が曖昧だったため杜撰だと抗議し、Fが謝罪したうえで責任をもって遺棄することを誓約して、組員グループはドラム缶に金網を被せて遺体を丹沢湖に投棄した。
 Cは被害者の妻に「被害者の行方が分からないので探してほしい」と話した。発覚の経緯であるが釣り人が丹沢湖の浅瀬でドラム缶を発見した。

裁判長「本件は公判前整理手続きを経ておりますので弁護人のほうでも冒頭陳述をなされるということで」

−弁護側の冒頭陳述−
 被告人らが山口組弘道会のFら4人と共謀して被害者を絞殺・遺棄したことは取り立てて争うべきとこころではありません。主張としては情状面に限られるわけですが・・
 まずCですが、C、B、Dは振り込め詐欺を行っていて、それをネタにカンパと称して現金を脅し取られるなど隷属的な面があり、本件は被害者に落ち度のない事案ではありません。組員グループとは対等な関係にあり罪を全面的に認め謝罪の意を表しています。
 続いてB、Dですが、各控訴事実に争いはなく概ね検察官の主張の通りです。動機などの情状面が中心になります。BはCが退いてからリーダーになりZ1組と接点を持つようになったのですが、被害者の尋常でない飲み方や暴れ方、計700万円をたかられたことで被害者がいる限り関東での生活はできないと考えるようになりました。Dも酒を飲むと被害者は動く者全てが敵になり、Dの後輩でZ1組に紹介したY4は指を詰めて脱退したりGは暴言や暴行の被害に遭い立つ瀬がないばかりか、紹介した土建業者も被害者に法外な値段を吹っかけられて立場がなくなりました。現金100万円その他にもアルミホイル60万円、液晶テレビ40万円をたかられました。また組員でもないのに組の抗争で拳銃の使用を匂わされたりDにとって疎ましいだけでなく危険な存在になっていきました。情状ですが被害者家族にDは200万円、Bは100万円の被害弁償をしています。またBに前科はありません。

裁判長「公判前整理手続きの結果を告知すると、本件は公訴事実は争わない、被害者の落ち度や更生可能性、弁償状況などの情状面が中心になるということです」
 弁護側は振り込め詐欺の証拠も含めて検察側の証拠請求には全て同意した。

−要旨の告知−
・殺人、死体遺棄事件について遺体の入ったドラム缶を発見した状況
・死体を鑑定した状況
・殺害場所の所在地
・共犯者の供述調書
・被害者の妻のaミツコの供述調書「私たちの手で同じ目に遭わせたい。犯人には死刑を望みます」
・Cの身上関係
・殺害状況など
・BとDの供述調書
・振り込め詐欺の各被害者の供述調書
・振り込め詐欺が行われた金融機関の所在地
・金融機関の防犯カメラの解析結果
・被害者の被害届や犯人性を特定したもの
・いずれも振り込め詐欺の共犯者J、I、関根の供述調書で振り込め詐欺グループの実態が記されたもの
・被告人らの振り込め詐欺に関する供述調書で、振り込め詐欺グループに加入した経緯や変遷が記されている

弁護人「被害弁償の状況ですが、被害者が受け取ったとする領収書を新たに請求したい」
裁判長「検察官ご意見は」
検察官「今の段階では留保しますが、Cの関係では結審後再開というかたちになると思います」
 裁判長はここで、DとBの両被告人に対して審理をCと分離し次回を予め決められていた9月18日で出廷する旨を念押しして2被告を刑務官とともに退廷させた。
 2被告の弁護人も柵から出て行き、Cは結審まで進むことを確認して被告人質問が実施された。
 その前に弁護人がCの反省文を検察官の了承を得たうえで証拠請求して一部を読み上げる。

弁護人「被害者の方には大変申し訳ないという謝罪の意を表明していること、詐欺事件の被害者にも反省文を書いているということです」
 C被告は証言台に立つ。罪悪感があるのか声は比較的小さい。

−C被告に対する弁護人からの被告人質問−
裁判長「それでは被告人は前に出てそこの証言台の前に座ってください」
弁護人「平成18年から東のオレオレ詐欺グループに加担するようになったのは間違いないですか」
被告人「間違いないです」
弁護人「東という男とはどこで知り合ったのですか」
被告人「車の売買に絡んで知り合いました。実際に会ったこともある」
弁護人「最初は振り込め詐欺の実行役として雇われたと」
被告人「はい」
弁護人「どれくらいの報酬を得ていたのですか」
被告人「100万円のときは1割、200万円のときは2割です」
弁護人「振り込め詐欺グループのまとめ役としてBやDをあなたが声を掛けて誘ったのですか」
被告人「はい」
弁護人「抜きグループの報酬なのですが東の本部に納めた残りの2割はどうなっていたのですか」
被告人「最後は自分が35%、Bが25%、Dが20%・・になっていました」
弁護人「オレオレ詐欺で得た額は?」
被告人「総額だと7000万ぐらいだと思います」
弁護人「振り込め詐欺の中心人物と言われているが、何をしていたのですか」
被告人「人を入れ替えるとき代わりの人を見つけてくる、東との連絡役です」
弁護人「どうして振り込め詐欺に関与するようになったのですか」
被告人「金が欲しくて安易な考えでやりますと返事しました」
弁護人「中古車販売の事業はどうだったのですか」
被告人「普通に生活できる程度には稼いでいました」
弁護人「あなたは人も雇っているよね」
被告人「全く犯罪に関係のない人も3人雇っています」
弁護人「欲に目がくらんでしまったと」
被告人「はい」
弁護人「振り込め詐欺はどういったものだったのですか」
被告人「子どもになりすまして、親御さんに振り込ませる手口でした」
弁護人「被害者に謝罪するという意思はあるのですね、被害弁償はなされていないわけだけど」
被告人「実際に手元にお金が残っていればと思いますけど」
弁護人「手元にお金が残っていないからどうしようもないと」
被告人「はい」
弁護人「次に殺人、死体遺棄について聞いていきますけどあなたはBとD、暴力団員4名と組んでaさんを殺害したことは間違いないのですか」
被告人「間違いないです」
弁護人「被害者とは平成16〜17年ごろ知り合ったということですが、何で知り合ったのですか」
被告人「中古車販売を通して知り合った」
弁護人「被害者が暴力団関係者だったことは知っていた」
被告人「はい」
弁護人「仕事で組に行ったこともある?」
被告人「はい」
弁護人「その後被害からどういうふうに言われるようになったのですか」
被告人「車の修理代を払ってもらえなくて、最初のうちは払ってもらえたのですが、どんどんエスカレートしていきました」
弁護人「金を貸せとも言われてますね」
被告人「最初は30万〜50万で返ってこなくなって、段々と金額も大きくなり、「俺は詐欺のこと知ってるんだ」と薄々言われました。平成18年の5月か6月頃です」
弁護人「具体的にどう言われたのですか」
被告人「『自分らだけ良いシノギやっとるのう』『金を貯め込んでるんだろ、こっちにも回せよ』とかです」
弁護人「のちのちエスカレートしていったということですが、どういう言葉を言われたのですか」
被告人「『埼玉に住めなくするぞ』『自分の別れた家族に対してもメチャクチャにしてやる』『警察に突き出す』とか」
弁護人「総額にしていくらぐらい取られたのですか」
被告人「控えていませんが最低でも2000万円ですね、車の修理代を踏み倒されたり、鹿児島に旅行に行ったときにaさんが飲み屋のホステスを気に入って彼女を愛人にするためセッティングした費用とか」
弁護人「その女の人は結局彼女になったの?」
被告人「はい」
弁護人「暴力は振るわれましたか」
被告人「殴られたことはありました。酒を飲んだとき2月か3月に自宅で電話機を投げつけられました。またaさんは暴力団に入っていて山口組と住吉会の抗争があったときに、自分とD、aさんの3人で住吉会にカチこんでいこうと言われて、『組員でもないのに何で自分が・・』と思いました」
弁護人「あなたは反抗はしたのですか」
被告人「口答えもしなかった、暴力で返されるので。自分の場合は家庭もありました」
弁護人「被害者を殺そうと最初に思ったときはいつですか」
被告人「別れた妻に脅しの電話をかけられたときです」
弁護人「被害者は他にどんな言葉を言っていたのですか」
被告人「『家庭をムチャクチャにしてやる』『お前らがそういうことできるのも俺のおかげや』、また周りに言っていたことは『あいつ(C)は財布みたいなもんや』『何でも取り上げればいいんや』とか」
弁護人「殺害を計画したのはいつですか」
被告人「平成19年の3月頃BとDと決めました。3人とも同じ気持ちでした。BとDの仲違いを被害者が仕組んでいたこともあり『もうぶっちゃけ話をしましょうよ』と言われ、その後組員のメンバー4人も自分が来たときには加わっていた」
弁護人「あなたは前科はありますか」
被告人「平成13年に不法投棄で罰金刑を受けました」
弁護人「こういう正式な裁判は初めて?」
被告人「はい」
弁護人「なのに人を殺しているのですが躊躇いはなかったのですか」
被告人「平成19年3月29日までどうしようかどうしようかと悩んでいました」
弁護人「ロープの両端の片方を持って殺害した被害者について今どう思いますか」
被告人「今は申し訳ない気持ちでいっぱいです。aさんと話し合う余地がなかったというわけではないし、自分が詐欺をしなければそういう方向にはならなかった」
弁護人「平成19年6月に詐欺で逮捕されたあとに奥さんとは別れた?」
被告人「はい。自分の苗字が珍しいので子どもが学校でいじめられるのではないかと思った。2人子どもがいるが妻の南郷に苗字は戻っている」
弁護人「差し入れはあるのですか」
被告人「10回ぐらいあります」
弁護人「別れた奥さんを情状証人として呼ぶことを拒否した理由は何ですか」
被告人「やはり自分のしでかしたことで自分の都合だけで出廷してもらったときに、女房が被害者に奥さんに酷い目に遭わされるのではないかと考えました」
弁護人「あなたは刑務所に行くことになると思うんだけど決意はありますか」
被告人「罰は罰として受けて罪を償ってちゃんとしていかないとと思います」

−C被告に対する検察官からの被告人質問−
検察官「先ほどの被害者からの妻に対する脅しの電話があったのはいつですか」
被告人「平成18年の11月頃です。2〜3回ありました。『家庭をメチャクチャにしてやる』と言われました」
検察官「じゃあ平成18年の11月頃から被害者を殺そうと計画していたのですか」
被告人「いえ、最初はひどいなあと。殺害を計画したのは平成19年の3月からです」
検察官「殺害に中国人を使うことも考えていたのですか」
被告人「自分らでやるよりはと思って中国人の話は聞いたことがあったので調べたが、結局3人でやることになった」
検察官「殺すという選択肢の他に選択肢はなかったのですか」
被告人「引っ越そうとも思ったが子どもたちも学校に慣れていたので、もうそれしかないと」
検察官「例えば振り込め詐欺から手を引くとか」
被告人「平成18年11月に一旦手を引いたあともせびられていました。平成19年3月からオレオレ詐欺を再開しましたが、それがなくてもずっとせびられると思いました」
検察官「人を殺すよりは出頭するとか考えなかったのですか」
被告人「残す家族のことを考えると身勝手なんですけど考えませんでした」
検察官「被害者の中学生の娘さんとは会ったことありますね」
被告人「はい」
検察官「娘さんのことは被害者を殺すとき考えなかったのですか」
被告人「考えませんでした」
検察官「BやDとあなたで誰が主導的な役割を果たしたのですか」
被告人「誰が主導したということはない」
検察官「3人は平等な関係だったのですか。組員が入るというのはDから聞くまでは知らなかったと」
被告人「はい」
検察官「組員グループの上下関係はどうでしたか」
被告人「よく分からない」
検察官「組員グループのEやFに文句を言える立場だったのですか」
被告人「E君にしろF君にしろ文句を言える立場にない」
検察官「平等・対等な関係だったと」
被告人「はい」
検察官「Dなんか組員グループに強く出ているとかなかったですか」
被告人「年代的に同じくらいだから仲良くやってるなーぐらい」
検察官「詐欺事件もそうだけどaさんの遺族に被害弁償はできない状態なのですか」
被告人「はい。親とか兄弟はいるがこれだけの事件を起こして頼ることはできません」
検察官「老後の蓄えを失った被害者やaさんの娘に被害弁償をしようとは考えない?」
被告人「自分でやったことだから自分でどうにかして後々償っていきたい」
検察官「殺人も含まれているので相当長期になると思うけどね」
被告人「外に出していただけるならば・・」
検察官「服役を終えたあとどうしていこうとかありますか」
被告人「出てからどういう仕事をしていこうか考えていないが、一生懸命やって後は欲を抑えて少しでもお金を返していこうと思います」

−C被告に対する裁判官からの被告人質問−
左陪席「いわゆるオレオレ詐欺で捕まるまで殺人の計画も同時並行で考えていたわけですか」
被告人「はい」
左陪席「オレオレ詐欺で相当額の利益を得ているんだけど、何に使っていたのですか」
被告人「鹿児島で事業に失敗したり、鹿児島に帰ったら遊興費に使ったり、aさんに持っていかれたりした」
左陪席「家族で豪勢な旅行をしたりとかは」
被告人「いいえ、大阪に連れて行ったくらいです」

裁判長「それでは双方のご意見を伺うことにします」

−検察官の論告求刑−
 事実関係は取り調べ済みの関係各証拠により証明十分です。
 殺人、死体遺棄事件についてですが酌量の余地はありません。共犯のBやDと共に金の無心を続ける被害者の殺害を実行して丹沢湖に投棄したものです。被害者の金の無心や酒癖の悪さに我慢の限界を超えたのが犯行動機で、被害者にも一定の落ち度は認められますが、本件犯行は何ら正当化できません。生き続けられると金を無心され続けるということですが、これは振り込め詐欺で得た収益であり贅沢な生活ができなくなるから殺人を犯すという身勝手な考えには慄然さえ覚えます。10日以上前から殺害を決意し精緻な計画と役割分担に基づいています。発覚のリスクを小さくしたり報復を防ぐために組員グループのFやAに2回にわたり殺害計画を相談し役割分担を決定し被告人は絞殺用のロープを購入するなどしました。被害者が容易に判別がつかないほどの状態で発見されたのは、4ヶ月もの間丹沢湖の湖中にあった経過からも明らかで卑劣かつ残忍な犯行です。被告人は被害者を連れて玄関から入りロープでまるで「綱引き」のように引っ張り長時間首吊りにするなど強固な殺意に基づく残忍な犯行で結果も重大です。被害者には37歳の妻Y8と15歳の娘Y9がいてとくにY9には深い愛情を注ぎ柔道の試合には目を細めて必ず応援に行っていました。信頼を寄せていた被告人3名に頸部を圧迫され抵抗できないまま絶命させられた被害者の最後の「何でよ、そりゃねえだろ」という発言は困惑が見て取れ、絞頸により苦痛に苛まれながらも15歳の娘の成長に思いを致していたに違いありません。被害者の家族は葬儀のとき被害者の顔を見ることができなかったのであり、娘は憔悴した母を気遣って敢えて気丈に振舞いましたが、死亡原因を知ったときの精神的ショックが今度の同人の成長にも悪影響を及ぼしかねません。被告人やDは被害者の行方についてとぼけていたのであり、遺族のこの悔しさは犯人を同じ目に遭わせたいと言うほどの峻烈な処罰感情に至っています。湖底に死体を遺棄した事件も完全犯罪を目論んでフォークリフトで吊り上げて流し込んだコンクリートに頭が突き出ると足で踏みつけて押し込むなど物体として扱い死者への尊厳が見られません。被告人はBやDから一目置かれる存在で本件は被告人の賛成を得てから行われていて3名がいずれも首謀者で責任は同等と見るべきです。
 振り込め詐欺の事件も卑劣かつ巧妙なもので、泣きグループと抜きグループに分かれて「使い込んだお金を穴埋めしなければ解雇される」などと嘘を次から次へと言って搾れるだけ搾り取ろうとした。被害者のなかには金融会社の従業員に「振り込め詐欺ではないのか」と制止されながらも振り込んだ者もいるほど、その不安を煽って将来のための貯蓄を失った。人と社会の信頼関係を逆手に取った極めて悪質な犯行である。被害者は計19名、被害総額は6500万円に上り、抜きグループの収益1300万円のうち被告人は450万円を受領しています。実際は1年以上にわたり計10億円を引き出し6000〜7000万円を手にするなど本件は継続して行われた犯行の一環に過ぎず、本件以外の余罪も含めた利得も遊興費等で使い切っており、被害者は厳重処罰を望んでいます。抜きグループとして関与しましたが泣きグループほどではないにせよ責任は免れません。振り込め詐欺は携帯電話と架空の口座という非常に匿名性の高い道具を利用するため、唯一詐欺グループが姿を現すのが口座から現金を引き出すときだからです。泣きグループのように巧みな話術と根気を必要とせずに多額の利得が確約されているのもそのためです。被告人は抜きグループのなかで最も高額な分け前を手にしています。振り込め詐欺には一般予防の見地からも厳罰が求められています。振り込め詐欺の検挙率は16%に留まり誰でも気軽に始められるうえに検挙されるリスクが低いことから、捕まると相当厳しい刑罰が待っていると認知させることが司法に必要です。被告人は素行不良者と広く交際し、本件も被告人の人脈を通して広がったもので交友関係も芳しくありません。
 本件は計画的な犯行であること、被告人の規範意識が鈍磨していること、動機に酌量の余地がないこと、適切な監督者がいないことなどを考えると刑責は重大で相当長期に刑を科するほかありません。以上の事実から求刑ですが被告人を懲役25年に処するのが相当です。
 C被告は求刑が述べられると若干目線を下に落とした。

−弁護人の最終弁論−
 被告人は一貫して犯行を認めています。
 ATMから現金を引き出す抜きグループを担当していましたが、卑劣で悪質を言われても仕方のない面がある。余罪を含めると被害額は10億、被告人も6000万〜7000万を手にしているが、抜きグループのリーダー格はIで、首謀者は東です。
 殺人事件に関しては振り込め詐欺のことを知った被害者から、百万円単位で旅費の負担やスナックのホステスを愛人にするための費用として取られました。また暴力団の抗争に巻き込まれそうになったり電話機を投げつけられるなど、いかなる理由があろうとも殺人は許されませんが、被害者に相当程度の非があったことは事実です。隷属的な扱いで不満が溜まりました。ドラム缶の保管場所を確保など非常に重要な役割を果たしたのは事実ですが共犯と主従の差はありません。
 被告人は1年以上拘留されて十分後悔しています。以上の事実から寛大な判決をお願いします。

裁判長「最後に言っておきたいことはありますか」
被告人「被害者の皆さんにどうもすいませんでしたと」
 裁判長は判決を予め予定されていた10月21日午後10時から言い渡すことを告げて閉廷した。

 定刻どおり12時15分に終わったが被害者の関係者らしき人の姿は最後までなかった。

※後日、横浜地裁はC・Bに懲役20年、Dに懲役19年の判決を下した。
事件概要  被告人らは共犯と共謀のうえ、2007年3月、多額の金を無心する同じ組の組員を、埼玉県北本市のマンションで殺害したとされる。
報告者 insectさん


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