裁判所・部 東京高等裁判所・第六刑事部
事件番号 平成16年(う)第3310号
事件名 強盗殺人、強盗傷人、銃刀法違反、大麻取締法違反、強盗致傷
被告名
担当判事 池田修(裁判長)山内昭義(右陪席)吉井隆平(左陪席)
その他 検察官:遠藤みどり
日付 2006.2.28 内容 被告人質問

 公判は718号法廷で3時から行われた。
 弁護人は、眼鏡をかけた初老の男性。開廷前には、何か書類を読んでいた。
 検察官は、髪を後ろで纏めた、眼鏡をかけた中年女性。前回と同じく、安藤義雄の審理を担当していた検察官。
 傍聴人は、私を除いて三人いた。
 被告人は、上下とも、黒に近い色の服を着ている。細身で、肌が白く、眉が少し太く、髪が短い。
 弁護人は、前回出廷できなかった理由に関して、期日が如何とか理由を述べる(忘れていたとは言っていなかったような気がする)。

 本日は、弁護人からの被告人質問が行われる。

裁判長「被告人、前に出て」
 被告人は、促され、証言台の椅子に座る。

−弁護人の被告人質問−
弁護人「前回では、東京からお母さんと一緒に福岡へ行った時に、電車の中でお母さんとは話をしなかったといっていた。お母さんの家は田舎ですか?」
被告人「田舎です」
弁護人「町から一時間かかるくらい離れている」
被告人「その通りです」
弁護人「お母さんは誰かと一緒に生活していましたか?」
被告人「男の人と」
弁護人「一緒に生活した?別に生活した?」
被告人「別です」
弁護人「男の人が出て行った」
被告人「はい」
弁護人「どのくらい一緒に居ましたか?」
被告人「覚えていません」
弁護人「原審では、一ヶ月で貴方とあわないと出ていったと言っています」
被告人「はい」
弁護人「東京で保護観察になり、保護司の所に行く事になった」
被告人「はい」
弁護人「そういう手続きをしましたか?」
被告人「覚えていません」
弁護人「保護司の所にお母さんと行った記憶はありますか?」
被告人「あります」
弁護人「(保護司から)ここではこうした方が良いとか言われませんでしたか?」
被告人「何か言われたか覚えていません」
弁護人「仕事を見つけてきちんと働けとは言われませんでしたか?」
被告人「言われました」
弁護人「仕事は探しましたか?」
被告人「ハローワークに行きました」
弁護人「うまくいかなかった」
被告人「はい」
弁護人「何故上手くいかない?」
被告人「母親が勝手に決めてしまって、そこへ行け、と」
弁護人「あまり貴方にあった職場ではなかった」
被告人「はい」
弁護人「仕事をしないで、ほとんど家に居た」
被告人「はい」
弁護人「お母さんとは上手くいかなかった?」
被告人「話をあまりしませんでした」
弁護人「お母さんは、貴方と上手くやっていこうという話はしませんでしたか?」
被告人「しませんでした」
弁護人「貴方も話をしなかった」
被告人「はい」
弁護人「犬と一緒に居た、と調書にあるが、その事ですか?」
被告人「はい」
弁護人「最後には、東京に行くことになったが、何故ですか?」
被告人「母の連れの男の人からでした」
弁護人「何故ですか?」
被告人「・・・・・面倒が見れない」
弁護人「ここでは面倒が見れないから、貴方は東京で生活しろと」
被告人「はい」
弁護人「何故その人の口から言われたと思いますか?」
被告人「母の口から言えないからだと」
弁護人「毎月保護司さんに会ってはいた」
被告人「はい」
弁護人「東京に行く時、仕事や住まいはどうしろととか言われました?」
被告人「ありませんでしたが、東京に着いたら隅田の児童相談所に電話しろと言われました。そうすれば何とかなると」
弁護人「お金はありましたか?」
被告人「あまりありませんでした」
弁護人「少しは渡された」
被告人「はい」
弁護人「東京について、児童相談所に電話しましたか?」
被告人「はい」
弁護人「それで、どうなりましたか?」
被告人「今一杯だから、ハローワークに行け、と言われました」
弁護人「家が無ければ早速困りますが、どうしました?」
被告人「野宿しました」
弁護人「どこに?」
被告人「公園とか」
弁護人「7月だから寒くないからそこで寝て過ごした。食べるものはどうしましたか?」
被告人「万引きしました」
弁護人「ハローワークはどこにあった?」
被告人「新木場にありました」
弁護人「どうしました?」
被告人「行ったんですが、未成年なので保護者の同意がいる、というので出て行きました」
弁護人「どうにも成らないと思った」
被告人「はい」
弁護人「仕事をどうするかは?」
被告人「考えていなかったです」
弁護人「仕事をその後始めていますが、どこかで、誰かに言われたんですか?」
被告人「公園で・・・・」
弁護人「誰に言われた?」
被告人「いつも野宿をしている公園で声をかけられて、ついていったら、暴力団事務所だった」
弁護人「どこまでついていった?」
被告人「埼玉のミサワまで」
弁護人「何で暴力団事務所だと解ったんですか?看板でもありましたか?」
被告人「それもありましたが、刺青をしていました」
弁護人「それで、そこで働く事はどうだった?」
被告人「行く場所も無いので、食べるものと寝るところはもらえるので」
弁護人「どこに住んでいましたか?」
被告人「小岩です」
弁護人「一人で住んでいた?」
被告人「後で一人入ってきました」
弁護人「仕事は?」
被告人「喫茶店でノミ行為をしました」
弁護人「どのくらいの時間働いていましたか?」
被告人「午前11時から午後5時。遅くて午後8時とか」
弁護人「休みはありましたか?」
被告人「ありません」
弁護人「給料は?」
被告人「始めは10万円」
弁護人「約束どおりもらえましたか?」
被告人「もらえません」
弁護人「お金はどうしましたか?」
被告人「お金のいる時は前借として一万借りていました」
弁護人「翌年の一月、事件の直前に逃げ出していますが、何故ですか?」
被告人「休みが無いし、お金がもらえない」
弁護人「居てもしょうがないと」
被告人「はい」
弁護人「暴力団から逃げ出して見つかると酷い目にあう、とは良く聞きますが、見つかると酷い眼にあうとは思いませんでしたか?」
被告人「考えていなかったです」
弁護人「大麻を吸うようになりましたね」
被告人「はい」
弁護人「暴力団の人に教えてもらった」
被告人「はい」
弁護人「なぜ大麻をくれたと思いますか?」
被告人「たぶん・・・・・お金とか貰ってなかったんで、その代わりだと思います」
弁護人「逃げ出してからいったん戻ってきているが、何故ですか?」
被告人「住む場所が無い」
弁護人「貴方から戻ってきたんですか?それとも、見つかった?」
被告人「上野で見つかりました」
弁護人「逃げたことで色々言われなかった?」
被告人「覚えていません」
弁護人「覚えていない」
被告人「はい」
弁護人「監視がきつくなったりはしませんでしたか?」
被告人「いいえ」
弁護人「仕事はどうなりましたか?」
被告人「場所が変わりました」
弁護人「今まではどこで仕事をしていましたか?」
被告人「小岩です」
弁護人「逃げてからはどこになりましたか?」
被告人「錦糸町」
弁護人「また逃げているが、理由は何ですか?」
被告人「前と同じです」
弁護人「大麻を吸うとどうなりますか?」
被告人「朦朧とします」
弁護人「いい感じはしますか?」
被告人「いい感じはしません」
弁護人「タバコとどっちが良い?」
被告人「大麻です」
弁護人「大麻を、捕まってから吸っていませんね?」
被告人「はい」
弁護人「今は大丈夫?吸わなかったらだるくなったりとか無い?」
被告人「はい」
弁護人「最初、Y1さんから大麻を貰ったのを隠している」
被告人「はい」
弁護人「何故ですか?」
被告人「自分の居場所が見つかるのが嫌だった」
弁護人「事件の直前にナイフを持っているが、以前も持っていた?」
被告人「・・・・・・・」
弁護人「思い出せない?ナイフを持っていたのが警察にばれて居られなくなった、と言っていたが」
被告人「はい」
弁護人「ナイフを持っているとどんな良い事があるんですか?」
被告人「安心感がありました」
弁護人「調書では『強い味方が付いてくれる』と」言っていますが、そういう気持ちですか?」
被告人「はい」
弁護人「ナイフを持っていなければ不安だった」
被告人「はい」
弁護人「以前から、ナイフを持っていなければ不安な状況で生活していた、という事ですか?」
被告人「はい」
弁護人「事件前には、カプセルホテルに泊まるお金も無かった」
被告人「はい」
弁護人「事件直前は寒くなかった?」
被告人「寒かったです」
弁護人「食べ物はどうしていましたか?」
被告人「万引きしました」
弁護人「お金が欲しいので、色々な事件をやった」
被告人「はい」
弁護人「一番私が良くわからないのは、金が欲しくて、おばあちゃんと出会ってメッタ刺しにした事だけど、二回しか刺した記憶が無い」
被告人「はい」
弁護人「今でもですか?」
被告人「はい」
弁護人「何回も刺していると、上申書や調書に何度も出てきているけど」
被告人「取り調べの刑事が人の形を書いて、これが被害者の傷だ、裁判でこれと合わなきゃおかしいぞ、と言われました」
弁護人「刑事から教えられた」
被告人「はい」
弁護人「取調べ前の上申書でも、何回も刺したと出てきていますが、何故ですか?」
被告人「・・・・・・よく解んないです」
弁護人「よく解んない。あなた自身は最初はどう思った?」
被告人「そんなに刺してない」
弁護人「刺してなくても、おばあちゃんには傷がたくさんある」
被告人「はい」
弁護人「それでは、どうなんだろう」
被告人「・・・・・・・」
弁護人「貴方の調書では、『他の人がやった』ともありますが、そうは思わなかった?」
被告人「思いました」
弁護人「何故そう言わなかった?」
被告人「おかしいと思われると思いました」
 被告人は、江戸川の警察の刑事には、その事を言ったらしい。
弁護人「何と言われましたか?」
被告人「・・・・・・・」
弁護人「貴方は、おかしいと言われた、と、私は貴方から聞いている」
被告人「・・・・・・・」
弁護人「どう言われたかは?」
被告人「覚えてないです」
弁護人「とにかく、おかしいと言われた」
被告人「はい」
弁護人「どういう風に刺したかは、何故説明できたんですか?」
被告人「傷の在る所は、Y2刑事とY3刑事が自分の前でやって見せました」
弁護人「その通りにやって見せた」
弁護人「現場で再現していますね」
被告人「はい」
弁護人「だから再現できた」
被告人「はい」
弁護人「刺した時点では、おばあちゃんが亡くなったと思った?」
被告人「思いませんでした」
弁護人「二回しか刺していないから」
被告人「はい」
弁護人「亡くなったのは、何時知った?」
被告人「公園で高校生っぽい二人組みと出会って、事件の話が」
弁護人「貴方の方から聞いたのですか?」
被告人「(高校生っぽい二人組みに)恐喝されそうになって、相手は、自分のやった事件の話をしてきました。そのうち一人が、『(被告人が事件を起した所で)自分は人を刺した』と言っていたので、もう一人が、『あ、それ知ってる』と言いました。それで、死んだのかな、と思いました」
弁護人「貴方の調書はどのように作られた?」
被告人「自分の調書・・・・・普通に刑事と話していて、一人が外に出て行って・・・・・・」
弁護人「出て行って、もう一人が調書を書いた」
被告人「はい」
弁護人「出来上がっていた」
被告人「次の日、取調べを受ける時には出来上がっていました」
弁護人「調書を読み上げてもらった?」
被告人「はい」
弁護人「それで、検討はしましたか?」
被告人「しませんでした」
弁護人「何故?」
被告人「刑事がいちいち説明してくれたので」
弁護人「刺した回数が違うとは言わなかった?」
被告人「言わなかったです」
弁護人「弁護人が付けられるとは聞いている」
被告人「はい」
弁護人「付けようとは思いませんでした?」
被告人「思いませんでした」
弁護人「付けようとは思わなかった」
被告人「はい」
弁護人「どうして?」
被告人「そんな・・・・・上手く説明できないです」
弁護人「上手く説明できない」
被告人「はい」
弁護人「とにかく、弁護人をつける気持ちにならなかった」
被告人「はい」
弁護人「おばあちゃんが亡くなっていれば大変な事件になるが、それでも付けようとは思わなかった」
被告人「はい」
弁護人「どうなると思っていましたか?」
被告人「すぐに終わると」
弁護人「死刑になるとは?」
被告人「思いませんでした」
弁護人「死刑になるとは誰から聞きましたか?」
被告人「検事から聞きました」
弁護人「どのように聞きましたか?」
被告人「最高で死刑だ。死刑か無期懲役だと聞きました」
弁護人「それでも弁護人を付けようとは思わなかった」
被告人「はい」
弁護人「調書に違った事を掻かれていても訂正しようとは思わなかった」
被告人「はい」
弁護人「成るようにしか成らないと思っていたんですか?」
被告人「どうでもいいと思っていました」
弁護人「最初からそういう感じになっていた」
被告人「はい」
弁護人「おじいちゃんの事件では、『ナイフを持っていたが、突きつけていない』と原審で言っているが、間違いないですね?」
被告人「はい」
弁護人「調書では、ナイフを突き付け『おい、金を出せ』と言ったとあるが、何故そうなっている?」
被告人「解りません」
弁護人「違っていても直してもらわなかった」
被告人「はい」
弁護人「さっき言ったように、どうでも良いと?」
被告人「大した違いはないと思っていました」
弁護人「おばあちゃんの事件の後、高校生の事件があった」
被告人「はい」
弁護人「其の時、土手の上で銭を取って、『人を刺した』とは言ったけど、『刺し殺した』とは言っていない?」
被告人「はい」
弁護人「『人を刺した』と言った事や、土手の上で脅した事に対して違う事が書かれている。それも、大して違わないと?どうでも良いと思った?」
被告人「はい」
弁護人「ごちゃごちゃするのが嫌だった」
被告人「はい」
弁護人「亡くなったおばあちゃんに対してはどう思っていますか?」
被告人「可哀想な事をしたと思っています」
弁護人「申し訳ないと思っている」
被告人「はい」
弁護人「おじいさんや、高校生を脅した事に対しては?」
被告人「申し訳ないと思っています」
弁護人「今ではそう思っている」
被告人「はい」
弁護人「今日は終わります」

 検察官からの被告人質問は、今日は行われなかった。次回に40分間行われることになる。
 次回は、3月14日の2時30分から3時30分まで。
 3月30日3時40分から弁論となる。
 こうして、公判は3時44分に終了した。

 席から立ち上がる時、被告人は、やや疲れたような感じで立ち上がった。
 被告人は、質問に答える間、声の感じを変えることは無く、声に感情はあまり表れていなかった。態度は、どこか熱意に乏しかった。証言台には、やや伏し目がちに座っていた。

報告者 相馬さん


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