裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第一部(単独係)
事件番号 平成20年刑(わ)第3253号等
事件名 詐欺
被告名 A、B、C、D、E
担当判事 西連寺義和(裁判官)
その他 書記官:建部和代
検察官:島村浩昭、白石俊輔、望月栄里子、猪股正貴、秋間俊一
日付 2009.7.10 内容 判決

 被告人5名は刑務官に連れられて定刻近くになると続々入廷する。どこにでもいるような新入社員のような若い男性たちで、A被告は眉をしかめたスポーツウェア、B被告とE被告は角刈りと長髪の身長が高いスーツ姿、D被告は朴訥とした表情の赤い斑点が目立つスーツ姿、C被告は大和魂と書かれた黒いTシャツ姿で、被告人のなかには目配せをする者もいた。
 判決の内容が厳しい感がしたので調べてみると担当裁判官は判検交流組であるとのこと。
 傍聴席には被告人が姿を見せると涙ぐむ若い女性や柄の悪い男たちが在廷していた。

裁判官「それでは被告人5名は証言台の前に立ってください。これからこの事件の判決を言い渡します」

−主文−
 被告人Aを懲役7年6月に、被告人Bを懲役5年6月に、被告人Cを懲役4年8月に、被告人Dを懲役4年4月に、被告人Eを懲役4年にそれぞれ処する。未決勾留日数のうち140日をそれぞれその刑に算入する。

−理由−
 主文は以上の通りです。裁判所が認めた事実は各起訴状記載の公訴事実の通りです。すなわち被告人5名は共謀のうえ、被害者の家族からインターネットを使って売買している製品の仕入れ代金名目に金員を詐取しようと企て、平成20年9月4日から同月30日までの間に、東京都江東区のウィークリーマンション303号室から11名の被害者に対して息子を装って電話をかけ「携帯電話が故障した。番号が変わった。話したいことがあるから明日また掛ける」と言って、さらに各被害者の息子を装って電話をかけて「インターネットで売っていた電化製品の入金が遅れている。会社への関係で今日中に支払いがないと困っている」と嘘を言ってインターネットで商品を販売した費用が必要であるように装い、合計2230万円を振り込ませて、もって人を欺いて財物を交付させたものである。
 なおC、E、D被告人に関しては訴訟費用を負担させない、A、B被告人には訴訟費用が発生しないものとします。
 量刑の理由ですが、本件は被告人らが共謀のうえ11名の被害者に対してその息子を装い、電化製品の代金の受領名目に合計2230万円を騙し取った振り込め詐欺の事案である。詐欺グループをまとめる者、電話で騙し行為を行う者、現金を引き出す者など役割を分担し、1ヶ月の間にウィークリーマンションの一室で1日中電話をして、共犯者の間で連絡を取り合ったりするなど組織的かつ用意周到に行われた職業的犯行である。息子を装って携帯電話の番号が変わったから翌日掛け直す、と軽微な嘘をつき、それを信じた被害者に電話して話題を切り出すなど狡猾かつ卑劣で悪質である。被害額は2230万円と極めて多額に上り、被害者の息子の窮状を思う心情を踏みにじったものでその被害結果は重大である。昨今振り込め詐欺が大きな社会問題となっているなかでの犯行であり、この種事案について厳罰に処する必要があるとの社会的な要請がある。
 個々に見ていくとAは本件犯行を立案し、共犯者を誘い、ウィークリーマンションや名簿や携帯電話、振り込め先の口座などを手配し、騙し役と引き出し役の連絡を受け持ち、報酬を配るなど共犯者のなかで最も重要な役割を果たしている。なおAは名前を言えない者の指示で動き、詐取した金額から個々の給料や経費を除いた額はほとんどその者に渡していた旨主張するが、自ら積極的に関与していたのは明らかであるし、そのような事情は特段刑責を軽減するものではない。
 Bは報酬欲しさに騙し役として加わり、狡猾な手口を考え出して1760万円の詐取を自ら成功させるなど騙し役のなかで格段に詐取を成功させ、騙した額の3割を報酬として得るなど多額の利益を得ており、騙し役のなかで最も刑責は重い。
 CはAに誘われ報酬欲しさに騙し役として加わり、Bほどではないものの積極的に騙し役として関与し、被害者2名に対して290万円の詐取を成功させ、Bと同様の条件で少なくない報酬を得ていたものであり、刑責は相当重い。
 Dは仕事を探していたところAに誘われて報酬欲しさに犯行に加わり、騙し役として1ヶ月間詐欺の電話をかけ、被害者1名に対しての240万円の詐取を成功させ、Bと同様の条件で少なくない報酬を得ていたものであり、刑責は相当重い。
 EはDを介してAに誘われ報酬欲しさに犯行に加わり、同人らが犯行で詐取した現金を引き出す役として、引き出した金の1割という多額の報酬を得ていた。確かに具体的な詐欺の手口は認識していなかったものの引き出し役という詐欺の実現を可能にさせるうえで欠かせない手段である役割を果たしていたのであり刑責は重い。
 他方被告人らは1045万円の被害弁償を行い、その内訳はAが40万円、Bが813万円、Cが9万円、Dが221万円、Eが62万円を負担しており、被害者3名は被告人らを宥恕し、被害者1名はDを宥恕していること、犯行を認めて被害者に謝罪文を書くなど反省の態度を示していること、被告人の家族等が今後の更生を誓約していること、いずれも前科がないことなど被告人にとって酌むべき事情を考慮しても犯情は看過できず本件犯行は重大で、主文の実刑が相当であると判断しました。

裁判官「判決の内容は分かりましたね。やはり今回行ったことは相当責任は重いと裁判所は判断しました。被害弁償については少しずつ返済する努力をしていってください。この判決に不服がある場合は東京高等裁判所に控訴することができるので、その場合は明日から2週間以内に東京高等裁判所宛の控訴申立書をこの裁判所に提出すること」

 宣告を終えた被告人らは一様にがっかりした様子で退廷していき、弁護人と被告人の家族はそれぞれ今後について法廷の外で話し合っていた。

報告者 insectさん


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