裁判所・部 東京高等裁判所
事件番号 平成18年(う)第2293号
事件名 公務執行妨害、傷害、器物損壊、銃砲刀剣類所持取締法違反、住居侵入、強盗殺人(認定、殺人、強盗殺人)
被告名
担当判事
日付 2007.3.6 内容 初公判

 A被告に対する控訴審初公判は、2時30分から803号法廷で行われた。
 34枚の傍聴券が配られたが、14時10分の締め切りまでに集まった人数は、定数に満たなかった。それでも、傍聴席はほぼ満席となった。
 事件の関係者が先に入廷を許可された。
 記者席は14席が指定されており、ほぼ満席となる。
 検察官は、眼鏡の中年男性。
 弁護人は、眼鏡の初老の男性。
 裁判長は眼鏡をかけた老人。裁判官は、中年男性と眼鏡をかけた中年男性。
 開廷前に二分間のビデオ撮影が行われたが、その間、ハプニングがあった。撮影中にもかかわらず、被告人が入廷しかけてしまったのだ。書記官はあわてて入廷を止めていた。被告人が法廷に入る前に、入廷は阻止された。
 撮影が終わり、被告人が入廷した。被告人は、写真で見たとおり、浅黒く筋肉質な、精悍な風貌の青年だった。眉は濃く、頬はこけ、額が突き出ている。白いシャツの上に、モスグリーンの半袖の上着を纏い、ジーンズを穿いていた。眉は八の字になっており、悄然としているようにも見えた。

裁判長「それでは開廷します。被告人前へ出てください。そこに座って」
被告人は、被告席からのっそりと立ち上がり、証言台の前に立った。
裁判長「名前は何と言いますか?」
被告人「Aです」
裁判長「生年月日は?」
被告人「19(聞き取れず)年4月19日」
裁判長「4月19日?」
被告人「はい」
裁判長「本籍はどこになりますか?」
 被告人は何か答えたが、全く聞き取れなかった。解りませんと言ったかも知れない。
裁判長「茨城県の○○となっていますが、覚えていませんか?」
被告人「知りません」
裁判長「知らない。現在住所は?」
被告人「不定です」
裁判長「不定。仕事は無職ですね。では元に戻ってください」
 被告人は、被告席に戻る。被告人の声は非常に小さく、聞き取るのが極めて困難か、全く聞き取れなかった。ここまで声の小さい被告人は始めてである。

裁判長「それでは、検察官の控訴主意」
検察官「書面の通り陳述いたします!」
裁判長「これに対する答弁は」
弁護人「はい」
裁判長「それから、弁護人の方からも控訴趣意書が出ていますが、どうされますか?弁護人の分だけを陳述する?」
弁護人「ああ、解りました!そういう事です!」
裁判長「弁護人の控訴主意に対する検察官のご意見は?」
検察官「棄却を求めます」
裁判長「証拠請求が双方から出ていますが、検察官の方からは、1月15日付意見書、3月1日付で被告人質問。1月15日付意見書は、この通りでよろしいですか」
検察官「はい」
裁判長「4月27日付・・・・」
弁護人「あの、えっとですね、あの、それと、あの・・・・、19と、まあ、セットになっている形になっているわけですが、ちょっとその、19との関連もありますので、ちょっと、あの、留保させていただきたい」
裁判長「はい」
弁護人「それで、あと11から18なんですが、あの、これはですね、あの・・・・、一審で、あの、請求を、あの、検察官がされて、あの、いらっしゃらなかった12から14というのは、これは、あのー、新たに請求されてるものなんですが、あのー・・・、これは、原審でですね、あのー、公務執行妨害のですね、あのー、関係する検察官の調書を、3月になってから取られたものでなくて、あのー、この事件発生当初とられたもの、あるいは、ま、起訴前に取られたものを、あのー、提出していただきたいということを検察官に一審でお願いした所、ま、それが存在しないという事で、きていたものが、今回提出していただいた訳ですけど、あの、弁護人としては、あの、今回請求されているのは、X1さんとX2さんの、あの、調書、員面調書なんですが、あとお二人、X3さん、X4さんの調書ですね、これに関しても公務執行妨害の関係、公務執行妨害あるいは傷害の関係で存在するはずなので、今申し上げたように存在しないというものが今回出てきたわけですけど、これについても、改めて提出していただきたいという風に思います。そして、それをあわせてですね、11から18まで合わせて、意見を、それとの関係で、検討した上で意見を述べさせていただきたいと言っているんですが」
裁判長「11は、弁護人のほうも・・・」
弁護人「そうですね(笑)、ま、そうですね、11は、そういう意味では、こちらも請求しているので、あれなんですが、はい、はい(笑)」
裁判長「12から、内容も含めて検討したいと」
弁護人「はい、はい、はい」
裁判長「それと、今言ったような、それ以外の調書もあるのではないかと」
弁護人「そうですね、あのー」
裁判長「検察官、それについては」
検察官「ちょっとよろしいですか」
裁判長「はい」
検察官「弁護人は、あのー、原審の検察官が、調書がないという風に言ったとおっしゃいましたが、私の確認したところ、そのような発言をした事実は確認できませんでしたので。その点、述べさしていただきます。それから、調書につきましては公妨の犯行当時に関する調書はこれだけでございます。それから、その2日後にとられた検面調書であります。それが全てです」
裁判長「供述調書はないと」
検察官「それについては、一名は、取調べ官担当をする予定だった事から、被害者と取調べ官として報告書を作っていましたので、留保と。隠しているものはございません」
裁判長「そういうことのようですが」
弁護人「解りました。隠しているものはないという事であっても、報告書、供述調書になってもですね、事件発生直後のですね、供述内容を、X3さん、あるいはX4さんについて存在するものがあるならば、それもあわせて出していただきたいという風に思いますが」
検察官「X4氏作成の捜査報告書があるようですので、それは、公妨との現認に関するものですが」
弁護人「はい」
裁判長「それでは、確認のうえで意見を」
弁護人「はい。11・・・・」
裁判長「11は原本を調べるという事で」
弁護人「はい、はい、結構です、はい、結構です」
裁判長「それで、検察官関係の意見は全部伺ったわけですけども、それでは、弁護側」
弁護人「あの、弁護人のほうですけれども、私の方では、一つは、実況見分。そして、もう一つは、情状鑑定の件ですが、X5先生のですね、子供のトラウマという本。これを、取調べ請求を、口頭でですけれども、させていただきたい」
裁判長「被告人質問は」
弁護人「えっとですね、今の所ですね、こちらとしては・・・・」
裁判長「検察官の報告書に対し、意見は」
弁護人「検察官の立証趣旨である強盗の犯意の発生については、罪体に関する部分ですけれども、これについては、被告人とも話をしたんですが、一審で十分、話はしているし、記憶も定かではない部分も出てきているから、あの、ま、こちらとしては、今の段階では、あのー、意見としては必要ないのではないかと考えています」
裁判長「証拠については、検察官、御覧になったうえで・・・・」
検察官「いや、同意します。書証でしょう?」
裁判長「それで、検察官、不同意の書証はありますか?」
検察官「1・・・1,2の不同意部分については撤回いたします。11号証は(聞き取れず)、乙号証以下は撤回いたします。あとは、15以下は留保。」
裁判長「弁護側申請の調書に関しては?」
検察官「留保」
裁判長「情状鑑定に関しては」
検察官「不必要です」
弁護人「あの、情状鑑定について、ちょっと、一点だけ述べさせていただいてよろしいでしょうか」
裁判長「はい」
弁護人「あの、この事件というのは、一番の問題は量刑の点だと検察官は控訴趣意の中ではご理解されているし、遺族の方のお気持ちもその点にあると思います。そして、本人の法廷で話をしている事は法廷で聞いていても非常に理解しにくい部分がある。あるいは、被告人に対して、遺族の方が、率直に話をしていないのではないかと意見を述べられているところもございます。そういう、本人の話を理解するためにも、端的に言えば、特異な生育歴の中で、特異な気持ち、あるいは感情を抱くようになったのか、専門家の意見を頂きたい。また、さらに敷衍して言えば、原審の裁判所は、その点について一定程度判断を下されているところですけど、専門家の方であれば、もう少し踏み込んだ、正確な適正な判断がされると期待していますし、今日紹介させていただきましたX5先生の本の中にも、子供の頃の虐待のですね、影響が、どのように大人となっての行動に表れるか触れられています。そういうことで、専門家の判断を頂きたいというのが弁護人の主旨でございます」
裁判長「情状鑑定に関してはとりあえず留保させていただきます」
検察官「甲12号証ないし18号証は、供述経過ということで。弁護人の異議に関わらず」
裁判長「とりあえず出してもらって、それで弁護人に確認を」
検察官「はい」
裁判長「それから、先ほどの調書を弁護任意確認していただいて、それを踏まえて。被告人質問は」
弁護人「それから、撤回した書証の関係で、被告人の性格などについても」
裁判長「質問したい」
弁護人「あ、客観的に、体格についても不同意にさせていただいてましたっけ?それは私の方で撤回させていただきます」
 弁護人は、現場見取り図1、2、3について、同意する。
裁判長「証拠請求は、他にないということで」
検察官「はい」
裁判長「被告人質問は、どのくらい。次回までに」
弁護人「はい」
裁判長「それまでに、尋問事項を。次回期日の関係ですが、3月27日の10時30分」
検察官、弁護人「はい」
裁判長「被告人質問を、双方。次回期日は、3月27日10時30分。今日はこれで」
弁護人「はい」

 2時48分に、公判は終わった。
 被告人は、口をきつく閉じ、下を向いていた。目を閉じている事も多かった。目を開けているときは、一点をじっと見つめていた。閉廷後は、弁護人と暫く話をしていた。やがて、頷き、下を向いて退廷した。

 閉廷後、遺族らしき人々は、職員から、これからの公判について説明を受けていた。
 弁護人は、閉廷後、廊下で記者に囲まれて、質問を受けていた。
「人格の形成に如何影響しているか。一審でも(情状鑑定を)お願いしたんですけどね」
「X5先生は子供の虐待に関して研究している」
「精神鑑定もありうるが、見た限り、X5さんの方が・・・・」
「(被告人に期日について話していたのか、と聞かれ)何時接見にくるかって、そういうのを・・・」
などと、答えていた。
 記者は、裁判所の建物の外に出てまで、弁護人に質問をしていた。弁護人は、情状鑑定請求の理由などについて答えていた。

事件概要  A被告は、2005年1月28日、静岡県静岡市の健康用品販売店に、復讐心から店の経営者の夫を殺害しようと侵入して、店にいた女性店員2名を殺害したとされる。
報告者 相馬さん


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