裁判所・部 東京高等裁判所・第十二刑事部
事件番号 平成21年(う)第1164号
事件名 傷害致死
被告名
担当判事 長岡哲次(裁判長)守下実(右陪席)松井芳明(左陪席)
その他 書記官:増田孝一
検察官:大西平泰
日付 2009.9.16 内容 初公判

 被告人は上下黒いスエットの髪を束ねた肥満気味の女性で、傍聴席にいた黒い服の中年女性2名は午前のA被告の公判にも出席していた。
 刑事裁判でよく顔を見る弁護人は幼児虐待の判例やA、X1の証人、嘆願書などを色々と請求したが、「判決後の情状のみしかるべく」とする検察官の不同意を受けて幼児虐待の判例と一審判決後の情状に限った被告人質問のみ採用、それ以外は却下された。

裁判長「それでは被告人、証言台の前に座ってください」
弁護人「今日追加した話で、あなたが再婚したという話をお聞かせください。再婚したというのは第一審判決後のことですか」
被告人「はい」
弁護人「あなたはすでに拘置所にいるわけだけど、どんな感じで結婚の手続きをしたのですか」
被告人「待っていてくれるというように言ってくれてそれを信じました」
弁護人「再婚相手が何度も面会に来て拘置所のほうで話をして、婚姻届に判を押してあなたに託したわけですか」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんとはもともと知り合いだったのですか」
被告人「事件になる1〜2年くらい前からの知り合いです」
弁護人「言いにくいけど男と女の関係はあったのですか」
被告人「事件前は一切ないです」
弁護人「事件の起きたあとで親しくなったというわけですか」
被告人「はい」
弁護人「どういう経緯で親しくなったのですか」
被告人「友達がクスリの事件で捕まって自分のなかで出来る限り手助けしているときに、その人も友達が捕まったことを心配していて連絡を取った」
弁護人「あなたは在宅起訴後も家にいましたからね」
被告人「はい」
弁護人「結婚は決意されたのですか」
被告人「向こうが感情的になっていて、待っているからと勝手に出しちゃいました」
弁護人「婚姻届にサインをしているので出すなら出して構わないと」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんは何をしている方ですか」
被告人「鉄筋工をしていて今山梨のほうに出張しています。36歳です」
弁護人「Y1さんと出所したあとちゃんと暮らしていきたいと思っていますか」
被告人「はい」
弁護人「Y1さんは信用できる人ですか」
被告人「はい」
弁護人「もっとはっきり言えば昨日までそのことは分からなかったんだけど、私にも言わなかったので、それを仰られなかったのはなぜですか」
被告人「児童相談所の方との約束がありました」
弁護人「どんな約束ですか」
被告人「次に付き合う人がいればよく考えてから、という約束です。あまり言いたくなかったです」
弁護人「まあ今回戸籍を証拠として出されたので仕方ないと」
被告人「はい」
弁護人「可能な限りY1さんにも証人として出廷して欲しかったんだけどね」
被告人「前にも言いましたが山梨に出張しているので、今すぐ連絡を取るのは難しいと思います」
弁護人「今度こそ子どもを大切にしようという2人の手紙があるのですか」
被告人「あります」
弁護人「それを判決の前に申請しようと思っています。一審では傷害致死で有期刑ということで責任があるという判断だったんだけど納得されましたか」
被告人「有罪の判決であるのは覚悟していましたが、まさか9年、まさか実刑になるとは思わなかったです」
弁護人「一審から今日まで大分時間あるけど、懲役9年というのに納得しようとは思いましたか」
被告人「それなりに考えてきました」
 被告人は事件の下りになると徐々に涙声になっていった。
弁護人「子どもが亡くなったことは責任を感じていますか」
被告人「体を張って自分が犠牲になっても守らなければならなかったと思います」
弁護人「あなたは形だけにしろ有形力を振るっている。それについてはどう思っていますか」
被告人「aに、自分の娘に手を上げたことはしちゃいけなかったと思っています」
弁護人「いくら相手から言われても暴力を振るわれても止めればよかったと。Aに逆らえなかったと言っていますが、どうすればAの指図に抵抗できた、こうすれば良かったとかありますか」
被告人「いろいろ頭のなかで娘が殴られているときとか考えて・・・相手の子ども2人抱えて外に飛び出していればと思います」
弁護人「弱かったのは認めますか」
被告人「はい」
弁護人「懲役9年は重過ぎると」
被告人「はい」
弁護人「今何と思っていますか」
被告人「子どもが3歳と0歳という幼い時期で大事なときに一緒にいてやれないのが悔しいです」
弁護人「Aも懲役9年ということでそれも納得していますか」
被告人「それも納得していません。私は形ばかりの上で、死なせるような暴力は振るっていないのですが、Aは何度も何度も殴ったり蹴ったり酷いことばかりしてきました」
弁護人「Aとは第一審のときやりとりをしていたそうなんですけど、控訴したことについてどう思いますか」
被告人「控訴したのは本人の意思だから問題ないですけど、できることなら娘に対して謝ってほしい、返して、と言いたいです」
弁護人「一審のときのやりとりとAが控訴したことは食い違いがあるのですか」
被告人「子どものこともあるんですけど、一審のときの相手の弁護士さんに手紙を出してどういう理由で控訴するのか聞いたところ、9年というのは本来は求刑の7〜8割が妥当ということなので、それで納得いかないから控訴するんだとのことでした。当時は俺は長期覚悟してるから、と言っていました」
弁護人「その長期覚悟してるっていうのはどんな求刑でも受けるということですね。それはいつ言ったのですか」
被告人「一審が始まる前に相手の弁護士を通じて長期覚悟しているって聞きました」
弁護人「それを聞いてどう思いましたか」
被告人「長期覚悟してるって言うんならそのまま受けてほしい」
弁護人「弁護士にどんな刑でも服す覚悟・・」
 ここで裁判長が口を挟んで質問を変える。
弁護人「証拠採用はされなかったけど親族の方が書いた嘆願書を読んでどう思いますか」
被告人「信じてくれる人、子どものことを思ってくれる人のもとに早く帰りたいと思いました。お母さんやお祖母ちゃんに、今までも色々やってきたのに、それでも信じて嘆願書を書いてくれてありがとうと言いたいです。その人達のところに一日でも早く帰りたいと思いました」
弁護人「本当にどんなことでも耳を傾けると、期待に応えないといけないと決意しているのですか」
被告人「人として恥ずかしくないような子育てをしたいです」
弁護人「今度一緒に暮らす人がしつけと称して暴行を振るっていたらどうしますか」
被告人「すぐにやめようと言います」
弁護人「子どもを守る決意はありますか」
被告人「はい」
弁護人「終わります」
裁判長「検察官何かありますか」
検察官「結婚のことについて聞かれたけどね、施設の人に付き合う人はよく人を見なさいよと言われたようですが、そこをどういうふうに考えていますか」
被告人「自分が留置場にいるときに婚姻届を出したのですが、父や母だけでなく子どものことも、自分だけでなく分かってくれるので安心してほしいと言われました」
 その後左陪席の主任からいくつかの質問がなされた模様。
右陪席「じゃあ私からも、Y1さん、この人なら大丈夫だと言うのならただちに児童相談所に言って隠す必要あるのですか」
被告人「やはり事件後すぐあとのことなので」
右陪席「でもこの人なら大丈夫と言えばいいじゃん。本当に子どものことを考えていましたか。子どもがお腹痛くて寝てたんでしょ、何で病院に連れていかないの?ほとんど食事も食べてないで、3歳ですよ、普通病院に連れていくでしょ、守りたかったって言うのなら」
被告人「これまでも寝たら治った」
右陪席「ちょっと経ったら大丈夫だと思ったわけ?根拠は?」
被告人「ないです」
右陪席「救急隊員の人に最初子どもについて何と言いましたか」
被告人「階段から落ちたと言いました」
右陪席「それ嘘だよね?本当のこと言わないと彼女の状態良くならないでしょ?それでも守りたかったと言えるのですか」
被告人「・・・」

 質問が終わると裁判長は控訴審判決の期日を10月8日に指定して閉廷した。

報告者 insectさん


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