裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第6部
事件番号 令和2年合(わ)第18号(裁判員事件)
事件名 覚せい剤取締法違反(変更後の訴因;覚せい剤取締法違反、関税法違反)
被告名
担当判事 佐伯恒治(裁判長)室橋秀紀(右陪席)名取桂(左陪席)
その他 書記官:佐藤なつみ
日付 2021.1.29 内容 判決

 車椅子を押した初老の肌黒の男性で白髪交じりの髪を後ろで束ねていた。恰幅は良い。
 中年の男女が関係者席にいた。報道によると覚せい剤8キロは末端価格5億円相当。

−主文−
 被告人を懲役14年及び罰金700万円に処する。未決勾留日数中220日算入。
 その罰金を完納できない場合は金2万円を1日に換算した期間労役場に留置。
 東京地方検察庁に保管してある覚せい剤及び被告人名義のみずほ銀行普通預金口座から金25万円(及びその利息)をいずれも没収。

−事実認定−
 いずれも起訴状に記載されている通り。

認定事実の補足説明
 被告人は荷物の内容物が覚せい剤であることを知らなかったので密輸の共謀や故意はなかったので無罪と主張。
 共犯のBの証言は以下。(Bはすでに同じ裁判員裁判で判決宣告済)
 被告人は覚せい剤の受け取りの依頼を引き受け、
・第一に被告人方にアメリカから5個の荷物を受け取り、
・第二に昭島市の被告人の父親方にアメリカから6個の荷物を送った。こちらは警察官が動いていることから隠匿の発覚を恐れて配送会社に連絡して回収してもらった。
 被告人の口座には10/7に70万、11/28に78万の入金があり、Bは9/1頃一発で稼げる仕事の紹介を頼まれた。
 Aからは受け取り役は75万、仲介役は25万の報酬を提示。
 「覚せい剤ですか?」「覚せい剤っぽい」とやりとりがあり危険な仕事だったが、「捕まっても医療刑務所だから」とも。
 アメリカから5個の荷物が来た時、75万円の報酬の被告人とは封筒の厚みが違った。
 2回目は警察が動いているから荷物を受領しても返送したら報酬が支払われることになったが、そこでも被告人とは封筒の厚みが違った。
 上記B証言は荷物の受け取りの紹介や経緯、会話内容や犯行の流れも具体的で自然。報酬額も入出金履歴と整合。
 仕事内容や報酬額から危険な仕事と被告人に伝えていたという認識や思考過程は信用できる。
 Bにことさら虚偽の発言をする事情は全く見当たらない。
 9月に荷物を受け取った際に「荷物が5個もあるとは」「Bはクリーンな人間ではない」「内容物はビジネス関係で回収しにいくだけ」「荷物の回収は罰金刑が科せられる程度で中身は覚せい剤だとは知らなかった」「口座の入金は日本で働くフィリピン人女性のスカウト費用」などの弁解内容は理解できず不自然。Bはクリーンな人間ではないと一定の疑念を抱いている。
 フィリピン人女性の紹介した女性の人数や条件によって報酬の支払いは変わるはずで合理的でない。被告人の供述は信用できない。やりとりや再び荷物を受け取ったことから本件の仕事が違法薬物の運搬であるという認識はあった。
 「覚せい剤」「B」という単語でニュース検索もしていて密輸の故意があったと認められ共謀・営利目的なので主文の刑にした。
 訴訟費用は被告人に負担させない。

−量刑の理由−
 本件は組織的かつ計画的で、日本国内に8359グラムの覚せい剤の害悪を拡散する危険性の高い行為。
 海外から発送したものを日本国内で受け取るという重要な役割を果たしている。
 被告人は報酬目当てに積極的に加担して動機や経緯に酌むべきところはない。意思決定も相当重大。
 不合理な弁解で反省していないことや前科がないことを考慮して主文の刑にした。
 またこの種の犯罪が割りに合わないことを示すため罰金刑も併科する。
報告者 insectさん


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