裁判所・部 東京高等裁判所・第五刑事部
事件番号 平成19年(う)第2636号
事件名 監禁致傷(平成17年6月22日公訴事実につき変更後の訴因:監禁致傷、傷害)、監禁(変更後の訴因:監禁致傷)
被告名
担当判事 中山隆夫(裁判長)衣笠和彦(右陪席)瀧岡俊文(左陪席)
その他 書記官:山田晶
日付 2009.7.10 内容 初公判

 東京高裁で一番大きな法廷が使用され、傍聴券も交付された。
 被告人は一審と同じ白いブライダルスーツのような格好であったが、髪型はスポーツ刈りにしていてギャップがあった。痩せていて上着の袖が長く、被告人席の前にある机でノートを取っていた。まっすぐにお辞儀をするなど礼儀正しい感じがするが、声は小さい。
 弁護人は男女複数名で裁判長はとても丁寧な審理をする判事だった。
 なお被告人は一審判決後、前刑の執行猶予を取り消されている。

裁判長「それでは開廷します。本人かどうか確認しますのでお名前は」
被告人「Aです」
裁判長「生年月日は」
被告人「昭和54年11月28日です」
裁判長「住居不定無職ということでいいですか」
被告人「東京都葛飾区小菅3−4−11・・・」
裁判長「それは今いる拘置所ということ?」
被告人「いいえ、東京都葛飾区小菅3−4−11−202号室」
裁判長「体調が悪いと聞いていますが大丈夫ですね?」
被告人「はい」
裁判長「それでは元の席に戻ってください」
被告人「はい」
 被告人はお辞儀をして被告人席に戻る。
裁判長「審理をするに当たり、検察側から被害者特定事項秘匿の申し出が出ております。弁護人ご意見は」
弁護人「その必要はないと思います」
裁判長「申し出を認めます。原判決のときもイニシャルで取り扱っているので、それぞれA、T、I、M、Fと定めます」
裁判長「弁護人の控訴の趣意は、平成20年3月30日付けの控訴趣意書、同年5月23日の控訴趣意補充書、同年10月27日の控訴趣意補充書、平成21年7月2日の控訴趣意補充書の通りでいいですね」
弁護人「はい」
裁判長「立って陳述してくださいね」
弁護人「はい」
裁判長「補充書の内容としては職権調査を促す趣旨と聞いていいですか」
弁護人「はい」
裁判長「被害者4人の証人尋問と被告人質問、陳述書の事実調べと、請求書2通、MD翻訳書6通、補充陳述書6通、医師Y1の意見書を、補充書の立証趣旨として請求されるということで」
弁護人「はい」
裁判長「検察官ご意見は」
検察官「証人尋問は必要性なし、被告人質問は然るべく、MD翻訳書は同意するが信用性を争う、意見書は不同意、書証についてもいずれも必要なしと思料します」
裁判長「被告人ね、内容はよく分かっていると思うけど、PTSDの事実などをいずれも争うということですが、検察官は原判決の通りであると主張していると、こういうことです」
被告人「はい」
 被害者がPTSDに罹患しているとは考えられないというY1医師の意見書につき、検察側から不同意とされたが、Y1医師の尋問請求は確定でないと弁護人は述べた。
弁護人「法廷に来ることにおいては、一人で医師をやっているので和歌山から来るのは難しいということです」
裁判長「早急にY1医師に釈明してください、このままでは証拠になりませんから。検察官もY3医師がどういう意見なのかを明らかにしてください」
 裁判長は次回は医師の鑑定についての整理をしたい、実質的な審理はそれからだと述べた。
裁判長「それでは今回は・・・あっ控訴趣意書の読み上げ(笑)、概要だけ」

−弁護人の控訴趣意−
 概要だけ述べさせていただきます。
 監禁皇子、これが彼に付けられたニックネームです。マスコミにより事件の内容が大きく報道され、女性を迫害する者として社会的な非難を浴びました。被害者を鑑定したY2医師やY3医師は女性の権利や保護を訴える運動の先頭に立っている方であり、本件は格好の材料となりました。そうした運動論によって現実にあった出来事が歪められていき、一審の裁判官もその歪みを見抜けなかったのです。彼は無罪です。一審には重大な事実誤認があります。Aさん、Tさん、Iさん、Mさん、Fさん、いずれも彼女たちの意思に反して監禁した事実はありません。彼女たちは自らの意思によってAさんと関係を持ったのです。脅されて関係を持ったとして過ちを犯したのはAさんだけにして、彼女たちの過ちを無視してAさんだけのせいにして終わらせようとしています。
 第二、原審の判決には法令適用の誤りがあること。原審は物理的に逃走は可能だったとしながらも監禁や暴行により逃げられなかったとしています。このような事実関係でPTSDを認定しているが、PTSDは評価的な概念で、刑法をいたずらに歪める危険がある。
 第三、訴訟手続きの法令違反があること。原審は排除すべき証拠を採用しています。誤った供述調書を採用して原審は認定しています。詳細は控訴趣意書の通りです。
 Aさんは監禁皇子ではありません。

−対する検察官の答弁−
 弁護人の事実誤認の主張につき被害者の証言は信用できないとするものですが、被害者は積極的に本件犯行について語っており、それぞれ何の面識もない被害者が共通の証言をしていることからその信用性を高めるもので、これらの事実に誤りはありません。
 またPTSDにつき診断結果に疑問の余地がある、傷害概念に含めるべきでないとするものですが、権威ある診断基準を設けております。
 監禁について脱出困難な状況ではなかったとするものも、監禁行為は物理的・有形的なものだけではなく、心理的・無形的なものまであり監禁は成立します。
 法令違反について、採用された証拠は精査されたものでなく違法な収集証拠であるとするものですが、被害者が物品を取り出すつもりであったことに捜査関係者の関与はありません、また取調官に押し付けられたとの所論も、被告人が独自の表現を用いて自己の犯行を正当化する箇所がありそのような事実はありません。
 最後に量刑不当について、本件は10〜20歳代の女性4名に対して暴行・脅迫を加えて3ヶ月以上も監禁した執拗かつ悪質な虐待で、被害者はPTSDにかかり重篤な症状を得ている。保護観察付執行猶予中の犯行であること、不合理な弁解を重ねて反省がなく再犯の可能性が強いことを考慮すると懲役14年に処した原判決が重過ぎて不当とは言えず本件控訴は速やかに棄却されるべきです。

 その後裁判長は次回期日で証人の尋問を確定させることとして8月26日11時からに定めて閉廷した。

 傍聴人が被告人を残して先に退廷させられた。

報告者 insectさん


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