裁判所・部 東京高等裁判所・第六刑事部
事件番号
事件名 殺人、銃刀法違反
被告名
担当判事 田尾健二郎(裁判長)山内昭義(右陪席)鈴木秀行(左陪席)
日付 2005.9.8 内容 弁論

 開廷前から幾人かが廊下で開廷を待っていた。
 入廷が許され、開始前、ワゴンに乗せられた多数の資料が廷内に運び込まれる。男性の検察官が礼をしながら入廷する。
 被告は、長身で痩せぎす、色白の男。頭は丸坊主、着衣は、上半身は茶色の上着、下半身はベージュのズボンと言う出で立ちで、困ったような感じにしかめているような表情を浮かべていたが、それは、被告のもともとの表情なのかもしれない。
 礼をして入廷する。
 傍聴席はかなり埋まっていた。

 被告人質問に入る前に、証拠採用に関する打ち合わせを行う。
 検察側は、判決文等を証拠として提出。
 弁護人はそれに対して不同意であったが、裁判官は採用を認める。

 検察側の被告人質問が始まる。
 被告の声は、精神薄弱者のような、少し変わった調子だった。


−検察官の被告人質問−
検事「貴方は平成十一年一月二日、アタベ(?)に花火を見に行ったとき、被害者のMさんに前科のことを話し、これからがんばっていこうね、と言われたことについて聞きます」
被告「私は、一人の人間を刺してしまったこと、刑務所に行く人間になってしまったことを話しました。
検事「どのくらい、どこで刺したかは?」
被告「話していません」
検事「原因は?」
被告「・・・・話していないと思います、記憶によれば」
検事「Mさんは、原因は女にあるんでしょ、と言っている。それは女に責任があると受け取った」
検事「ならば、何か話しているのでは?」
被告「お金の件と・・・・思い出せません」
検事「お金については?」
被告「二百万を肩代わりしたと」
検事「それは実際に無いことでしょう?あなたとしては、それを騙し取られたと考えていたのでは?」
検事「交際が嫌で貴方に貢がせていたのを、Mさんに話していた当時、知っていたのでは?」
被告「かも知れません」
検事「Nさんのお金の肩代わりについてMさんに実際どのように話した?」
被告「・・・もう一度」
 検事、もう一度説明を繰り返す。
被告「具体的なことは話しませんでした」
検事「全部、お金の話はどう言った?」
被告「お金を貢がされた、結果的にそうなってしまったと」
検事「いくらと?」
被告「二百万です」
検事「肩代わりについては?」
被告「わかりません」
検事「実際に肩代わりする借金がなかったことについては?」
検事「実際は肩代わりのために貢がされたわけではないんでしょう?」
被告「さかのぼって言いますと・・・」
検事「Nさんの調書は読んだ?」
被告「読みました」
被告「当初、自分にも親にも借金があるからソープで働かなければいけないと言っていました」
検事「借金と言う名目が嘘だったとMさんに話したと記憶に無い?」
被告「ちょっと記憶にありません」
検事「どの部分を刺したかは?」
被告「言いませんでした」
検事「どのくらい刺したかは?」
被告「言いませんでした」
検事「どのくらいの怪我を負ったかは?」
被告「言いませんでした」
検事「後遺症については?」
被告「そのころは知らなかったので言いません」
検事「刑務所を出所した後、Nさんに聞いたのでは?」
被告「お母さんに電話しました」
検事「証拠とは違うが」
検事「Mさんが原因は女にあると言ったのは?」
被告「お金の影響だと」
検事「貴方はN事件とMさんの事件は違うと思っているね?」
被告「・・・・私の中では、Mさんは私のことをいつも愛してくれて、しかし、Nさんは私に対し愛すら頂きませんでした。その点で違うと」
検事「好いていない女性に付きまとうと言うことは同じでは?」
被告「そのころは思っていません」
検事「Mさんが被害者になりうるとは?」
被告「Mさんは一切思っていませんでした」
検事「何故言える?」
被告「言動からです」
検事「Mさんは思っていなかったと?」
被告「わかりませんが、私とMさんは事件直前までファミリーレストランで会食していたので、無かったと思います」
検事「貴方は、Mさんは警戒心を持っていなかったと?」
被告「そうです」
検事「殺されると、恐怖心で一杯だったのでは?」
被告「電話ではそういうことは・・・・」
検事「貴方はそう(事件を起こす事になると?)思っていたか」
被告「私ですか?」
被告「思っていなかったと思います」
検事「何故そう思わなかったと?」
被告「私のことを愛していたことがあったからです」
検事「それに、前の事件の結果を言っていないしね?」
被告「それは関係ないと思います」
被告「私はMさんを殺すつもりも刺すつもりも在りませんでした。それは事件当時から記憶が無くなるまで一貫していました」
検事「殺すつもりのところに話を移します」
被告「はい」
検事「登校時に話しかけているが、自転車置き場で話すつもりだったか」
被告「考えていませんでした」
被告「私は酒におぼれてMさんのことばかり考えていました。そして、話を聞いて欲しいとだけ考えていました」
検事「どのくらい話し合おうと?」
被告「考えていませんでした」
検事「学校の始まる時間は知っていたね?」
被告「八時三十分です」
検事「学校に遅れてもいいと?」
被告「それは考えていませんでしたが、Mさんが私の携帯に何度も電話したので、Mさんの行動は解りました」
検事「学校は?」
被告「考えていません」
検事「包丁を見せて通報されたらどのくらい刑務所に行くと?」
被告「考えていませんでした」
被告「話はそれますが、私の考えていたことは、Mさんが私から気持ちが離れていればそうすると思う反面、離れていなければ受け入れると。懲役何年とかは考えていませんでした」
検事「どのくらいの割合だと考えていた?」
被告「当時はまったく考えていませんでした。今から考えれば、Mさんが私に関して翻意するのは低かったと思います」
検事「事件当日は?」
被告「そういうことは考えられません」
検事「それも考えられない」
被告「はい」
検事「それ以外に想定は?」
被告「ありません」
検事「殺すことも?」
被告「はい」
検事「親に相談してから通報すると?」
被告「考えていませんでした」
検事「拒否も予想してましたね?」
被告「はい」
検事「今回のような言葉は?」
被告「誰の子供かわからない、と言うことですね?想像してはいませんでした」
検事「俺たちは子供まで出来た仲じゃないか、というあれですね。では、どう言われると?」
被告「考えてませんでした」
被告「自分の気持ちを聞いて欲しいという気持ちで一杯でした」
検事「どう答えるか想定しなかった?」
被告「はい」
検事「Mさんは携帯番号を変更して、家に電話してもけんもほろろ、別の男性とつき合っている事については?」
被告「別の男性とは別れ話が出て、Mさんと会ってそのことを話した」
検事「別れ話が出て貴方と会ったからといって、気持ちが貴方に向くとは限らない。好きな人が出来たら他の男とは会わないと?」
被告「何を言いたいのかと言われても・・・」
検事「まだ貴方に気持ちが残っていると思うのか」
被告「・・・・その当時はそういったことに一縷の望みをかけていたと思います」
検事「登校時に時間が無いとは思わなかった?」
検事「何故下校時にしない?」
被告「わからない」
検事「土曜日にも会えたでしょう」
被告「はい」
検事「どうして下校時や休日のようにゆっくり話せる時を選ばない?」
被告「そういうことは其の時考えなかった・・・・」
検事「ぜんぜん考えなかったと?」
被告「はい」
検事「どうして登校時を考えた?」
被告「・・・・・・わかりません」
検事「貴方は殺意を否認しているが、客観的には殺意が認められると判決は述べている。話し易さを考えなかったのなら、殺すつもりだったと考えられても仕方が無い」
被告「殺すつもりも殺意もありませんでした」
検事「判決では、現場で殺意を持ったとあるが」
被告「もし私に殺意が在ったならば、私とMさんは車で話し合ったことが、別れ話が出た後でありました。もし殺意があったならば、このとき殺害していたと思います」
検事「殺そうと思えばもっと早く殺せたと」
被告「いいえ」
被告「検察官が言うような前もっての殺意ですか・・・・」
検事「具体的な理由を聞いています」
被告「私はMさんをとても愛していました。Mさんを殺すつもりも刺すつもりもありません」
検事「被告は調書の中で(別の女性には)『刺すとスッとして諦めがつく』と言っている」
検事「でも、貴方が父親に包丁を持って追いかけられて逃げたのは怖かったからでは?」
被告「はい」
検事「ならば、被害者も怖がるのでは?」
被告「私のことを想っているのならば、翻意してくれると愚かにも思いました」
堅持「恐怖からも翻意するね?」
被告「いいえ・・・・」
検事「怖がらせるために?」
被告「話を聞いてもらうためです」
検事「怖がらせるのと話を聞いてもらうのは矛盾しないね?」
検事「怖がると思うとは?」
被告「酒を飲んでいて考えませんでした」
検事「貴方、間を置いて私の質問に答えるね」
被告「私の口下手のせいで、申し訳ありません」
検事「それならいいけど、貴方、包丁を見せて翻意させるのは相手にとって屈辱とは考えなかった?」
被告「今から思えば・・・」
被告「当時はお酒を飲んで、まったくそういう・・・・、常識はずれなことをしてしまいました」
検事「お酒のせいにしているが、違うのでは?それでいいのね?」
被告「当時はそうでしたから」
検事「高校生だから脅せば何とかなると考えたのでは?」
被告「違います」
検事「年上でも同じ事を?」
被告「わかりません」
検事「Mさんの愛情について、将来の希望については知らなかったと言っているが、貴方は自分を理解してもらおうと思い、相手のことを理解しようという気持ちが乏しいのでは?」
被告「当時はそうでした。でも、今はイエスの教えに従って、変わっています」
検事「宗教を利用しようとしているだけでは?」
被告「違います」
検事「二人で、大学のことも考えず、遊びまわっていますが、そういうカップルは多いと思うか」
被告「多くないと思う」
検事「妊娠して、蕎麦屋に行ったら大学に行けないのでは?」
検事「貴方の、女性を束縛したいと言う気持ちを聞いている」
被告「当時、そういう気持ちは在ったと思います」
検事「被害者に毎日しつこく電話して男関係などを聞いているが、貴方は、相手も望んでいるといっているが、貴方の願望では?」
被告「違います」

 この後の検事の質問に対し、弁護人は誘導だと述べる。裁判長も、弁護士の言い分を認める。

検事「被害者が、他の男と付き合うことに、異常な嫉妬心を・・・」
弁護人「前審で述べています」
 検事も、弁護人の言葉に納得する。
検事「メールは使わないか」
被告「使いません」
検事「打てない?」
被告「Mさんのと違う機種だったので」
被告「わからなかったのでメールは打ちませんでした」
検事「Uさんの交際中に、よりルックスのいいNさんとの交際を望んで、母に、UさんとNさんどちらがいいかと聞いているが」
被告「ありません」
検事「それ(母の供述)については?」
被告「憤りと悲しみがありました」
検事「手紙を送ったのは、交際を復活して欲しいと?」
被告「さびしさのあまり、話し相手が欲しいと」
検事「佐藤さんの事件の後、同人に手紙を書いているが、何故?」
検事「手紙の内容は交際を復活させようとしているようだが」
被告「それもありました。しかし、根本的に謝罪のためでした」
検事「何故、交際の気持ちも発生した?」
被告「私にとってとても魅力的な女性だったからです」
検事「手紙を出したNさんと交際が上手くいかないのは?」
被告「示談の時、近づかないと言う風に言ったからです」
検事「貴方は、相手から嫌われても、形式上付き合ってくれればいいと思ったのでは?」
被告「ありません」
検事「容貌の醜くなった女性と付き合いたくないというのはあるのでは?」
被告「いいえ」

−弁護人の被告人質問−
弁護人「Mさんと前科についての話をした時、犯行の様態について何も言わなかったと言うが、Mさんは聞いたか?」
被告「聞かれません」
弁護人「父の証人尋問については?」
被告「事実と異なります」
弁護人「どこが?」
被告「家庭の不和、父の浮気、長女による虐待、学校のいじめ」
弁護人「父の浮気を、何故、何処で知った?」
被告「私が中二の時、母がヒステリーを起こして訴えまわっていたからです」
弁護人「何処に?」
(近所だったらしい)
弁護人「貴方が幾つの時?」
被告「十三、四歳の頃」
弁護人「何時も母はそうだった?」
弁護人「同級生に見られたことは?」
被告「私と友達が下校していたが、其の時、母が父を捕まえて、近所の人に、父は浮気をしていると触れ回って、それを友達に見られました」
弁護人「それで、何か言われた?」
被告「いいえ」
弁護人「浮気の相手について、知っている?」
被告「ケーキ屋の奥さんです」
弁護人「その家の子と交際は?」
被告「あります。ソフトボールチームで一緒だった」
弁護人「お母さんの気持ちはどうだった?」
被告「憤りと悲しみがあったと思います」
被告「母は離婚となれば帰る所は無くなります」
弁護人「母の肩を持って父に何か言ったことは?」
被告「何故浮気をするのか、と問い詰めました」
被告「(父は)お前も大人になればわかる、と言いました」
被告「(その言葉に)愕然としました」
弁護人「父は母にどんな暴力を?」
被告「髪を引っ張って引き摺り回したり、突き飛ばしたり」
弁護人「貴方兄弟で何かしたことは?」
被告「姉が相手方に乗り込んで行って、浮気を止めるように言いました」
弁護人「貴方の家は何故引越しをした?」
被告「電気店を営んでいたが、不景気で店を閉めた」
弁護人「引越しの後の父は?」
被告「スナックに入り浸り、女子大生に金を渡して買春を」
弁護人「父は、貴方を、包丁を持って追い掛け回したのが一回だと言うが」
被告「三回です」
弁護人「何故、偽ると思う?」
被告「民事裁判で被告人扱いされて、回数が多いとわかれば、責任能力を問われるので、それを免れるためと思う」
弁護人「三回やったことは、貴方には?」
被告「認めています」
弁護人「虐待は兄弟喧嘩の延長だと父は言っているが?」
被告「違います」
被告「(長女は貴方から見てどんな人間か、と問われて)自閉症で、人間関係が構築できず、恋愛関係が一度も無い」
被告「(長女は)いつも、いらいらしたりおどおどしたりしていました」
被告「次女は、長女を哀れんでいました」
 しかし、仲が良かったわけではないらしい。
弁護人「貴方と次女は?」
被告「よく面倒を見てくれて、一緒に学校に行ったりしていました」
被告「次女が交際相手から貰った指輪を、長女が窓から投げ捨てました」
被告「探したが結局見つかりませんでした」
被告「(長女から何をされたかについて)顔を引っかかれたり、髪の毛をつかんで投げ飛ばされたり、傘で突かれたり」
弁護人「お父さんは貴方が小さい頃、家に居た?」
被告「いいえ」
弁護人「通常は四人で生活を?」
被告「はい」
弁護人「中学一年でいじめを受けた」
被告「はい」
被告「(本格化したのは)二年からです」
 S、T、などといった生徒がいじめを行っていた。
被告「不良グループでした」
被告「(どのようないじめか、と問われて。)集会の時に石を投げられたり、廊下を歩いているときに飛び蹴りをされたり、私のような弱いものにけんかを売らせたり」
被告「(いじめについて)知っている先生と知らない先生が居ました」
 家庭科の教師などは、いじめを放置していた。
被告「中二の頃の先生で、ホームルームの時に、いじめを受けている人間が居る、と言われて、それはAだと」
 教師はいじめを止めさせようと思ったらしいが、止まなかった。それでも中学には友人もおり、何とか卒業できた。
 高校の頃は、自転車を吊り上げられる、チョークを机の上に撒かれる、無視されるなどのいじめを受ける。
被告「(上記のようないじめが)大変ショックでした」
弁護人「家で言わなかったのか?」
被告「はい」
弁護人「何故?」
被告「家庭は不和で・・・・学校でも家でも私の居場所はありませんでした」
弁護人「何故なったと思う?」
被告「わかりません」
弁護人「キリストへの信仰心は?」
被告「変わりません」
弁護人「洗礼を受ける気持ちは?」
被告「変わりません」
弁護人「小説を執筆していると言う事だが」
被告「八作品ぐらいです」
被告「(持ち込んだ出版社からは)良い所はあるが、採算が会わないので出版はできないが、頑張って欲しいと」
 小説の内容を話す。確か、「追憶のセレナーデ」という題名であり、目の見えない少女に関する話だったと思う。
弁護人「キリスト教の信仰がベースに?」
被告「はい」
弁護人「親子ソバという作品は?」
 蕎麦屋の話らしい。
弁護人「貴方とお父さんの関係と、こうあって欲しいという理想を表現している?」
被告「はい」
弁護人「最後に、Mさんの遺族に対し何か言いたいことは?」
被告「本当に取り返しのつかないことをしてしまって申し訳ありません。何をしても償いになりませんが、償いにならない償いを続けていくしか道はありません。本当に申し訳ありませんでした」

 弁護人は、被告が書いた「親子蕎麦」を証拠として提出し、それは受け入れられた。
 そして、双方の弁論に移った。

−検察の弁論−
 本件は被害者一名に対する殺人。ストーカー殺人である。
 一審で無期になったので控訴した。
 無期の仮釈放中に殺人を犯した場合は死刑になるが、被告には殺人未遂の前科がある。被告と被害者が関係があるとしても、死刑にしていけないわけではない。関係を持ってしまったが故に死刑が無いのならば、(裁判に対する)信頼が失われる。
 服部事件は、被害者一名で、一審で無期、二審で死刑となっている。被害者は中産階級の子女である。そして、そうしたサイレンとマジョリティが保護されねばならない。
 社会はエリートや被告のような社会不良者のものではない。被告の様な者を死刑にしなければ、社会のモラルが失われる。
 被告は自分の行為を客観的に見つめる能力が欠けている。
 服部は犯行当時二十九歳、被告人は二十七歳。社会に居た期間は同程度である。
 被告人は溺愛されて育ってきた。被告が姉に虐待されたのが可哀想だと原判決は言っているが、何時までそれを考慮せねばならないのか、理解に苦しむ。
 トラウマは誰でも少し持っているものである。虐待はあったが、それを何時までも引き摺って事件を起こすのは言語道断である。
 被告は、自分を支えてくれる年下の美しい女性を必要としていた。
 被告の場合も、服部と同じく、広く言えば性的目的と言える服部は刑務所に行きたくないがために被害者を殺害し、被告は刑務所に行く覚悟で被害者を殺害したが、刑務所に行く覚悟で犯行を行うのと、刑務所に行きたくないがために犯行を行うのとは、どちらが悪質とは言えない。
 三島事件は焼殺、今回は四十三回刺して殺している。残虐性は、被害者の驚愕や絶命するまでの苦痛を考えれば、大差は無い。
 被告は、リスクが乏しいように被害者に話していた。被害者が刃物を見せられて初めて気付いたのがこの事件である。陰部やお尻、顔などを刺している。
 被告の動機も自己中心的である。被告の殺意は、自分の気に食わないことを言ったら殺そう、という条件的なものだったが、高校生(=被害者)に、被告にとって気持ちの良いことが言えるわけが無く、気に触れることを言ったからといって殺すのは、計画的に近い。被害者が助かるのは困難だった。
 被告は、解離性健忘症まで否認しており、これを反省の態度があると書いた原判決は納得できない。
 被害者は妊娠させられている。
 本件被害者は誠実に努力していた。
 被告は気の利いた対応を被害者に求めたが、それは女子高生には困難である。
 被告は手記の中で、法改正の所為で三十年たたねば出てこれない、などと不満を述べている。
 被告は収監されてから、元々疎んじていた、宗教にこっていた母や、不仲だった父に対する態度を、『自分を支えてくれるのは家族しか居ない』と豹変させた。
 被告の宗教や小説などは、自分を救済するものを追い求めているに過ぎない。

−弁護人の弁論−
 控訴は棄却されるべき。
 被告の反省は真摯なものである。毎日写経を行い、ある程度たまったものを、遺族に送付している。拘置所の作業で得た収入も送付し、受け取りを拒否されたが、遺族の口座に振り込んでいる。
 被告は、損害賠償のためには自分に出来ることは何でも行うという決意で、小説を書いている。
 被害者の魂の救済を願って、お寺にお金を送った。
 被告はキリスト教に帰依し、被害者の冥福を祈っている。
 小説を執筆して、自分の人生を振り返り反省している。被告は、自分の少年時代を元に執筆した処女作「少年時代」を初め、八作品を書いている。
 人格障害は、溺愛、虐待、いじめが原因となっている。被告人の類まれな努力によって、それは治癒しつつある。
 心理鑑定では、人格障害は五年程度の時間を見て治癒可能だと述べている。
 母によれば、長女は幼稚園時代から被告人をいじめていたと言っている。被告の証言の迫真性から言ってもそれは間違いない。
 家庭の不和のため、学校でおどおどした態度をとる様になり、ますますいじめられると言う悪循環に陥っていた。
 被告の人格障害の原因は、学校でのいじめにある。人格障害は、人が不安の中で過ごすうちにかかるものだが、現在は安寧の状態にあり、治癒する可能性は大きい。
 本件には計画性は無い。
 現場で被害者に「誰の子供かわからない」「出会わなければ良かった」と言われたために起こった偶発的なもの。
 父親に包丁を持って追いかけられたのは三回である。被告の父親は包丁に依存した生活をしており、被告はそれを踏襲したものである。
 被害者の母親は、服部が死刑になったのだから被告は死刑になるべき、と述べたが、被告と服部の犯行は違う。服部は無期になったにも関わらず控訴している。
 そして、弁護人は、最近の死刑求刑無期判決事件に言及し、それらに比べれば、被告の罪は被害の程度が少ないか同程度である、といった趣旨のことを述べた。

 どの時点かは忘れたが、検事は、被告人質問までさせてもらったのは異例のこと、と述べていた。また、弁論では、被害者が利益を考え男友達の一人もいない被告人を選ばなかったのは当然、といったことを述べていた。
 被告は、双方の弁論の間、表情を変えずに聞いていた。声から感情が読み取れることはあまり無かった。

 閉廷後、廊下では、マスコミ関係者らしき人々が、携帯電話で話したり「弁論要旨はもらえないのか」等と話していた。

報告者 相馬さん


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