裁判所・部 東京高等裁判所・第十二刑事部
事件番号 平成20年(う)第2050号
事件名 詐欺
被告名 A2
担当判事 長岡哲次(裁判長)姉川博之(右陪席)片山隆夫(左陪席)
その他 書記官:増田孝一
検察官:廣瀬公治
日付 2008.11.25 内容 判決

 被告人はどこにでもいるような丸刈りで厚い眼鏡をかけた大人しそうな中肉中背の男性で、グレーのスエットを着用。

裁判長「あなたに対する詐欺の事件の控訴審の判決を言い渡します」

−主文−
 本件控訴を棄却する。当審における未決拘留日数のうち50日をその刑に算入する。

−理由−
 理由の要旨を告げますので元の席に座ってください。控訴の趣意は控訴趣意書の通りでこれを引用する。

1.事実誤認の主張について
 原判決の事実誤認の論旨についてだが、原判決は犯罪事実として被告人はA1(東京高裁に控訴)らと共謀のうえ平成20年2月8日千葉県柏市のa方に電話して真実は同人の息子が保証債務を負った事実も金員を支払う義務もないのにこれがあるように装い「債務者が逃げた。300万円必要。山本を取りに行かせるから」と言って同人方に赴き150万円を交付させて詐取したことを認定している。被告人はこれについて井上と名乗る人物に言われて封筒を受け取ったに過ぎず詐欺罪の共同正犯になく無罪であり判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認が存するという。
 ところが原判決が詐欺の共同正犯を認めた事実認定の補足説明の項について当裁判所も正当として是認できる。被告人はA1をリーダーとするオレオレ詐欺グループが詐欺を実行して伊藤から150万円を受け取るために被告人に依頼して被告人はその依頼に基づいて封筒を受け取った。
 犯行に至る経緯として被告人は平成20年2月5日に「闇の職業安定所」というサイトに「金に困ってます。何でもやります」と書き込み、出し子はノーリスクに近いので1万円、運びは7〜8万円でリスク回避は完璧と言われて運びを選んだ。「闇の職業安定所」では違法行為の斡旋が行われていて出し子はATMを操作して現金を引き出す役、運びは事前の接触なく指定場所で持参した現金を受け取る役のことだった。翌6日運びの仕事を選んだ被告人は運転中も携帯電話で話すことが可能になるイヤホンマイクを購入し、柏市のaの表札を確認して待機し、ただちに電話しなくてA1グループの者から怒られたこと、山本という偽名をもらったことを述べている。「運び」自体もともと違法行為で出し子と並列的に運びの仕事も「ノーリスク」とあるが正当な請負仕事ではなく、運搬の対象は現金を含むものと容易に理解できる。不正な手段によって現金を交付させ、被害者が不正に気づく前にやっていたと推察される。「相手は普通のおばさんで、これはオレオレ詐欺で騙し取ろうしているお金だと分かった」との捜査段階の供述は十分信用できる。被告人は仕事内容の違法性をよく理解し、不動産関係のものだと思っていた、封筒に包まれていて現金は見えなかったというが、運びの対象に現金以外のものだったとする証明はできていない。
 以上のことから原判決が被告人がA1グループの一員として加わり、実行行為の一部を担い詐欺の共同正犯に当たるとした認定した事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

2.量刑不当の主張について
 論旨は要するに被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるという。
 ここで原審の記録や当審での事実取り調べで検討するに、本件は被告人がA1らと共謀して平成20年2月6日から4月12日までの間に63歳から80歳までの計8名の者に対して、いわゆるオレオレ詐欺を行い、計1520万円を詐取したものである。2ヶ月あまりにわたって繰り返し敢行された近親者の情につけこんだ甚だ卑劣な犯行で、入手した名簿に騙し役が無差別に電話をかけて、受け取り役が素早く現金を受け取るために直接に仲介者を介在させることなく犯行に及んだ。犯行は広域に及び被害額も高額で被告人は6件について極めて重要な役割を果たし、残る2件についても付き添い役等の重要な役割を果たしており犯情は悪く刑責は重い。
 一方、騙し取って未遂に終わった80万円は還付されていること、被告人の両親が60万円を6名の被害者に対してそれぞれ10万円ずつ被害弁償をして、うち5名から宥恕されていること、反省の弁を述べていること、前科がないこと、父親が今度も監督していくこと、共犯者が(3)の事件の被害者に相当額の被害弁償をしていることなどを考慮しても原判決の刑は相当で重過ぎて不当とは言えない。

裁判長「それでは被告人、内容は分かりましたね」
被告人「はい」

 被告人は判決が読み上げられている間気落ちした表情になり、このあと上告の説明をして閉廷となった。

報告者 insectさん


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