裁判所・部 東京高等裁判所・第三刑事部
事件番号 平成18年(う)第1583号
事件名 強姦未遂
被告名 A、B、C、D
担当判事 中川武隆(裁判長)後藤眞知子(右陪席)小川賢司(左陪席)
その他 書記官:松山智治
検察官:戸澤和彦
日付 2007.5.21 内容 弁論

 5月21日、冤罪の可能性が疑われている御殿場事件の弁論が、東京高裁(中川武隆裁判長)で開かれた。傍聴券抽選になり38人の定員に対し、101人が集まり倍率は3倍近くに達した。
 被告人の知人や兄弟など、御殿場から来たであろう若者や「救う会」の支援者などが列を作った。
 718法廷では傍聴人が入る前に、法廷の準備が整えられ、被告人4名や大勢の弁護人も先に入廷、職員の指示に従って傍聴人も続々入廷し、すぐに満席になった。最前列は記者や被告人の家族が陣取っていた。
 被告人4名はダークスーツ姿でいかにも元不良といった雰囲気で、時折傍聴席に目を遣っていた。審理の最中はハンカチで額を拭ったり、前屈みになっていたり、腕組をして傍聴席を見渡す仕草をそれぞれしていた。やや落ち着かない様子だった。
 冒頭、三者間の短いやりとりがあり、共犯者の審判開始決定と現時点での心情を綴った陳述書が証拠として取り調べられることになった。

裁判長「以上の事実取り調べを踏まえて、本日は弁護人の弁論を伺うことにします」
 そこで1人の中年の弁護人が裁判所に弁論要旨を送っているはずだが別紙を追加してほしいと発言し、裁判長たちの手元にはまだもらっていないとのやりとりがあった。すぐに別紙は送られるという。そして御殿場事件の主任弁護人である眼鏡をかけた白髪の弁護士が立ち上がり「では、私のほうから」と弁論を始めた。弁論の冊子ははたから見ただけでもかなりの枚数であった。

−弁護人による御殿場事件の弁論−
 要点のみを読みあげます。総論であるが、弁護人は被告人らが本件犯行に加担した事実はなく、本件は犯罪事実そのものが強く疑われる事案であることを詳細に論じた。
 控訴審で取調べられた証拠も弁護人の主張を裏付けるものだと考えられ、被告人らが犯行に加担した事実はない。
 まずaの供述に信用性はないこと。aは確定的・故意に嘘をついており、それを裏付ける客観的証拠はほとんどない。また降雨や張られていたロープの件などからも信用性は全くない。次に被告人らの共犯者の供述も、合理的な理由なく変遷しており、相互に矛盾している。客観的証拠の存在もなく、捜査員の誘導が認められる。またその自白を詳細に検討してみても、動機は不明である。a供述に信用性がないことはすでに述べているが、aは公判廷においても嘘を重ね、その供述は具体的・迫真性を全く欠いている。事実を体現しなくても、誰でも供述できる内容で、変遷後の供述も客観的事実と整合しない。その余は控訴趣意書をご覧いただきたい。
 被告側弁護人は客観的事実としての「生理用ナプキン」「ひねもす亭のロープ」「当日の降雨状況」で自白調書の矛盾を突いた。

○生理用ナプキン
 aによると、9/9から生理が始まり、「9/16は生理の終わり頃だったので、事件当時は生理中と言うしかなかった」と述べている。ところが通常生理期間は4日程度であり、このように長く続くのは不自然だ。aはY2と生理中にもかかわらず車内でセックスしており、そのときの出血や生理用ナプキンの供述がない。aは生理の状況について生理用ナプキンが下にあったと述べているが、Y2とのセックスでは出てこない。一週間も続くaの生理周期は異常だ。またY2と初めてセックスしたというが、真実的な迷いがない。そもそもaは9/16に生理中だったり、生理用ナプキンをつけていたということはなく、男10人に乱暴されたり、生理用ナプキンの話も全て作り話である。これは帰宅が遅くなったことへの母親への言い訳のため作られたものであり、そのためには未遂でなく既遂でならなければならなかった。そこで15歳の女の子が考えたのが「生理中」ということだった。
 またaは頭のなかで整合性を考えて、生理用織物に変えた。9/9に生理用ナプキンを装着していたというのは、aの話だけである。aは事件のとき「生理用ナプキンの端が見えたはずだ」と言うが、ショーツとガードルをつけたなかで見えるのだろうか?しかも当時は暗闇である。セックスをしたくてたまらない10名の若者が自らの意思で、胸を触るだけでセックスを行わないのは不自然だ。「こいつ生理になってるぜ」と言った発言主も全く不明である。ガードルやショーツについても、客観的な証拠がない。おおよそ虚偽の事実であるのに、信用性が検討されないまま流用されてしまった。

○御殿場駅周辺の降雨状況
 9/9に事件現場の中央公園を含む御殿場周辺では、長時間雨が降っており、芝生はすっかり湿っていたことが分かる。だが傘の使用や湿っていた芝生について、aの供述がない。もしaが供述するように、8:30に御殿場に着いていたら、3ミリもの雨があった。ところが変遷前も変遷後も雨に関する具体的な供述がない。不自然なことに、aは折り畳み傘を持っていたにもかかわらず、傘の記述がない。aは「帰りに開いている文房具屋に行こうかと思った」「親に車で迎えに来なくていいと思った」などと供述している。現実はaはそのとき遠く離れた町田で買い物をしていた。なお降雨についてはとってつけたように「私の記憶では雨が降っていたように思うが、体が濡れてしまうまでは分からない」と話している。仮に雨が降っていたという供述が事実だとしても、親の車の迎えを断ったり、モリヤ(文房具屋の名前か地名)まで買い物に行くのは不自然だ。当時の降雨はまさに「体が濡れてしまう」雨なのです。つまりaの供述は客観的事実と整合しない。お母さんに迎えに来てもらおうかなと思ったところ、不良グループの1人であるEに「覚えてる?」と声を掛けられたという。

○ひねもす亭のロープ
 aによると、Eに手を引っ張られ、ロープの張ってあるところまで連れて行かれた。自分のスポーツバッグは誰かが持っていた。「やっちまおうぜ!」という掛け声がしたという。だが9/9には芝生は湿っており、強姦するなら屋根のあるひねもす亭で強姦するはずだ。そのためひねもす亭の横の芝生で強姦した理由を、「ロープが張ってあったから入れなかった」と供述せざるを得なかった。ところがひねもす亭にロープが張られたのは9/14であり、犯行日の9/9にはロープは張られていない。
 共犯者のIやGは、犯行日にはひねもす亭にロープが張られていたと供述しているが、捜査機関が何とか事件を創作しようとしたもので、虚偽の供述である。ロープが張られていないのに、犯行現場ががなぜ横の芝生なのかということを捜査機関は杜撰な捜査が判明するため説明しようとしない。

○共犯者の供述の信用性
 aは男性と夜遅くまで会っていたので母親に嘘をつかないといけないと考え、強姦されたことにした。aによると、aの母親は男女関係には厳しく、普段は仲良く話し合ったりしたが、男女関係のことになると耳目が三角になるほどだった。帰りが遅くなった言い訳として嘘をついたが、そのときはお母さんに叱られないようにするにはどうすればいいかばかりを考え、警察が調べればすぐに分かることなのにそこまでは考えていなかった。aはかつて両腕を鷲掴みにされて、アザが出ているという暴行を受けており、それは事件当時の写真でも残っている。よってお母さんには本当のことを言えない、作り話をするしかなかった。
 またEの名前を挙げた理由として、「Eには悪いが、馬鹿だから高校に行っておらず、私より馬鹿なので追及されたらゴチャゴチャ言わずに認めるのではないか。Eとは話したこともないが、警察も信用するだろう」と考えた。
 共犯者10名はEやD、Gなど品行方正とは言い難い少年たちであったが、aはE以外の面識のある4人の名前も挙げないでいた。犯行時には犯人の服装を一人一人見ていたというのに不自然である。つまりEのみ犯人として挙げた理由は明白で、これは作り話で、Gたちが捕まるとは考えてもいなかったのである。aの供述には信用性がなく、共犯者の自白調書も捜査員の誘導による虚偽供述であり、これには秘密の暴露も見られない。
 また揃いも揃って9/16を犯行日とするものだ。これについては極めて示唆に富んでいる最高裁の判例もある。(弁護人はここで最高裁の判例を読み上げた) Eは「先輩から携帯で女を用意しろと言われた」と供述したが、それがどの先輩なのか、時間帯はいつなのかという核心部分につき著しい変遷をしている。これは極めて重要であるから、変遷自体が不自然・不合理である。ちなみに先輩4名のいずれもが携帯で電話していないし、Cに至っては番号が登録すらされていなかった。
 aのメールの件であるが、Fの供述によると、Eがaの片手を掴んで強引に歩いていたので、そのためaを挟むようにしていたという。ところが当時aはX1と他愛のないメールを送っていた。このメールを原審は子葉枝葉に属する部分などとしたが、消して枝葉の部分であるはずがない。Fの供述にはaがメールしていたことが書かれていない。
 また「Eから電話があった」との供述も、Eは電話をしていないし、通話記録もない。次に前田の供述も、「公園でジュースを買いに自動販売機に行きました。そのときにGもいたかもしれません」というのが、「僕1人で行ったのか、誰がついてきたのかも記憶にない」と都合の良いように後退させており、信用性を欠く。
 次にIの員面調書では「僕は後をついていきながら、やるとしたら小屋しかないな。ところがロープが張ってあって、白い粉が撒かれていたので入れなかった」と横の芝生で犯行に及んだ動機を供述しているが、ひねもす亭にロープが張られたのは9/14だ。Iは本件犯行当時も「雨は降っていなかったと思う」と供述するなど事実と矛盾している。
 またIの実行行為であるが、「僕の中1のときは学力を競い合える友達もいて楽しかった」と楽しく中1を過ごしていた。同級生であるaの手足を押さえつけ、先輩の強姦の手助けをして、仰向けにしたaを至近距離で見ていたというが、15歳の少年が「少し可哀想だったかな」と思う程度ではなく、躊躇を覚えるのが自然である。それにaは同級生だからあまり前面には出たくないという気持ちと、実際に頭を押さえつけた行為とは矛盾する。
 次のGの供述はひねもす亭にロープが張られていると述べたり、降雨の状況も述べておらず、自白供述に信用性が全く認められない。
 Hの供述も、捜査機関が通話期間の存在を振りかざして取った全くの捏造である。Hは2回携帯に電話したが、時間も相手も全く異なっている。捜査機関はデタラメな取調べを行い、自白調書を都合の良いように捏造した。
 またaの生理の発見であるが、Aはじゃんけんで順番を決めた詳細を語り、aの体に馬乗りになって、Fらに押さえつけさせたとされた。ところが一番最初に馬乗りになったにもかかわらず、生理を確認していない。aが生理用ナプキンをつけていたというのは作り話である。Bの供述によると「芝生でレイプしようとしたのは、犯行の際、ひねもす亭にロープが張られていて犯行ができなかった」というが、外が見えやすい場所を選択するのは不自然であり、それに朝から雨が降っていて芝生はしっとりと湿っていた。Bの自白供述は客観的な事実と整合しない。Cについても、否認調書は具体的に書かれている。

○結論
 結論であるが、各証拠によると、被告人らがaを姦淫していない事実は明らかである。原審は最高裁の判例に背き、証拠に基づかないで判断しているので、原審の判決は破棄を免れない。

裁判長「それでは結審します。次回に判決を言い渡すことにします。8/22午前10時からはいかがでしょうか?」
 検察官、弁護人ともに承諾する。
裁判長「本日はこれまで。傍聴席の方は退廷してください」

 裁判官3人は審理の最中は終始無表情だったので心証は読めなかった。被告人4名とその家族、支援者、弁護人は集会ということで5階に向かった。

事件概要  被告達は他の少年達と共に、2002年9月9日、静岡県御殿場市で、女子高校生を強姦しようとしたとされる。
報告者 insectさん


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