裁判所・部 宇都宮地方裁判所・刑事部合議係
事件番号 平成17年(わ)第698号
事件名 殺人
被告名
担当判事 飯渕進(裁判長)
日付 2006.2.23 内容 証人尋問、被告人質問

 傍聴席は全部で48席設けられており、記者席はそのうちの16席だった。
 前の法廷から記者は何人か座っていたが、B被告の公判になっても結局は数人しか記者席には座っていなかった。
 公判は1時30分から予定されていたが、前の裁判(※)の開始が遅れ、その公判が終了したのは1時40分だった。そのため、この事件の公判は、その分遅れて開始された。
 弁護人は、眼鏡をかけた白髪の、痩せた初老の男性。
 検察官は、眼鏡をかけた痩せた三十代ぐらいの男性と、三十代ぐらいの男性の二名。
 裁判長は、眼鏡をかけた、前頭部の髪が後退した中年男性。
 陪席裁判官は、眼鏡をかけた30代ぐらいの男性と、癖のある髪の30代ぐらいの男性。
 傍聴人は、数名しか居なかった。
 被告人は、細身でやや小柄な、髪を丸坊主にした黒いスーツ姿の男性。傍聴席に背を向ける形で座る。態度は、神妙そうにも見えた。被告人質問に対しては、ぼそぼそとした、やや聞き取りにくい声で話した。

 この日は、まずは証人尋問が行われた。
 証人はX1という名前で、茶髪の若い女性。被告人の内妻らしい。
 証人は宣誓を行い、裁判長は証人に対して偽証罪の注意を行う。

−弁護人の証人尋問−
弁護人「まず、貴方が被告人のBと知り合ったのは何時ですか?」
証人「平成14年2月の暮れだったと思います」
弁護人「一緒に住むようになったのは何時ですか?」
証人「平成15年1月頃だったと思います」
弁護人「同棲するようになるまで一年近くかかっているわけですか。この事件で逮捕されるまで、被告人の事をどういう人だと思っていましたか?」
証人「一緒に居て、面白い、優しい人だなと思いました」
弁護人「平成16年7月に、貴方に子供が出来た。被告人はどういう態度を示していましたか?」
証人「最初は反対していたんですけど、産んでからは可愛がってくれましたし・・・・」
弁護人「Y1さんが産まれたのが、去年の二月ですね」
証人「はい」
弁護人「子供が産まれた後、貴方は被告人の母親と、被告人の実家で同居している」
証人「はい」
弁護人「貴方が退院して被告人の実家に行ってから、被告人は、子供の顔を見に行っていた」
証人「はい」
弁護人「其の時、被告人は子供に対してどのように接していましたか?」
証人「抱いたり、スキンシップをしたり、ミルクをあげたりしていました」
弁護人「貴方自身、これからの事は、子供が産まれた時、どう考えていましたか?」
証人「自分自身、幼い時から父が居ませんでしたし、育ててもらった記憶が無いので、子供にはそういう思いをさせたくありませんでした」
弁護人「そういう気持ちだった」
証人「はい」
弁護人「貴方は、親の愛情を注がれなかった」
証人「はい」
弁護人「貴方は、子供さんに対し、どうしようと思っていましたか?」
証人「愛情を注いであげたいと思っていました」
弁護人「被告人は、貴方の生い立ちは知っていましたか?」
証人「はい」
弁護人「子供が離れてから、その事で被告人と話をしたことはありますか?」
証人「・・・・・」
弁護人「被告人は、子供を可愛がっていたのは間違いない」
証人「はい」
弁護人「平成17年5月に事件は起きていますが、其の時、貴方は子供さんと一緒にお母さんと居た」
証人「はい」
弁護人「去年の4月から5月、被告人のおかしかった事は?」
証人「体型が痩せていったりはありました」
弁護人「平成17年7月に、お母さんの所から、実家に戻って、被告人と同居する」
証人「はい」
弁護人「その二ヵ月後に、被告人は逮捕されましたね」
証人「はい」
弁護人「その間に、被告人に何か変わったところは?」
証人「胃が痛かったり、食欲が無い。食べたらもどしてしまう」
弁護人「その理由を聞いた事はありますか?」
証人「ありません」
弁護人「7月から9月の間、被告人は、子供さんの面倒はどうしていましたか?」
証人「可愛がっていました」
弁護人「貴方が仕事に行った後は、被告人が子供さんの面倒を見る」
証人「はい」
弁護人「9月21日の朝、被告人は警察に連れて行かれましたね?」
証人「はい」
弁護人「どういう事で連れて行かれたと、何時知りましたか?」
証人「警察が入ってきて、聞いたところ、こういう事件と知りました」
弁護人「警察に連れて行かれた後で、警察に聞いて知らされた」
証人「はい」
弁護人「それを聞いて、如何思いましたか?」
証人「信じられなかったのと、頭が一杯で何も考えられませんでした」
弁護人「信じられなかった」
証人「はい」
弁護人「貴方にとって、被告人は優しい人だった」
証人「はい」
弁護人「その後、間もなく、被告人が事実を認めていると聞きましたね」
証人「はい」
弁護人「どういう形で聞きましたか?」
証人「警察から電話をいただいて、逮捕すると聞かされて、それでも信じられなかったです」
弁護人「被告人は、逮捕されて最初のちょっと認めなかったが、調書によれば、貴方に話をして馬鹿な事をしてしまったと詫びたい、と書いてありますが、何か聞いた事はありませんか?」
証人「警察から本人の書いたものを聞かされた事はあります」
弁護人「9月から11月中旬まで、接見禁止が続きましたね」
証人「はい」
弁護人「接見禁止が解けてから、今回の裁判まで、被告人に何回か面会していますね」
証人「はい」
弁護人「何回ですか?」
証人「三回です」
弁護人「Y1ちゃんを連れて面会した事もありますか?」
証人「あります」
弁護人「最初に面会した時、被告人はどんな態度でしたか?」
弁護人「罪を認めたためか、貴方との接し方も穏やかだった」
証人「はい」
弁護人「今回の事件は、重大な事件だとは解っていますね?」
証人「はい」
弁護人「被告人との関係について、今後はどうするつもりですか?」
証人「気持ちは変わらず、待っていようと思います」
弁護人「逮捕されてから一貫して気持ちは変わらない」
証人「はい」
弁護人「何故そういう気持ちを持ち続けているのですか?」
証人「自分にとっても、子供にとっても必要な人ですし、この人しか考えられないというのがあります」
弁護人「トラブルもあったが、今は、この人しか居ないと」
証人「はい」
弁護人「ただ、短い期間ではありませんね」
証人「はい」
弁護人「それでも、被告人を待ち続ける」
証人「はい」
弁護人「その支えとなっているのは?」
証人「自分の中で・・・・他の人は考えられないし、子供にとっても、父親はあの人しか居ないし、私は愛情を注がれなかったので、その分、子供のためにして欲しい」
弁護人「被告人への希望とは?」
証人「罪を犯した事を反省して償って、一日も早く、自分達のもとへ帰ってくる事を願います」
弁護人「貴方は被告人の内妻ですが、入籍の話はどうなっていますか?」
証人「あります」
弁護人「どんな?」
証人「裁判が終わってから、自分がY2の姓を名乗って、籍を入れると」
弁護人「裁判が終わったら、受刑中にも籍を入れたいという事ですか?」
証人「はい」
弁護人「貴方は、今、妊娠している」
証人「はい」
弁護人「何時産まれる予定ですか?」
証人「4月です」
弁護人「その二人を育てながら被告人を待つのは大変ですが、それでも待っていようと思いますか?」
証人「はい」

−眼鏡の検察官の証人尋問−
検察官「貴方と付き合ってからも被告人は多くの女性と付き合っている」
証人「はい」
検察官「別れようとは考えませんでしたか?」
証人「考えましたが、冷静に考えると好きだったので」
検察官「被告人が貴方の事を何と思っているか解りましたか?」
証人「解らない事もありました」
検察官「子供さんが出来るまでは、遊ばれているとは思いませんでしたか?」
証人「思いましたが、態度を見て思わなくなりました」
検察官「籍を入れる話は?」
証人「ありました」
検察官「貴方は何度も籍を入れる話をしているが」
証人「子供が産まれてからは無いです」
検察官「何度も籍を入れる話をしたのでは?」
証人「生まれる前の話です」
検察官「子供さんのことを考えた」
証人「はい」
検察官「被告人が自分の子供の事を考えているのか疑問に思わなかった?」
証人「特には」
検察官「入籍しようとは?」
証人「産まれてから入れるのかな、と」
検察官「籍を入れるだけでは子供さんの身分は変わりませんが、籍を入れようとは?」
証人「自分からは言い出せませんでした」
検察官「何故?」
証人「何か理由があるのかな、と思いました」
検察官「疑心暗鬼にはなりませんでしたか?」
証人「解らない時期がありましたが、気にしないようにしていたので」
検察官「子供が産まれてから、被告人とは一緒に住んでいませんね」
証人「はい」
検察官「如何でした?」
証人「一ヶ月二ヶ月たっても何故戻って来れないのかな、というのはありました」
検察官「何故だと思いました?」
証人「帰れない理由があるのかな、と」
検察官「浮気をしているとは思いませんでしたか?」
証人「思ったこともありました」
検察官「信じられない気持ちはありましたか?」
証人「そう思ったり思わなかったり、不安定でした」
検察官「別れようとは思いませんでしたか?」
証人「ちょっとした事で、やめたほうが良い、と思ったことはありました」
検察官「何故続けていこうと?」
証人「好きという気持ちが大きかった」
検察官「子供さんの事もあった」
証人「はい」
検察官「被告人は、貴方との間に子供が産まれてからも色々な女性と付き合っていた。咎めた事は?」
証人「言っても仕方がないと」
検察官「聞いてくれないんですか?」
証人「私も感情的になっていて、話せなかった」
検察官「調書では、被告人に殴られた事もあったとあるが」
証人「(被告人は)自分が悪かったら黙ってしまう。それで苛々させたら、毎回ではないですが、ありました」
検察官「被告人は、急激に痩せていった?」
証人「ちょっと、痩せたかな?と思うぐらい」
検察官「何時からですか?」
証人「お産して、4月から、部屋に戻る期間ぐらい」
検察官「原因は考えました?」
証人「食欲が無いとか胃が痛いとか言っていたので、そういう心配がありました」
検察官「覚せい剤をやっているかもしれない、とも考えた?」
証人「疑いというか・・・・・ありました」
検察官「何故覚せい剤と思った?」
裁判長「検察官、どういう趣旨ですか?被告人は覚せい剤事件では起訴されていない」
検察官「体系が変わったという話なので」
裁判長「如何関係があるんですか?」
検察官「適切ではありませんか?」
裁判長「適切ではありません」
 裁判長は、きっぱりと述べた。
検察官「被告人と結婚する意思はありますか?」
検察官「すぐに婚姻届を出そうとはなっていない」
証人「はい」
検察官「何故ですか?」
証人「裁判が終わるまで新聞に載ったりとかあるので、終わってから私が、被告人の母親の養子になって、Y2姓を名乗る」
検察官「貴方が養子に入る」
証人「はい」
検察官「妊娠していらっしゃいますが、被告人の逮捕直前に出来たお子さんですか?」
証人「逮捕される直前に解ってきたことです
 これで証人尋問は終わり、証人は傍聴席に戻る。

 続いて、被告人質問が行われる。
 被告人は、証言台に座る。裁判長は、被告人に、黙秘権の告知などを行う。

−弁護人の被告人質問−
弁護人「まず、貴方が長谷川静央の依頼を受けて被害者を殺す決心をしたのは、平成17年5月初旬ですね」
被告人「はい」
弁護人「依頼を受けた原因は?」
被告人「その当時の生活状況とか、そういうことが一番大きかったと思います」
弁護人「具体的に」
被告人「其の時、新聞営業の仕事についていまして、会社への借金が増えていきました。子供の産まれる前は、内妻は働いてくれていたので、形の上ではお金を貯めてゆけましたが。僕達は食べないでも我慢できますが、娘にはそういう思いをさせたくありませんでした。母は、離婚してから、女で一つで私と弟を育ててくれた時期があるのに、親孝行できていない。義父はバスルームで死んで、死んだ時の姿を見れない状況で発見されまして、親孝行できずに後悔しました。母に対してはそうはなりたくない。母や妻、娘にも迷惑をかけると思いました」
弁護人「長谷川静央からはその前から接触があった」
被告人「はい」
弁護人「長谷川静央にどういう印象を持った?」
被告人「(依頼について)引き受けてくれる前提でなければ話す事は出来ない、と言われたので、断り続けましたが、何度も言うので、引き受ける前提で話を聞きました。それで、引き受けられないと思いましたが、もう一度電話して、そうしたら、長谷川静央に、家に来い、と言われたので、行きました。そこで、私の悩みを話しました。死んだ義父に似ていたので・・・・容姿は違うのですが」
弁護人「長谷川静央には結局、金の事で騙されていますが、当時はそう思っていましたか?」
被告人「思いませんでした」
弁護人「最初は、報酬は2000万円と出ている」
被告人「はい」
弁護人「心の動いた事は事実ですね?」
被告人「間違いありません」
弁護人「警察に捕まると心配はしませんでした?」
被告人「しましたが、自分にもそれだけの負担があるな、と思いました」
弁護人「報酬が確実ならば、と思った」
被告人「はい」
弁護人「長谷川静央の話の中で、貴方が捕まったら、その身内に金を払う、という話が出ている」
被告人「はい」
被告人「人を殺す話が出まして、(静央は)『指示通りにすれば100%つかまる事は無い』と言いましたが、信じられませんでした。『二度昔に同じ事が会った』とも言いましたので、(被告が)それは何時の事かと聞きましたら、10年前と言いました。(被告は)その間に警察の技術も進んでいる、と言いました。長谷川は、『もしも君が捕まったら2000万を確実に、命に代えても身内に渡す』と言いました。僕は、それなら、仕事をして自首する形にしたい、と言いました」
 被告人がそう言った所、「犬死するようなものだ」と言われたので、長谷川静央もそれなりに自分(被告人)の事を考えていると思い、親近感を持ったらしい。
弁護人「現場の下見に行った」
被告人「はい」
弁護人「如何思った?」
被告人「事件に関わる事で、恐ろしくなり、現実味が出てきた、と思いました」
弁護人「長谷川静央と下見をして、翌日に準備を整えて宇都宮に向かっている」
被告人「はい」
弁護人「現場に向かう途中、どのような事を考えていましたか?」
被告人「昔サラリーマンをしていた時と、今、事件を起こすために新幹線に乗っている自分を重ね合わせ、躊躇しました。事件を起こさず家に帰ろうとも思いましたが、話を聞いた以上引き受けてもらわなければ困る、と何度も言われていましたし、やるしかないとも思いました」
弁護人「被害者の家に入って、被害者が戻ってくるまでどのくらい時間があった?」
被告人「2時間ぐらいと」
弁護人「被害者の家で待っていた」
被告人「はい」
弁護人「その間、どんな事を考えていた?」
被告人「時間が長く感じたのと、今だったら逃げ出すことが出来る、と思いました。ただ、逃げ出して何が変わるとは考えられませんでした」
弁護人「悩みながら被害者の家に2時間居た」
被告人「はい」
弁護人「被害者が家に帰って来た時、被害者に声をかけましたね?」
被告人「はい」
弁護人「何と声をかけたんですか?」
被告人「『長谷川静央を知っているか』と」
弁護人「何故そんな声をかけた?」
被告人「長谷川静央を信用していましたが、腑に落ちないことがありました。被害者が同じ長谷川という名字で、(静央からは)別に依頼人が居ると聞かされていましたが、その依頼人も長谷川と聞かされていたので、三人とも同じ名字だというのはおかしいと思いました」
弁護人「被害者が、知っていると答えたら、どうしていましたか?」
被告人「長谷川静央との関係を尋ねたと思います。それに、家に入り込んだのをお詫びしたと思います」
弁護人「被害者が、知っている、と答えたら、殺害を思いとどまった」
被告人「はい」
弁護人「何故?」
被告人「長谷川静央に言ったんですが、ビブロの、本名は知らないんですが、Y3さんにはお世話になっていましたし、その人の身近な人だったら出来ないですし、長谷川静央の身近な人だったら、Y3さんのことも知っているかもしれないので」
弁護人「其の時の体勢は、聞きながら、被害者を後ろか羽交い絞めにするような感じだった?」
被告人「肩を掴んで、右手にナイフを握って、向き合っている状態でした」
弁護人「被害者はどういう反応を示しましたか?」
被告人「動揺していました。『誰ですか、何ですか』と大声で繰り返していました」
弁護人「ナイフを見て、被害者はどのような行動をとりましたか?」
被告人「被害者の首筋にナイフを近づけていましたが、被害者の人の両手は開いていたので、ナイフを自分の方に押し返すようでした」
 ナイフを押し返す間も、被害者は、「誰ですか、何ですか」と繰り返していたので、被告人は膝で被害者の腹に蹴りを入れた。
弁護人「その後、ナイフで刺している」
被告人「はい」
弁護人「膝で蹴るのとナイフで刺すのとはレベルが違うが、何故刺したんですか?」
被告人「大声を出して欲しくないと思い蹴ったんですが、逆効果で、大声を出されたので、犯行に及ぶしかないと判断しました」
弁護人「かなりの回数、後ろから刺したのは事実だね」
被告人「はい」
弁護人「被害者が反応しなくなって、一定時間建物に留まった」
被告人「はい」
弁護人「どのくらいの時間ですか?」
被告人「2、3時間だと」
弁護人「何故居た?」
被告人「長谷川静央から、明け方まで犯行現場に留まり、始発が来るまでになったら被害者の車に乗って、それを乗り捨てて戻って来い、と言われていたので、途中まで言いつけを守りました」
弁護人「犯行についてはどう思っていましたか?」
被告人「取り返しの付かない事をしてしまったと思いました」
弁護人「後戻りの出来ない事をしてしまったと認識はしていた」
被告人「はい」
弁護人「2,3時間現場に留まり、被害者の車で逃走した」
被告人「はい」
弁護人「長谷川静央の話では、5月15日にお金を払い、5月末に残りのお金を払うという話だった」
被告人「はい」
弁護人「しかし、払われなかった」
被告人「はい」
弁護人「何時、長谷川静央に支払いを請求した?」
被告人「夏ごろです」
弁護人「逮捕されるまでの気持ちは?」
被告人「取り返しの付かない事をしてしまったので警察に逮捕されるのは覚悟していましたが、母、内妻、娘に、長谷川静央の払うと言っていたお金を残してやれば、浅はかですが、生活は成り立つと思いました。内妻は若いですし、人生はやり直せる。母には弟が居ますし、金が残せれば自分は必要ないかな、と」
弁護人「長谷川静央は、ほとんどお金を支払わなかった」
被告人「はい」
弁護人「それで、長谷川静央に、支払いの約束をさせている」
被告人「はい」
弁護人「最終的に払われたのは、5万をちょっと超えるぐらいですね」
被告人「はい」
弁護人「被害者に対して、如何思っていますか?」
被告人「重ね重ね申し訳ないことをしたと思っていますし、理由は何であれ、人を殺すのは許される事ではありません」
弁護人「被害者のために何かしている事はありますか?」
被告人「被害者の住んでいた家の方角へ向かって、朝、夕、頭を下げています」
弁護人「依頼を引き受けた理由は、母や娘さんや内妻の生活を支えたいという事ですね」
被告人「はい」
弁護人「現実には追い込む状況になっている」
被告人「はい」
弁護人「如何思っていますか?」
被告人「本当に申し訳ないと思っています。当分娘の面倒を見る事はできませんが、親としての義務は全うできませんが、早くそれを出来るようになって、苦しい思いをさせた家族に償いたいと思います」
弁護人「貴方は今までに色々な仕事をしているが、建築関係の仕事が一番長いですね」
被告人「はい」
弁護人「社会復帰したら、どのように生計を立てていくつもりですか?」
被告人「大工の親方がいまして、今ではアスベストの除去の仕事をしているそうです。接見禁止の解除がされましたら、手紙を書いて謝りまして、許されるのなら、その人の下で働きたいと思います」
弁護人「実現するか解らないが、そのように社会復帰したいと」
被告人「はい」

−眼鏡をかけた検察官の被告人質問−
検察官「会社からの借金は、650万いっているという認識だった」
被告人「はい」
検察官「借金の原因は、契約を解約されたペナルティですか?」
被告人「それもありますが、人数が、少なくともこれだけはやれ、というのがありまして」
検察官「ノルマですか?」
被告人「はい」
検察官「ノルマが達成できなければペナルティが?」
被告人「いいえ」
検察官「負債は、勤務態度に問題があったと?」
被告人「あったと思います」
検察官「会社に居た皆が皆、借金を抱えていたわけではない?」
被告人「まったく借金が無いのは一人しかいませんでした」
検察官「それは、Y4さん?」
 被告人は、肯定する。Y4は、最初は仕事をちゃんとやっていたが、途中から真面目に仕事をやらなくなり、新人教育を被告人に任せるようになった。
検察官「負債が増える前に仕事を変えようとは思いませんでしたか?」
被告人「それはずっと思っていましたが、2年ぐらい前に社長が変わりまして、報道の人も傍聴しているので言いにくいのですが、その人の後ろには暴力団が居ましたし、逃げた誰々が捕まった、とよく話で聞いていました」
検察官「でも、貴方も暴力団と付き合いがあったでしょう?」
被告人「規模が違いましたし、知っている人に迷惑をかけたくなかった」
検察官「でも、借金が膨れ上がる前に他の仕事に付く事ができたのでは?」
 被告人は、やや勘違いした答えを返し、検察官は、借金がそこまで膨らむまでに、と言い直して再度質問する。
被告人「借金を一括返済する事はできなかったので」
検察官「一括返済で払わなければだめなんですか?」
被告人「はい」
検察官「悩んでいた時に、長谷川静央の話があった」
 被告人は、その前に、弟と共に呼ばれて借金の話をさせられた、と述べる。
検察官「それは調書で述べている」
被告人「はい」
検察官「長谷川静央からは、客観的には騙されていますね」
被告人「はい」
検察官「2000万は本当かな、と思うと思うんだけど」
被告人「最初は、金額よりも、正直、100%捕まらない、というのに疑問を持ちました」
検察官「金額は信じた?」

被告人「当時は、(静央からは)目黒の家に住んでいて、預金も8000万円あると言われ、信じていました」
検察官「依頼人には会わせてくれなかったんでしょう?」
被告人「一度、電話番号を割り箸の紙に書かれて、これが連絡先だ、と言われて、そこに電話しましたが、関係ない人が電話に出ました」
 それは、事件の後の事だった。また、被告人は別に長谷川静央に弱みを握られていたわけではない。
検察官「何故断らなかった?」
被告人「会社では、もう使えないから売りに出す、と言われ、色々な新聞系列の会社に面接に行かされましたが、新聞の購読者が減っているので、借金のある人は門前払いされていました」
検察官「借金を合法的に整理しようとは思わなかったんですか?」
被告人「思いました。でも、周りでそうした人がいなかったので」
 被告人は、自分より借金をしている人でも自己破産しないのだから、自己破産の事後に会社から圧力がかかるのかと思っていたらしい。
検察官「借金を合法的に整理しようとはしなかった」
被告人「はい」
検察官「事件を起こしてお金が入ってきて、それを渡しても家族が喜ぶと思う?」
被告人「思いません」
検察官「そう考えましたか?」
被告人「考えました」
検察官「最番を止めようとは思わなかったんですか?」
被告人「考えましたが」
検察官「貴方が家族を思うのは解るが、被害者にも家族や人生がある。当時は考えなかったんですか?」
被告人「考えましたが、正当化はされませんが、長谷川静央から、(被害者は)色々な人の恨みを買っていて、身寄りの無い人だと聞いていました。」
検察官「被害者と貴方は関係ないですね」
被告人「はい」
検察官「犯行動機は、完全に報酬欲しさという事でよろしいですか?」
被告人「それと、話を聞く前提でしか話せない、と言われ、解りましたと言ってしまって。それに、長谷川静央の後ろに依頼人が居ると聞いていましたし」
検察官「でも、Y5に相談していますよね」
被告人「はい」
検察官「Y5は暴力団組員」
被告人「いいえ、入っていません」
検察官「関係者?」
被告人「はい」
検察官「Y5からも、やめとけと言われてますね」
被告人「はい」
検察官「何故殺害にナイフを使ったんですか?他に考えなかったのですか?」
被告人「それ以外に現実的とは思えませんでした」
検察官「被害者の家で、あわよくばお金を盗ろうとは考えていませんでしたか?」
被告人「(被害者が)2時間後に帰ってくるというので、(金を盗る事を)考える余裕はありませんでした」
検察官「2時間余裕があった」
被告人「自分がどこに居ればいいか、としか考えられませんでした」
 長谷川(静央)からは、家のものに手をつけるな、と言われていた、と被告人は述べる。
検察官「長谷川静央からは、強盗に見せかけろ、と言われていますね」
被告人「はい」
検察官「お金を盗っていますね」
被告人「はい」
検察官「何故ですか?」
被告人「偶然発見しまして、お金に困っていたので」
検察官「長谷川静央から、盗るな、と言われていたのに盗った」
被告人「はい」
検察官「被害者に、長谷川静央を知っているか、と聞いていますが、何故ですか?」
被告人「ビブロのオーナーの長谷川静央の息子さんの知り合いだったら嫌だな、と思っていたので」
検察官「長谷川静央に確かめなかった?」
被告人「はい」
 ただ、被告人も、静央が存在を仄めかした依頼人、長谷川静央、被害者の三人が同じ長谷川という姓というのは、ありふれた姓とはいえ、納得できなかったらしい。
検察官「2000万円の報酬については納得できていた」
被告人「はい」
検察官「被害者が長谷川静央の関係者だったら、貴方はどうしていましたか?」
被告人「命を奪いたくありませんでした」
検察官「被害者に声をかけたとき、被害者にナイフを突きつけていますね」
被告人「はい」
検察官「穏やかに話し合えないと思うが」
被告人「はい」
検察官「被害者も、答える事が出来ない」
被告人「今思えば、そうだと思います」
検察官「被害者に対して11回、背中と胸を刺しているが、何故こんなに刺したんですか?」
被告人「その時は、無我夢中というか、苦しい思いをさせたくなかった、というのはあります」
検察官「刺されたら、苦しくないですか?」
被告人「・・・・・そう思います」
 この時、被告人は少し小声になっていた。
検察官「この殺害後ですが、貴方は被害者の車を窃取して逃げましたが、打ち合わせよりも早い段階で現場から出た」
被告人「はい」
検察官「時間まで居れないと」
被告人「はい」
検察官「それは何故ですか?」
被告人「最初は、始発まで待ち、宇都宮駅で車を乗り捨てて戻ってくるように言われていましたが、始発の時間もわかりませんし」
検察官「周りの目に気を使った」
被告人「はい」
 被告人は犯行後、被害者宅の金を取り、一度、長谷川静央に電話を入れている。
検察官「犯行後、7月にY6という女性から75万円借りていますね」
被告人「はい」
 その金は全てY7に渡した、と被告人は述べた。
検察官「その後、Y7から60万円受け取っている。それはどうしましたか?」
被告人「50万円、分割でY6さんに渡しました」
検察官「残りはどうしましたか?」
被告人「自分の生活に」
検察官「本来は、Y6さんのお金ですね」
被告人「はい」
検察官「犯行に使ったナイフはY5に隠してもらい、車も処分してもらった」
被告人「はい」
検察官「何故?」
被告人「兄のように慕っている人だったので、相談しました」
検察官「巻き込む事になるとは思わなかったんですか?」
被告人「思いました」
検察官「Y5が疑われるとは思わなかったんですか?」
被告人「思いました。僕の事を心配して、大丈夫か、と言ってくれたので、甘えてしまいました」
検察官「Y5の他にも色々な人に対して事件の話を打ち明けているが、何故ですか?」
被告人「名前を出してもいいんですか?」
検察官「調書に出ている?」
被告人「はい」
 検察官は、確か了承した。
被告人「Y4には、会社への借金をどうする、と言われたので、その事で事件の話をしました。それに、小学校から同じで、中は良くは無かったんですが、なので話しました」
検察官「でも、多くの人に話している。喋る人が多くなるほど事件の事が漏れる危惧もあると思いますが、そう考えましたか?」
被告人「はい」
検察官「何故話した?」
被告人「自分では、信頼できる人に話したつもりです。それと、逮捕された後、家族を頼む、という意味で話しました」
検察官「犯行はばれると思っていた」
被告人「はい」
検察官「自分から出頭しようとは思わなかったんですか」
被告人「報酬の金を受け取っても家族のものになると当時は思っていたので、貰ってからそうしようと思っていました」
 被告人は、長谷川静央の話の全てを信じていたわけではないが、ある程度約束を守ってもらわなければ、自分があんな事をやった意味がない、と考えていたらしい。
検察官「被害者や遺族に対して如何思っている?」
被告人「弁護士さんが接見に来た時、新聞の切抜きを見せてもらったのですが、それに被害者の写真がありまして、優しい顔で写っていました。すまないと思いました。それと、被害者には娘さんが居たと刑事さんから聞きまして、葬式にも来ないと聞いていたので何とも思いませんでしたが、初公判の時、検事さんから話を聞いて、優しい人と思いました。申し訳ないと思います」
検察官「今の状態では慰謝の措置は取れないね」
被告人「はい」
 この後、二つばかり質問が行われ、被告人質問をする検察官が交代する。

−タバタ検察官の被告人質問−
検察官「子供さんの産まれる前は、貴方と内妻の二人の収入を合わせれば生活できたと言っていましたね」
被告人「光熱費はともかく、ご飯は食べる事はできました」
検察官「Y5のキャバクラで働いていましたね」
被告人「はい」
検察官「収入に満足できた?」
被告人「収入はありませんでした」
検察官「別の仕事をしようとは?」
被告人「自分が行かなかったら店が成り立たない状況でしたので、お世話になっているうちはちゃんと働こうと思っていました」
検察官「自分に余裕があるならともかく、内妻よりも、Y5の仕事の方が大事?」
被告人「それは・・・・」
検察官「(キャバクラでは)ホステスの送り迎えの仕事もしていましたね。ホステスとの付き合いが楽しかったから働いていただけでは?」
被告人「違います」
 被告人は、内妻の妊娠中にキャバクラのホステスと遊びに行っていた。
 検察官から実家で過ごせなかった理由について問われた時は、弟と母だけで住むという条件で格安の家賃で棲めていたが、約束を破ったら退去する事になっていたので実家では過ごせない、と述べた。
 また、被告人は、平成17年7月か8月に、祭りで知り合った女性と肉体関係を持っていた。
検察官「子供さんの産まれた後も省みていなかったのでは?」
被告人「女性関係に関してはだらしなかったと思います」
検察官「貴方の言い分として、内妻とは違い、他の女性は遊び?」
被告人「遊びというわけではありませんが、他の女性には、妻子があると伝えていました」
検察官「9月に奥さん名義で70万円借りていますが、何に使った?」
被告人「家賃がたまっていたのと、自分に金が無かったので」
検察官「出産費や光熱費は未払いで残っていますが、何故奥さんが借りたお金を当てなかった?」
検察官「Y8さんたちとの交際費に使っていたのでは?」
被告人「そういう事はありません」

−眼鏡の検察官の被告人質問−
検察官「さっき弁護人との話で痩せていったと出ましたが、やせた原因は?」
被告人「会社の借金とか悩みはあったので、食べてもどす事もあったので、そういうことで痩せたと思います」

−裁判官の被告人質問−
裁判官「長谷川静央の話で、家のものは荒らすな、という話だったんですか?」
被告人「荒らすな、というか、持ち去るな、という話でした。物を盗るのでは無く、荒らして強盗に見せかけろ、と言われました」
 物を持っていたら証拠になるからするな、と被告人は言われていたらしい。
裁判官「三万円盗んでいますが、これは静央の指示に反する事ですか?」
被告人「はい」
裁判官「三万円と車は長谷川静央と共謀して盗んだ、とあるが」
被告人「車についてはそうです」
 三万円を盗んだのは、被告人の意思で盗んだ。
裁判官「今回の事件の凶器は三本のナイフがあったが、三本で無ければ使えない?」
被告人「そうでもないと思います」
裁判官「今回は中ぐらいのナイフを使っているが、三本で無ければ使えない?」
被告人「買った店の人は投げナイフと言っていましたが、私にはどういうものか解りません」

−別の裁判官の被告人質問−
裁判官「三万円は、貴方の判断で盗った」
被告人「はい」
裁判官「その事を長谷川静央に報告しましたか?」
被告人「していません」
裁判官「貴方が教えていないので、長谷川静央は知らないままですか?」
被告人「はい」

−裁判長の被告人質問−
裁判長「検察官の質問に関して、被害者が早く死んでくれれば苦痛は少ない、と答えていますが、そうした供述は捜査段階でもしていますか?」
被告人「したと思います」
裁判長「検察官の調書の中では、そういう主旨のことは読み取れないが」
被告人「検事さんの取調べの時は緊張していたので細かいところまでは覚えていませんが、刑事さんの取調べの時には話したと思います」
裁判長「検察官調書では、『死んでしまえ、確実に死んでもらわなければ一千万もらえないのだ。確実に殺すつもりで突き刺しました』とあるが」
被告人「死んでしまえというか、私としては、恨みも何も無い人なので、苦しめたくないと思っていました」
裁判長「刺した回数を数える余裕が無いのに、苦しまないようにしようと本当に思っていた?」
被告人「心臓を刺せば死ぬとは思っていましたけど、正確な位置を知りませんでしたので」

−眼鏡の検察官の被告人質問−
検察官「長谷川静央からは、家を物色して強盗を装え、という指示でしたか?」
被告人「はい」
検察官「高価な物を盗ってはいけないと言われていた?」
被告人「いいえ。家の中を荒らせと」
検察官「長谷川静央としても、多少の金は良いんじゃねえか、と思ったのでは?」
被告人「言われませんでした。ただ、『高価な時計を持っているかもしれないが、手をつけるな』と言われました」
検察官「それ以外には何か言われましたか?」
被告人「言われていません」
検察官「盗っても良いとは?」
被告人「言われていません」
 これで被告人質問は終了し、被告人は席に戻る。

 被告人による三万円の窃盗の長谷川静央との共謀について、裁判長と検察官は話し合う。
 次回期日は4月27日1時30分からに指定される。
 今回で証拠調べは終わり、次回の予定は論告と弁論である。論告は30分、弁論は10分程度行われる予定。
 裁判長は、その旨を被告人に伝える。
 被告人は、首をすくめるような格好で、傍聴席に目をやることなく退廷した。公判は3時40分ぐらいに終了した。

 終了後、傍聴人は廊下で、「後ろで女の子泣いてたよね」等と話していた。

※親しく付き合い、弟のように思い居候させていた被害者の言動に腹を立て、自分の家族から止められたのにもかかわらず、長期にわたってビンなどで苛烈な暴行を加え、被害者を死亡させた、という傷害致死事件の判決言い渡し。
 被告には前科があり、公判中も被害者の日を鳴らすような言動を取っていたらしく、また、死亡の責任についてあいまいな言動を弄していたらしい。
 懲役七年の判決が言い渡された。

事件概要  B被告は、弟の財産を狙う長谷川静央被告の依頼により、2005年5月8日、栃木県宇都宮市で長谷川被告弟を殺害したとされる。
報告者 相馬さん


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