裁判所・部 東京高等裁判所・第十一刑事部
事件番号 平成21年(う)第1403号
事件名 殺人
被告名 後藤良次
担当判事 若原正樹(裁判長)飯渕進(右陪席)足立勉(左陪席)
その他 検察官:杉本秀敏
日付 2010.2.8 内容 初公判

 死刑囚である後藤良次の控訴審初公判は、13時30分より、622号法廷で行われた。
 重大事件の控訴審であるが、傍聴券の交付は行われなかった。
 私は少し早めに法廷に行っていたが、後藤の控訴審初公判の開廷前には、他の裁判が行われており、そのまま後藤の裁判を傍聴できた。
 検察官は、黒髪の中年男性。
 若原裁判長は、後退した、柔らかい白髪の老人である。温厚そうな風貌であるが、これまで関与した判決が、その印象を裏切っている。岩森稔に逆転死刑判決を下し、小林竜司の死刑を維持したのは、この若原裁判長である。
 裁判官は、眼鏡をかけた初老の男性と、髪が後退した眼鏡の老人だった。
 弁護人は、死刑事件ではおなじみの大熊弁護士。眼鏡をかけ、太った中年男性である。髭は白髪交じりだった。もう一人も死刑事件担当の、坂根弁護士である。がっしりとした体格。両人は、水戸地裁においても、後藤の弁護に携わっていた。
 傍聴は27,8人おり、法廷は、かなり満員に近い。事件にしては傍聴人が少ないが、それでも注目されていることは確かだ。
 やがて、後藤良次が入廷する。髭は綺麗にあたっていたが、短く刈った髪、いかつい顔、眼鏡は、写真の通りである。がっしりとした体格を、黒いジャージに包んでいる。死刑囚だからか、刑務官が3人ついていた。傍聴席に少し目をやりながら、入廷する。どこかむすっとしたような表情であったが、もともとだろうか。開廷前、被告席に座ってからは、職員に促されて、書類を書いていた。その際に、眼鏡を外している。「いや、何て書いたらいいですか」と、女性職員に尋ねていた。しばらくして、「それで結構です」と言われ、後藤は職員に書類を渡した。この間、手錠ははめられたままであり、死刑囚であるがゆえに、特別に警戒されていることが見て取れた。
 その後、裁判長たちが入廷し、手錠が外される。後藤は、弁護人二人に軽く会釈した。大熊弁護士も、会釈を返す。
 開廷は13時30分からの予定であったが、少し遅れ、13時35分からとなった。
そして、被告席に座ったまま人定質問が行われた。通常は証言台の前に立たせて行われるもので、極めて異例である。この点からも、裁判所の警戒が伝わってきた。

裁判長「後藤さんでいいですか」
被告人「はい」
裁判長「本籍はここに書いた通り」
後藤「はい」
裁判長「霜降町というんですか」
後藤「はい」
裁判長「住所は、小菅」
被告人「はい」
裁判長「えー、拘置所ですね。捕まる前は、不定ということで」
被告人「はい」
 裁判長の口調は、流れるような早口だった。「死刑囚」という身分に触れたくないかのようだ。一瞬で人定質問は終わり、控訴趣意についてのやり取りに移る。
裁判長「弁護人の控訴趣意は、事実誤認、量刑不当の主張」
弁護人「はい、その通りです」
裁判長「検察官は」
検察官「理由ないものと考えます」
裁判長「検察官から、共犯の報告書と判決書、判決書ない人はその書類。3点の書証が請求されている。弁護人からは、被告人質問、判決後の心境について請求」
弁護人「はい」
裁判長「書証については」
弁護人「不同意で」
裁判長「弁護人請求の被告人質問については」
検察官「異議ございません」
裁判長「じゃあ、どっちも採用します。被告人質問をどうぞ。後ろから聞きますから」
 被告人質問は、通常は証言台の前に立って行われるが、被告席に座ったまま行われた。裁判官の言葉通り、被告人の後ろの席から、弁護人が質問を行う格好になった。

−大熊弁護士の被告人質問−
弁護人「一審判決は」
被告人「はい」
弁護人「懲役20年の判決うけましたね」
被告人「はい」
弁護人「控訴審行われているが」
被告人「はい」
弁護人「あなたの方から控訴した」
被告人「はい」
弁護人「納得が行かない点は何か。もう一度、高裁でやってほしいとかあるんでしょうか」
被告人「事実私がかかわった事件ですから、まあ、自分が、あの・・・、上申書を提出して、あのー、公になったわけですけど、もう少し、刑の面で、・・・(聞き取れず)していただきたいなという面もありますし、また、私自身も、被害者の方に対して、反省していますし」
 一審からはっきりとした声で受け応えをしていたが、この時だけは声が小さくなっていた。気まずさか、恥ずかしさを感じたのだろうか。
弁護人「一審判決ですが」
被告人「はい」
弁護人「一審裁判所は、事実関係は、あなたの主張に沿った認定をしている」
被告人「はい」
弁護人「事件内容、状況等について、特別あなたの方で不満はない」
被告人「はい」
弁護人「責任能力について一審で争ったが、それについて思うことは」
被告人「まあ、当時、覚せい剤を使用したことが、当時、かなりの量だったので、まあ、何がいいとか悪いとかというよりも、ある程度、判断能力が自分にも欠けていたんじゃないかなあということがあるので、そういう所を、もうちょっと見ていただきたいなと思います」
弁護人「法的にどう影響あるか、高裁でもう一度審理してほしい、ということですか」
被告人「はい」
弁護人「一審の刑、多少不満があるけども」
被告人「はい」
弁護人「どういったところ」
被告人「計画には乗って、実行しました。けど、その、約束された金銭に対しては、受け取っておりませんので。また、被害者の家族からの依頼を、私が受けたわけです」
弁護人「家族も、刑を受けている」
被告人「はい」
弁護人「有罪になっているが、皆さん貴方よりも、刑が若干軽い」
被告人「はい」
弁護人「そういうこと」
被告人「はい」
弁護人「多少不満残っている」
被告人「それは、あります」
弁護人「あなたの方から、反省していると言っていた」
被告人「はい」
弁護人「一審判決後、今日までの間、どういうことを考えて過ごしていますか」
被告人「12日…13日が、まあ、亡くなった日なんですけど、その日は、大体まあ、月命日にしても、命日にしても、手を合わせて、あの、冥福を祈っております、はい」
弁護人「別の事件の被害者もいる」
被告人「はい、います」
弁護人「その人たちにも、手を合わせている」
被告人「はい、はい、そうです」
弁護人「そういった被害者の方々のために、祈っているということでよろしい」
被告人「はい」
弁護人「今、あなたの方ではね、面会に来てくれる人は、誰かいるんでしょうか」
被告人「弁護士の先生・・・と、あと、許可になっている人が数人いますけど、今年になってからは一回だけです」
弁護人「どんな人が来てくれますか」
被告人「まあ、知人ですね、私の」
弁護人「まあ、少ないけど、支えてくれる人がいるということですね」
被告人「はい」
やや被せるように答えた。
弁護人「他にあなたの方でね」
被告人「はい」
弁護人「何かしてることとか、考えたりすることは」
被告人「ま、私なりに、まあ、それなりの・・・まあ、モノには残してないですけれど、まあ、一応、あの、今、自分としては、ちょっと、全然知らない宗派なんですけど、天理教などをちょっと覚えております」
弁護人「宗教、ですね」
被告人「はい」
弁護人「そういったもの、あなたの方ではね」
被告人「はい」
弁護人「関心もってると」
被告人「はい」
弁護人「いうことでよろしい」
被告人「はい」
弁護人「どうして関心を持った」
被告人「いや、んー・・・たまたま本を見て、その・・・、本を見たってこともあるし、私、娑婆にいた時に、私、天理教しかあんまり知らなかったものですから、それで、あの、一応、確定すると、宗教の先生と面接ができるんですけども、それで、天理教を希望して、あの、それで許可になりましたので、月に一度。今のとこは世間話みたいなものですけど、少しずつ本なんかも借りまして、やっておりますけども」
弁護人「あなたは今後、冥福祈りながらね、罪を償いたいということでよろしいですか」
被告人「はい」
弁護人「今回の共犯者のA」
被告人「はい」
弁護人「控訴審でも一審と同じ無期懲役出ている。裁判所で今調べられたが、どう思っていますか」
被告人「ま、A自身はA自身で償わなきゃなりませんけど、私は私なりに反省をして、あの、亡くなった方に対しての、まあ、自分のできる範囲の、あの、反省をしていきたいと思ってます」
弁護人「終わります」
検察官、裁判官からの被告人質問は、行われなかった。
裁判長「判決は、3月17日、水曜日、3時30分」
大熊弁護士「お受けします」
 こうして、13時47分に後藤の控訴審は結審し、控訴審初公判が終わった。通常の有期懲役事件の控訴審と何ら変わることのない進行であり、少し拍子抜けした。

 後藤は質問に答える間、冷静な受け応えに終始した。閉廷後は、弁護人に少し話しかけ、傍聴席の方に目をやることなく退廷した。

報告者 相馬さん


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