裁判所・部 東京高等裁判所・第八刑事部
事件番号 平成17年(う)第2613号
事件名 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
被告名 山本開一
担当判事 阿部文洋(裁判長)高梨雅夫(右陪席)原田保孝(左陪席)
その他 書記官:松元隆治
検察官:尾知山明
日付 2006.9.28 内容 判決

 傍聴希望者には、その筋の方々がいっぱいいらっしゃいました。がらの悪いチンピラはおらず、黒いスーツを着た、恐らく幹部クラスの方が多かったと思われます(みんなちゃんと指はあった・・・)。なお、大物が来るたびに、その方に全員が挨拶し、その周りに自然と空間ができたり、両側に列ができていました。
 傍聴券45枚に対し、82人の希望者(ほとんどはその業界の方々です・・・)がいましたが、見事に傍聴券を当て、裁判所の職員の説得工作を無視し、堅気代表として傍聴しました。
 最前列に座り、周りがみんな組長という恐ろしい状況にはしたくないので、一番後ろで記者の方の隣に座りました。しかし、左にはやはり業界の方が・・・。
 法廷の中では、傍聴席の前の柵の上に防弾ガラスが設置。その前に刑務官が5人ならんで立ち、10人くらい刑務官がいて、最高度の厳重な警備体制がしかれていました。
 そういう中で、若い女性の廷吏が「山本開一(かいいち)被告人に対する殺人等被告事件につき開廷いたします」と開廷を宣言した。
 山本被告は坊主頭でやや大柄ではあったが、どちらかというと温厚そうで、凶悪犯という印象は受けませんでした。

 阿部裁判長は、主文を後回しにして、穏やかに淡々と理由読み上げた。

○法令違反の主張(死刑は残虐な刑罰で違憲)
 →死刑はそれ自体残虐な刑罰ではない。

○量刑不当(原審の死刑判決は重すぎて不当)
 埼玉県入間市の指定暴力団住吉会系山本組組長である被告人は、幸平一家の中で4番目の地位にいたが、同じ幸平一家のaに反感を持っていた。というのも、温厚で堅気の人に絶対迷惑をかけないという評判の被告人に対し、aは独善的で、常識では考えられないような事件を起こし、無理難題を押し付けていたからである。
 平成13年8月に、稲川会系大前田一家の組員が、住吉会系の幹部を殺害し、対立が激化。抗争が相次いだとき、aは被告人に、手榴弾を投げ込み稲川会系の組員の殺害を指示したが、被告人は一般の人を巻き込むと拒否。以後、aは被告人を冷遇し、自らの側近より下位においたり、山本組にあった暴力団埼玉本部事務所をa組に移すなどした。
 やがて、被告人がaを警察に密告しようとしていることを理由に、aが被告人の殺害を計画しているしていると聞き、被告人はaのもとに訪れそのようなことはないと説明したが、aは「裏切り者はその本人はもちろん、家族も処分される」といわれ、殺害計画が実行に移されると確信した。
 被告人は、aをはじめ、幸平一家の一同が集まる機会を狙い、歯向かった場合は側近も殺害することを決意した。
 被告人は、自らを守るためというのもあるが、自分が殺された後の家族を守りたかったと主張するが、そうしたことは法の範囲内でなされるべきことであって、先制のために殺害するといったことは暴力団特有の反社会的発想に基づく犯行で、動機に酌量の余地はない。
 犯行態様も、拳銃2丁や実弾13発を携行し、aだけでなく、側近まで次々と、確実に射殺した。周到な計画に基づき、強固な意思に基づく冷酷な犯行である。被害者は、無防備のまま、抵抗らしい抵抗もできずに一瞬のうちに射殺された。5人の命を奪った結果と責任は重大で、遺族の衝撃は大きい。
 また、本件は白昼の暴力団事務所の中で行われ、地域社会の衝撃も大きい。
 また、被告人は温厚で、堅気に迷惑をかけなかった、aを殺害したのも一般の人の犠牲を防ぐためだったと主張するが、被告人は証拠上、暴力行為、傷害など4件の前科があり、反社会的傾向は強く、規範意識は薄い。
 本件は、結局は自分の殺害を防ぐことが直接の動機であって、そのことで殺人を正当化することはできない。
 また、被告人が他の重大事件に関与していたとするのには、証拠がなく、あいまいであると主張する。確かに、少々証拠が弱いが、拳銃をaに渡したりしていたことからも、何らかの形で一般人を巻きもむ事件を関わっていたといえ、被告人とaは結局反社会的である。
 死刑が人間の存在の根本である生命を奪う冷厳な刑罰であるから、その適用にあたっては慎重でなければならないということに思いをいたして、被告人に有利な情状を最大限に考慮しても、被告人に対しては極刑をもって臨むほかなく、被告人を死刑に処した原判決は重すぎて不当とは認められない。
 論旨には理由がない。
 よって、刑事訴訟法396条により、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

裁判長「それでは主文を言い渡します。被告人は前に立って」

−主文−
 本件控訴を棄却する。

裁判長「この裁判に不満があるときは、上告することができます。上告するときは、今日から14日以内に、最高裁判所宛の上告申立書をこの裁判所に提出すること。以上です」

 こうして、閉廷した後、傍聴人(関係者の方々)は起立し、山本被告に一礼し、山本被告も傍聴席に向かって礼をしました。

事件概要  山本被告は自分の兄貴分が自分の殺害計画を立てているという話を聞き、先手を打とうと2004年12月14日、埼玉県入間市で、兄貴分の組事務所内で発砲し、兄貴分ら5名を射殺したとされる。
報告者 Doneさん blog


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