裁判所・部 横浜地方裁判所・第三刑事部
事件番号 平成18年(わ)第176号
事件名 強盗殺人
被告名
担当判事 小倉正三(裁判長)安藤祥一郎(右陪席)市尾山太郎(左陪席)
日付 2006.3.17 内容 初公判

 47枚の傍聴券を求めて、74人が並んだ。抽選方法は、棒を使ったくじ引きだった。
 入廷前に、荷物を空けられて中身を確認され、金属探知機によるチェックが行われた。
 抽選前に毎日新聞の人に話しかけられたが、この事件は、6日には米兵の仕業だという事が解って大騒ぎになっており、また、米兵が起こした事件という事と、原子力空母配備にからんで注目されているらしい。マスコミ関係者らしき人は、確かに多くみられた。
 記者席は29席用意されており、その殆どが埋まっていた。
 遺族席は4席用意されており、それも全て埋まった。4人の内、眼鏡をかけた青年は遺影らしきものを持っていたが、遺族らしき中年男性は、「遺影は出さない」と話していた。
 傍聴席は、満席だった。
 弁護人は、眼鏡をかけた30代ぐらいの女性。その後ろには、弁護人か解らないが、眼鏡をかけた中年の白人男性と、眼鏡をかけた初老の日本人男性が座っていた。
 検察官は、若い女性。開廷前には、遺族らしき中年男性と話をしていた。男性は、検察官に対し、「お世話になっています」等と挨拶していた。
 弁護人と検察官の机の上には、DVDを上映するためと思われる機械が置いてあった。
 裁判長は、眼鏡をかけた痩せ気味の中年男性。傍聴席から見て右側の裁判官は、若い男性であり、左側の裁判官は、眼鏡をかけた30代ぐらいの男性だった。
 裁判長達が入廷した後、報道陣による撮影が行われた。パシャパシャというカメラのシャッターをきる音が、法廷内に響いた。
 撮影が終わると、被告人が入廷する。被告人は、がっしりとした体格の、黒人青年。髪は短く刈っている。眉が濃く、鼻がやや大きい。上下とも黒い服を着ており、上半身の着衣にはポケットが多かった。開廷前は、おおむね俯いていた。

 まずは、通訳の女性が宣誓を行う。
裁判長「被告人、前へ出てきなさい」
 被告人は、証言台に立つ。
 裁判長の質問には英語で答え、それは通訳される。
裁判長「名前を言ってください」
被告人「A」
裁判長「生年月日は?」
被告人「1984年6月1日」
裁判長「国籍は?」
被告人「アメリカ合衆国」
裁判長「所属は?」
被告人「在日米軍キティホーク号」
裁判長「階級は?」
被告人「一等航空兵」
 裁判長は、被告人に、強盗殺人事件の審理を行う旨告げ、検察官が起訴状を朗読すると告げる。

−公訴事実−
 被告人は、通行中のaから金員を強取しようと企て、平成18年1月3日午前6時30分ごろ、同人を手拳で殴打して転倒させ、雑居ビルに引きずりこみ、暴行を加えたが同人はバックを離さなかったため、被告人は同人を殺害する事を決意し、同日、同人の首を、被告人の履いていた運動靴で踏みつけ、金品を強取し、同人を出血で殺害した。

 被告人は、背を伸ばして証言台に立ち、俯いて起訴状の朗読を聴いていた。
 起訴状の通訳が終わると、裁判長は、被告人に黙秘権を告げる。
裁判長「それを踏まえた上で尋ねます。検察官の朗読した強盗殺人の事実についてはどうですか?」
被告人「そうです」
裁判長「間違いないという事ですね?」
被告人「正しいですが、殺意があったわけではないです。結果として女性を殺してしまいました」
裁判長「弁護人は?」
弁護人「公訴事実については争いません。ただし、殺意の程度については、若干、あの・・・・・・撤回します。公訴事実については争いません」
裁判長「被告人に聞きます。殺意が無いとはどういう意味で言ったんですか?」
被告人「殺そうとしたわけではない。上手く説明できないんですが、殺そうという意思はなかった」
裁判長「公訴事実は認めますか?」
被告人「はい」
裁判長「弁護人は、どう取りますか?」
弁護人「確定的故意は無いと言っていると。未必的故意は否認しないので、公訴事実は争わないと」
裁判長「確定的故意は無かった」
弁護人「はい」
 被告人は、裁判長に促され、被告席に戻る。
 続いて、検察官の冒頭陳述が行われる。

−冒頭陳述−
 被告人は、アメリカ合衆国ニュージャージー州で生まれた。
 高校卒業後、平成17年4月から横須賀基地に配属される。
 同年5月からキティホーク号に一等航空兵として勤務するようになる。
 被告人の両親は本国におり、被告人にはわが国における前科前歴はない。
 aさんは、二度の婚姻歴があり・・・・・(ここで、裁判長は、通訳の方法について通訳と相談し、まずは検察官が冒頭陳述を全て話す事になる)平成16年2月、二度目の同棲をはじめる。
 平成17年9月に、横須賀のマンションで二人暮らしを始める。
 実弟、実妹が神奈川県に在住している。
 被告人は、1500ドルの給料が安いと不満を抱き、ホームシックにかかり帰国を望んでいた。
 日本人女性と半同棲生活を送っていた。
 被告人は飲酒を好み、他の女性を誘って一緒に飲んでいた。半同棲生活を送っていた女性と口論するようになる。
 平成18年1月3日、被告人は、無計画に金銭を浪費した自分に苛立ちを募らせ、自由になる現金が欲しいと考え、女性を襲い、現金を奪おうと考えた。
 同日6時20分ごろ、たまたま通りかかった女性を襲おうと女性に声をかけたが、他の男性がその女性に声をかけたので断念した。
 被告人は、失敗により、金品強取の意思を一層強固にした。被告人は、通勤途中の被害者を見かけ、被害者からバッグを奪おうと考え、「スミマセン、ベース」と道を尋ねるように装って声をかけ、道案内をしている同女からバッグを盗ろうとした。しかし、被害者は、バッグを放さず、被告人は、手拳で被害者を一回殴打し、雑居ビルに引きずり込み、「シャラップ!」と言いながら、さらに被害者を手拳で殴打した。
 被害者は泣き叫び、被告人はそれを聞かれると思い、泣き止まない怒りからも、被害者を殺そうと考えた。
 被告人は、被害者を殴ったために手から出血していたため、被害者の首を両手で持って持ち上げてコンクリート壁にぶつけ、泣き叫び逃げようとする被害者を手拳で殴打した。さらに、被害者の首を、足に履いていた運動靴で踏みつけた。外の人の気配を確認しつつ、被害者を殴打し、首を絞めた。被害者は、コンクリート壁にぶつけられ、顔面などを踏みつけられたため、肝臓破裂等で出血死した。
 被告人は、被害者が動かなくなったのを見て、バッグを奪い取り、その中から1万5千円を奪った
 犯行後の行動。被告人は、近くの公園で血を洗い流し、奪った1万5千円を自分の持っていた金銭と混ぜ、その後、バーで、知り合いの女性と酒を飲んだ。
 被告人は、通訳が冒頭陳述を英訳する間、俯いてそれを聞いていた。両手は、膝の上で組んでいた。身じろぎはしなかったが、瞬きはしていた。
 弁護人は、書証には全て同意する。
 証拠朗読も、検察官が全て話してから、それを通訳する事になる。

−証拠−
・甲1号証は、現場に臨場した救急隊員の調書。「午前6(7?)時ごろ、女性は血だらけで倒れていた。男か女かさえ解らない状態だった」という内容。
 次は、被害者の検視結果。被害者の死因は、肝臓破裂。受傷後、直ぐに死に至った、という内容。
・甲7号証は、被告人の飲酒関係に関する調書。
・甲8〜15号証によれば、現場を撮影したカメラのDVDには、黒人男性の逃亡する姿が映っている。
・甲16,17号証は、犯行目撃者の調書。「午前6時半頃に、男が女を拳で殴り、馬乗りになってさらに3,4発殴っていた」という内容。
・甲19号証は、被告人はベンチプレスで177kgを持ち上げる事が出来、普通の人間よりはるかに力が強い、という内容。
・甲23号証は、被告人の交際相手の供述調書。
・甲24号証は、被告人の給料に関する報告書。
・甲25号証は、被告人を伴っての実況見分調書。
・甲26〜28号証は、被害者の子供や弟、妹の調書。誰か一人のものが、代表して少し読み上げられる。「すごく、妹弟思いの姉でした。いい人と一緒になって幸せになれると思っていた矢先に、現場付近を歩いていただけで殴られ、踏みつけられ、苦しんで殺された。被告人には、身を持って罪を償って欲しい。死刑にして欲しい」と述べている。
・甲29号証は、被害者の同棲相手の調書。「aが何をしたのか。金が欲しいのなら幾らでもやる。犯人は殺してやりたくて、涙が絶えない。犯人を法の許す限りもっとも重い罪にしてください」という内容。
・乙号証は、被告人の調書であり、心情経歴、犯行について、明確に述べている。
 被告人は、証拠内容が通訳される間、俯いて、身じろぎもせずに聞いていた。

 次には、防犯カメラのDVDの証拠調べが行われる。証言台の上に置かれたテレビに影像が映し出され、被告人は、それが見えるように、傍聴席に背を向けるような位置に移動させられる。
 検察官の説明によれば、資料1に添付したとおり、現場を撮影したもので、aさんの悲鳴、男の声で「マネー」という言葉等が録音されている。内容としては、車が先ず通過し、「いやー」という女性の声が聞こえ、男の声で「マネー」と聞こえ、その後、助けを求める声が録音されている。
 通訳は、検察官の説明したDVDの内容を、被告人に通訳する。
検察官「音声を聞いた後、43秒間早送りし、一分間見ていただく。被告人らしき男性が逃げる所が撮影されている」
 通訳は、これも被告人に伝える。そして、上映が始まる。

−DVDの内容−
 道路の両横に、歩道、建物が並んでいる。
 ザーという音が聞こえてくる。
 カラスの声が聞こえる。
 白い車が道路の上を走り抜ける。
 叫び声が聞こえる。いや、という声も聞こえる。そして、人が殴られ、倒れるような音が聞こえる。
 「いやー」という声。合間に、カラスの声が聞こえる。
 「助けてー、助けてー、イヤー」という声が聞こえ、何かを殴るような、どすっという音が響く。車の音、カラスの鳴き声が聞こえる。そして、ガッという、何かを打ちつけたような音が聞こえる。
 これを最後に、聞こえるのは、カラスの鳴き声と、車の音ばかりとなる。
 しばらくして、道路を、黒い車が通過する。

 ここで、早送りされる。
 被害者のものと思われる声が聞こえている間、遺族の中年男性と女性は、鼻を啜り上げ、目をハンカチで拭っていた。
 被告人は、瞬きをしながら、画面を見ていた。やや伏し目がちだったかも知れない。
 早送りは終わる。

 バイク、自転車が通る。(この後被告人が出てくる、と検察官は言う)
 画面の隅の方を、人影が横切る。人相は判別できない。カメラの場所からは遠く離れているらしく、小さな人影だった。

 これで撮影は終わり、被告人は被告席に戻る。
 検察官からは、遺族の証人尋問、弁護人からは、被告人質問と証人尋問が請求される。
 次回期日は4月24日月曜日午後1時15分からとなる。被告人質問などが行われるらしい。
 公判は5時まで予定されていたが、2時15分に終了した。

 まずは被告人が退廷させられ、その後、傍聴人の退廷が許可された。傍聴券は、退廷時に回収された。
 閉廷後、遺族らしき中年男性が、報道陣に囲まれていた。その中には、公判を一般席で傍聴していた白人女性も居た。アメリカの新聞の記者かも知れない。
 暫くしてから、3時30分から記者会見、と言って、記者たちは散っていった。

事件概要  リース被告は2006年1月3日、神奈川県横浜市で強盗目的で女性会社員を殺害し、1万5千円を奪ったとされる。
報告者 相馬さん


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