裁判所・部 東京高等裁判所・刑事第七部
事件番号 平成17年(う)第2380号
事件名 強盗殺人、死体遺棄、窃盗
被告名
担当判事 植村立郎(裁判長)
日付 2006.2.17 内容 判決

 検察官は、眼鏡をかけた、髪が後退した初老の男性。開廷前に、書類を読んでいた。
 弁護人は、細身の中年男性。開廷前には、何かを書いていた。
 傍聴人は、私を除き、20名程度いた。その中には、報道関係者らしき人もかなりの割合で混じっていた。
 被告人は、小柄でずんぐりした初老の男性。髪が後退していて、眉が太い。紺色の服に、黒いズボンといういでたち。硬い表情で入廷する。
 そして、1時30分から、717号法廷で、判決公判が始まった。

裁判長「A被告ですね」
被告「はい」
裁判長「本籍、住所などは、前に書いてもらってから変更はありませんね」
被告「はい」
 そして、裁判長は、判決主文を言い渡した。

−主文−
 原判決を破棄する。被告人を無期懲役に処する。原審における未決期間を算入する。

 被告は、主文が言い渡された瞬間、瞬きをし、微かに頷いていた。
 主文が言い渡された後で、何人かが出て行った。恐らく報道関係者だろう。

−理由−
 本件は、量刑不当の主張である。
 第一判示は、被告は義母からキャッシュカードを盗んだ。そして、ローンに苦しんでいた被告人は、平成17年1月14日、義母を車中で殺害し、合計2万7千円相当を摂取する。
 義母の遺体を、同車両にのせて遺棄した。
 本件の量刑上、最も重要な強盗殺人は、利欲目的であり、巧妙、卑劣な方法で義母を殺害したもので、重大なものである。本件はこれらのものを見ても、典型的な強盗殺人である。
 精神的にもろい妻と、被告と、義母の特殊な人間関係が犯行と関連がある、という原判決の指摘は、被告のために汲むべき事情とは成りえない。
 本件強盗殺人に至る経緯を見ると、被告人は順調に出世していったが、やがて思うようにいかなくなった。また、昭和58年に妻と結婚して一児を儲け、住宅ローンを組んで家を買ったが、予想していたようには収入は上がらず、金銭的に困難な状況となった。にも拘らず、生活レベルを落とさず、サラ金に手を出す。義母から400万円借金をし、友人からも借金をする。
 義母と妻が温泉に行っている間に、義母のキャッシュカードを盗んでいる。窃盗被害額は490万であり、それ自体、義母との信頼を裏切ったものである。
 義母を殺害後、妻子を欺き続けており、それも悪質である。摂取した金銭を遊興費に使ってはいないが、それは考慮するほどではない。
 精神的に不安定な妻を慮っていたが、犯行は独善的である。
 原判決の説示を考慮しても、(犯行は)被告の見栄っ張りを取り繕う面が強く、原判決の、独善的である、という非難は正当である。そして、全ての責任が被告にあるとはいえない、という認定は、不当である。
 借金返済の金を準備せず、借金返済を装って義母を誘い出し殺害したものであり、高度な計画性は無いという判断は不当である。
 妻ら遺族は被告人に対し厳罰を求めている。本件犯行の結果は重大である。
 妻と家庭を長年支えてきた事は評価しても良い。
 原判決の説示自体は誤りではないが、その理由は被告に汲むべき事情にならない。
 原判決は誤った酌量軽減を成し、有期懲役の最高刑にも満たない懲役25年を科しており、軽きに失する

 被告は、判決が言い渡される間、終始うつむいて判決を聞いていた。
裁判長「大きくは同じような立場に立っていますが、原判決は被告人の量刑判断を軽く誤っている、というのが当裁判所の結論です。以上が控訴審の判断ですが、上告するならば14日以内に上告してください。以上です」
 被告は、退廷する時は傍聴席に眼を向ける事はなかったが、検察官と頷きあっていた。
 1時50分より少し前に終わった。

 廊下では、傍聴人が、
「きびしいねえ」
「あの日とおとなしい方だよ」
「だけどやる事が馬鹿だねえ、見栄っ張りというか」
等と話し合っていた。

事件概要  A被告は、2005年1月14日、群馬県邑楽町の路上に止めた自動車内で、強盗目的で義母を絞殺したとされる。
報告者 相馬さん


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