裁判所・部 東京高等裁判所・第十一刑事部
事件番号 平成16年(う)第1091号
事件名 強盗殺人、建造物侵入、窃盗、窃盗未遂、死体遺棄
被告名 小野川光紀
担当判事 白木勇(裁判長)傳田喜久(右陪席)忠鉢孝史(左陪席)
その他 書記:横田、松村
検察官:田中順太郎
日付 2006.1.11 内容 証人尋問

 小野川光紀被告の第二回公判は、715号法廷で、1時30分から行われた。
 検察官は、眼鏡をかけた黒いスーツ姿の、浅黒い50代ぐらいの男性。
 弁護人は、黒いスーツ姿の男性3名。一名は、開廷前、検察官と少し話をしていた。他の二人は少し後に到着した。
 傍聴人は、最終的に20名ぐらいまで増えた。被告の関係者らしき人も多く居た。
 裁判長は、眼鏡をかけた目つきの鋭い老人だった。
 被告は、髪を短く刈った、中肉中背の若い男。凶悪さは無い、普通の青年と言った風貌。やや赤い顔をしていた。ノーネクタイの黒いスーツ姿。軽く頭を下げて入廷する。開廷前は始終俯いており、証言を聞いている間もそうだった。

 女性が、開廷を宣言する。

裁判長「証人の方、3人、中にお入りください」
 3人の女性が中に入る。5〜60代ぐらいの、痩せた、眼鏡をかけたスーツ姿の女性と、若い女性が2名。
裁判長「お名前を」
 5〜60代ぐらいの女性「X1です」
裁判長「お名前を」
若い女性1「X2です」
 2人目の若い女性は、名前は聞き取れなかったが、X3という姓だった。
 3人揃って宣誓を行う。裁判長は、偽証罪について注意する。

−X3証人に対するマチダ弁護人からの証人尋問−
弁護人「弁護人のマチダから質問します。貴方が始めて被告と知り合ったのは?」
証人「小学5年生のとき、一緒に委員をやった時です」
弁護人「其の時、被告は?」
証人「小学6年生です」
弁護人「何時から付き合いだした?」
証人「平成14年の夏頃です」
弁護人「何時まで?」
証人「平成15年5月」
弁護人「平成12年の2月に、被告は、Y1、X2さんですが、の家を出て、貴方と同居するようになった」
証人「はい」
 出産の話も出たが、X3さんに関する話か、X2さんに関する話か、聞き逃してしまった。
弁護人「被告から貴方の携帯あてに電話があった」
証人「はい」
弁護人「貴方の(当時の)電話番号は?」
証人「覚えていない」
結局、今と同じと解る。
弁護人「いつかかってきた?」
証人「仕事の帰りに」
弁護人「仕事から家へは?」
証人「歩いて5分くらい」
弁護人「2時に店が終わって、帰る途中に電話がかかった」
証人「はい」
弁護人「内容は?」
証人「山に、高根沢さんと一緒に居るが、なかなか帰してもらえないと」
弁護人「貴方は何と言った?」
証人「そんな所で何やってんの、と」
弁護人「会話時間は?」
証人「短かった」
弁護人「被告人の声や会話の内容は、普段と変わったことは?」
証人「特に無いと」
弁護人「何故覚えていた?」
証人「(被告が)山に行ったと話した事が無かったので」
弁護人「それ以外に(被告と)山に行ったりは」
証人「ありません」
弁護人「高根沢は、この事件の共犯の」
証人「はい」
弁護人「高根沢から被告に電話がかかってきた事は」
証人「あります」
弁護人「被告は、其の時どんな行動を?」
証人「嫌そうでした」
弁護人「電話に出なかったりも」
証人「はい」
弁護人「平成12年2月から貴方の家に来たが、被告が金に困っている様子は」
証人「ありません」
弁護人「被告の生活費はどのくらい?」
証人「いろいろな所に外食に行ったりして・・・・食費に10万円あれば足りたと思います」
弁護人「他にお金を遣うことは無い」
証人「と思います」
弁護人「お金の貸し借りや、プレゼントした事は」
証人「お金を貸したことはあるが、すぐに返してくれた」
弁護人「この事件について、警察から取調べを受けたことは」
証人「あります」
弁護人「何処の?」
証人「行田警察署」
弁護人「いつ?」
証人「7月19日の、大田祭りの時」
弁護人「大田祭りは、何日間やる?」
証人「2日に渡って」
弁護人「取調べの内容は?」
証人「小野川さんのお金がどのくらいあるかとか」
弁護人「調べを受けて、調書を作りましたか?」
証人「はい」
弁護人「何回?」
証人「一回だけ」
弁護人「7月19日に作った?」
証人「はい」
弁護人「(捺印したのは)判子か拇印か」
証人「拇印だと」
弁護人「被告から山から電話があったと、話した?」
証人「話しました」
弁護人「拇印を押す前、内容の確認は?」
証人「しました」
弁護人「内容は?」
証人「大体同じ」
警察から、取調べが終わったとき、5千円を貰ったらしい。
弁護人「取り調べの警官は、何人?」
証人「数人」
弁護人「お金をくれた人は?」
証人「女の人だったと」
弁護人「(警官は、お金をくれたとき)何と言った?」
証人「有難う御座いましたと」
弁護人「それで、領収書を書いたりは」
証人「していない」
弁護人「一審の弁護人と会って話をしたことは?」
証人「無いです」
裁判長「一審の弁護士さんを知っている?」
証人「はい」
裁判長「何時見た?」
証人「裁判を傍聴して」
弁護人「話をした事は?」
証人「無い」
弁護人「被告はどんな人?」
証人「優しくて、喧嘩なんかしない」
弁護人「暴力を振るわれた事は」
証人「無いです」
弁護人「被告が他人に暴力を振るった事は?」
証人「無いです」
弁護人「一審の死刑は」
証人「未だに信じられない」
弁護人「刑罰については?」
証人「やった事は悪いが、もう少し刑を軽くして欲しい」

−X3証人に対する別の弁護人の証人尋問−
弁護人「一審は、何回傍聴した?」
証人「一回です」
弁護人「何時?」
証人「最初の方」
弁護人「何故傍聴しようと?」
証人「殺人をやったのが信じられないので」
弁護人「判決が死刑とは何で知った?」
証人「新聞で見ました」
弁護人「如何感じた?」
証人「ショックでした」
弁護人「(警察で)山の話をした時、警官が通話記録を見せて、質問した事は」
証人「無かったと思います」

−X3証人に対する検察官の証人尋問−
検察官「電話の事だが、被告から、何時帰るとか、連絡はいつもあった?」
証人「何時もではないです」
検察官「其の時、被告の場所を知りたいとは?」
証人「山に居るのが不思議でした」
検察官「電話の前は?」
証人「ありません」

 これで、X3証人への証人尋問は終了。傍聴席に戻る時、X3証人は、被告の方に軽く会釈した。
 次は、X2証人が、証言台へ立つ。

−X2証人に対するオオモリ弁護人の証人尋問−
弁護人「オオモリから。X2さんは、旧姓Y1ですね。証人は現在再婚しているが、被告は、証人の前夫」
証人「はい」
 平成9年5月に結婚。
弁護人「被告人との間にY2が生まれた。今幾つですか?」
証人「8歳です。(平成9年生まれと言っていたと思う。)」
弁護人「被告と離婚したのは」
証人「平成10年の5月です」
弁護人「離婚後も、被告と一緒に暮らしていた。何時まで?」
証人「離婚して一年後から、平成12年までです」
弁護人「被告がX2さんの所から出て行ったのは?」
証人「平成12年2月」
弁護人「中旬」
証人「はい」
弁護人「被告の性格は?」
証人「優しくて、穏やかで、怒る事の無い人でした」
弁護人「喧嘩した事は?」
証人「無いです」
弁護人「貴方とは?」
証人「一度も、あ、手を上げられたことは一度も無いです」
弁護人「喧嘩をした事が一度あったというが」
証人「私が子供を怒って、それが、度が過ぎていると言うので」
弁護人「Y2君に対しては」
証人「優しく、面倒見が良かった」
弁護人「離婚後も一緒に暮らしていたのは、被告が子供と一緒に暮らしたかったから」
証人「はい」
弁護人「Y2君の親権者は」
証人「私です」
 そうなった経緯を説明していた記憶がある。
弁護人「Y2君にとって、被告はどんな父親?」
証人「優しくて、大好きな父親だと思う」
弁護人「被告が逮捕された時、被告から贈り物は?」
証人「クリスマスや入学祝、お年玉を」
弁護人「何を?」
証人「手紙や、一万円」
被告は、逮捕されてからのクリスマスから毎回、カードを送っている。
弁護人「接見は?」
証人「浦和の時は、何回行ったか解らない位」
弁護人「Y2君と面会は?」
証人「去年の11月」
証人「(Y2は)久しぶりに会ったので、恥ずかしそうだった」
弁護人「Y2は、事件については?」
証人「何も知りません」
弁護人「小野川さんはお金が無かったと調書に記載されているが、意味が違う」
証人「はい」
弁護人「お金が無いのではなく、大金を持っていなかった」
証人「はい」
弁護人「被告は携帯の料金を払ったことが無いとも書いているが」
証人「ちゃんと払っていました」
弁護人「Y2君にかかる費用は?」
証人「入園金など、全て出してくれました」
遊びに行く金も全て出していた。
弁護人「X2さんにプレゼントしてくれた事もあった」
証人「はい」
弁護人「クリスマスに20万円プレゼントした事もある」
証人「はい」
弁護人「クリスマスというのは、事件前」
証人「はい」
弁護人「他には?」
証人「前の年のクリスマスにはバッグ。指輪も買ってくれたし、旅行に連れて行ってくれた」
弁護人「被告は、高根沢から車を買うことになっていたが、知っていた?」
証人「そういう話があるけど如何思う?という話は出た事がある」
弁護人「被告は、車を欲しがっていた?」
証人「いいえ」
弁護人「事件前、突然話しが出た」
証人「はい」
弁護人「何故買う事になったと?」
証人「強く言われて断れなかったと思う」
弁護人「車の値段は幾らですか?」
証人「20万円」
弁護人「調書では30万円となっているが」
証人「それは、警察の人に、30万円で買っていると言われたので」
弁護人「でも、実は車は40万円だった」
証人「はい」
弁護人「そう被告から言われていたらどうしました?」
証人「止めていたと思う」
弁護人「被告と高根沢の関係について聞きます。話し方はどういう感じでしたか?」
証人「常に敬語で、先輩、という感じ」
弁護人「遊びへは、どちらが誘っていました?」
証人「高根沢の方から」
弁護人「被告がそれを断る事は?」
証人「電話がかかってきたら、何時もは子供優先なのに、しつこいので断れず、子供を置いて行く事も」
弁護人「断れなかった」
証人「はい」
弁護人「高根沢はどういう感じの人でしたか?」
証人「怖い先輩という感じと思っていました」
弁護人「被告の周りの友人は、高根沢の事を如何思っていた?」
証人「嫌がっていた」
証人「怖がっていたと思う」
弁護人「被告と高根沢は、昔からつるんでいた?」
証人「いいえ」
弁護人「一緒に居るようになったのは、事件前?」
証人「みんなで一緒に居ると思っていた」
弁護人「事件後に知った」
証人「はい」
弁護人「事件後に、貴方が被告を遊びに誘ったことは?」
証人「あります」
弁護人「被告は如何した?」
証人「高根沢さんと一緒に居る時は断った」
弁護人「調書は何時作成した?」
証人「7月19日」
弁護人「7月20日となっているが、19日に間違いない?」
証人「はい」
 日にちが違う事情を説明する。
弁護人「話したのは19日」
証人「はい」
弁護人「調書には、聞いた日に署名、押印をしたような記述があるが、そうではない」
証人「はい」
弁護人「現在、貴方は身重ですね」
証人「はい」
弁護人「X2さんの出産予定日は?」
証人「2月3日です」
弁護人「証言について悩んだ」
証人「はい。乗員からも遠出を止められたので、正直悩みました」
弁護人「しかし、証言したのは何故?」
証人「すいません(呟くように言う)・・・・・今日しか言う日が無いので、来なければ一生後悔すると思ったので、来ました」
 証人は涙声になっていた。
弁護人「ありがとう」
裁判長「検察官、ありますか」
検察官「ありません」
裁判長「気をつけて帰ってください。小野川さん、入って」

 X1証人入廷する。眼鏡をかけた、スカートのスーツ姿の、5〜60代ぐらいの痩せた女性。傍聴席では、夫と思われる、眼鏡をかけた痩せた老人と一緒に座っていた。
 常に涙声で、記者会見で話しているかのような印象を与える喋り方をする人だった。また、細かく話す人だったので、言葉をそのまま書ききれなかった部分が多い。

裁判長「ありのままに正直に答えて。偽ると偽証罪になります」

−X1証人に対するイワイ弁護人の証人尋問−
弁護人「イワイから質問します。被告は貴方のお子さん」
証人「はい」
弁護人「被害者の方二人を死に至らしめた」
証人「はい」
弁護人「それについて、如何考えていますか?」
証人「私も子供を待ち望んで、育てました。aさんやbさんのご両親の気持ちが解って、何とお詫びしたら良いか。何故あんな事をしたのか、何故なんだろう、何故なんだろうと・・・・」
弁護人「被害者の遺族の方に何かした事は?」
証人「私は創価学会を信心していました。家を締め切って、何日もお題目をあげ続けました。遺族の方に気持ちが通じれば良い、息子にも通じれば良い、と・・・・」
弁護人「どのくらいあげていますか」
証人「10時間ぐらいです」
弁護人「それは表現方法として、誇張した言い方ですか?それとも、本当にそのくらいあげていましたか?」
証人「続けて10時間ではなくて、何回かに分けて続けて」
証人「家から一歩も出られませんでした」
弁護人「どのくらい続けた?」
証人「判決が出るまで・・・」
弁護人「どんな時にあげていた?」
証人「光紀の事を思えばaさん、bさんの事を考え、道を歩いているときもあげていました」
弁護人「(創価学会に)ご主人も入っていた?」
証人「主人は嫌いでしたが、息子がこんな大それた事をしたので、入会しました」
弁護人「何時犯行の事を警察から聞いた?」
証人平成15年7月19日です」
弁護人「何時ごろ?」
証人「2時から3時の間です」
弁護人「(証人の)お仕事は?」
証人「裁縫の仕事を」
弁護人「それは?」
証人「事件後退職を」
弁護人「他に、貴方が何か被害者の事を思ってした事は?」
証人「当初は、水の流れるところは行ける状態ではありませんでした。申し訳なく、怖くて。落ち着いてからは、花をあげに行きました」
 被害者の月命日に花をあげている。
弁護人「今まで何回?」
証人「15,6回だと」
弁護人「最近では?」
証人「今年の元旦に」
弁護人「去年、aさんのご遺族に会いに秋田に行く話しがあった」
証人「はい」
弁護人「行きましたか?」
証人「行けませんでした」
弁護人「何故?」
証人「福島で交通事故を起こして、車が壊れたので、お墓参りに行く事ができませんでした」
弁護人「単なる物損事故ですね?」
証人「はい」
弁護人「当日は、私を入れて弁護人2名が秋田に行っていますね」
証人「はい」
弁護人「去年、被害者の遺族の所に行ったのは?」
証人「3回です」
弁護人「1回目には誰と会った?」
証人「Y3ご夫妻、Y4さん」
弁護人「2回目には?」
証人「息子さんなどに」
弁護人「Y3さんのお子さん」
証人「はい」
弁護人「3回目にY5さんと会わなかったのは?」
証人は、事情を説明する。
弁護人「3回目には、Y5さんは病院を退院して、八幡平にある養老院に移っていた」
証人「はい」
弁護人「お墓参りは、会うたびに?」
証人「はい」
弁護人「秋田へ行くのは、事前に連絡をして行っている」
証人「はい」
弁護人「行くのを断られた事は?」
証人「ありません」
弁護人「最初に会ったときに、謝罪しましたか?」
証人「すみませんとは誰にでも言えます。土下座するしかないんです。じっと二人で土下座していました」
弁護人「ご遺族は?」
証人「そんな冷たい所にいないで、自分を責めないで、此方に座りなさい、と」
弁護人「どなたが?」
証人「Y4さん夫婦が」
秋田弁が解らない時は、Y4さんが解説してくれた。
弁護人「Y4さんの方から声をかけたことは?」
証人「当時は泣いてばかりで。Y4さんの方から、そんなに泣いてばかりいたらやせ細ってしまうよ、と。当時私は52キロしかなく、はいているスカートがくるくる回ってしまう状態でした」
弁護人「見舞金としてお金を出した事がある」
証人「はい」
弁護人「幾ら払った?」
証人「100万円ほどお心づくしさせていただきました」
弁護人「お母さんから嘆願書が出されているが、Y4さんの説明の上で、Y5さんも納得して作られたもの?」
証人「はい」
弁護人「何故2回目以降も会いに行っている?」
証人「命日に来られるときには必ず来ます、と約束しました」
弁護人「これからもお墓参りを続ける」
証人「はい。自分の身内として、命の続く限り、お詫びをさせていただくつもりです」
弁護人「手紙を送られて、ご遺族から連絡をいただいている」
証人「はい。去年は事故があって送れなかったので」
弁護人「(bさんの?)家に行かれたことは?」
証人「2回行きました」
弁護人「何時」
証人は、日時を答える。
弁護人「連絡して行った?」
証人「いいえ、いきなり伺いました」
弁護人「弁護人が家に行く事を断られたので、自分で行った」
証人「はい」
弁護人「弁護士は同行した?」
証人「いいえ、主人と行きました」
弁護人「伺った時、どなたが出た?」
証人「ご両親はお留守だったので、祖父の方が」
証人「その人に何と?」
証人「お花をあげさせてください、と」
弁護人「被害者のおじいさんは何と?」
証人「立派な方で、bさんは本当に立派な方で、でも、私達加害者の家族も大変だなあ、と言って下さいました」
弁護人「ご両親にお会いした事は?」
証人「その後に伺った時、お庭にいらっしゃったので、お金を置いて、謝罪させていただきました」
弁護人「土下座を受け止めてもらえました?」
証人「受け止めないのが当然と思います」
弁護人「お母様は?」
証人「やめて下さい、と。迷惑だと思ったと思いますが、それが当然です」
弁護人「お父さんは」
証人「無我夢中の状態だったので、何とおっしゃられたか覚えていません」
弁護人「裁判の傍聴に行かれたことはありますか」
弁護人「bさんのご遺族と、法廷で会われたことは?」
証人「あります」
証人「何度かすれ違って、引き止めて気持ちを伝えたいと考えましたが、忙しく帰られました。始まる前の、昨年の7月だと思いましたが、黙っているわけにはいかないんです」
弁護人「土下座で許されないとは解っている」
証人「はい。でもそれしかないんです」
弁護人「被告にどのくらい面会している?」
 証人は、逮捕されてから初めて被告を見たときのことを話し、その途中に泣き出した。
弁護人「東京に、毎週月曜に来ている」
証人「はい」
弁護人「自動車事故があった後は」
証人「電車で来ています」
弁護人「拘置所では面会は何分ぐらい?」
証人「5分から、長くて7分です」
弁護人「話の内容は?」
証人「元気?かわりは無い?」
弁護人「それぐらいしか面会が許可されていませんからね。何を差し入れている?」
証人「本の差し入れを頼まれれば本を差し入れ、後、お金を」
弁護人「本は何を?」
証人「本人はニーチェの伝記が欲しいらしいんですが、手に入らないので」
弁護人「息子さんは昔から本が好きだった?」
証人「私の記憶ではそうではなかったと」
弁護人「本の差し入れはいつから?」
証人「浦和にいる時から」
証人「被告は子育ての本も頼んだのでは?」
証人「はい」
弁護人「被告が変わっている感じは?」
証人「受けます。・・・・浦和の時は、自分のことを、一般人はカバーしますが、しません」
弁護人「カバーとは、弁解の事?」
証人「はい。元々しない子なんです。お母さん、何でこんなことしたんだろう、と言ってくれれば楽だったんですが。罪の深さを年をとるごとに感じていると思います」
弁護人「弁解をしないので、会話にならなかった」
証人「はい」
弁護人「(被告は)Y2君の姓を変えたほうが良いとも言っている」
証人「はい」
証人「Y2に決めさせた方が良いと」
弁護人「被告の書いた上申書はお読みになりました?」
証人「はい」
弁護人「息子さんは文が上手かった?」
証人「私は気付きませんでしたから・・・」
弁護人「でも、内容はほぼ事実ですね」
証人「はい」
弁護人「息子さんは生物好きだった」
証人「はい。野鳥の会に入ったり。犬も飼った事がありました。でも、私の体のせいであまり生き物は飼えず、息子を傷つけてしまったと」
弁護人「生き物を苛めた事は?」
証人「全然無いです。怪我をした動物を連れて帰り、治療するぐらいでしたから」
弁護人「ご主人がアルコール依存症だった頃、貴方のお仕事は?」
証人、説明する。
弁護人「保険外交員の方を育成する」
証人「はい」
弁護人「ご主人のアルコール依存症が一番ひどかった時は?」
証人「ずっと、何十年もひどかったんです。事件前ですが、あの時は地獄だなあ、と思うほど辛い気持ちをしていました。私は、子供のことに気付かず、こんな所におかれて、申し訳ない」
 証人は泣き出した。
弁護人「どんな状況でした?」
証人「お酒を飲んで、寝転んだところに失禁するんです。一度、一緒に寝ているときに失禁されて、それからは別の布団に寝ました。私がヒステリーを起こすたびに、息子は、夫婦喧嘩していると思ったと思います(泣き出す)」
弁護人「上申書にもそう書いてありますね」
弁護人「上申書に、友達を呼ぶのを禁じられた事がいやだったとあるが、これは?」
証人「ありました。私が仕事から帰ってきた時、数人の男の子が家の中で鬼ごっこをしていたので、外で遊びなさい、とヒステリックに」
 当時、家は悪臭と異臭に満ちていた、とも証人は述べる。
弁護人「息子さんの不在を装って、友人からの電話を繋がなかった事もあった」
証人「はい」
弁護人「被告人のお兄さんの暴力の問題は?」
証人「ありました」
弁護人「お兄さんが外でやったことは?」
証人「長男がですか?無いです」
弁護人「(長男の暴力は)何故だと?」
証人「苛立っていたと思う。進学校に行っていて、進学で浪人して、私が意見したら苛立って、私が殴れないから、物が飛んだり、光紀にも攻撃があったと思う」
弁護人「お父さんは叱っていた?」
証人「他所のお父さんが如何するか解らないが、私が叱った方が口うるさいお母さんだったと思います」
弁護人「ご長男が、事件後に自分の暴力を話したことは?」
証人「後ろめたかったのか、そのことについて少し言っていました。光紀が遊ぼうと長男の後をついていった時、あっちに行けと蹴飛ばしたと。その他にも色々・・・・」

 裁判長が、弁護人に、後どのくらいで終わるか尋ねた。弁護人は、30分ぐらいと答える。裁判長は、今(3時5分)から3時25分まで休廷を宣言する。
 被告は、証言を聞いている間、ずっと俯いていた。休憩中は退廷する。退廷時、被告は鼻を啜り上げていた。25分ぐらいに、再入廷。入廷後、弁護人と、少し話をしていた。

 証人も、証言台に再び立つ。

−X1証人に対するイワイ弁護人の証人尋問−
弁護人「イワイから質問を続けます」
証人「はい」
弁護人「被告が、家庭内や外で暴力を振るった事は?」
証人「ありません」
弁護人「壁に穴があいていると言うが、被告があけたものは」
証人「ありません」
弁護人「前科前歴も無い」
証人「はい」
弁護人「友人関係でトラブルは。学校に呼ばれた事は」
証人「ありません」
弁護人「お酒は」
証人「私も息子も喘息があるので」
弁護人「付き合い程度」
証人「はい」
弁護人「中学の成績は」
証人「勉強しないでも良かったので、親が手を抜いたところが」
弁護人「(被告は)英検三級を(中学で)取得し、レギュラーとしても活躍した」
証人「はい。親を喜ばせてもらいました」
弁護人「中学3年で成績が落ちているが」
 クラブ活動が無くなったからではないか、等と述べる。
弁護人「高校では進学課に行っているが、きちんと行っていた?」
証人「最初はまじめに行っていました。2年の夏休みを過ぎた頃から、少し行けなくなりました」
弁護人「高校卒業後、専門学校に行き、其処を中退しているが、其処は望んで行った所?」
証人「優しい子だったので、介護系の専門学校を希望していました。でも、偏差値が高かったので・・・・・」
弁護人「介護科への進路希望は、貴方の押し付けではない」
証人「はい」
弁護人「受からなかった」
証人「はい」
弁護人「X2さんとの同棲については、反対だった」
証人「はい」
弁護人「折に触れて色々言った」
証人「折に触れてというか・・・・」
証人「色々行き違いがありまして、悪気は無かったので、言った記憶は無いんです」
弁護人「(被告が)離婚した直後、何か言われた事は?」
証人「直後、住宅に呼ばれました。荷物は運び出され、がらんとした中にX2さんと光紀が居ました。『X2に謝れば元に戻るから謝れ』と言われました」
弁護人「謝った?」
証人「いいえ、離婚するほど悪い事を言ったとは思わなかったので」
弁護人「被告に経済的に不自由をさせたことは?」
証人「ありません」
弁護人「堅実だった」
証人「はい」
弁護人「ご主人を定年まで勤め上げられるようにエネルギーを注いだと言っていましたね」
証人「はい」
弁護人「悪い言い方をすれば、(アルコール依存症を)隠そうとした」
証人「はい」
弁護人「被告の独立後、仕送りをした事は」
証人「ありません」
 5万円送った事はある。
弁護人「金の無心をされた事は」
証人「2度あります。免許を取りにいくお金を。でも、お金にはきちんとした子でした」
弁護人「事件前の秋ごろ、被告と会って将来について話をしたことは?」
証人「ありました。あまり家に帰ってこない頃だったので、他の人に、帰ってくるように言ってもらいました」
弁護人「どんな話を?」
証人「長男も帰ってきて、長男が商売を始めた頃だったので、その事でも」
弁護人「長男の商売は?」
証人「コンビニの経営です」
弁護人「被告は、それに関しては?」
証人「うん、と返事をしたんですが、後に、今日はいけない、と。長男は怒りましたが、(私は)まあ、そのうち行くだろうと。行かせておけば良かったと悔やまれます」
弁護人「被告が逮捕された時、被告は何処で働いていた?」
証人「長男の所で」
弁護人「半年遅れたが、話し合った道に進み始めていた」
証人「はい。一度家に帰ってきて(この後、何か説明した)」
弁護人「その後に、お兄さんの所で働く事になる」
証人「はい」
弁護人「其の時、もっとお金が欲しい、もっとお金の入る仕事がしたい、等と言っていた事は?」
証人「言いません。よく働く、と褒められていました」
証人「家に居つくようになると、大金は渡さないで、1日2千、3千と渡した事はあります」
弁護人「事件前に金に困っていた様子は無い」
証人「はい」
弁護人「Y2君に対して、被告人はどんな父親だった?」
証人「とても微笑ましい親子でした。友達同士みたいで」
弁護人「貴方は、Y2君と一緒に面会したことはあった」
証人「はい」
弁護人「何回ぐらい?」
証人「5回ぐらいだと思います」
弁護人「そうした時、Y2君はどのように?」
証人「本当に可愛い・・・・・こんな子の父親が如何してこんな事ができるんだろう、と」
弁護人「触れ合う事はできないが」
証人「壁を挟んで手を合わせていたこともあります」
弁護人「被告人は、貴方との関係で、妻との間に挟まれて悩んでいた。それは認識できるか」
証人「出来ません。心にこんないろいろな事を。何故もっと自分の気持ちを出そうとしなかったのかと」
弁護人「被告人は、アルコール依存症の父、泣き叫ぶ貴方、暴力を振るうお兄さんの間に育った。反発して暴力を振るった事は?」
証人「無いです」
弁護人「家出は?」
証人「知り合いの家に言ったぐらいで」
弁護人「独立しても、家に帰っていた」
証人「はい」
弁護人「X2さんとの同棲時、被告は、貴方に意見を言わなかった」
証人「不満を言わない子でした。いつもニコニコしている光紀君と言われていました」
弁護人「事件の2ヶ月、特出した時期ということになりますね。其の時、何か言っていた事は?」
 お母さんとお兄さんは貪欲だ、等と言っていたらしいが、そう深い意味があるとは思えないらしい。
弁護人「自分と父が似ている、という程度の意味?」
証人「はい」
弁護人「今日の事を聞いても、ご遺族は納得出来ないのは解りますね」
証人「はい」
弁護人「貴方はどうするつもりですか」
証人「一生を謝罪で過ごすつもりです」
弁護人「被告に言いたい事は?」
証人「5月に帰ってきた時に、一言この事件の事を言ってくれれば良かったな。お前を抱きしめてあげたのに。お前が可愛くて、早く結婚すると盗られそうで、可愛くて・・・・・すみません」
 証人は、泣き出した。

−X1証人に対する検察官の証人尋問−
検察官「aさんの遺族と話していたのはどの位ですか?」
証人「1時間位と」
検察官「その間、(遺族の誰かが)証人に名前で呼びかけた事は?」
証人「ちょっと覚えていません」
検察官「Y5さんが証人の事を解っているとは、何処で解る?」
検察官「Y5さんの言葉で直接解った?」
証人「ニュアンスで解ります。単語は解らない所がありますが、Y4さんが解説してくれました」
検察官「終わります」
 証人は、傍聴席に戻る。

 弁護人の事実取り調べ請求について、検察官は全て同意する。
 平成5年7月富山地裁判決、平成9年3月28日津地裁四日市支部判決、名古屋高裁判決等が取り上げられる。

裁判長「前回、検察官が不同意だった物について結論は?」
弁護人「15,16,19については撤回。12については、高根沢の書簡ですが、物として立証するものとして請求したい」
裁判長「検察官は?」
検察官「異議はありません」
裁判長「採用します。内容紹介の必要は?あるのならばして下さい」
弁護人「その場で結構です」
裁判長「高根沢の調書について、高根沢は不満を述べている、という内容ですね。調べておきます」
裁判長「次回は、1月30日午後1時30分。被告人質問を行います」
 閉廷を宣言しかけた所で、弁護人の一人が立ち上がる。
弁護人「今後の協議を三者で行いたい」
 裁判長は了承し、閉廷する。

 4時5分ぐらいに公判は終了した。
 被告は、終始俯いて証言を聞いていた。退廷する時、弁護人と少し話をしていた。

事件概要  小野川被告は高根沢死刑囚と共に、強盗目的で以下の犯罪を犯したとされる。
1:2003年2月23日、群馬県宮城村でパチンコ店員を殺害し、遺体を川に遺棄したた。
2:同年4月1日、群馬県太田市でパチンコ店員を殺害し、遺体を川に遺棄した。
 小野川被告は7月20日に逮捕された。
報告者 相馬さん


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