裁判所・部 | 東京高等裁判所・第六刑事部 | ||
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事件番号 | |||
事件名 | 現住建造物等放火、殺人、同未遂 | ||
被告名 | B | ||
担当判事 | 田尾健二郎(裁判長)山内昭義(右陪席)鈴木秀行(左陪席) | ||
日付 | 2005.9.27 | 内容 | 証人尋問 |
報道記者席は、一つ割り当てられていた。 検察官は、頭頂部が禿げ上がった、眼鏡をかけた小太りの中年男性。開廷前に、書記官と話していた。その会話の内容は、この法廷ではまだB被告の被告人質問しか出てきていない、何度も同じ事を聞かされている、等というものだったと思う。 被告は、小柄な、八十一歳という年相応の老いを感じさせる老人だった。目は細く鋭い。頭はきれいに禿げ上がり、口の片方は歪んでいた。写真のとおり、下顎が大きい。しきりに口をもごもご動かし、舌打ちのような音もさせていた。その時は、その事もあって剣呑な雰囲気を感じたが、今から考えれば、単に入れ歯がずれていただけかもしれない。(年を考えると、入れ歯をしている可能性が大きいと思う) 青い服、青いサンダル、といういでたち。 傍聴席にはわずかな人しかいなかった。 弁護人は、池内、謝、両被告の弁護人も担当していた、大熊弁護人。 もう一人主任弁護人がいるらしく、遅れてくるようなことをいっていたが、結局来なかった。 この日は、主犯格とされている、A俊一被告の証人尋問が行われた。A被告は、痩せていて、やや小柄でたれ目。鉤鼻で、口が少し飛び出ている。また、髪が年の割には不自然なほど黒かった。鬘か、それとも染めたのか。上半身は緑の上着を着ている。サンダル履き。開廷前、せきをしていた。 先ずは、検察側の証人尋問から。 −検察官の証人尋問− 検事「証人は刑事裁判で無罪を主張しているね?」 A「はい」 検事「被告は、証人に(殺人を)依頼されたと言っている」 A「はい」 検事「なぜ、Bはそう言うと?」 A「一つは、恨みだと思います」 検事「ほかは?」 A「後は・・・別に特別にはないと・・・」 検事「恨みとは?」 A「働いたのに、最後には私とトラブルがありまして、(Bは)やめさせられたといっているが、(Bが)出てこなくなったのでやめることになった。給料も多いことはなかったが、恩や義理で恩や義理で一生懸命やってくれたと思うが、それでやめさせられたと」 検事「そう思っていると」 A「はい」 検事「平成十三年七月の話?」 A「はい」 検事「(Bは)卵を持ち出した」 A「はい」 検事「それ以外には?」 A「特に無いと」 検事「主なものは卵の持ち出しですね?」 A「はい」 検事「今回の事件は、Bが火をつけたと思う?」 A「逮捕されてから、そう思いました」 A「法廷に出て、Bの言うこと、実況見分、Bは他の人がやったといっていますが、そう言うということは、Bがやったと思う」 A「動機は、養鶏場が苦しくなったことを聞いて、A養鶏で一生働いてすごそうと思っていたのに、倒産することになったら、俺もやっていけない、と、一心で、自分とA養鶏場のためという一心で、恩返しと、自分のためにやったと」 検事「aさんが死ねば、保険金が入ることをBは知っていた?」 A「それは知っています。いつも私と一緒にいる。大体のことはわかっていたと思います」 検事「つまり、Bは、A養鶏場の危機を救おうとした」 A「はい」 検事「ということは、被告のために火を?」 A「はい」 検事「そんなに信頼関係があった」 A「はい」 検事「被告Bが、経営状態を把握することはできた?」 A「はい。いつも一緒で、大変だというのも聞いているし、卵もいっぱい置いてある。言わず語らずで、身にしみてよくわかります」 検事「(Bが)取引業者と立ち会っていることが?」 A「あったでしょう。私もBに隠さなかったし」 検事「平成元年四月、養鶏場が追い詰められていた?」 A「危機感は感じていない」 検事「では、なぜBは?」 A「負債があると、業者から聞いたんでしょう」 検事「そう理解している?」 A「はい」 検事「養鶏場でガソリンは毎日使っていた?」 A「はい」 検事「どこに保管していた?」 A「農場の片隅に」 A「ポリタンクに10−20?買ってきて、そこにしまっておく」 検事「毎日持ち運びを?」 A「ほとんどそうです。よほどのことでなければ、養鶏場の中にはおきません」 検事「ポリタンクは?」 A「ガソリンは一つ」 検事「灯油は?」 A「養鶏場で、暖房に使っていました」 検事「どのように保管していた?」 A「ポリタンクです」 検事「いくつ?」 A「いや・・・・二十ぐらいあったかもしれません」 A「寒いときは、二十?ぐらい使ってしまうんです。十五くらいとっておかなければ、月曜日に間に合わない」 検事「ただもポリタンクもいくつかあった?」 A「はい」 検事「事件の二、三日前に、aさんの家に灯油を届けた?」 A「はい」 検事「あなた一人で?」 検事「aさんと、あなたで、家の近くまで届けた?」 A「そうですね」 検事「それをBに話した?」 A「よく解りません」 検事「以前、話さないと言っていませんでしたか?」 A「よく解りません」 検事「話したとすれば、なぜ?」 A「花見の晩、aは寒くて眠れなかったと言ったので、(灯油を)持っていった。タイミングで・・・・解りません」 検事「Bは、証人から頼まれたと言って、ガソリンを証人が準備したといっているが、その時期が、証人が灯油を持って行ったのと合うが、なぜ?」 検事「証人から聞いた話を、Bが利用したと?」 A「わかりませんが、一日か二日ぐらいですから、ポリタンクはいくらでも無断で持ち出せますから」 検事「ガソリンは持ち出せる?」 A「いつでも」 検事「四月五日、警察官から、aさんが、Bが家に入ってきて家に火をつけた、と言っている事を聞いた?」 A「覚えはありません」 A「aくんはすぐ入院していましたし」 検事「おまわりさんから」 A「翌日かその次ぐらいに聞いたかもしれない」 検事「aさんの話は知っていた?」 A「Bが火をつけたかどうかは」 検事「話は知っていた?」 A「わかりません」 検事「aさんの話の内容は今回まで知らなかった?」 A「聞いたような気がしますが、はっきりとは。Bがやったとは毛頭思っていませんから」 検事「aさんに話す理由を聞いたことは?」 A「ありません」 A「あまり頻繁に病院に行きませんでしたし」 検事「退院してからは?」 A「ありません」 A「Bが火をつけるとは全く思いませんから。それに、現場ではガスの不始末だと言われましたから、そんなに聞くあれは無かったです」 検事「Bにも?」 A「尋ねません」 検事「Bも大事だし、aさんも一生面倒見なければならない。その一方が一方に火をつけられたといっている。あなたにすれば、尋ねるべきでは?」 A「言われてみればそうですが・・・年数がたっているので正確に覚えていないが、それはないと。聞いたら、aもいやな顔をしたので、聞いて悪かったと重い、ガスの不始末を気をつけろ、とだけ言った」 検事「平成元年四月七日、Bに三百万あげている」 A「はい」 検事「それ以外には?」 A「給料以外にはありません」 検事「平成十三年七月まで、Bはちゃんと働いていた?」 A「十一年ぐらいまでは働いていたが、あとの二年は卵の持ち出しが激しくなってきてトラブルが大きくなったのと、Bが増長して来たので、私への態度が違っていた」 検事「仕事は?」 A「きちんとやっていた」 検事「三百万円はボーナスだと言いましたね?」 A「はい」 検事「お金を何に使っているかは?」 A「色々な事がある、と。具体的なことは言わずに。頭を下げて言うからよほどのことがあると思いまして、ボーナスもあげなかったから、あげようと」 検事「それは、三百万の事?」 A「はい」 検事「卵の持ち出しは?」 A「(聞いた事は)ありません。持ち出すのは少しで、二、三千ぐらいです。でも、三千五千だからではなく、黙って持ち出すのは、私としては、金額云々ではなく、気持ち悪い。割ったなら事故だが、こそこそ鼠が引くように持っていくと、精神的に気分が悪いですから、三度に一度言っているが、聞けないんですね」 検事「理由を聞いた事は?」 A「あります」 A「そうしたら、(Bは)ありゃあしねえ、そんなにちっぽけじゃねえ、と。自転車があっても。近所に持って行こうと思ったと言えば許すが、言い訳もしない」 検事「給料を上げようとは?」 A「しません」 検事「きちんと働いていたんでしょう?何かしてやろうとは?」 A「思いません」 検事「何故?」 A「給料を出して、努力賞として月五万出していました。残業手当のつもりでした。Bは言わなくても一人でやってくれる。先に来て、仕事を始める」 検事「辞められると困るとは?」 A「思っていました」 検事「それでも?」 A「(給料を)上げられないと思っていました」 大熊弁護人による尋問に移る。 −弁護人の証人尋問− 弁護人「貴方は、aさんから民事裁判を起こされていますね?」 A「はい」 弁護人「五百万?」 A「はい」 A「払ったと思います」 −裁判長の証人尋問− 裁判長「それ(和解の成立)はいつ?」 A「一ヶ月ぐらいたつと思います」 裁判長「民事訴訟では、貴方と貴方の奥さんが相手・・・・Eとなっているが」 A「私がこういうことになったので、世間の人が・・・」 裁判長「それで、籍を抜いた」 A「はい」 −陪席裁判官の証人尋問− 裁判官「五百万を何故払った?」 A「どう言うんですかね・・・・・弁護士さんから話をしてもらいまして、法廷出て話をしたこともないし、人から話を聞いて、妥当だと思う線で話をつけたと思う」 裁判官「払うのを決めるのは、貴方か奥さんでしょう?何故払った?」 A「上手く言えないんですけど、訴訟を起こされた、言葉は違うかもしれないが、正しいからといってゼロにはならないと」 裁判官「貴方の話によれば、訴訟を起こされれば迷惑でしょう?何故五百万払った?どういう趣旨のお金として?」 A「長い間働いてきて、(aさんの)年金を私のために使っていたので、悪気はなかったが、まあ、多少は、(aさんは)火傷をしたし、奥さんは亡くなったので、管理不行き届きというか、少しは仕方ないと」 裁判官「aさんに家を建てて、今回またお金を」 A「嫌だと私は言いました」 裁判官「Uさんという名は、何故、前回出るように?」 A「Bが、Tさんに、(放火を)やったと言ったので、ああ、そういうことで、言ったんだな、と」 裁判官「何故、今回出てきた?」 A「Tという名前が出てきたので」 裁判官「それ以外に、三百万の使い道は聞いていない?」 A「はい」 −陪席裁判官の証人尋問− 裁判長「昭和五十九年の暮れに、Bが入ったころはいくら払っていた?」 A「十五、六万だと」 裁判長「辞める直前は?」 A「下がって十七、八万ぐらいになったでしょう」 裁判長「下がったというのは、(Bが養鶏場に)出てこなくなった事と?」 A「残業手当を出せと(Bが)言ったが、五万出しているし、それ以上出せないといったら、日曜出勤しなくなった。売れ行きが悪くなったので出てこなくていい、と私は言った」 裁判長「自販機の件、というのは?」 A「私が借りる前は・・・・・要するに、使わなくなって、姉さんから借りました。Bの家の傍と道路の向こうで、一万八千円になった。何もトラブルはなかったが、Bが、機械自体で二万、と、ずれた事を言い出し、Bは年間二万で借りた、と言い、Bは引き下がらないのでトラブルになった。月二万で借りるようになったが、それでもBは不平不満で一杯だった」 裁判長「最終的には?」 裁判長は、Aの話の解り易さを考えない長広舌に、やや辟易したようだった。 A「二万払えばいい、と思ってやっていました」 裁判長「いつごろから?」 A「かなり前でしょう」 A「昭和の・・・・・十年ぐらい前だから、そこははっきり」 裁判長「三百万ですが、奥さんにはBからの話を相談しているが、奥さんと一緒にBに三百万渡しているが、何故?」 A「私と女房は、ほとんど一緒なんです。一人で僕が行くことはない、どこでも一緒だったんです。良いか悪いかは知らないが、まず一緒、だから、 その時も」 裁判長「返してくれないのならしかたない、と?」 A「はい」 裁判長「それは、奥さんも?」 A「はい。私は、(Bは)長年働いていたから、ボーナスも出さなければしょうがねえな、と(妻に)話したと思う」 −検察官の証人尋問− 検事「自販機のトラブルの際、Bから、警察にぶち込んでやる、と、言われたことは?」 A「いえ、それは、ぶっこわしてやる、こんな機械ぶっ壊してやる、と。アクセントが少し違っただけで」 証人尋問は終わり、証人は一礼して退廷する。 弁護人からは、九月二十一日付と、もう一つの日付の証拠請求があった。 検察官は、いずれも同意する。 次回期日を指定する。しかし、Bは解らなかったらしく(それとも裁判長が、被告が聞き取れなかったことを心配したのか)、大熊弁護人が被告に日時を伝える。被告は聞き返していた。そして、閉廷し、被告はゆっくり歩いて退廷する。 十時から始まり、十一時ちょっと過ぎで終わった。 証人として出廷したA被告は、話す順序や解り易さ、つまり、話の要点の整理をあまりよく考えないようだが、舌が非常によく回った。(今回の傍聴記では)断片的な言葉を繋ぎ合わせた要約しか書けなかった場合が殆どである。 Bは、裁判の間、体を前後に揺らすことがあり、口をもごもご動かしていた。証言の間中、表情を変えることは無かった。また、声はかすれていた。 閉廷後、弁護人と検事が、何か話をしていた。 | |||
報告者 | 相馬さん |