裁判所・部 東京高等裁判所・第十一刑事部
事件番号 平成21年(う)第1403号
事件名 殺人
被告名 後藤良次
担当判事 若原正樹(裁判長)足立勉(右陪席)河畑勇(左陪席)
その他 検察官:山上幹生
書記官:富所まり
日付 2010.3.17 内容 初公判

 後藤良次の控訴審判決は、622号法廷にて、15時30分より行われた。
 開廷前から、法廷内に30人ほどが在廷していたが、いったん、全員が退廷させられる。前回の際、苦情があったのだろうか。傍聴希望者はいったん廊下に並ばされ、15時23分ごろ、再び入廷が許された。傍聴席以上の希望者が、廊下に並んでいたように思う。法廷内はもちろん、満席となった。
 弁護人は以前と同じく、大熊、坂根の二氏であった。大熊弁護士は、髭を短くしていた。以前はボウボウの伸び放題の髭だったため、漸く仕事にひと段落ついたのか、と考えてしまった。
 検察官は、オールバックを真ん中で分けた中年男性に変わっていた。
 裁判長は前回と同じ若原裁判長。裁判官は、髪を短く刈った中年男性と、眼鏡をかけた初老の男性。飯渕進は、この時はすでに仙台高裁へと移動になっていたらしい。
そして、飯豊町事件の伊藤嘉信の控訴棄却という、無慈悲な判決を下すことになる。
 被告人が入廷する前に、二分間のビデオカメラによる撮影が行われた。
 撮影終了後、被告人が入廷する。この日は、刑務官四人に囲まれて入廷した。普通の被告人は、二人程度である。やはり警戒されているようだ。以前と同じ丸坊主で、黒いジャージの上下という姿であり、眼鏡をかけている。その眼鏡の奥の眼は、険しかった。口は、への字に曲げられている。死刑が確定し、運動する機会はあまりないはずであるが、がっしりとした体格である。

裁判長「後藤さんですね」
 後藤は、頷いた。
裁判長「その場でいいので、立ってください」
被告人「はい」
被告人は、被告席のところで立ち上がった。

−主文−
本件控訴を棄却する

裁判長「座ってください」
 被告人は、特に衝撃を受けた様子なく、被告席に腰を下ろした。審理の速さからして、大して期待していなかったのかもしれない。未決拘留日数は算入されていなかったが、その理由も判決中で述べられた。

 判決理由については、判決文も公開されている筈なので、概要のみを記す。
・弁護人は、「A宅で被害者にウォッカを飲ませた行為と、死亡との因果関係明確でない。被害者は持病により死亡した可能性がある」と主張していた。しかし、死因を検討すると、ウォッカを一気に飲ませたことは、死に影響を与えている。中程度に酔っていれば、ウォッカ一杯でも死ぬ。aは、死因を高度アルコール性ショック死としており、ウォッカを飲ませたため死んだと考えて問題はない。
・「ウォッカは200mlでは致死量ではなく、死因と言えるか微妙である」とも主張する。しかし、関係各供述を検討すると、原判決認定に誤りはない。
・「被害者が飲酒後にすぐに昏睡状態に陥ったのは不自然で、これは病によるものと考えられる」と主張。しかし、Aから酒を飲まされ、昏睡状態となった。舌がマヒしており、素直にウォッカが体内に入ったともみられる。
・「インシュリンを体内に入れての飲酒は危険であり、持病を考慮しないのは間違い」とも主張。しかし、インシュリンが死に関与していれば痙攣が起きる。大静脈瘤が破裂すれば、即死する。死亡状況とは整合しない。また、被害者に黄疸もない。容体は死ぬほど悪くなっていない。
・「覚せい剤の影響により、完全責任能力はない」と主張。利欲的な動機は了解可能であり、記憶は鮮明で意識障害もない。責任能力は認められる。
・量刑不当について、「懲役20年は不当である」と述べる。しかし、本件は利欲のために、被害者に飲酒させ、高濃度アルコール摂取により、死亡させた。動機は人倫に反しており、酌むべき事情はない。通電し、飲酒を強制し、高濃度アルコールのウォッカ瓶を口に押し込み、飲ませており、極めて悪質。被害者の死亡という結果は重大であり、被害者の無念さは想像を絶する。被告人はAから犯行を持ち掛けられ、自らの手で飲酒させている。Aに次いで重要な役割である。累犯者として服役もしている。本件の責任は重大であり、反省していること、自首成立すること、十分に考慮しても、懲役20年は重すぎて不当ではない。
・本件は、被害者から、死亡保険金による借金の清算を当初望んでいた、という。しかし、そうした思いにつけこんだことは悪質。家族からの依頼があったからと言って、斟酌するには、おのずと限度がある。
・被告人は、家族の刑期が自分よりも短いと問題視しているが、事情は異なり、特段不公平ではない。
・未決拘留日数を一切算入しなかったのは不当という。死刑になった方の未決拘留日数を算入すべきである、と主張する。しかし、それは不可能であり、可能であっても算入するかは裁量次第である。
・以上の理由から、本件控訴を棄却し、訴訟費用は被告人に負担させない。

裁判長「結論は以上です。二週間以内に、上告できる」
 被告人は、頷いた。
裁判長「弁護人とよく相談してください」
 被告人は、はい、と口を動かし、頷いた。
 こうして、控訴審判決公判は、15時51分に終了した。

 被告人は言い渡しの間、裁判長の方を向いたり、下を向いたりしていた。口は、への字に曲げられていた。閉廷後、弁護人と少し話をした後、傍聴席の方に目をやることなく退廷した。

報告者 相馬さん


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