裁判所・部 東京高等裁判所・第十一刑事部
事件番号 平成21年(う)第939号
事件名 詐欺、住居侵入、強盗殺人
被告名
担当判事 若原正樹(裁判長)飯渕進(右陪席)河畑勇(左陪席)
その他 書記官:西村
検察官:杉本秀敏
日付 2009.9.16 内容 判決

 被告人は上下白いスポーツウェアを着た、色白で髪を短く刈った職人風の顔つきがややいかつい男性だった。
 裁判長「それでは大平さんね、証言台の前に立ってください。控訴審の判決を言い渡します」

−主文−
 本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数のうち100日をその刑に算入する。

−理由−
 ちょっと長くなるのでそこに座っていてください。
 理由の要旨を告げます。本件控訴の趣意は無期懲役に処した原判決の刑は重過ぎて不当であり酌量減刑のうえ有期懲役刑を選択するべきだというもので以下検討します。
 まず平成19年6月3日、茨城県のガソリンスタンドでその代金を支払う意思もないのに40?(5240円)の給油をさせた詐欺の事案、当時44歳の女性から金員を強取しようと企て、平成20年10月16日茨城県水戸市内のその家の玄関ドアから侵入し、午前9時30分頃同人の肩を両手で突き飛ばして転倒させ、馬乗りになって頸部を両手で絞め付けて、扼頸による窒息により死亡させたうえ現金5800円や財布(物品時価2000円)を窃取した住居侵入、強盗殺人の事案です。
 最も責任が重い強盗殺人の犯情ですが、被告人は車上生活を送っていたものの、手足の関節を曲げることが不自由になり車上生活もしづらくなったことから将来に絶望し、ビジネスホテルに泊まる金欲しさに起こしたもので、人命を軽視した利欲的で極めて身勝手な犯行に酌量の余地はありません。被告人が劣悪な環境に置かれていたことは犯行の動機として酌量されるものでなく、疲弊させられていたことと強盗殺人という大罪に手を染めることの間には隔たりがある。窃盗を自白するなど真摯は反省の取り組みは斟酌されるべきではあるが動機に情状酌量の余地はない。被告人は仕事で何度も被害者宅を訪れ夫が単身赴任でいないことを知っており、仕事を装って侵入し被害者を扼殺して逃げる計画を事件の3日前から考えつき、一旦逡巡したものの結局翌週まで待つことなく、計画的な犯行に及んでいる。犯行態様も両手で被害者を突き飛ばし、仰向けになったところに馬乗りになり絞め続けたもので、両頬を手拳で殴打して死亡の事実を念入りに確認したり、遺体に猥褻な行為をして辱めを与えていることは許し難く、刑責は非常に重大である。被害者の味わった苦痛や無念は計り知れないもので、被害者は被告人の金の無心にも応じていたのであり、何ら落度はない。被害者の夫やその娘は被告人が極刑になってもなお癒されない心情を話している。そうであるのに被告人から見るべき慰謝の措置はなく、給油詐欺の被害回復もなされておらず刑責は極めて重大であり、本件犯行を認めて反省していること、母親が原審で情状証人として出廷したこと、これまで前科がないことを考慮しても本件犯行の重大性からして酌量減刑すべき情状とは言えず、無期懲役に処した原判決が重過ぎて不当であるとは考えられないということです。

裁判長「あなたとお母さんが社会でもう一度会いたいというのは人の心情として理解できるがそういうわけにもいかない。被害者の冥福を祈って、これまで被害者の気持ちを考えたことはあるだろうけど、その気持ちで残りの人生を送ってください」

 このあと上告の説明を手短かにして被告人は「はい」と頷き閉廷したが、開廷するとき「おっす!」などと被告に言っていた太った年寄りの弁護人は「じゃあ元気でね!」と素っ頓狂な声を上げていた。記者の一人のぶら下がり取材には「最近はどんどん刑が重くなっているからね・・」と答えていた。

報告者 insectさん


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