裁判所・部 東京高等裁判所・第十一刑事部
事件番号 平成16年(う)第1091号
事件名 強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、死体遺棄
被告名 小野川光紀
担当判事 白木勇(裁判長)傳田喜久(右陪席)忠鉢孝史(左陪席)
その他 検察官:鳥本喜章
日付 2006.1.30 内容 被告人質問

 傍聴席は殆ど埋まっていた。被告人の母親も、何時からかは知らないが来ていた。
 検察官は、前回と同じ浅黒い肌の、眼鏡をかけた50代ぐらいの男性
 弁護人は、黒いスーツ姿の30代ぐらいの男性3名
 被告は、中肉中背の、頭を丸坊主にした若い男性。ノーネクタイの黒いスーツ姿。開廷前は、弁護人と話をする事もあったが、基本的には目を閉じ少し俯いていた。被告人質問に答える被告の声は、ややかすれた、ぼそぼそした、何処か子供っぽい物だった。

 若い女性職員により、開廷が宣言される。
 本日は、弁護人から証拠請求があったものの、被告人質問とは関係無いものだった為、採用の有無は被告人質問の後で決める事になった。先ずは被告人質問が行われる。
 被告は、証言台に立ったとき、礼をした。

−イワイ弁護人からの被告人質問−
弁護人「貴方が高根沢と会ったのは何時ですか?」
被告「初めて会ったのは・・・・・平成8年ぐらい」
弁護人「その8月とあるが」
被告「はい」
 子供が生まれたのがその1年少し後だったので覚えていたらしい。
弁護人「(高根沢とは)同じパチンコ店の従業員だった」
被告「はい」
 アミューズメントタイガーという店で、被告と高根沢は働いていた。二人の勤務時間は、どちらがどちらかは書き落としたが、早番と遅番であり、その為か、当時は顔を知っている程度だったらしい。
弁護人「高根沢が10歳以上年上だった事も親しくならなかった原因の一つですか?」
被告「はい」
弁護人「アミューズメントタイガーにはどのくらい勤めていた?」
被告「二週間ぐらいです」
弁護人「次に高根沢と会ったのが、平成11年」
被告「はい」
弁護人「何故再会した?」
被告「友人のY6がよく行っているパチンコ店で顔を合わせるようになりました」
 Y6は、被告の中学の友達の友達。Y6と高根沢はお互いに知っていて、仲が良さそうに見えたらしい。
弁護人「(高根沢とは)どのくらい食事をした?」
被告「三、四回ぐらい」
 ファミレスで食事をした。
弁護人「その時は、どういう人が同席していましたか?」
被告「Y6夫婦、高根沢さんと、他一名」
弁護人「高根沢とはどのくらい行き来していた?」
被告「行き来といいますか、高根沢さんが私の家に一度来て、私が高根沢さんの家に二度行きました」
 高根沢は、被告と家が近かった。
弁護人「一人で行った?」
被告「Y6とです」
 家の中で高根沢と酒を飲んだ事もあったが、飲んでいたのは高根沢一人だけだったらしい。被告は酒を飲む方ではなかった、とも述べる。
弁護人「引越ししてからは会っていない」
被告「はい」
弁護人「何時引っ越した?」
被告「平成13年の春ぐらい」
弁護人「高根沢さんに引越し先を教えた?」
被告「無いです」
弁護人「電話番号などは?」
被告「無いです」
弁護人「何故ですか?」
被告「親しくなかったのもあるし、年上だし、あまり付き合いたくなかった」
弁護人「高根沢から連絡は?」
被告「無いです」
 しかし、平成15年1月に高根沢から連絡があった。それまではコンビニで顔を合わせる程度だった。
弁護人「高根沢は昔どのような仕事をしていると思っていた?」
被告「ヤクザ」
弁護人「仕事としては?」
被告「テキヤかと」
弁護人「高根沢から証明書を見せられた事は?」
被告「名刺ならあります」
弁護人「どんな名刺ですか?」
被告「○○組高根沢。組員の名刺ですね」
平成11年ごろに見せられたらしい。
弁護人「高根沢の背中の刺青は何時見せられましたか?」
被告「平成11年ごろです」
弁護人「どんな状況で?」
被告「Y6と一緒に高根沢さんの家に行って、その時は夏で、高根沢さんが上半身裸になっていました」
 被告の友人の間では、高根沢の評判は良くなく、(被告の)仲間内からは、「魔神(この漢字だと、後に被告に弁護人は確認した)」と呼ばれていた。
弁護人「何故そう呼ばれていた?」
被告「すごい怒りますし、あとやっぱり、何と言いますかね、それまでの行動、ヤクザとか、そういう事・・・・・」
弁護人「Y6さんは高根沢の事を何と言っていた?」
被告「Y6は『タカさん』ですね」
弁護人「貴方は何と呼んでいた?」
被告「高根沢さん、と」
弁護人「再会した時、高根沢と何所で会った?」
被告「パチンコ店で」
弁護人「(被告は)誰と居た?」
被告「Y7、Y8、Y6・・・・ですね」
弁護人「其の時、プライスガーデンでみんな一緒に食事していますね」
被告「はい」
弁護人「何で?」
被告「Y6と高根沢さんが仲が良かったので」
弁護人「(高根沢と被告が)食事を一緒にしたのは四回目ぐらい?」
被告「はい」
弁護人「貴方は、高根沢から見るとどの辺に座っていた?」
被告「斜め前」
弁護人「(食事中)どんな話をしていましたか?」
被告「パチンコの話を」
弁護人「(高根沢と)誰が一番話していた?」
被告「Y6です」
 被告人は話に混じり、話を振られれば答える、と言った感じで、高根沢と意気投合した、という事も無かったらしい。
弁護人「レストランの後、高根沢と携帯番号を交換した事は?」
被告「無いです」
弁護人「車の話題は誰が出した?」
被告「高根沢さんが車の自慢話を始めて、安い車があるという話になりました」
 アリストという車の新しいやつに乗った、という話だったらしい。また、高根沢は無免許であり、平成11年に被告はその話を聞いていた。
弁護人「車を買う買わないの話は?」
被告「高根沢さんが『アリストの新しいやつを10万でどう』と」
弁護人「みんなに言った?」
被告「私にです」
弁護人「何故言ってきたと思いますか?」
被告「解らないです」
弁護人「10万に関して如何思った?」
被告「新しいので、安いな、と思いました」
弁護人「貴方は何と言った?」
被告「『窃盗車ですか』と言いました」
弁護人「高根沢は何と言いましたか?」
被告「『事故車を直しているから安い』と」
弁護人「車を買いたいと申し入れた事は?」
被告「無いです」
弁護人「高根沢は、何故車の事で電話をしてきた?」
被告「高根沢さんの方が売りたがる感じでした」
弁護人「(ファミレスで)車の事は、高根沢は何と言っていた?」
被告「『安く売る車屋が居るので探しておくよ』と」
弁護人「貴方は頼んでおらず、高根沢が言っただけ」
被告「はい」
弁護人「話をあわせていた」
被告「はい」
弁護人「車を探していた?」
被告「いいえ」
弁護人「X2さんは車を持っていた」
被告「はい」
弁護人「車を探す必要は無い」
被告「はい」
弁護人「貴方の交通手段は?」
被告「X2の車が殆どですけど、後は歩いて行ったり、タクシーで行ったり」
弁護人「車を買って、置き場所は考えていた?」
被告「いいえ」
弁護人「車の話は?」
被告「レストランの後、高根沢さんから電話が」
 2月2日に高根沢が電話をかけてきた。高根沢は、被告の電話番号をY6から聞いたと言っていた。
弁護人「その内容は?」
被告「始め、私は、知らない番号から電話がかかってきたので出ないでいて、その後、留守電に高根沢さんが、電話を返してくるように入れていました」
 弁護人は、通話明細記録を示す。最初は18時に電話し、この時の通話時間は17秒。その後は7分13秒電話があった。被告は、7時40分に留守電記録を聞いた。
弁護人「今示したのがその経緯ですね」
被告「はい」
弁護人「高根沢の車については、どういう話?」
被告「確か、何種類かの車を私に勧めてきました」
 高根沢が勧めた車種は、カローラ、シビックだった。
弁護人「如何思った?」
被告「ファミレスの時は排気量が大きい話をしていましたから、話が違うな、と」
弁護人「如何思った?」
被告「おかしいと思いました。値段も20万になっていました」
弁護人「断らなかった?」
被告「はい」
弁護人「何故?」
被告「・・・・・言いにくいというか」
弁護人「何故?」
被告「怖い人だからです」
弁護人「車の話はどうなった?」
被告「高根沢さんが、『また車屋に聞いておく』と言って終わりました」
弁護人「貴方は頼んでいない」
被告「はい」
 2月3日にまた電話があった。高根沢は、また車を勧め、被告はセドリックを買うことになった。
弁護人「1月下旬にファミレスで車の話になり、2月3日に車の件で電話があった」
被告「はい」
弁護人「何時決まった?」
被告「3日に」
弁護人「何故?」
被告「断りきれなかった」
弁護人「3日にどのくらい電話がありましたか?」
被告「結構しつこく・・・・5回ぐらいだと」
弁護人「(承諾する上で)決定的な言葉は?」
被告「(高根沢から)『頼んでいる車屋がヤクザ関係だからどうなっても知らないよ』と言われ、断りきれなくなった」
弁護人「(車を売りつける事について)貴方の他の友人には?」
被告「Y8にシーマを売りつけた事がありました」
弁護人「(車について)Y8さんから聞いた事は?」
被告「30万ぐらいで高根沢さんの乗っていたシーマを売りつけられ、(そのシーマは)ボロボロでエアコンも壊れていたと聞いた事があります」
 4日に車の代金は支払った。この日に支払った事は、高根沢から住民票を移してくれ、と言われた事で覚えている。
弁護人「一審では、1月の下旬と言っているが」
被告「市役所に行ったのは金曜日ですから」
弁護人「何故住民票を高根沢の家に移した?」
被告「車庫を理由に断ったら、高根沢さんは『それならば俺の家に移せばいい』と言ったので」
 被告と高根沢が一緒に行動するようになったのはもう少し後の事だった。
 弁護人は、高根沢からの、3日に電話した回数の通話記録を見せ、被告に確認する。4日の午前から昼にかけて三回、高根沢へ市役所から電話した。17時10分に、被告は、高根沢の家の近くについたと電話を入れた。
弁護人「再び会った時、高根沢は(被告の事を)何と呼んでいた?」
被告「小野川と」
弁護人「犯行時は『みっちゃん』と呼んでいるが、何時から?」
被告「車のやり取りをしている途中で」
弁護人「車の代金13万を渡して、車が引き渡されたのは?」
被告「大分後でした」
 現金を引き渡した後、高根沢は、一週間ぐらい(後)、と言っていた。最終的に引き渡されたのは、事件後、2月27日だった。高根沢から頼まれたエスティマを取りに行き、高根沢が、セドリックをあげるよ、と言ったので貰った。
弁護人「車の代金の追加請求を受けたことは?」
被告「あります」
弁護人「幾らでしたか?」
被告「10万です」
 手数料だと言われた。
弁護人「何故意見を言わなかった?」
被告「言いにくいというか、怖いというか・・・・」
弁護人「車の引渡しは無かった」
被告「はい」
 引き渡される予定だったセドリックは、2月18日に最初にタイガージャンボで見た。高根沢が乗って来ていた。それが引き渡される筈の物だという事は、高根沢が話していた破損点の特徴で解った、と被告は述べた。
弁護人「これが私の頼んでいたセドリックですね、と貴方は言った」
被告「はい」
弁護人「高根沢は何と答えた?」
被告「『これはY9さんという社長から借りた物で、違う』と言いました」
弁護人「それで、貴方は反論しなかった」
被告「はい」
弁護人「何故?」
被告「はぐらかされると思いました」
弁護人「(高根沢は)セドリックについて何と言っていた?」
被告「『車屋がヤクザに襲われ退社になった』と言いました」
弁護人「信じましたか?」
被告「嘘だろうと思いました」
 六本木ガールと言うキャバクラに、事件の一週間ぐらい前に、高根沢を含めた友人たち、Y6、Y8、Y10等と一緒に行った。
弁護人「何故高根沢が加わった?」
被告「高根沢さんを除いたメンバーとパチンコ屋で遊んでいて、飲みに行こうという事になり、パチンコ屋から出たときに、高根沢さんが、待っていた感じでした」
弁護人「貴方から誘った事はない」
被告「はい」
弁護人「高根沢は同年代で一緒に遊ぶ人は居なかった?」
被告「本人は居るような事を言っていましたが、私は見た事は・・・・」
 Y11という人ぐらいしか見た事は無いらしい。
弁護人「殆ど同年代の人と一緒に居るところは見た事が無いと」
被告「はい」
弁護人「貴方と高根沢が一緒に行動するようになるのは?」
被告「2月18日に車を見せてもらった時ですね」
弁護人「何故この日に会うことに?」
被告「高根沢さんから電話がしつこくかかってきて、タイガージャンボの閉店に合わせて迎えに来る感じですね」
弁護人「貴方から高根沢に電話した事は無い」
被告「18日前ですか?」
弁護人「はい」
被告「殆ど無いと思います」
 18日に、5回にわたり数分間、高根沢から電話があった。タイガージャンボの閉店時の11時にも電話があり、閉店して高根沢が迎えに来た。何処かに行こうという予定は無かった。
弁護人「どうしましたか?」
被告「11時以降、車に乗ってドライブ・・・・・ぐるぐる回っている感じ・・・・」
弁護人「如何思いました?」
被告「高根沢さんと二人きりになるのは初めてだったので、緊張と言うか、居心地の悪い感じ・・・・」
弁護人「誰かに助けを求める事は?」
被告「Y6に電話をかけました」
弁護人「Y6は電話に出ましたか?」
被告「その時は出なかったと思います」
 266号証添付の通話明細記録を示す。それによれば、被告は、18日から19日、18日と19日午前0時3分にY6に電話している。
弁護人「気まずいので、高根沢の友人であるY6に電話した」
被告「はい」
弁護人「出なかった」
被告「はい」
 Y7にも電話した。その後に、19日0時5分に、高根沢と被告がY6と話している。
弁護人「二人での密閉空間で緊張していた」
被告「はい」
弁護人「何か、高根沢から言われて行動した事は?」
被告「『デリヘルのチラシが気になっていたから取って来てくれ』と言われました」
 駐車場に車を止め、電話ボックスに(チラシを)取りに行かされた。被告は、デリヘルに電話させられ、どういう女の子が居るか、どういう料金かを、高根沢の質問を復唱するように尋ねさせられた。一回一回電話をかけながら、被告は、高根沢に質問内容を聞いていた。三件話を聞いた。
弁護人「高根沢は呼ばないと言ったが、(高根沢は)お金が無い?」
被告「4万ぐらいしかないと言っていました」
弁護人「貴方は4万しかないと思っていた」
被告「はい」
弁護人「その後、フィットインというラブホテルに入りますね」
被告「はい」
弁護人「何故入った?」
被告「高根沢さんが、『もう少し話そうよ』と言ってきたので。断りにくかった」
弁護人「何故?」
被告「高根沢さんが家を追い出されたのも知っていましたし・・・・・」
弁護人「男二人でラブホテルに泊まる事に何とも思わなかった?」
被告「高根沢さんが相手では、間の取り方が結構厳しかった」
弁護人「どんな話をした?」
被告「『何か美味しい話はない?』と」
弁護人「それは、高根沢から言ってきた?」
被告「はい」
弁護人「何故そんな話をしたと思いますか?」
被告「私はタイガージャンボの従業員と組んでいたので、それをY6から聞いたと思う」
弁護人「推測ですか?」
被告「向こうが言っていたと思う」
弁護人「貴方の方から金儲けをしようと言った事は無い?」
被告「はい」
弁護人「ニギリ、という言葉は貴方が使っていた?」
被告「いいえ、刑事さんが使いました」
 ニギリとは従業員と組むことで、従業員にスロットの設定を教えてもらう事らしい。
弁護人「好設定を教えてもらうかわりに、金を渡す」
被告「はい」
弁護人「貴方はそれを、組む、と言っているのですね」
被告「はい」
弁護人「ニギリとは、高根沢の方から?」
被告「いいえ」
弁護人「高根沢の方から『良い組む話ないかなあ』と言って来た」
被告「はい」
 被告が組んでいたのは、タイガージャンボのY12という人だった。組むようになる経緯は、被告がいつもタイガージャンボに行っていたので、Y12がサービスのつもりで、あの台が良い、と言ってきた。そして、被告がその台でやった所、儲かったので、お礼のつもりでいくらか渡したのが始まりだという。
弁護人「Y12以外と組んだ事は無い」
被告「ないです」
 調書では、別の店でY6と組んでやっていたような記載があるらしい。それに対し被告は「昔『フェオ』という店にY6と一緒によく行っていたが、組んでいたわけではない。しかし、店員とはそれなりに仲が良かった」という趣旨の事を答えた。
弁護人「『フィットイン』での話は貴方から言い出した?」
被告「いいえ」
弁護人「高根沢はどのように言ってきた?」
被告「『昔、俺の勤めていたパチンコ屋で金が簡単に盗れる』という話でした」
弁護人「どのような話?」
被告「aさんを襲って金を取る、という話でした」
弁護人「それで貴方は何と答えました?」
被告「『無理ですよ』と答えました」
弁護人「そうしたら高根沢は?」
被告「『年もいってるし、爺さんだし、大丈夫だよ』と言いました」
弁護人「それで?」
被告「(被告は)『二人では無理ですよ』と言いました」
弁護人「そう言った理由は?」
被告「マリーンの話はやろうと思っていなかったので、はぐらかそうと思いました」
弁護人「無理ですよ、とは言わなかった」
被告「言えませんでしたね」
弁護人「(高根沢は)Y6についてはどう言っていた?」
弁護人「『Y6の所為で俺は追い出されたのだから、あんな奴は駄目だ』と言いました」
 Y6が、六本木ガールズに高根沢が行った事を言ってしまったため、高根沢はY11に家から追い出されたらしい。
 マリーンを襲う話はあまり真剣にしておらず、『フェオ』と組む話をしていたらしい。
 『フィットイン』の料金を割り勘で払った後、『フェオ』に向かった。『フェオ』の店員は、折半で機械の出を教えてくれる事になった。被告人が店員と話している間、高根沢はスロットで遊んでいた。成功の話をしたら嬉しがっていた。帰りには、マリーンを襲う話はもうしなかった。組む事になった店員はY13という名前だった。
弁護人「『フェオ』から帰って、何処に行った?」
被告「タイガージャンボ」
弁護人「高根沢も一緒に?」
被告「はい」
弁護人「何故?」
被告「高根沢さんが手持ちに3万しかないので、貸してくれと言われ、私がタイガージャンボでポイントを持っていて、それである程度貸せるので、貸しました」
 金を借りたのは、『フェオ』での軍資金のためだった。
弁護人「設定無しの台はどの位儲かる?」
被告「10万ぐらい」
弁護人「1日で?」
被告「はい」
弁護人「10万稼いで幾らか高根沢に渡し、フェオで組む予定だった」
被告「はい」
弁護人「マリーンを襲う話は無かった」
被告「はい」
弁護人「タイガージャンボでトラブルがあった」
被告「はい」
弁護人「その(相手の)人は、貴方が死に至らしめたbさんだった」
被告「はい」
 トラブルの発端は、台をbさんが選んだ、という事。被告と少し言い合いになり、台の設定は結局bが決めた。
弁護人「この時、高根沢が怒り出したことは無かった?」
被告「ありました」
弁護人「何故?」
被告「私とbさんの話を聞いて怒り出した」
弁護人「貴方に加勢する形で怒った」
被告「はい」
弁護人「部長まで出てきたね」
被告「はい」
 被告は知らなかったが、高根沢はタイガージャンボで働いていた事があり、部長も高根沢の顔を知っていた。被告は、bの事は殆ど知らなかった。
弁護人「怒り方はすごかった」
被告「はい」
 高根沢は、カウンター内にいるbを引きずり出さんばかりだった。被告は、ただ立っているだけ、という感じだったらしい。
弁護人「フェオの店員とはどういう話に?」
被告「店の状況を詳しく聞きました」
 弁護人は、通話明細記録を被告に見せる。

 2時53分から3時15分まで休廷となる。
 休廷中、廊下で、被告人の母と、知り合いらしき女性が話をしていた。
「彼は自分の内にこもって我慢してしまう」
「相手の女性二人は悪い感情を持っていないのに何故別れたのか」
「情状証人として来てくれたのは、彼の良い所の証明だと思う」
「離婚したのは、相手が衝動的に口走った言葉に同意した」
等と話していた。相手の女性は、「お母さんに遠慮してしまうんでしょうか」とも訊いていた。知り合いらしき女性は休廷中に帰った。

 被告は、礼をして入廷する。再び開廷するまで、少し弁護人と話し、概ね軽く俯いていた。
 被告の母親は、右端の前から二番目の席に座っていた。俯いており、被告も母も目を合わせる事はなかった。
 再開廷となり、被告は礼をして、証言台に座る。

−イワイ弁護人からの被告人質問−
弁護人「Y13さんからは好設定の確約は取れなかった」
被告「日にちですね?」
弁護人「はい」
被告「はい」
弁護人「高根沢への報告は?」
被告「夕方ぐらいだと」
弁護人「すぐに報告しなかった理由は?」
被告「報告自体は、組む事が決まっていたので、する必要が無いと思っていました」
 被告は、上手く進んでいると思っていた。
弁護人「高根沢は何と言いましたか?」
被告「『何時になるか解らないんじゃ困る。もっと早くしてくれ』と言いました」
弁護人「高根沢は、その日に進まなければ苛々するタイプ?」
被告「その日というか、すぐですね」
 高根沢からは、Y13に催促するように言われ、被告は誤魔化した。
弁護人「『フェオ』の件はどうなった?」
被告「『知り合いに聞いたら、Y14組の連中だから止めた方がいいよ』と高根沢さんが深夜に電話をかけてきて言いました。」
 被告の言う所によれば、(フェオの件は)元々高根沢の方から言ってきた事なので執着しなかった。なので、Y13には連絡しなかった。
 弁護人は、通話明細記録を示し、被告と高根沢の電話のやり取りを示す。数回の電話の内、被告の方から電話をかけたのは最初の一回だけだと立証する。内容は殆どが高根沢からの催促で、最後の電話で、高根沢は組の話をした、という事だった。
弁護人「22日に、高根沢がタイガージャンボに来た」
被告「はい」
 朝に高根沢から電話がかかってきたので、タイガーに行くと教えておいたらしい。
弁護人「貴方からは呼び出していない」
被告「はい」
弁護人「すると、高根沢が一方的に?」
被告「はい」
弁護人「高根沢は店内まで入ってきた」
被告「はい。それで、『ちょっと来て』と言って、セドリックの中で話しました」
弁護人「内容は?」
被告「昨日の夜、10万円落としてしまった、と」
弁護人「それで?」
被告「マリーンの話を、この前の話なんだけど、という感じで話してきました」
弁護人「車の中?」
被告「はい。止まっている中で」
弁護人「何時ごろ?」
被告「午後・・・・」
弁護人「それで?」
弁護人「高根沢さんから、Y15という女性と高根沢さんが一緒に住んでいると聞いていたので、『その人に相談したら』と私は言いました」
弁護人「泥棒ではなく、その人にお金の話を相談しろと」
弁護人「通話明細記録を示します・・・・・その前に、Y15さんの上の名前は?」
被告「確か、Y15’・・・・」
 事件後にも(高根沢が)電話していたので、被告は、名前は聞いた事があった。話に聞いていただけで、会った事は無い。
弁護人「高根沢は何と言っていた?」
被告「Y15’’ちゃん・・・・Y15さんの事をこう呼んでいましたが、大正琴の先生をやっている真面目な人なので、『そんな事を言ったら追い出される』と言いました」
弁護人「マリーンを一緒に襲うと貴方は言った事はない」
被告「はい」
弁護人「調書では、高根沢の話にどんどん乗り気になっていったとあるが」
被告「無いです」
弁護人「何故?」
被告「私は、『Y15さんに相談してみたら』とか『潰れてるかもしれません』とか遠まわしに言いました」
弁護人「貴方は、やめようとは言わなかった」
被告「はい」
弁護人「犯行を承諾した事はない」
被告「はい」
弁護人「マリーンに行く事になり、慌てる事は無かった?」
被告「無かったと思います」
 あれよあれよという間に、マリーン行きは決まった。
 21日にマリーンを見に行った。その時、高根沢は車を降りてマリーンを見に行き、被告が偵察をしたことは無かった。
 一回目はマリーンの周りを回っていない、と被告は述べる。高根沢を車の中で待っていたら、高根沢から「こっちに来てくれ」と電話で言われたので、そちらに行った。
 21日には、「今日どうしている」と高根沢は電話を何回かしていた。高根沢は、番号案内でマリーンの電話番号を調べた。
 被告は、「aさんはもう居ないですよ」と消極的に反対したらしい。
 二回目には、被告が電話をかけさせられ、「aさんいますか」と言わされた。aはおらず、それを高根沢に報告すると、「相手はどんな声だった」と聞かれた。
 記録によれば、16時28分に、高根沢がパーラーマリーンに電話する。16時59分に、被告が高根沢の電話で電話している。
弁護人「この帰り、大人の玩具屋に行きましたね」
被告「はい」
弁護人「どういう経緯で?」
被告「『スタンガンがここになら在るだろう』と高根沢さんが言いました」
弁護人「スタンガンを何故買う事に?」
被告「aさんを襲って鍵を奪う、という話ですが、私は『(aさんが)暴れて無理ですよ』と言いました。そうしたら、高根沢さんは、『スタンガンを使おう』と言い、買いに行く事に」
 被告は、あまりやりたくない、という趣旨で「暴れる」と言ったらしい。この時には、まだ殺そうという話になっていなかった。
 被告は、大人のおもちゃ屋にスタンガンを売っているとは思わなかったので、スタンガンがあるか尋ねもしなかった。
弁護人「それで、どうしました?」
被告「高根沢さんが、知人のY16さんに頼んでみる、と言っていました」
弁護人「スタンガンを頼むと?」
被告「はい」
 2月13日、六本木ガールズに飲みに行った時、Y16という名が出たので、名前を覚えていた。被告自身はY16と会った事は無い。
 弁護人は、高根沢とY16の通話を記録した、通話明細記録を示す。被告も、高根沢が電話しているところを見た事があるらしい。
弁護人「マリーンの帰りに大人のおもちゃ屋に行った。スタンガン以外に襲う方法を話した事はある?」
被告「その日は無いです」
弁護人「催涙スプレー」
被告「無いです」
弁護人「調書では、車内で襲う話をしたと書いているが」
被告「無いです」
弁護人「『顔を見られたらどうするんですか』と貴方が言ったともあるが」
被告「無いです」
弁護人「では、(殺すしかないという話が出たのは)何時頃ですか?」
 殺すしかない、という話が出たのは、当日の事らしい。
弁護人「何故言える?」
被告「その話が出たときの風景ですね」
弁護人「どんな風景?」
被告「マリーンの見える所で、夜でした」
弁護人「マリーンそのものを見ている、aさんが出てくるところを待っているその日という事ですか?」
被告「はい」
 六本木ガールズの隣のお好み焼き屋に行った。其処の支払いは、高根沢の分も含め、被告が支払った。その後、二人はタイガージャンボに行った。
弁護人「貴方と高根沢では間がもたない」
被告「はい」
弁護人「それで、どうしましたか?」
被告「誰も居なかったので、高根沢さんと一緒に、Y17という女性から、飲みに来て、という電話があったので、伊勢崎のスナックに飲みに行きました」
 Y17とは、同人が六本木ガールズに居たときに知り合った。Y17は、六本木ガールズとブルーブルー(伊勢崎のスナック?)にはそれぞれ一日体験で来ていた。
弁護人「貴方は、キャバクラによく行っていましたか?」
被告「事件後には行っていますが、その前はそんなに行っていません」
弁護人「ブルーブルーに行く前に、人を襲う話があって、どきどきして話の出来ない事はありませんでしたか?」
被告「無かったです」
弁護人「ブルーブル−に行く前に、どの程度、襲う話は進んでいましたか?」
被告「あやふやでした」
弁護人「ブルーブルーで代金を支払ったのは?」
被告「私です」
弁護人「高根沢の分も含めて」
被告「はい」
弁護人「幾ら?」
被告「1万円ぐらいです」
弁護人「その後、何処で降ろしてもらった?」
被告「ボーリング場の前です」
弁護人「何故家の前で降ろしてもらわなかった?」
被告「あまり住んでいる場所を知られたくなかった」
弁護人「犯行当日、22日から23日ですが、どちらから電話が?」
被告「高根沢さんから。『今、帰るのかい』と」
弁護人「何処で会いましたか?」
被告「ボーリング場で」
弁護人「住んでいる場所を知られたくない」
被告「はい」
弁護人「高根沢は何と言ってきた?」
被告「『いたよいたよ、ねもっちゃんがいたよー』と言ってきました」
弁護人「高根沢は、声で解るのを恐れていたにも拘らず、自分で確認した」
被告「私は見ていませんが」
弁護人「どんな様子だった?」
被告「機嫌が良いというか、興奮していました。それで、『今日だ今日だ』と言っていました」
 被告は、高根沢がやる気になっていたので、断れなかったらしい。
 高根沢から、13時58分に電話があった。
弁護人「犯行当日、貴方から電話した事は無い」
被告「はい」
弁護人「貴方はすぐに、やりましょうやりましょう、と乗り気になった?」
被告「いいえ」
弁護人「高根沢から心配のしすぎだと言われなかった?」
被告「マリーンについてから言われました」
弁護人「マリーンについてから何処で襲うか、襲った後何処で殺すか決めていた?」
被告「いいえ」
弁護人「高根沢に、心配しすぎだと何回言われた?」
被告「後も含めれば、何回もあります」
被告「『考えがマイナス思考だよ』と言われました」
 縛る物、目と口を塞ぐ物、金を盗る時に指紋を残さないための手袋を、カインズホームに買いに行った。
弁護人「其の時、縛る物、と高根沢は言った」
被告「はい」
弁護人「『殺すのには紐が必要だよ』とは言っていない」
被告「はい」
弁護人「殺す話はしていない」
被告「はい」
 軍手では染み出るのでゴム手袋の方が良い、と言い、高根沢が襲うために一つ手袋を買った。
弁護人「貴方は?」
被告「aさんを車の中で押さえている予定でした」
弁護人「殺せば一緒に居る必要は無い、と買い足そうとはしていない」
被告「はい」
弁護人「貴方は、何か買い足しているね」
被告「はい」
弁護人「何を買い足しましたか?」
被告「ガムテープです」
弁護人「何故買い足しましたか?」
被告「目と口に貼る為に」
弁護人「被害者が生きている事を前提にしていた」
被告「はい」
弁護人「買ったお金は誰が払いましたか?」
被告「私が払いました」
弁護人「その後、時間があるので六本木ガールズに行った」
被告「はい」
 六本木ガールズへは、オレンジハットの駐車場に車を止めて行った。
弁護人「何故?」
被告「高根沢さんの方から言い出しました」
弁護人「車内で暇を潰してもいいのでは?」
被告「ちょっと長すぎるので。六本木ガールズにも、開店と同時の7時に行きました」
弁護人「二人では間がもたない」
被告「はい」
弁護人「誰かに電話した?」
被告「Y6に」
弁護人「犯行に巻き込むつもりだった?」
被告「言い方は悪いが、間を押し付けるつもりでした」
弁護人「犯行に巻き込もうと思った?」
被告「いいえ、それはありません」
 弁護人、通話明細記録を見せる。
弁護人「Y6さんに助けを求める意味があった」
被告「はい」
弁護人「六本木ガールズの料金は、誰が払った?」
被告「私です」
弁護人「どのくらい?」
被告「1万ぐらい」
弁護人「オレンジハットの駐車場に戻って、どうした?」
被告「高根沢さんは、拾った雑誌を読んでいました」
弁護人「犯行の打ち合わせはしていない」
被告「はい」
弁護人「貴方は、何をしていた?」
被告「オレンジハットで飲み物を買ってきたり、時間を潰していました」
弁護人「車内で、カインズホームで買った物を袋から取り出したのは何故ですか?一審判決では、これを犯行への積極性としていますが」
被告「やる事がなかったので」
弁護人「気まずかった」
被告「はい。高根沢さんも黙っていましたし」
弁護人「マリーンに行こうと言ったのは?」
被告「高根沢さんです」
弁護人「貴方からは?」
被告「言いません」
 犯行一時間前にマリーンに着いた。
弁護人「犯行の打ち合わせはされていた?」
被告「いいえ」
弁護人「スタンガンは?」
被告「用意されていませんでした」
弁護人「貴方はどうしましたか?」
被告「『スタンガンはどうしたんですか』と聞きました」
弁護人「それに対し、高根沢は何と答えましたか?」
被告「『間に合わないかもしれない』と言っていました」
 高根沢は、「俺がのしちゃう」とも言っていた。被告は、そういう言葉は使わないらしい。
弁護人「それで、気絶させてからどうするか、話は出ましたか?」
被告「私が車の中でaさんを縛って・・・・・」
弁護人「貴方が縛って、高根沢が鍵を開けると思っていた」
被告「はい」
弁護人「刑事に、そのように話をしましたか」
被告「はい」
弁護人「では、調書に書いてある事は?」
被告「高根沢さんと調書をあわせるというか・・・・私がこうだと言っても、刑事さんは、いや、高根沢はこういっている、と」
高根沢は、「見られたら殺すしかないね。でも大丈夫だよ、相手は小さい爺ちゃんだし」と被告に言っていたらしい。
弁護人「貴方は殺す事になるとは思わなかった」
被告「はい」
弁護人「aさんは、実際はどういう人でしたか?」
被告「割と若く、体ががっしりしていました」
 高根沢の指示で、被告は車を動かした。電気が消えてaを見失い、高根沢が探しに行った。被告は、aさんの事を全く知らないので、探す事は出来ない。コンビニの中でaを見つけた。
弁護人「高根沢が声をかけることになったが、それについて如何思った?」
被告「驚きました」
弁護人「何故?」
被告「話している事と違うからです」
弁護人「話しかけて車に連れ込む事になった」
被告「はい」
弁護人「aさんに話を合わせなければならなくなったが、そう打ち合わせていた?」
被告「いいえ」
弁護人「オレンジハットなどに行っているが、高根沢が指示した?」
被告「はい」
弁護人「車を運転しながら、貴方は襲えないね?」
被告「はい」
弁護人「犯行の合図は決まっていた?」
被告「いいえ」
弁護人「ゲームセンターで降りて、どんな話をした?」
被告「(高根沢が)『みっちゃん、如何する?』と言ってきましたので、私も『どうします?』と聞き返しました。そうしたら、『みっちゃんは帰る事にするか』と言いました」
弁護人「それで、如何思った?」
 その後、殺害場所も決めず、結局、また車に乗って移動する事になる。

 これで、この日の被告人質問は終了する。
 その後の打ち合わせで、事実取調べ請求書4について請求する。検察官は同意し、採用される。
 また、請求した証拠の目録は、高根沢と被告の掛電状況についてであり、高根沢が積極的に被告に電話して誘っていた、という立証趣旨。
裁判長「次回は、2月22日水曜日、午後13時30分からです」
 公判は、4時20分に終了した。

 休憩後は、傍聴人は私を除いて10名ぐらいになっていた。
 また、閉廷後に、弁護人と、被告の母親と、被告の父親らしい男性が廊下で話をしていた。話の内容は、被告の語り口や公判の見通しなどについてであり
「真面目に答えている事には間違いない」
「bさんの遺族は来ていた」
「次回で終わらないかもしれない」
「被害者との話し合いは、弁論までにどうにかなれば言えるかもしれない。3月までにどうにかしなければ」
「今日は、高根沢に抵抗できなかった事、高根沢が犯行を主導していた事、金を払ったのに車が来ない事をおかしいと思っていても言えない事、通話記録を見れば、高根沢が一方的に電話をしている事を立証したかった」
等と弁護士は話していた。

事件概要  小野川被告は高根沢死刑囚と共に、強盗目的で以下の犯罪を犯したとされる。
1:2003年2月23日、群馬県宮城村でパチンコ店員を殺害し、遺体を川に遺棄したた。
2:同年4月1日、群馬県太田市でパチンコ店員を殺害し、遺体を川に遺棄した。
 小野川被告は7月20日に逮捕された。
報告者 相馬さん


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