裁判所・部 東京高等裁判所・第八刑事部
事件番号 平成17年(う)第2613号
事件名 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
被告名 山本開一
担当判事 阿部文洋(裁判長)高梨雅夫(右陪席)原田保孝(左陪席)
その他 書記官:長谷川淳
検察官:尾知山明
日付 2006.3.28 内容 証人尋問

 傍聴券の交付は、10時から行われた。時間までに40名ほどが集まり、その殆どは、一目でその筋とわかる、被告人の関係者だった。暴力団関係者には見えない格好をした人も居たが、それも、挨拶を交わしていた事を考えれば、被告人の関係者だろう。
 入廷前には、荷物預かり、金属探知機によるチェックが行われた。関係者達は、廊下で、話をしたり挨拶を交わしたりしていた。
 被告人は、がっしりとした体格の、ごく普通の顔立ちの初老の男性。頭は丸坊主だったと思う。顔見知りらしき関係者に、軽く頭を下げていた。刑務間と少し話もしていた。被告席の前には、長い机が置いてあった。
 傍聴席と被告席は、分厚いガラスの板で仕切られている。
 傍聴席はほぼ満席で、空席は4つ程度だった。
 検察官は、眼鏡をかけた初老の男性。
 弁護人は、眼鏡をかけた中年男性と、眼鏡をかけた初老の男性。

 公判は、10時30分から、725号法廷で開始された。
 この日は、証人尋問が行われた。
職員が、法廷の外に出て行った。別の職員は、裁判長に書類を見せ、何か話していた。そして、裁判長は
裁判長「ちょっとお待ちくださいね。証人に説明しています」
と、軽く笑みを浮かべて言った。被告人は、それに軽く頷く。その後、弁護人と何か話をしていた。自分のほうから話しかける時は少し後ろを向いていたが、弁護人が話しかけた時は、後ろを向かずに、うん、うん、と頷いていた。
 10時35分頃に、職員が裁判長に話しかける。その後、丸坊主の痩せた初老の男性が、入廷する。収監されていたらしく、被告人用の出入り口から出てきた。この人物が証人であり、前橋スナック事件に情報提供者として関わった、X1受刑者だった。
 証人は、宣誓を行い、裁判長は、偽証罪に関して証人に注意を行う。
 先ずは、主任弁護人である、老人のY1弁護人から証人尋問が行われる。

−Y1弁護人の証人尋問−
弁護人「私は、前橋地裁における貴方の刑事公判を担当した。貴方はその後、東京高裁に控訴して、判決が出ていましたね?」
証人「平成17年だったと思います」
弁護人「判決は、昨年2月」
証人「8月です」
弁護人「8月25日」
弁護人「高裁に控訴したのは、殺人未遂幇助ではなく、詐欺に関してでしたね」
証人「そうです」
弁護人「その中で、被告人尋問を行った時に聞かれたことを覚えている?」
証人「はい」
弁護人「記録を見ましたね」
証人「はい」
弁護人「改める所はありますか?」
証人「特にありません」
弁護人「今日は、貴方が、aさんの命令というか依頼で、前橋の大前田一家の動静、住居を調べたり、aを案内した事はあった」
証人「はい」
弁護人「大前田一家への攻撃は、5回ぐらいあった」
証人「はい」
弁護人「大前田一家の組長のY1さん、Y2さんを襲撃した」
証人「はい」
弁護人「最終的には、前橋スナック事件がありましたね」
証人「はい」
弁護人「貴方は、どれに関しても情報提供者だった」
証人「はい」
弁護人「aさんに情報を渡した」
証人「はい」
弁護人「貴方は、30ぐらいの時、山本組に加入されて、2年間いるはずが4〜5年居て、離脱して10年の歳月を過ごした」
証人「はい」
弁護人「かた入れの期間は?」
証人「18年ぐらいです」
弁護人「貴方がaさんのことを良く知るようになったのは?」
証人「以前からです」
弁護人「10数年前に、aさんは娑婆に居ましたか?」
証人「重複する期間が数年あります」
弁護人「貴方は、aさんにあまり良い印象を持っていなかったのでは?」
証人「答えたくありません」
弁護人「では、aさんとは、山本さんの紹介で知り合ったと、こういう感じで良い?」
証人「はい」
弁護人「aさんの希望で、いくつかの、Y1、Y2の住まい、Y2の付き合っている女性の住まいを車で回って案内した事もあった」
証人「はい」
弁護人「Y1邸の近くマンションを借りていますね」
証人「はい」
弁護人「何というマンションですか?」
証人「Y3です」
弁護人「マンションについて、貴方が、aさんの希望を断わった時に、『自分の命令に逆らうのなら覚悟しろ』と言われた事がある?」
証人「答えたくありません」
弁護人「原審の時にはかなりはっきりと答えていますが、何か状況が変わったんですか?」
証人「答えたくないとしか言えません」
弁護人「aさんの行動や性格について、答えられませんか?」
証人「はい」
弁護人「何故ですか?」
証人「・・・・・・・・」
弁護人「家族への影響を心配してですか?」
証人「それもあります」
弁護人「aさんから、『何かあったら家族の身は保障しない』と言われたので、言いたくない」
証人「はい」
弁護人「解りました。こう聞きましょう。山本さんとaさんの関係が終わりに近付くに従い、悪くなった事も証言したくない?」
証人「私の知る限りでは・・・・・・」
弁護人「住吉会の殺傷事件の報復としての・・・・・撤回します。貴方は、これまでの人生で、逮捕されたり警察に調べられた事は、平成15年4月に競売法違反で逮捕されたのが初めてですね?」
証人「はい」
弁護人「刺青も入れていませんね」
証人「はい」
弁護人「堅気のつもりで生活していた」
弁護人「山本の事は、精神的にも慕っていたわけね?」
証人「今でも、です」
弁護人「山本は、貴方から見てどういう性格ですか?」
証人「明るくて、面倒見の良い人ですね」
弁護人「普通の市民に対して荒々しい事をやってはいけない、と信念として持っていると言っていますが」
証人「我々は、そう教わりました」
弁護人「堅気で無ければ、命を懸けて戦い、死守しろ。しかし、一般市民には手を出すな、と言われていた」
証人「堅気には迷惑をかけるな、と言われていました」
弁護人「抗争事件でも、市民を巻き込んではいけない、と言われた事はありますか?」
証人「あります」
弁護人「aさんとは長年諍いを起こさなかったようですが、今回の事件は、一般市民を抗争に巻き込まないという、山本さんの意見との衝突により起こった、という事ですね?」
証人「私もそのように聞いています」
弁護人「何故?」
証人「色々な人から聞きました」
弁護人「山本さんからも聞いた事がある」
証人「あります」
弁護人「貴方も、市民を巻き込まないように、aに言った事がありますか?」
証人「あります」
弁護人「具体的に証言できる?」
証人「出来ません」
弁護人「貴方は、ここで証言する事で、家族に不利益があったら困ると思っているわけ?」
証人「私は、起こした事件について、原因を話していないと聞いています」
弁護人「そんな事は無いですよ。気が狂ってやったわけではない」
証人「はい。(被告から)『武士道とは死ぬこと見つけたり。黙して語らず』と手紙が来ました。また、『子供が解るようになったら、事件の理由を知るのはお前だけだから、話してくれ』と手紙にはありました。それを守りたいと思います」
弁護人「幼い子供が大きくなったら、自分が事件を起こした理由を貴方から話して欲しいと言われたわけですか」
証人「はい」
弁護人「貴方は、aさんの指令に従ったことを反省している」
証人「はい」
弁護人「知りすぎた男として、消されてしまう事も考えた」
証人「はい」
弁護人「それがために、何というか、aさんとの関わりを、遺書のようなものをつくって、何通か作成した事がある」
証人「はい」
弁護人「警察に捕まる前に、遺書は処分したので、見つかっていませんが、聞いても良いですか?」
証人「はい」
弁護人「遺書と同じ内容の日記が、警察に押収されてますね」
証人「いいえ」
弁護人「検察官に日記を押収された事をご存じない?」
証人「・・・・・・・」
弁護人「私達が閲覧した事も、ご存じないんですか?」
証人「答えたくありません」
弁護人「平成15年暮れに事件が起こり、その年の3月頃に、貴方はaさんに、『山本ももう終わりだから関係を絶って自分の方に来い』と言われたと日記に書いていない?」
証人「答えたくありません」
弁護人「『山本ももう終わり』というaさんの言葉についても、答えたくない」
証人「はい」
弁護人「『自分の意思に反する事をするならば、姉や弟もあの世に送ってやる』と言われたという供述もありますが、それも答えたくない」
証人「はい」
弁護人「口で言われただけでなく『お前の女房子供も同じ所に送ってやる』と言われ、小便を垂れながら命乞いをした、とも日記に書かれていますが、答えたくない」
証人「はい」
弁護人「答えられない」
証人「はい」
弁護人「日記に書く事は答えてくれても良いと思いますが。(ここで、被告人が何か言った)貴方に迷惑をかけることを慮っているらしいですから、止めておきます。20年関係を持っていた山本さんとaさんの関係が悪化していった原因や経過も証言できませんか?」
証人「知っている限りで言います」
弁護人「経過をおっしゃってください」
証人「私に(aが)『親父に会うな』とか」
弁護人「親父とは?」
証人「開一です」
弁護人「山本」
証人「と言われました」
弁護人「aさんから、山本さんの出入りするゴルフ場への出入りを禁じられた」
証人「はい」
弁護人「埼玉の人とも会うな、と言われた」
証人「はい」
弁護人「前橋事件のあった後ですね?」
証人「はい」
弁護人「貴方は、それを守りましたか?」
証人「いいえ、会っていました」
弁護人「恐れていたのでは?」
証人「そうですが、会いたいので、会っていました」
弁護人「山本さんを尊敬している」
証人「はい」
弁護人「普通の人情だと・・・・・」
 被告人は、ここで、弁護人の言葉を遮った。
証人「親父が、話すのを望んでいないからです」
弁護人「山本さんは、幹部として、関わりを持つことは、有利であっても出来るだけ証言したくない、という事?」
証人「人様にこれ以上迷惑をかけたくない、という事だと思います」
弁護人「人様に迷惑をかけたくないからaさんを狙撃した、という事件では?」
 被告人は、弁護人に、何か話しかけた。
弁護人「大分用意したんですが、被告人もやめて欲しいといっていますし、証人も証言を拒否なさっているので(笑)これでやめておきます」

 続いて、眼鏡をかけた中年男性である、ワシダ弁護人からの証人尋問。

−ワシダ弁護人からの証人尋問−
弁護人「貴方とaさんの交流はどういうものでしたか?一緒に酒を飲む仲でしたか?それとも、幹部と部下という関係でしたか?」
証人「私のやっている店にも来られた事はありますし、幹部と部下という関係でもあります」
弁護人「貴方は、aさんに、大幹部として一目置いていた、という事ですか?」
証人「はい」
弁護人「親しくしてはいない」
証人「はい」
弁護人「顔見知りですか」
証人「はい」
弁護人「平成13年8月に、四ツ木斎場事件が起こり、その後報復が続いたという事でしたね」
証人「はい」
弁護人「貴方は、その四ツ木斎場事件の後、情報収集人として引っ張り込まれたという事に間違いないですか?」
証人「間違いないです」
弁護人「貴方は、aさんが、報復について『また失敗しやがった』という言葉を使ったのを聞いた事がある」
 被告人は、何か言う。
弁護人「聞いた事があるかだけ」
証人「あります」
弁護人「貴方は、山本氏に身の安全を相談した事はありますか?」
 被告人は、何か言う。
弁護人「あるかないかだけ」
証人「私は、報復について、山本氏から命令された事は一切ありません。それしか言えません」
弁護人「山本氏は、報復に一切関わっていないでしょう?」
証人「はい」
弁護人「山本氏から、aさんに協力してくれ、とも言われましたね?」
証人「はい」
弁護人「確認しますが、証言しないのは、自分の身や自分の家族の安全と、山本氏が『黙して語らず』と言っているからですか?」
証人「『黙して語らず』という手紙を貰っているので、答えられません」
弁護人「それと、家族の安全のためですか?」
証人「答えたくありません」
弁護人「いや、言っていたでしょう」
証人「・・・・・・・・」
弁護人「貴方が、aさんが死んでから三ヵ月後に自分の役割を捜査機関に言っていますが」
証人「答えたくありません」
弁護人「貴方は、自分に身の安全に危険があったら『逃がしてやるから』と山本氏から言われた事はありませんか?」
証人「『とれ、と言われても、自分はとる事ができないから、お前はここから離れて静かに暮らせ』と親父から言われた事があります」
弁護人「とるとは、殺すという事ですか?」
証人「答えられません」
弁護人「いや、それだけ・・・・」
被告人「答えられない、と言っているんだから、良いじゃないですか」
裁判長「答えたくないという事ですか?」
証人「はい」
弁護人「山本氏は、徹頭徹尾、人に迷惑をかけたくない、という人ですか?」
証人「はい」
弁護人「自分に有利になっても、人に迷惑をかけたくない」
証人「はい」
弁護人「aさんはbR、山本氏はbSでしたね」
証人「はい」
弁護人「しかし、山本氏とaさんの開きはもっと大きいという供述もある。それは事実ですか?」
証人「それはあります」
弁護人「aさんが死んで3ヵ月後に、貴方は、自分の関わりを捜査機関に話していますが、それだけaさんの影響力は大きかったのですか?」
証人「答えたくありません」

−Y1弁護人の証人尋問−
弁護人「日記帳について聞きます。Y1事件に関与した人の名前がずらっと書いてありますが、b兄弟が何らかの関わりを持っていたんですか?」
証人「私の口からは答えられません」
弁護人「答えられない?」
証人「はい」
裁判長「検察官からは?」
検察官「ありません」

−裁判長の証人尋問−
裁判長「山本さんから最後に手紙を貰ったのは、何時ですか?」
証人「私が垢落ちする前です」
 裁判長は、意味が解らなかったらしく、聞き返していた。
裁判長「召喚状が来てからではないんですか?」
証人「もっとずっと前です」
裁判長「ご苦労様でした」

 これで、証人尋問は終わる。被告人と証人は、互いに挨拶を交わし。被告人は、片手を上げて、証人に別れを告げる。
 証人は、退廷する。
 検察官は、弁護人請求の書証に不同意し、証人尋問については、不必要、とする。
 弁護人によると、情状証人は二人予定されていたが、X2氏だけになったらしい。出る事がなくなった情状証人は、本人は出廷したいと思っているらしいが、被告人は、迷惑をかけると思い、出廷に反対しているため、撤回という事になったと、弁護人は述べる。
裁判長「撤回で良い?」
 被告人は、頷く。
裁判長「いや、弁護人が決めて」
 被告人は、頭を振る。結局、証人は撤回となった。
 次回は、X2証人の尋問と、被告人質問が行われる。時間は、5月16日午後1時30分。法廷は変わらない。次回で最後になる、と裁判長は言っていたような気がする。
 公判は、11時25分に終了した。

 傍聴人が先に退廷させられる。
 被告人は、公判終了後、弁護人と何か話していた。

事件概要  山本被告は自分の兄貴分が自分の殺害計画を立てているという話を聞き、先手を打とうと2004年12月14日、埼玉県入間市で、兄貴分の組事務所内で発砲し、兄貴分ら5名を射殺したとされる。
報告者 相馬さん


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