裁判所・部 東京高等裁判所・刑事第七部
事件番号 平成17年(う)第2561号
事件名 銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂、殺人、出入国管理及び難民法違反
被告名 金在宇ことジン・ザイユイ
担当判事 植村立郎(裁判長)荒川英明(右陪席)伊東顕(左陪席)
その他 検察官:八幡雄治
日付 2006.2.13 内容 初公判

 検察官は、白髪交じりの髪が後退した、眼鏡をかけたグレーのスーツ姿の5〜60代ぐらいの男性。
 弁護人は、頭の禿げあがった黒いスーツ姿の老人。
 開廷前、弁護人、書記官、検察官は、控訴趣意書の事に関して話をしていた。弁護人の、被告の主張や控訴趣意書が解り難い、という言葉に、検察官は「内容は解り易いですよ。共謀が無かったという話でしょ?それは原審の主張とほとんど変わりないと思いますけどね」と答え、弁護人は、「ええ」と返事をした。
 傍聴人は、私以外には誰も居なかったが、途中で出入りした人が2人ぐらい居た。
 被告は、髪は短く、額が広く、痩せ気味で、目がやや細く、白い肌の持ち主。ベージュのジャンパーに黒いズボン、という出で立ち。
 裁判長は、眼鏡をかけた、前頭部の禿げ上がった老人。

 控訴審第一回公判は、10時30分から717号法廷で開始された。
 若い女性の職員により、開廷が宣言される。
 通訳が証言台に立ち、宣誓を行う。

裁判長「被告人、前に出て」
 被告は、証言台に立つ。
裁判長「これから控訴審の審理を行います。名前は?」
被告「キム・ジェウです」
裁判長「キン・ザイユイという名前は使う?」
被告「私の名前はキム・ジェウと発音しますが、日本語ではキン・ザイユイと言います」
 本来はキム・ジェウという名前であり、中国式ではジン・ザイユイと発音するらしい。
裁判長「生年月日は?」
被告「1964年11月2日です」
裁判長「国籍は?」
被告「中国です」
裁判長「住所不定?」
被告「はい」
裁判長「無職?」
被告「はい」
 弁護人の控訴趣意書は陳述せず、被告人の控訴趣意書のみを陳述する事になる。
裁判長「事実誤認の主張ですか?」
弁護人「そうですね」
裁判長「以上を前提に、検察官は答弁を述べてください」
検察官「本件控訴は理由がなく棄却されるのが相当」

 事実調べに入る。
 被告人質問が請求されていたが、それについて、弁護人は、控訴趣意書の不明な点について行いたい、と述べる。その不明な点とは、督促の電話がかかってきたが誰の督促か明らかではない事、aが何と言って席を移るように言ったのか、控訴趣意書12ページの「銃声が聞こえたと説明があると同時に、耳が聞こえなくなり、行動を見て判断しました」という点について誰の行動か解らない、というもの。
 また、原審では弁護人の被告人質問にほとんど答える事無く判決を迎えたが、現在の心境を聞きたい、とも述べる。
 検察官は、被告人質問の必要性は無い、と述べる。
 裁判長は、弁護人は被告人質問を求め、検察官は、被告人質問は不要である、と述べた旨を、通訳を介して被告に伝える。
 裁判長達は、退廷して合議を行う。
 合議の間、弁護人は、身振り手振りを交えて被告人と少し話をしていた。
 裁判長達は再び入廷する。
 控訴趣意書に関しては、立証趣旨は被告の言い分として、検察官は同意する。
 その旨を、裁判長は通訳を介し被告に伝える。
 被告人質問は、一番目の趣旨については認められた。しかし、二番目の趣旨については認められなかった。
 続いて、被告人質問が行われる。

−弁護人の被告人質問−
弁護人「貴方の書いた控訴趣意書の1ページ目に、6マルとした所に、Y1の家にブンカクから何度も督促の電話がかかってきたとあるが、その内容は?」
被告「喧嘩があった後に、私は連絡の役割を請け負い、ブンカクと連絡を取るようになりました。(被告は口ごもり)Y1の家に居た時に、あまりに疲れたので、私はブンカクに電話しました。私はその時、携帯電話をチン・イドンから借りてブンカクに電話しました。そうしたら、ただいま運転中ですとアナウンスが入ったので、連絡が取れませんでした。暫くして、ブンカクから、私の持っていたチン・イドンの電話に連絡があり、この電話をこれからも使うのか、と言われました。私は、私の携帯は今充電中だと答えました。ブンカクは風呂に入っている途中でした」
弁護人「督促について話して」
被告「今話しています」
裁判長「督促について話して欲しいと言っています」
 ブンカクは、被告に、ヤクザからの電話を待っているから寝るな、と言った。それが督促の電話である、と被告人は述べる。
弁護人「内容は?」
被告「寝るな、というのは督促の電話では?」
弁護人「次に入ります」
被告「もう少し話をしたい」
裁判長「どうぞ」
被告「ブンカクは『キム君、早く出ろ』と言いました」
 そのような内容の会話だったらしい。
 弁護人はパリジェンヌでの話に入ろうとしたが、被告人は、リサの方が重要ではないか、と異論を唱える。結局、パリジェンヌの話をする事になる。
弁護人「(席を移った時)aは何と要求した?」
被告「一番最初、私とリーピンがパリジェンヌに到着した時、入ってきました。そして、ブンカクが、こっちに来い、と手招きしました。そこで、私が、リーピンとaさんを始めて対面させ、話の出来るようにしました。私はその時、日本語があまり出来ず、廊下に立っていました。リーピンが何を話していたかは知りませんが、談判をしていたと思います。その時従業員が来て、リーピン等に注文を聞き、リーピンが私に、『君は何を頼む』と聞くので、アメリカンコーヒーを頼みました。『ヤクザがエクスコーナーのほうに行こうと言っているから一緒に行こう』と言いました。その時、私とリーピンとブンカクとヤクザ二人だったので、狭いので移動するのかと思いました」
弁護人「エクスコーナーへはaさんが移ろうと言ったのね?」
被告「たぶんその時、aさんが居て、右にヤクザが居て、その人はaさんの部下だと思う」
被告「aさんが要求したため、ブンカク等は、私に、付いて来い、と言いました」
被告は、身振り手振りを交えて答える。
弁護人「理由は?」
被告「解りません」
弁護人「エクスコーナーに入って、銃声が聞こえましたね」
被告「・・・・」
裁判長「質問を続けて」
弁護人「聞こえましたね?」
被告「エクスコーナーにaさんとついて行き、6番の席を指したので、私は座りました」
弁護人「その時、銃声が聞こえたでしょう」
被告「最初は聞こえませんでした」
弁護人「何時かは聞こえたでしょう?」
被告「ちょっと待ってください」
被告「暫くして、リーピンが手を洗うようなしぐさをしながら来ました。そして、手の怪我をした人が何針縫ったかを聞きました。私も怪我をして三針縫ったと(リーピンは)言っていました。その時、bさんがゆっくりと歩いて近づき、5番席に座りました。その時、ヤクザが周りを包囲しました。aさんが後ろを見たら、既に包囲されていました。その時、aさんがリーピンに何か合図をし、リーピンが何か言いました。そして、bさんが何か喋り始め、『家に帰りたいのか』と言いました」
 この後、被告は自分の同席者達の行動について説明したが、その時突然、証言台の席から立ちあがり、椅子を動かし、身振りを交えて熱心に説明を始めた。
裁判長「座って」
被告「リーピンは、誰に話しをしたらいいか尋ね、aさんが『この人だ』と言い、リーピンは『座って談判しよう』と言いました。bさんはずっと怒鳴っていました。リーピンは何か話していましたが、私はその時日本語が解らないので、内容は解りません」
弁護人「ちょっと待って、その時銃声が?」
被告「リーピンが『さあ始めましょうか』と言い、ヤクザが怒鳴り始め、銃声が聞こえました。リーピンは羽交い絞めにされ、aさんがリーピンを掴もうとした為、bさんに両手で掴まれた体が倒れそうになりました(被告は、身振り手振りを交えて説明する)。それで、私は、テーブルをぐっと握って、背もたれに背を押し付け、テーブルの下に潜る様にし、その時銃声が聞こえました」
弁護人「誰が撃った感じでしたか?」
被告「解りません。前にはヤクザが大勢居ましたし。その前にリサで、リーピンが中国人に『五分後に来い』と言っていました。来たかどうかは解りません」
弁護人「その場に居た中国人の誰かが発射したとは?」
被告「一番初めの二発を誰が撃ったかですか?解りません。でも、逃げる最中に撃ったのは中国人かもしれない」
弁護人「逃げる途中とは、さっきの二発とは別?」
被告「二発聞こえたかは、私の中では良く解らない。耳が聞こえない状況でしたので」
弁護人「中国人の誰かが発射したと思った?」
被告「これについて私は良く解りません。何故なら、彼らが銃を撃った瞬間を見ていません」
弁護人「次の質問に移ります。控訴趣意書の中に、『耳は聞こえないが行動を見て判断したものです』とありますが」
被告「はい」
弁護人「その行動とは、誰のどのような行動を指していますか?」
被告「まず二発の銃声が聞こえ、その時、aさんがリーピンを掴んでいた両手を離しました。その時、aさんは、こう、叩いて(被告は、自分の腰の辺りを両手で叩いて表現する)何かを確認しました。(aは)弾が当たったと考えたと(被告は)思い、私も(自分を)チェックしました。そうしたら、後ろに、壁のところにリーピンが足を置いて(被告は体を捻じ曲げ、身振り手振りで表現しようとする)、bさんがリーピンを掴んでいて、リーピンは銃を取り出し、銃を撃ったと思う。その時私は、銃声とはこんなに弱いものかと思いました」
弁護人「リーピンが銃を持っていると知ったのは、その時が初めて?」
被告「始めて見ました」
弁護人「(銃の事を)知らなかった?」
被告「見ていなかったので確実には」
弁護人「判断した行動とは?」
被告「リーピンが銃を撃ったと判断した。リーピンはbさんの胸を狙って銃を撃ったと思う。私は、人を殺してしまうと思った。私は、逃げる時テーブルに飛び乗ったが、aさんが両手を掲げて立っていたんです。それで、私は、足蹴りをするようなしぐさで足を振ったんですが、aさんは、何と言ったんですか(何と言ったんですか、という言葉は、被告の言葉か通訳の質問か不不明瞭だった)?」
弁護人「一審判決では、貴方はaさんを蹴ったとなっているが」
被告「蹴ったのは空振りだった、と言いました」
弁護人「リーピンの行動などから、拳銃は発射されたと判断したんですか?」
被告「そうです」
弁護人「そういう事ですか。・・・・・では大体以上」
 しかし、被告はまだ言いたい事があった。
被告「私は人を足蹴りしていません。bさんを私が足蹴りしたと一審では判断していますね。足蹴りに出来ない状況にあったのにもかかわらず何故そう判断したのか、理解に苦しみます。リーピンをaさんが掴んでいるのに、私は蹴る事は出来ない」
 裁判長は、その説明は既に聞いた旨述べ、検察官の被告人質問に移らせる。

−検察官の被告人質問−
検察官「テーブルに飛び乗った理由をもう一度聞かせて?」
被告「逃げようと思ったからです。リーピンとbさんが通路を塞ぐ形になっていた」
検察官「テーブルに乗ったら銃弾が当たるのでは?」
被告「おとなしく黙っているよりは逃げた方が良いと思う」
検察官「いつかはテーブルから降りなければいけないのでは?」
被告「当時は、小さな穴でも、あれば逃げなければいけない心境でした」
検察官「何故テーブルに乗ったのか解らない」
被告「エクスコーナーには出口が一箇所しかない。他の出口は無い。リーピンが塞いでいるような状況なので、逃げ場が無い」
裁判長「被告人、席に戻って」
被告「私は人を蹴っていません」
 被告は、そう言って、被告席に戻った。

 裁判長は、被告の説明を要旨調書にする、と述べた。その時、被告は、リサのことを説明したい、と述べる。結局、被告席に座ったまま、説明を許可される。
 被告は、何かを見ながら説明しようとしたが、記憶に基づいて述べるよう、裁判長から注意される。
被告「食事の最中に、ヤクザからブンカクに電話がかかった。その後、ブンカクから私へ電話がありました。『ヤクザと会っているが君らは何時来るか』という内容で、私はそれをリーピンに伝えました。リーピンもそれに答え、私はそれをブンカクに伝えました。三度目にブンカクから電話がかかってきて、緊迫した声でした。『今、どこに居る?ヤクザが君達の所に行く、と言っている』という内容でした。私は向こうに行きました。ヤクザがあまりに督促したため、約束よりも早く行くことになり、そこでリーピンが紙に入ったものをみんなに配り始め、私には、『お前は外に居ろ』と言いました。(パリジェンヌに行く時)『日本語が出来ない私が居てどうするのか』と私は聞きましたが、『私についてくれば良い』と言われ、私はパリジェンヌへリーピンについて行きました」
 これで、審理は終わる。次回は判決らしい。

裁判長「期日は3月27日月曜日。時間は午後1時30分。法廷は変わりません」
 こうして閉廷しかけた。しかし、被告は縄をかけられ、立ち上がりながら「キム・ブンカクの調書は無いんでしょうか」となおも食い下がる。
裁判長「それはちょっとありません」
 こうして、審理は、11時25分に終了する。

 被告は、公判の間、表情を変えなかった。元々表情に乏しいのか、とも思えた。

事件概要  金被告は他数名と共に、2002年9月27日夜、東京都新宿区歌舞伎町の喫茶店で、交渉のもつれから住吉会系暴力団幹部を射殺したとされる。
報告者 相馬さん


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