裁判所・部 東京高等裁判所・第六刑事部
事件番号 平成15年(う)第2409号
事件名 現住建造物等放火、殺人、同未遂
被告名
担当判事 池田修(裁判長)山内昭義(右陪席)吉井隆平(左陪席)
その他 書記官:金子、長谷川、今泉
検察官:田中良
日付 2006.3.16 内容 被告人質問

 B被告はかなり高齢で、身長は低く、髪の毛もほとんどない老人だった。そのため、声がしゃがれていて聞き取りにくい。裁判官や検察官もB被告にかなり気をつかっていた。やや的外れな返答もあり、少しぼけているようにも思えたが、80歳を超えた高齢の割には元気そうだった。

裁判長「それでは前回に引き続いて被告人質問を行います。それでは被告人前へ」
 B被告が証言台前までゆっくりと歩き、刑務官に抱えられるようにして証言台に座る。
裁判長「今日は検察官から質問があります」
被告人「はい」
裁判長「よく最後まで質問を聞いて、ゆっくり、はっきりと答えてください」

−検察官の被告人質問−
検察官「では、ゆっくり質問を読みますから、前を見て、はっきりと質問に答えてくださいね。最初に、あなたはA養鶏場から給料を月いくらぐらいもらっていましたか?」
被告人「さあ、忘れちゃったね」
検察官「平成元年4月頃は?」
被告人「わからないですな」
検察官「やめたころは?」
被告人「わからないです」
検察官「では、事件の前後は給料が上がったり下がったりしましたか?」
被告人「上がったり下がったりしました」
検察官「事件後はどうでしたか?」
被告人「下がりました」
検察官「いくらぐらい下がりましたか?」
被告人「さぁ・・・」
検察官「何千円単位とかですか?」
 被告人は何か答えるが、非常に聞き取りにくい。検察官が数回聞き返す。どうやら、一時間で何千円か下がったということらしい。
検察官「あなたがお姉さんと暮らしていたとき、お姉さんにいくらぐらい渡していましたか?」
被告人「5万円ぐらいです」
検察官「あなたは小遣いとしてどれぐらいつかっていましたか?」
被告人「わからないです」
検察官「貯金はできましたか?」
被告人「できました。(比較的はっきりとした口調)」
検察官「毎月いくらぐらいですか?」
被告人「・・・わからないです」
検察官「何万円単位とかですか?」
被告人「・・・わからないです」
検察官「A養鶏場には決まった休みはありましたか?」
被告人「ないです」
検察官「土日とか祭日は?」
被告人「ないです」
検察官「ほとんど休みはないということですね」
被告人「はい」
検察官「競艇や競馬などギャンブルに行く暇はないということですね?」
被告人「ありません」
検察官「あなたの取調べにあたったのは、Y1警察官と、Y2検事ですね?」
被告人「はい」
検察官「火をつけたことはきかれましたか?」
被告人「はい」
検察官「Aさんに何か頼まれたことはありましたか?」
被告人「あった。断ったことはありません」
検察官「そうしたやり取りを、Y1警察官とY2検事にしましたか?」
被告人「しました」
検察官「Y1警察官は、Aから頼まれて、油をまいて火をつけたことを言ったとおり調書にしてくれましたか?」
被告人「してくれました」
検察官「Y2検事は話したとおり調書にしてくれましたか?」
被告人「話したとおりですね」
検察官「Y1警察官はあなたの話したとおり調書を書いてくれましたか?」
被告人「・・・」
検察官「Y2検事はどうでしたか?」
被告人「わからない」
検察官「覚えていないということですか?」
被告人「立ち会ってるわけじゃねぇし、わからねぇ」
検察官「調書にはあなたが火をつけたと書かれていますが、それはわかっていますか?」
被告人「わかってる」
検察官「確認しますが、その調書に書かれていることは、本当のことではないということですね?」
被告人「ないです」
検察官「Y1警察官とY2検事が勝手に調書を書いたということですか?」
被告人「・・・結局〜、調書は向こうがせっかく書いたんだから、おさなべちゃ(?)悪いと思った(検察官が聞き返すが、ほぼ同じことを言う)」
検察官「あなたは最初から調書の作成に進んで協力しましたか?」
被告人「しました」
検察官「どのようにしましたか?」
被告人「Y1警察官が、『せっかく作ったから署名しろ』と言われたので署名しました」
検察官「そういうことは何回ありましたか?」
被告人「一回」
検察官「さっき、『おさなべちゃ(?)悪いと思った』と言いますが、どういうことか説明してくれますか?」
被告人「説明できない」
検察官「あなたはaさんの家に放火しましたね?」
 被告人は何か答えるが、非常に聞き取りにくい。検察官が2回聞きなおし、裁判長が『私の署名があるんですか?って言ってます』と”通訳”してやっと裁判が進む。
検察官「原審の審理では、『後で証拠をみせると言われて騙された』と言ってますね?」
被告人「そのとおりです」
検察官「しかし、原審では『悪いから調書にハンコを押した」とは言っていませんが?」
被告人「わかりません(覚えていない)」
検察官「Y2検事から『(ハンコを)押さなければ、俺の役目が立たない」と言われた?」
被告人「〜〜〜」
検察官「わからないんだけど、もう一回。『(ハンコを)押さなければ、俺の役目が立たない』と言われましたか?」
被告人「そうだよ、そういうことだよ」
検察官「あなたがやっていないなら、押す必要はないじゃないんですか。どうして押したんですか?」
被告人「それはわからない」
検察官「あなたがY2検事から「押さなければ、俺の役目が立たない」と言われたということは、原審では出てないんですけどね」
被告人「出ていませんか?・・・そうですか・・」
検察官「Aさんから頼まれたことはありましたか」
被告人「覚えていない」
検察官「油をまけとかは?」
被告人「覚えていない」
検察官「家の外に撒けとか?」
被告人「覚えていない」
検察官「頼まれたら、Aが何かするんですか?報酬ですね」
被告人「・・・」
検察官「お金をくれるとか、家を建ててやるとか」
被告人「ないです。そんな話はありません」
検察官「ないということは覚えているんですね。Aさんから、ゲージ、鶏舎の修理をいつ指示されましたか?」
被告人「覚えていません」
検察官「Aさんの指示ですか?」
被告人「そうです」
検察官「いつかが覚えていない」
被告人「覚えていません」
検察官「夜とか、急ぎとか」
被告人「わからないです」
検察官「前日夜のみに急ぎとか」
被告人「わからないです」
検察官「前日鶏舎の修理はしなくてよかった?」
被告人「わからないです」
検察官「鶏舎のまわりに3人ぐらいの人がじゃんけんをし、かけっこをしていたことは?」
被告人「覚えていない」
検察官「火が出た日に警察に、五反田のaさんのところで、そんなおかしなことをする人が出ると話しましたか?」
被告人「いやしない」
検察官「おかしいとは思いましたか?」
被告人「思った」
検察官「どうして話さなかったんですか?」
被告人「離れていたから、放火するとは思えなかった(から)」
検察官「火事のとき、雨ガッパを着た2人が出てきたことは?」
被告人「話しませんでした」
検察官「火事の日、警察から事情聴取をされなかったですか?」
被告人「そのときは、雨ガッパの2人のことは話してません」
検察官「じゃんけんしてかけっこをしていた人たちのことは?」
被告人「しない」
検察官「なぜですか?」
被告人「なぜって・・・、わからないことは話さない」
検察官「不審な人がいなかったかとか聞かれませんでしたか?」
被告人「聞かれませんでした」
検察官「aさんが、「おじちゃんに火をつけられた」と証言したことは知っていますか?」
被告人「警察から聞きました」
検察官「aさんに「余計なことは言うな」と言ったことは?」
被告人「ありません」
検察官「はい、終わります」

 これで、検察官の質問が終わり、裁判官の質問が行われる。質問をしたのは、裁判長ではなく、右陪席(傍聴席から見て左の席で、裁判長から見ての右の席)の裁判官が質問をした。

−右陪席裁判官の被告人質問−
右陪席「はい、ひとつだけ質問しますね。Aさんから火をつけるよう頼まれたとき、油の入ったポリタンクを用意しましたね。そのことはaさんは知っていましたか?」
被告人「しらない」
右陪席「あなたが針金でポリタンクをしばったんですか?」
被告人「しらない」
右陪席「aさんに頼んだんですか?」
被告人「しらない」
右陪席「aさんにポリタンクのことは話しましたか?」
被告人「話してません」
右陪席「火事のとき、近くにポリタンクはありましたか?」
被告人「ない」
右陪席「火事のとき誰かが使ったという心あたりはありますか?」
被告人「こころあたりはない」
右陪席「aさんは知らないんですね。そうするとね、ポリタンクをのことを知ってるのはA社長とあなたしかいないということになりますが、A社長にポリタンクのことを聞きましたか?」
被告人「聞きません」
右陪席「ポリタンクのことを怪しいとか、警察に聞かれると思いませんでしたか?」
被告人「思いました」
右陪席「(裁判長に方を少し向いて)終わります」
裁判長「では、元の席に戻って」

 刑務官がB被告を証言台から抱きかかえるようにして立ち、被告人席に戻る。
 裁判官たちと2人の弁護人がそれぞれ膨大な記録のページをめくり、何やらヒソヒソ話をする。

裁判長「弁護人請求のa証人、これは却下します。次回は弁論ということで・・・」
弁護人「裁判長!a氏の書記供述の心理学的分析を千葉大学O教授にお願いしています。4月の下旬に大体完成しますので、それを取り調べ請求したいのですが」
裁判長「それでは、5月の初めに弁論を行います。5月9日の午後は?」
弁護人「(手帳を見て)差し支えます」
裁判長「5月11日午後は?」
弁護人「差し支えます」
裁判長「5月16日」
弁護人「午後なら・・・」
裁判長「それでは、1時半で」
弁護人「(2人でヒソヒソ話をしてから)あのー、O教授の(分析の)取調べ請求は、もし検察官が不同意した場合の扱いはどうなりますか?」
裁判長「・・・不確定要素が多すぎて、何とも(笑)。それがどんなのかわかりませんし・・・。16日は弁論のみということで、30分ぐらい(時間を)とります。取調べをするかどうかについての弁論です。事実取り調べに基づく(最終)弁論ができないということはわかります。次回期日は5月16日の火曜日、1時30分からということで」

 これでこの日の公判は閉廷した。
 閉廷後、3人の判事と2人の弁護人がそれぞれ談笑していた。

事件概要  B被告は勤務先の養鶏場の社長の依頼で、1989年4月5日、埼玉県熊谷市の養鶏場内にある同僚の住むプレハブ小屋を放火し、同棲の妻を焼死させ、同僚に重傷を負わせたとされる。
 B被告は2002年7月11日に逮捕された。
報告者 Doneさん


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