裁判所・部 東京高等裁判所・刑事第四部
事件番号 平成17年(う)第2616号
事件名 現住建造物等放火、殺人、殺人未遂(変更後の訴因・現住建造物等放火、殺人)
被告名
担当判事 仙波厚(裁判長)嶋原文雄(右陪席)秋山敬(左陪席)
日付 2006.2.21 内容 判決

 弁護人は、眼鏡をかけた、髪を七三分けにした黒いスーツ姿の中年男性。開廷前には、何かを書いていた。
 検察官は、白髪交じりの髪を七三分けにした、肌の浅黒い眼鏡をかけた初老の男性。
 傍聴人は、私を除いて10名程度居た。
 理由は定かではないが、裁判長たちの方が、被告よりも先に入廷した。
 被告人は、頭を丸坊主にした、いかつい顔の痩せた初老の男性。ジャージ姿。

裁判長「それでは開廷します。今日は判決を言い渡します(訴因の変更の旨を述べる)」

−主文−
 本件控訴を棄却する。原審未決期間90日を、本刑に算入する。

−理由−
 事実誤認の主張について。
 被告人は異常酩酊の状態にあり、心神喪失、もしくは心神耗弱の状態にあり、その点を考慮しなかった一審判決は事実誤認である、という主張である。しかし、原判決の認定は正当である。
 被告人はY1と出会い、一時付き合ったが別れ、aと出会い、同棲し、結婚する。その後、aは障害を負い、排泄の世話をしなければならなくなった。離婚しても、同人とは同棲していた。また、bも同室で同棲するようになった。
 bとは生活保護費のことで口論が絶えなくなり、aからは「出て行け」と言われ、被告は役所にもその事を相談していた。
 被告は、いったん外出したあと一人で酒を飲み続け、家に帰り、かえって来たaと口論になった。その後、bと口論になり、脅すために部屋に灯油を撒いた。しかし、bはなおも文句を言い続け、被告人は、灯油に火をつけた。10時ごろ、灯油のしみこんだ布団に火をつけ、燃え上がらせた。オオタ荘は全焼し、a、bは広範囲にわたって火傷を負い、死亡した。
 被告人は下着姿で逃げ、公園で水を飲み、知人の家に行き、aらの安否を確認に行ったところ、逮捕された。
 被告人は、自律神経失調症、高血圧、精神安定剤の薬を病院から処方されていた。
 本件犯行は、犯行以前、bから関係を解消するよう文句を言われ、激昂して放火に及んだものであり、了解可能である。被告人は合理的、合目的的に行動しており、意識障害も無い。
 原審においても、いったん結審した後に審理を再開しているが、その時も殺害行為は認めていた。
 被告人は犯行時、異常酩酊の状態に無く、心神喪失、心神耗弱の事実は無い。論旨に理由は無い。
 量刑不当の主張について。本件は、被告人が二人の女性と暮らしていたアパートに放火し、二人を死亡させアパートを全焼させた事案である。
 二人の女性と不安定な同棲生活を送り、bから文句を言われた事に激昂して放火を行ったものである。
 bには殺害されなければならないほどのいわれは無い。
 二人の死亡の可能性を認めながら放火したものであり、残忍かつ非道である。
 周辺住民に与えた恐怖も大きい。
 被害者らの苦痛は察するに余りある。
 遺族は被告人に対し厳罰を求めている。
 殺意は未必的なもので、酔余の激昂に基づくものであり、高齢のaの介護疲れに端を発するものである事、オオタ荘の住民に謝罪文を書いている事、被害者の冥福を祈っている事、被告人には古い前科が一つあるだけである事、被告人の弟が当審に出廷して、被告人のために意見を述べていることを考慮しても、無期懲役はやむをえない。
 本件訴訟費用は被告人に負担させない。

裁判長「原判決における責任能力の認定に誤りは無く、量刑も不当ではない。不服ならば14日以内に上告する事ができます。解りましたか?」
 被告は頷く。
裁判長「それでは閉廷します」
 3時15分に公判は終了した。

 被告人は、深くうつむいて判決を聞いていた。
 関係者が居なかったのかもしれないが、退廷する時に傍聴席に眼を向ける事は無かった。どこか申し訳なさそうな表情を浮かべているように思えた。

事件概要  A被告は2004年11月1日、埼玉県戸田市の自宅アパートで、同棲している女性と口論になり、自分の部屋に灯油をまいて放火し、2名の女性を焼死させたとされる。
報告者 相馬さん


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