裁判所・部 東京高等裁判所・第六刑事部
事件番号 平成16年(う)第1001号
事件名 殺人、銃刀法違反
被告名
担当判事 池田修(裁判長・代読)山内昭義(右陪席)鈴木秀行(左陪席)
その他 書記:今泉延友
日付 2005.12.22 内容 判決

 A被告の公判は、東京高裁718号法廷で、午前10時から行われた。
 報道記者席が十数席割り当てられ、遺族席は6席割り当てられていた。因みに、遺族席には印は無かった。
 開廷前に二分間の撮影が行われる。9時55分に、一旦入退廷が止められ、撮影終了後に再度許可された。傍聴人は、撮影前は12人ぐらいだったが、撮影後にかなり入ってきた。
 裁判長は、白髪で眼鏡を掛けた細身の老人。裁判官は、眼鏡を掛けた4〜50代の男性2名。
 検察官は、眼鏡を掛けた50代ぐらいの男性一名であり、弁論の時の検察官とは違う人物だった。
 弁護人は、撮影が終わってから入廷する。髪の長い3〜40代の女性。
 被告は、背が高く、色白で、痩せている。無表情であり、相変わらず困ったような感じに顔を顰めている様に見える。髪は丸坊主で、白いコートを着ている。今日は眼鏡をかけていた。

裁判長「被告人、前へ」
 被告、被告席から証言台に出る。
裁判長「A被告?」
被告「はい」
 小さい声だった。
 池田裁判長は、裁判長が変わったため自分が判決を言い渡す旨、被告に伝える。

−主文−
 本件控訴を棄却する。

 被告に席に戻るように言い、被告は従う。主文が言い渡された時点で、記者の殆どが退廷する。

−判決理由−
 殺意を持って、包丁で、被害者の胸部、大腿部などを刺し(ここで被告の表情が少し動いた)殺害。
 交際女性の関係で父親に暴力を加え、交際女性に対する殺人未遂事件を起こし、その後も、別の女性に対する脅迫事件を起こしている。
 殺人未遂の前科に関して、本件被害者に「昔の事は忘れて一緒にがんばっていこう」と励まされ、同女に傾倒していく。
 被告は、毎日のように携帯で電話し、何処で何をしているのか、他の男と付き合わないように、等と言っていた。
 被害者は、交際に嫌気がさし、勉強に専念する事を決め、交際を断るようになり、電話にも出ないようになった。被告は、被害者を待ち伏せ、包丁を突きつけて、何故話を聞いてくれないのか問い詰めたところ、「出会わなければ良かった」と被害者から言われ、殺害した。犯行の経緯、動機には、汲むべき点が乏しい。
 力任せに多数突き刺し、心臓を貫通する傷を負わせ、強固な殺意に基づいている。血塗れの被害者を置いて逃亡し、原審で殺意を否認するなど、真摯に反省していないと思われる点もある。
 被害者は、家族や友人から慈しまれていた。
 被告は、特段の慰謝の措置を講じていない。
 前科の殺人未遂は、相手の不貞腐れた様な態度に憤激したものである。
 被告は、境界線人格障害である。我儘で、見捨てられる事に強い恐怖を抱いており、見捨てられないために多大な努力を払う。人格障害は、良くなる可能性も良くならない可能性もある。
 犯行態様、犯行の結果、遺族の処罰感情、被告人の前科、被告の性格を考えれば、検察官の『被告人を死刑に処すべき』という主張にも、相当の理由はある。しかし、被告人と被害者は、一時期親密な関係にあり、被告人が一方的に好意を抱いたものでは無い。促されたものとはいえ、被告人は自首している。反省している等、有利な事情もある。遺族の感情を思うと忍びないものがあるが、無期懲役が軽すぎて不当とは言えない。

裁判長「被告人、もう一度前へ」
 被告、裁判長の前に出る。
 裁判長は、上告に関する説明を被告人に行う。
裁判長「終わります」
 被告は、裁判長に一礼する。そして、遺族席の人々にも深々と一礼し、退廷した。

 公判が終わったのは、10時18分だった。裁判長の声は小さく、淡々としており、聞こえにくかった。
 被告は、判決言い渡しの間、最初は裁判長の方を向いていたが、途中から正面を見ていた。被害者殺害の箇所を除けば、表情を殆ど変えなかった。
 法廷の外では、関係者らしき人々が、腹が立ってきた、上告がどうこう、検事さんが帰った、等と話していた。
 エレベーターのある廊下では、被害者遺族の弁護士らしき眼鏡をかけた4〜50代の男性が、記者たちの質問に答えていた。「死刑判決が出た時のために用意してきたものがあったが止めておく」と述べ、「民事は親の責任だけは決まりましたけど・・・・」とも話していた。
 関係者かは解らないが、スーツ姿の若い男性が、「あれだけの事やってるんだもんな」と言っていた。
 暫くの間、記者たちや関係者たちは、法廷のあった7階の廊下に留まり、何か話していた。

事件概要  A被告は2000年4月19日、静岡県沼津市で交際相手の女子高生をストーキングした挙げ句、殺害したとされる。
報告者 相馬さん


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