裁判所・部 東京高等裁判所・第七刑事部
事件番号 平成18年(う)第2356号
事件名 強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、窃盗、住居侵入
被告名
担当判事 植村立郎(裁判長)荒川英明(右陪席)村山浩昭(左陪席)
その他 書記官:関口義雄
検察官:村上満男
日付 2006.12.13 内容 判決

 12月13日、現金輸送車襲撃事件などで強盗の罪に問われたA被告の控訴審判決公判が東京高裁(植村立郎裁判長)であった。
 A被告は頭の禿げた、ガッチリとした体格の中年男性で、判決が言い渡されている間目を閉じていた。白いレインコートみたいなものを着用していた。

裁判長「今日は予定に従って判決の言い渡しをしたいと思いますが、その前に本籍地や住所で変わったところはないですか」
被告人「ありません」
裁判長「それでは被告人に対する控訴審の判決を言い渡します」

−主文−
 本件控訴を棄却する。当審における未決拘留日数中110日を原判決の刑に算入する。

−理由−
 理由の要旨を述べます。
 論旨は量刑不当の主張である。そこで原審で取り調べた証拠および当審で取り調べた証拠に基づき検討する。
 本件は被告人が平成16年5月16日から平成17年1月31日までの8ヶ月間の間に、茨城県、栃木県、埼玉県、群馬県、千葉県でそれぞれ犯した、モデルガン、刃物のようなモノ、拳銃などの道具や凶器を使用して、共犯者とともに犯した強盗事犯6件の事案である。この強盗事件のなかには住居侵入や発射罪を伴っているものがある。それを中核に、栃木県で逃走用あるいは犯行用に自動車を窃取したり、埼玉県で現金を窃盗などの犯行も行っている。
 被告人には平成10年にモデルガンや木刀を用いて信用金庫を襲い1100万を強取して、強盗や銃砲刀剣類所持等取締法違反で懲役7年に処せられた前科があり、平成16年3月16日に仮出獄した。ところが出所後、共犯者2名とともに生活に行き詰まり、健全な方法で事態の打開を計るどころか地道な暮らしを厭って、わずか2ヵ月後には一連の犯行に出ている。
 情報で知った多額の現金があると見込まれた不動産業者宅や被害者夫婦宅に押し入って、それぞれ夫婦に刃物を突きつけ、両手足を粘着テープで緊縛し、目や口を粘着テープで塞ぐなど、被害者の抵抗を完全に抑圧する暴行を加えて現金を強取している。またその犯行は中国人を装ったり、被害者男性を全裸にして写真を撮って口止めするなど、犯行の発覚を困難にするための罪証隠滅工作にも出ている。
 また警備が手薄な金融機関を狙い、多額の現金を強奪することも考えはじめ、事前に逃走経路を念頭に置いた綿密な調査を行って、共犯者2名とともにモデルガンで強盗に及んでいる。ある事件では拳銃を建物内に発砲し、7ヶ月後にはまた同じ信用金庫を襲い、前回の発射で従業員が畏怖しているのを見越して敢えて拳銃の発射を避けるなど、執拗で危険、大胆で巧妙な手口である。
 また輸送車襲撃事件ではより綿密な調査をしたうえで、拳銃を発射して駐車中の現金輸送車の現金の強奪に及んでいる。
 これら一連の犯行は、計画性の極めて高い、凶悪で広域的、組織的、職業的な犯行である。
 被告人は拳銃や実砲を中国人マフィアから借り入れるなどしている。
 また被告人は現場で指揮し、奪った金品の6〜7割に当たる2000万円以上を取得しているなど、まさに本件犯行の首謀者といえる。
 共犯者2名の逮捕されたあとも別の共犯者を引き入れて、仮出獄期間中に強盗に及ぶなど、この種事案に対する犯罪性向の常習性・根深さは顕著であり、順法精神が欠落している。
 所論(≒弁護人の主張)は保護観察中には妻のいるタイに行けなかったため予定していた貿易事業がうまくいかなかったこと、刑務所仲間との付き合いを情状として挙げているが、被告人が共犯者を誘ったのであり、仮出獄から犯行までわずか何日も経っていないうえに、取得したお金はヤミ金の返済に一部は充ててはいるが、半分以上は遊興費などに使っている。結局被告人の動機は多額の金銭に対する金銭欲であり、格別被告人のために酌むべき事情には当たらない。
 結果も重大であり、被害額合計は現金被害だけでも3000万円、物品被害は1780万円に上り、極めて高額に達している。特に先程述べた信用金庫に関しては1800万円という重大な経済的損害を与えただけでなく地域の金融機関に対する信用が損なわれた。
 被告人は自衛隊に所属していたこともあり、意図的に弾が当たらないように発射したと言うが、平凡な社会生活においての威嚇効果は絶大で被害者に多大な恐怖感を与えている。実際に現金輸送中に襲われた2名は拳銃の発射音を聞いて、撃たれれば死んでしまうのではないかという恐怖感で、自分の身を守るのが精一杯だったと述べている。
 最も安全が確保されなければならない自宅で襲われた被害者は身動きの取れない状態にされ強い恐怖心を抱き、事件後も依然として精神的に不安定な状態にある。被害者たちは精神的・肉体的に大きな打撃を受けており、ある被害者は全裸にさせられるなど屈辱的な経験もさせられた。被害者の処罰感情、とりわけ強盗事件の被害者の処罰感情が相当に厳しいのも当然といえる。
 原判決は幸いにケガ人がいないことを被告人に有利な情状として、所論も同じような主張がされているが、本件は強盗致傷ではなくあくまで強盗罪で訴追されており、被告人にそこまで有利な情状とは解されない。拳銃2丁、実砲30発を所持していたことも、現に2回発射罪を用いて強盗に及んでいることからも、社会に多大な恐怖を与えたものであり、危険で悪質な行為である。つまり原判決の判断はその結論において正しい。
 他方、被告人が原審段階から謝罪の念を持って、被害者に謝罪文を送るなど一層反省の念を強めて刑に服する意思を示していることや、盗んだ自動車被害はさしたる被害もなく被害者のもとに戻っていることや、MDMAの所持も8錠に留まり、それは刑務所仲間の親戚からタダでもらったのをそのままにしていたなど、被告人の順法精神の欠落の一端を示すものとは言えても薬物に対する親和性までは認められないこと、妻子がタイで帰りを待っていること、被告人が現在55歳という年齢であることなど被告人に酌むべき事情を考慮しても、また身柄拘束期間が13ヶ月に及んだことは事件が広域に渡り複数の裁判所に公訴提起されたためであり、身柄拘束が長期に及んだこと全てを被告人に有利な事情とは言えなく、懲役30年という処断刑の上限に当たる求刑がなされた事案で、被告人を懲役22年(未決310日算入)に処した原判決は諸般の情状を被告人のために十分に酌んだと言え、これが不当であるとは到底言えない。論旨は理由がない。

裁判長「求刑が懲役30年に対して、懲役22年というのは被告人の情状を十分に酌んだものと言えます。前回服役したときに立ち直る契機はあったはずで、今回長い期間になりますが、十分反省してほしいと思います。
 この裁判に不服があるときは、上告することができます。上告するときは、今日から14日以内に、最高裁判所宛の上告申立書をこの裁判所に提出すること」

事件概要  A被告は共犯と共に、2004年5月16日から2005年1月31日、茨城県、栃木県、埼玉県、群馬県、千葉県で、モデルガン、刃物、拳銃等を使用し強盗6件を犯したとされる。
報告者 insectさん


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