裁判所・部 東京高等裁判所・第六刑事部
事件番号 平成16年(う)第605号
事件名 殺人、逮捕監禁、強姦
被告名 服部純也
担当判事 田尾健二郎(裁判長)鈴木秀行(右陪席)山内昭善(左陪席)
その他 検察官:南野聡
書記官:長谷川孝次
日付 2005.3.29 内容 判決

 傍聴人が入廷したあと2分間のテレビ撮影が行われ、それが終わったあとに、弁護人と服部被告が入廷した。
 服部被告は4人の刑務官につれられ、一礼して法廷に入った。服部被告の髪型は坊主頭で、人相がどちらかというと悪いが、凶悪犯というカンジはしなかった。覚醒剤使用の影響か、むしろ無気力な男だと思った。
 裁判長が「服部被告は前に」と、服部被告が証言台に立つように言われる。
 「今日は判決を言い渡します。まず判決の理由から説明しますので座って聞いていてください」と主文の言い渡しを後回しにした。ここで、何人かの報道陣が席を立った。遠まわしな死刑判決、ともいえるが服部被告は動揺した様子も無かった。傍聴席も同じだった。限りなく死刑に近い無期懲役という意味をこめ、主文を後回しにすることもあるので、私はそのパターンではないかと思った。しかし、単調で事務的に読み上げられた判決の内容は極めて厳しいものであった。

理由
 検察官は量刑不当を、弁護側は事実誤認及び量刑不当を主張する。
 まず事実誤認の主張について、弁護側は原判決は被告人が被害者を強姦した場所を誤って認定したと主張するが、これを検討すると原判決のとおりであると認めることができる。
 被告人は取り調べの段階において、犯行現場を図をかいて詳細に説明し、警察官を現場に案内して、「ここなら誰にも見つからないと思った」などとそのときの心情を交えて具体的に供述しており、信用性は高い。原判決の指摘するように、遺体を見せられたショックで犯行現場にいきたくなかったために違う場所に案内してしまったという供述は甚だ不自然であって信用することはできない。
 次に量刑不当の主張について、検察官は本件は極めて残虐な犯行で、極刑をもって臨むべきなのに、被告人を無期懲役に処した原判決は軽きに失し不当であると主張し、弁護側は原判決は重すぎて不当であると有期懲役をもとめている。
 被告人は少年時に窃盗で二回少年院に送致され、仮退院後、覚醒剤取締法違反で、懲役1年6月執行猶予4年の判決を受けたが、27才のときに強盗致傷罪で懲役7年の実刑判決を受け、執行猶予も取り消されたために両方の罪について服役し、平成13年ごろ仮出所したのち、同年10月ごろから三島市内の建設事務所で本件犯行に至るまで土木作業員として働き、結婚もして二子をもうけたが、その後離婚し別居している。
 このように、被告人は少年時に二度の更生の機会を与えられていながら、成人後は覚せい剤に手を出したうえ、強盗致傷罪で執行猶予を取り消され長期間服役した被告人の規範意識は希薄で、犯罪性向は根深いものである。また原判決は、被告人の家は貧しく、幼少のころから父親には殴られ、母親はパチンコに行ってうまくいかないと被告人にあたりちらしていたという劣悪な生活環境で育ったことを斟酌すべき情状として量刑を考慮している。しかし、被告人の家が特別貧困とはいえず、父からの虐待があったとも認めることはできない。また、被告人と同じ環境に育った兄弟に同じ犯歴があるわけではなく、被告人の犯罪性向は成育環境よりも、被告の生き方に由来するところが大きいというべきであって、斟酌するには及ばない。
 本件(逮捕監禁・強姦について)は、飲み会から自宅に帰る途中の被害者を被告人が認め、先回りして車から同女に声かけたところ無視されたが、同女がいたってかわいい女性であったことからなんとか関係を持ちたいと思い、両腕をつかみ、肩に手を回すなどして同女を引きとめたが、自転車ごと倒れ、悲鳴を上げられたため、姦淫を決意し、「静かにしろ!」と言って車に押し込め、車を疾走させて、もって同女を監禁し、殺害も考え始め、畏怖する被害者を脅迫して、全裸にしたうえ同女を弄んだものである。
 原判決は、被害者を待ち伏せして声をかけて言い寄り、同女を誘い続けたことを姦淫が目的ではなかったと有利に斟酌しているが、自己の性欲におもむくまま、体力に任せて被害者の人格・心情を無視した自己中心的な犯行である。
 被告人は被害者を車に押し込めて姦淫したあと、覚せい剤使用仲間のAから携帯電話で注射器を持ってくるように言われたので、同女の解放場所を探したが、自分の犯行とわかれば刑務所に入れられるのではないかと恐れ、同女を殺害して山に埋めるか、海に沈めるかしようと思ったが、いずれもその場所が見つからなかった。
 注射器をとりに自宅に戻ったところ、灯油の入ったポリタンクを見つけ、本件犯行を思いついた。声をあげないようガムテープで手足と口をグルグル巻きにしてポリタンクの灯油を頭からかけて、「火ぃつけちゃうぞ〜」などとライターをちらつかせた。それでも被害者が声をあげないことから、警察にちくることを考えているのではないかと思い、同女を殺害することを決意した。髪にライターで火をつけ、同女が火だるまになるのを見届けてから現場を離れた。その後、現場を通りかかった人が何かが燃えて火が上がっているのを認め近づいたところ、強い異臭がして、人の足が見えたことから、人が燃えているとわかり警察に通報し、事件は発覚した。遺体の一部は着衣とともに炭化し、内臓が露出していた。
 被告人は恐怖に慄き、抵抗できない被害者を恐怖心を煽りたてたうえに、生きながら火をつけて殺害した犯行は、命を顧みない残虐極まりない犯行であり、通報され不安から、燃やせば死体の処理をしなくてもいいと思ったこと、覚せい剤がきれたことからの苛立ち、早くAのところへ行って覚せい剤を打ちたいという、被害者のことを全く考えない自己中心的な動機で足手まといになった被害者をあたかも塵芥のように殺害した被告人の人間性を欠く犯行は慄然とせざるを得ない。
 原判決は灯油を持ち出したのは殺害だけが目的でなく、ライターで火をつけるのにも躊躇していて、計画的な犯行とはいえないとしたが、被告人は犯行のために人気のない場所で被害者を粘着テープでしばり灯油を浴びせるなど計画的な犯行に劣らぬ迅速な行動をとっている。監禁後、殺害を躊躇したのは、発覚すれば重い罪で処罰されることを恐れたためで、専ら自己保身に基づくものである。
 原判決は規範的人間性がわずかに残されていると説示している。犯行後Aの家に行き覚せい剤を打ったが、そのとき被告人は指が震え、少し落ち込んでいるようにみえたとAが証言している。しかし他の覚せい剤仲間は、被告人は至って冷静で、指が震えていたとしてもまわりのものが気づかない程度だと証言している。犯行後注射器を届け、予定通りAの家で覚せい剤を使用し、犯行が発覚しないようにポリタンクを元の場所に戻し、手についた灯油を洗い流し、被害者の自転車を川に遺棄したのであって、周到に計画していないことを強調するのは相当ではない。
 原判決は斟酌すべき情状として殺人の前科がないことを挙げているが、被告人は少年時から何度も矯正教育を受け、前回は強盗致傷罪で長期間服役しており、犯罪の凶悪性が増している。また、本件はあまりに残酷な犯行であって、特段有利な情状とはいえない。
 誠実に努力を重ねていたにもかかわらず、たまたま通りかかり、被告人に認められたがために車に押し込められ強姦された上に、体を縛られた状態で焼き殺された被害者の無念はいかばかりか、あわれみを禁じえない。遺族は突然娘を喪い、あまりにも無残な遺体で対面せざるをえなかったのであり、慰める言葉すらない。
 本件は欲望の赴くまま、無法、無体の限りを尽くし、存在が足手まといとなった被害者を、塵芥のように焼殺した悪質な犯行で、被害者は何の落ち度もないのにたまたま被告の目に留まったばかりに犠牲になり、苦痛、無念が察せられ、両親らも極刑を望んでいる。地域社会に与えた影響は大きく、犯情は残虐極まりなく、冷酷で非情である。殺人の前科がないこと、反省していることなどこれら被告人に有利な情状を最大限斟酌しても、被告人に対しては極刑をもって臨むほかない。弁護人の論旨には理由がなく、検察官の論旨には理由がある。よって、原判決は著しく軽きに失して不当であると認めることができるから、原判決を破棄し、被告人を死刑に処することとし、主文のとおり判決する。

 判決主文
 原判決を破棄する
 被告人を死刑に処する

 この判決に不服があるときは、上告をすることができる。上告をするときは、14日以内に最高裁判所宛の上告申立書をこの裁判所に提出すること。

 これで閉廷し、裁判官は起立し、礼をしたあと法廷を後にした。
 報道陣が我先にと法廷を出る。そして、裁判官に合わせて起立した服部被告を4人の刑務官が取り囲み、素早く腰縄と手錠をかけた。うち1人は、服部被告の衣服の背中の部分をつかんでいた。そして、半ば連行されていくように法廷を去った。残ったのは私と、涙に暮れる遺族だけだった。
 服部被告は最後まで動揺した様子すら見せなかった。呆然としているよう見えた。
 時計をみると、開廷してから閉廷するまで、わずか25分間だった。

報告者 Doneさん


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