裁判所・部 東京高等裁判所・刑事第二部
事件番号 平成18年(う)第1068号
事件名 強盗致傷、強盗致傷(変更後の訴因、強盗致死)、強盗致死、窃盗未遂、窃 盗、強盗
被告名
担当判事 白木勇(裁判長)飯渕進(右陪席)金子大作(左陪席)
その他 書記官:村松、小池
検察官:山川景逸
日付 2006.8.23 内容 判決

 A被告に対する控訴審判決は、715号法廷で、1時30分から行われた。
 弁護人は、眼鏡をかけ、頭を丸坊主にした、グレーのスーツ姿の男性。開廷前には、書類に目を通していた。
 検察官は、眼鏡をかけた、痩せた中年男性。開廷前は、同じく書類に目を通している。
 書記官と男性職員は、開廷前、何か話をしていた。
 傍聴人は、私を除き、12名ほど居た。しかし、うち6人はマスコミ関係者だと思われる。
 被告人は、眼鏡をかけた、小太りで、やや下膨れの印象を与える中年男性。地肌が見えるほどの丸坊主。上半身には、黒い長袖の服、下半身には長袖のグレーのズボンを着ている。サンダル履き。どちらかと言えば大人しそうな風貌だった。傍聴席に少し目をやり、入廷する。被告席に座ってからは、無表情に、前を向いていた。
 裁判長達が入廷する。

男性職員「起立願います!」
 廷内の全員が立ち上がり、裁判長達に礼をする。
男性職員「A被告に対する、強盗致傷等被告事件につき開廷します」
裁判長「はい、それでは、被告人前へ出てください」
 被告人は、証言台に立つ。
裁判長「A被告ですね」
被告人「はい」
裁判長「貴方に対する、強盗致死等被告事件について、判決を言い渡します」

−主文−
 本件控訴を棄却する。当審における未決拘留日数中、100日を原判決の刑に算入する。
裁判長「これが主文です。理由は弁護人の前に座って聞いてください」
 被告人は、被告席に戻る。

−理由の要旨−
 論旨は、被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。そこで検討すると、本件は、被告人が・・
(刑務官が入れ替わる等したため、裁判長は、しばし朗読を中止した)
 本件は、被告人が、平成17年3月18日から同年4月17日にかけ、居住していた群馬県沼田市内において、深夜あるいは夜間、通行人に対し、いきなり激しい暴行を加えて金品を強取し、その際、被害者に重傷を負わせて死亡させた強盗致死2件、同様に傷害を負わせた強盗致傷3件、傷害までには至らなかった強盗1件、ひったくり窃盗一件、強取にかかるキャッシュカードあるいはクレジットカードを利用した、現金自動預け払い機からの窃盗及び窃盗未遂30件の事案である。
 短期間に凶悪な犯行を集中的に敢行した事案自体重大である上、53歳の男性に、いきなり体当たりをして転倒させ、その頭部顔面を足蹴りにして意識不明の状態に陥らせ、搬送先の病院で死亡させ、67歳の男性に背後から頚部に腕を回して転倒させ、その顔面頭部等を足蹴りにして、頭蓋骨骨折、急性クモ膜下血種、外傷性クモ膜下血種などの重傷を負わせ、搬送先の病院で死亡させた二件の強盗致死は、悪質極まりない。
 同様の犯行に及んで傷害を負わせた三件の強盗致傷も、61歳の男性に、加療約37日間を要する左眼窩性複雑骨折、右肩骨折、50歳の男性に全治約28日間を要する、右眼窩性通常骨折、鼻骨骨折、61歳の男性に、加療約5日間を要する両手挫傷、右肩挫傷等を負わせたものであり、これも、また、言語道断の犯行というより他無い。傷害を負わせるに至らなかった強盗、ひったくり窃盗の事案も危険な犯行である。
 犯行の犠牲になり死亡した二名の男性は、突如襲われ、その身に何が起こったのか解らないまま生命を奪われたものと思われ、その無念な思いは察するに余りある。
 遺族が被告人に対して厳罰を求めているのも当然である。重傷を負った三名の男性の被った、恐怖、衝撃も非常に重大である。強盗行為による被害は、現金だけでも7万円、クレジットカードによる現金被害額は10万円に及んでいるが、被害弁償はおろか、治療費、損害賠償等、慰謝の措置は全く講じられていない。
 被告人は、フィリピンパブでの遊興にふけり、そのための金欲しさから一連の犯行に及んだもので、その動機に同情の余地は無い。
 また、被告人は、平成5年8月と12月に、何れも窃盗罪により、懲役1年、執行猶予4年、ならびに執行猶予が取り消しになり、1年の判決を受け、懲役1年8ヶ月に格処せられている。
 窃盗、窃盗未遂で懲役1年6ヶ月に処せられ服役し、平成16年12月2日に仮出獄し、それから3ヵ月後の仮出獄期間中に第一の犯行に及んでいる事も併せ考慮すると、被告人の犯罪傾向は根深く、刑事責任は誠に重大であるというより他ない。
 そうすると、被告人は現在は反省の態度を示している事、生い立ちにやや不遇な点があることなど、被告人のために汲むべき事情を十分考慮しても、被告人を無期懲役に処した原判決の量刑はまことにやむをえないものであって、これが重すぎて不当だとは言えない。論旨に理由は無い。

裁判長「それでは、主文をもう一度述べます。本件控訴を棄却する。答申における、未決拘留日数中、100日をその判決の刑に算入する。なお当審における訴訟費用は被告人に負担させない事とする。もしこの判決に不服がある場合は、上告の申し立てをする事が出来るから、その場合は、明日から14日以内に最高裁判所宛の書類を提出しなさい」
 被告人は裁判長の言葉に頷いた。
 公判は、1時35分に終わった。

 被告人は、中腰で裁判長に礼をし、いったん座り、また立ち上がって退廷した。退廷する時、傍聴席の方に眼を向ける事は無かった。主文を言い渡された時は、身じろぎせず、特に反応を示さなかった。理由の朗読は、身じろぎせず、無表情だがやや硬い表情で聞いていた。

事件概要  A被告は強盗目的で、2005年、群馬県沼田市内で、以下の犯罪を行ったとされる。
1:4月9日、53歳の男性を殴打して死亡させ500円等を奪った。
2:翌日、67歳の男性に重傷を負わせ、たばこ等を奪った。男性は数ヶ月後に死亡した。
 その他、3件の強盗致傷、2件の強盗を起こしている。
報告者 相馬さん


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