裁判所・部 東京高等裁判所・第二刑事部
事件番号
事件名 殺人、現住建造物等放火、傷害等
被告名
担当判事 安廣文夫(裁判長)
日付 2005.6.23 内容 証人尋問、弁論

 6月23日午後1時30分から、殺人、現住建造物放火等の罪に問われているA被告の控訴審の第二回公判が東京高裁(安廣文夫裁判長)であった。
 30分ほど遅れて途中から入廷したが、証人の『姿を見られたくない』との要望に対する配慮からか、A被告との間に衝立が設けられて、喪服の中年女性が終始涙ながらに証言していた。
 A被告は体つきがガッシリしていて作業着を着ていた。丸坊主で眼鏡をかけて鷹のように鋭い目つきをしており、実年齢より相当若い印象を与える。
 喪服の中年女性はTさんかどうか定かではないが、可能性は高いと思われる。喪服の中年女性のおえつを漏らしながらの証言は以下。

証人「その子は事件で亡くなった男の子の姉になります。今は小2になっています。私達の子どもとして元気に学校に行っています。そしてちゃんと仏壇に手を合わせています。家裁の調査官に、『その子が大きくなったら事件の真実を知ることになる。他人の口から聞いたらショックを受けるだろうから、あなたたちの口から話したほうがいい』と言われました。私たちは火事で死んだ3人は天国のお星様になったと話しています。そして高校を卒業して自立するまで、その子を育てると心に決めています。この事件は、この犯人だからこそ、できたものです。私たちは何か悪いことをしたのでしょうか。もし悪いことをしていたら、謝ります。何の罪もない子ども3人の命を奪われました。この犯人の人間性がどんなものか、どんな日常生活を送っていたかをよく調べていただきたい。この犯人はどうして生きていられるのか、不思議でなりません。強く極刑を望んでいます」

 ここで彼女の証言が終わり、法廷から出て行った。
 胸に迫る内容だったためか、「ついで検察官の答弁を」と述べる安廣裁判長の声はいつもと違い弱々しかった。
 傍聴席にいた遺族の関係者らしき数人の人も目を赤くしていた。

検察官「本件の控訴趣意は、被告人のTへの身勝手な動機で、T宅に、3人が確実に焼死することを知った上で、あえて灯油を撒いて放火し、3人を惨殺したものである。犯行態様は悪質極まりなく、罪もない子どもの命を無残に奪ったその粗暴性は根深く、矯正は不可能で極刑をもって臨むほかないというものだ。悪質性と重大性は際立ち、猜疑心から家を見に行き、激高したもので、経緯なり動機なりに酌量の余地はない。その犯行態様は建物の構造を知り尽くし、1人は難を逃れたが4人がいるんだということをはっきり認識してなされたもので、こういう状態を考えてみると稀に見る凶悪無惨な犯行である。まさに確定的殺意を有している、百歩譲っても確定的殺意に極めて近い状態であったと推認できる。当初は3人に対する殺意は曖昧であったが、Tに対する自己中心的な怒りを子どもたちにも向けたものである。弁護人に当てた手紙には反省の色はない。控訴審では死刑を受け入れる旨を供述しているが、方や弁護人には『勝手に死んだ。殺すつもりはなかった』との記述があり、真摯に反省しているか疑わしい。傷害致死の前科もあり矯正は到底不可能である。遺族の処罰感情は峻烈であり、量刑を考慮するに当たっても被害者の処罰感情は特に重視されなければならない。いずれにしても罪責は誠に重大であり被告人には極刑しかない」

 次に意見を求められた弁護人は「特にありませんが、本件は死刑相当の事案では断じてないことを強調します」と言った。

 裁判長は審理の終結を告げ、「裁判所としても検討する時間が欲しいので、ちょっと先の8月2日の午前10時から判決の言い渡しということにします」と言って閉廷した。

報告者 insectさん


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