裁判所・部 東京高等裁判所・第三刑事部
事件番号 平成18年(う)第1583号
事件名 強姦未遂
被告名 A、B、C、D
担当判事 中川武隆(裁判長)後藤眞知子(右陪席)小川賢司(左陪席)
その他 書記官:松山智治
検察官:小泉昭
日付 2006.12.13 内容 初公判

 東京高裁で13日開かれた御殿場事件の初公判では傍聴券抽選が行われ、倍率は約1.5倍だった。
 被告人4名は傍聴人が入廷する前に、弁護人の前に着席していた。弁護人はなんと14人もいて、弁護人席からはみ出ていた。板橋両親殺害事件と同様、御殿場事件に対する弁護人としての強い意気込みを感じさせた。
 被告人4名はダークスーツ姿で、いずれも少し強面の茶髪の若い男性で筋肉質な体型をしている。そのうち2人はドキュメンタリーで見た通りの風貌であった。被告人4人は10名のうちリーダー格とされ、保釈されているが一審静岡地裁沼津支部で実刑判決を受けているので、もし控訴が棄却されれば再び収監されてしまうことになる。

 開廷されると、裁判長が被告4名を前に立たせて人定質問を行う。

A・・・昭和59年7月20日生まれ
B・・・昭和60年1月25日生まれ
C・・・昭和59年9月11日生まれ
D・・・昭和59年5月29日生まれ

○本件控訴趣意
 本件の特異性であるが、本件は犯罪事実そのものが強く疑われる事案であり、被告人を懲役2年に処した原判決は到底破棄を免れない。
 本件は9月16日に被害に遭ったという被害女性の虚偽申告から始まり、10名の少年が順次逮捕されていった。
 最初は9月16日通りに自白させられ、他の少年は少年院送致が決定したが、4名は少年審判の段階で犯行を否認し、そのため逆送された。ところが実際は被害女性は9月16日に別の場所で男友達と会っていた。そして被害女性は実は1週間前の9月9日だったと供述を翻し、裁判所も訴因変更を認めるという前代未聞の経過を辿った。
 検察官はあらためて冒頭陳述を行うこともなく、用いた証拠を流用するというまさに立証責任の放棄とも言える態度でいる。
 被害女性は単なる勘違いなどというものではなく、意識して故意に嘘をついて裁判所も騙そうという偽証罪すら認定される悪質な犯罪行為に及んでいる。被害女性の証言は所詮嘘の上塗りに過ぎず、裁判所は訴因変更を認めず、裁判をいったん打ち切るべきだった。そして捜査をきちんとして再検討すべきだった。捜査を尽くせば尽くすほど、被害女性の嘘が暴かれ、このような異常な事態は避けられたはずだ。
 新たな訴因事実から有罪判決を下した原判決はまさに正視に堪えない惨憺たる判決である。
 原判決は被告人の供述は100%肯定されない限り信用性を認めていないのに対し、被害女性の供述はその可能性が少しでもあれば信用性を認めている。原判決のような有罪認定に都合の良い事実だけをつまみ出すような恣意的判断は許されない。被告人の供述の枝葉の部分に捜査官の暗示ないし誘導が認められる。
 また原判決での犯行時の天候状況に関する部分も極めて独断と偏見に満ちている。
 本件においては、半数の少年は少年院に送られて、現在はすでに出所して社会生活を営んでいる。確かにこの既定の処分に収拾のつかない事態を招くことになるために刑事施行政策的な判断をしたことは理解できなくもない。しかしそのために無罪の被告人を有罪にするのは許されない。一般人に聞いたら100人が100人ともこんな不当な判決があるのかと驚く。このような判決は刑事裁判の自殺行為とも言えるものであり、国民の刑事裁判への信頼を失墜させるものである。まさしくこれは刑事裁判そのもののあり方が問われているものであり、控訴審では厳正な判断を求める。
 各論では、
1.本件訴因変更は訴因権の乱用に当たる
2.原判決の判決書が弁護人のもとに渡るまで5ヶ月近くを要している
3.事実誤認
 などが挙げられた。
 事実誤認であるが、aは9月16日に犯行があったということを頑強に公判廷でも維持していたのであり、日付のみならずaの供述は客観的な事実と整合しようとする作為のみがあるだけだ。御殿場駅での行動の供述の変更など、多くの供述の変更がある。辻褄が合わないものが多く、aの特定する犯人の特徴は全く被告人と合致していない。a証言の裏付けるためのX1の証言には信頼性がない。aが9月9日には御殿場の野外には存在していなかったことを裏付ける数々のデータがある。
 また共犯者とされた少年の供述も捜査員の強い誤導の存在が認められるので信用性がない。EやFの供述は誰でも供述できる内容だったり、抽象的だったりで信用性が全くない。Gは片手錠のまま自白調書を書かされたことが認められているのに、原判決では信用性が高いとされた。Hは少年院に行きたくない一心で捜査に迎合してしまったのであり、その供述はすべて虚偽で全体的に信用できない。
 次に4人にはアリバイもある。Aは取り調べに対する恐怖心でいっぱいだった。Aは家族4人で焼肉110番に行っていたので本件犯行は不可能である。Bについても捜査機関の強要や誘導を鵜呑みにした原判決は認められない。上申書にはBが普段使用しないような言葉があり、強い誘導の存在が分かる。犯行時の進行方向を共犯者の供述を得た後で一致させるなどしている。犯行態様の記載部分は抽象的なものだ。アリバイであるが、当時Bが実家が経営する寿司店にいたことを証言した証人の証言を原審は過少評価している。また鑑別所でCが少年審判での判決を聞いた際の様子を証言した収容者の証言を原審は過大評価している。Dは「何度本当のことを話しても聞いてもらえない」という、保身に基づく情操不安な状態であった。犯行前後の供述書は具体性に欠け、捜査員の誤導が認められる。アリバイだがDは当日自宅にいて過ごしたあと、午後10時から大雨のなかバイクで走行していた。

裁判長「検察官、ご意見は」
検察官「すでに提出した答弁書記載の通りです」(=控訴棄却が相当)

○事実取り調べ請求
 このあと行われた弁護人の事実取り調べ請求では、書証では降雨データを示す資料の類が多かった。一部は以下。
・御殿場線のダイヤを示すJRの時刻表(とくにaは7:50着の電車で到着したと言っているが、それが7:30〜8:00までに変更され、供述に幅を持たす意図が明確であるとのこと)
・写真報告書
・Aの容貌を撮影したもの(Aは当時金髪でパーマをしておりaの証言とは合致しない)
・御殿場事件で実施されたデモの写真で、そこにはかなりの雨の量が載っており、当日の天候を知る有効資料になる
・当日降雨により中止となった運動会の案内
・ピザーラの売上日報や警備会社の警備日報で、そこではその日の天候は雨と記録されている

員面調書
・Bが当時寿司店にいたことを示している手紙

 次に証人の関係では以下の証人の申請があった。
・被害者であるaの証人尋問(メイン。被告人の特定供述などについて聞く。ちなみにAは当時金髪であった)
・aの母Y1(平成13年にaが嘘をついたとき、厳しく叱責したとされるがそれが今回の嘘に繋がった可能性がある。どのような叱責をしたのか詳細に聞く)
・Bが当日寿司店にいたというアリバイを立証するための証人

 あとは弁護人は被告人質問を実施していただきたいと裁判所に求めた。ここで裁判長は検察官に同意か不同意か聞く。本来なら被告人質問は「然るべく」と高裁でも認めることが多いが、検察官は「書証ですが、弁1・2・21・24・31号証は同意、弁27・28・29・30号証は同意いたしますが信用性を争う、その余は不同意、証人尋問についても全員不同意、被告人質問についても不必要」と控訴審での新たな事実調べには消極的な姿勢を見せた。
 裁判長は「合議のため休廷します」と大勢の傍聴人(多くは被告関係者)を一旦退廷させて、ほどなくこの日の審理は終了することになった。

 閉廷後被告人たちは報道関係者らしき人に結婚式のアルバムを見せたり(被告人の母親や妻も傍聴席にいた)、駆けつけた友人と話していたが、被害女性の関係者は見当たらなかった。もし無罪判決が出たら貴重な青春時代を奪った虚偽告訴で被害女性が訴えられるのは不可避であるし、仮に有罪で被告人らが猥褻行為に及んだことが認められたら、軽率な一面はあったものの事件の報道被害で家庭崩壊(弟が自殺、御殿場から転居)まで追い込まれた女性の無念は計り知れないものである。
 次回公判は1月26日に開かれる。

事件概要  被告達は他の少年達と共に、2002年9月9日、静岡県御殿場市で、女子高校生を強姦しようとしたとされる。
報告者 insectさん


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