裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第十三部(単独B係)
事件番号 平成20年刑(わ)第3535号等
事件名 詐欺
被告名 A4、A5、A6、A7、A8
担当判事 佐藤晋一郎(裁判官)
その他 書記官:奥田
検察官:細野、伊藤、坪井
日付 2009.3.12 内容 初公判

 被告人5名は1人当たり刑務官2名に伴われて続々と入廷してきて、指定された位置に着席し手錠と腰縄を解かれる。被告人の人数が多いためか女性の警察官らしき人も入廷するときに来ていた。
 傍聴席にはヤクザのような感じの男性2名や、被告人の交際相手らしき茶髪の女性1名が在廷していた。
 A3(刑事第4部で公判中)を頂点とした本件詐欺グループのメンバーは続々と逮捕されており(騙し役のまとめ役とされる神谷卓も逮捕)被害額は3億円に上ると見られる。
 弁護人は加藤功司被告も担当した目に隈のある薄暗い雰囲気の初老のスーツ姿の紳士1人。

 裁判官は威圧するような甲高い声で開廷を宣言して「それでは被告人5人は証言台の前に立ってください」と言って人定質問を行う。
 被告人は全員中肉中背で
A8被告・・・昭和61年10月4日生まれ、住所東京都足立区、無職(黒いシャツを着た濃い髭を蓄えたずんぐりした青年)
A7被告・・・昭和61年6月28日生まれ、住所埼玉県フセ市、無職(薄い髭を蓄えた目つきの鋭い色白のずんぐりした青年)
A6被告・・・昭和62年9月15日生まれ、住所はないが一応東京都足立区、無職(髪の長い薄いサングラスのような眼鏡の痩せて色黒な青年)
A5被告・・・昭和61年11月28日生まれ、住所埼玉県草加市、無職(目と眉がくっきりしたスポーツ刈りの色白の青年)
A4被告・・・昭和61年8月19日生まれ、住所埼玉県草加市でA5と同じ、無職(目の大きい大人しそうな眼鏡をかけた青年)
裁判官「はい5人確認しました。被告人は起訴状を3通受け取っていますね。まず最初の起訴状を検察官に朗読してもらいます」

−検察官の起訴状朗読−
○公訴事実
 被告人5名はアダルトサイトの利用料金の請求名目に金員を詐取しようと企て、A3らと共謀のうえ、東京都足立区竹ノ塚の第五ショウエイビルから、その都度携帯電話でa(当時40歳)に対し、同人が利用料を支払う義務もないのにこれがあるように装い、「携帯電話でアダルトサイトを見ましたね。未納や延滞で32万8000円の支払いになります。明日までに支払われないと延滞料が60万円ぐらいになります」と嘘を言って同人を誤信させ、富士吉田市の郵便局に開設されたaの口座から被告人らが管理するゆうちょ銀行のヤマムロユキヤ名義の普通預金口座に32万8000円を振り込み入金させ、もって人を欺き財物を交付させるなどしたものである。
罪名および罰条:詐欺、刑法第246条第1項。

○公訴事実(違う日付の起訴状)
 第一、被告人5名はアダルトサイトの利用料金の請求名目に金員を詐取しようと企て、A3らと共謀のうえ、東京都足立区竹ノ塚の第五ショウエイビルから、その都度携帯電話でb(当時46歳)に対し、同人が利用料を支払う義務も利用料を回収する資格も裁判を提起する意図もないのにこれがあるように装い、「アダルトサイトの利用規約を読まれましたか。38万円を支払われないと弁護士を立てて身辺調査をしたうえで裁判を起こします」と嘘を言って同人を誤信させ、みずほ銀行出町支店に開設されたウカイミチアキ名義の普通預金口座に38万円を振り込み入金させた。
 第二、前記第五ショウエイビルから、携帯電話で前記bに対し、同人が利用料を支払う義務も他社分の利用料を減額交渉する意図もないのにこれがあるように装い、「7〜8社と関係している。相手と掛け合います」と言って161万円を請求し、中国銀行一宮支店の口座からイーバンク銀行ジャズ支店に開設されたワタナベユウゾウ名義の普通預金口座に151万1000円を振り込み入金させた。
 第三、前記第五ショウエイビル101号室から、携帯電話で前記bに対し、同人に「今度は同和のほうの請求を済ませるので161万円支払ってください」と言って美作市の銀行口座からゆうちょ銀行に開設されたサイトウタカオ名義の口座に165万円を振り込み入金させた。
 第四、前記第五ショウエイビル101号室から、携帯電話で前記bに対し、「まだ何社分かあり、統括しますので200万支払ってください」と言って岡山県の中国銀行ダイク支店から京都市下京区のみずほ銀行京都支店に開設されたフチタカシ名義の口座に35万円を、岡山県の吉備郵便局からサイトウタカシ名義の口座に165万円を振り込み入金させた。
 第五、第五ショウエイビルから、携帯電話で前記bに対し、同人が利用料を支払う義務もないのにこれがあるように装い、「アダルトサイトを利用されましたね。規約は読まれましたか。42万円のところを39万円に安くします。支払われないと裁判を起こします」と嘘を言って同人を誤信させ、三井住友銀行京都支店に開設されたホリヨシフミ名義の普通預金口座に39万5000円を振り込み入金させた。
 第六、同日第五ショウエイビル201号室から岡山県の前記bの携帯電話に、同人に対して真実は他社のアダルトサイトを利用したことも運営会社がそのような措置を講じる意図もないのにこれがあるように装い、「請求が来ないようにするには40万1000円かかります」と言って同人を誤信させ、岡山県内のローソンから三井住友銀行京都支店に開設されたホリヨシフミ名義の普通預金口座に40万1000円を振り込み入金させた。もって人を欺き財物を交付させるなどしたものである。
罪名および罰条:詐欺、刑法第246条第1項。

 被害者のb氏は繰り返し搾り取られたことになる。
 予定のなかった平成21年3月23日付の3通目の追起訴状も弁護人の同意が出て朗読されることになった。

○公訴事実(平成21年3月23日)
 第一、被告人5名はアダルトサイトの利用料金の請求名目に金員を詐取しようと企て、平成20年4月8日、A3らと共謀のうえ、東京都足立区竹ノ塚2丁目の第五ショウエイビル201号室から、その都度携帯電話で岐阜県関市のc(当時31歳)に同人がアダルトサイトの利用料を支払う義務も民事裁判を提起する意図もないのにこれがあるように装い、「以前アダルトサイトを利用していますね。延滞料など32万を支払ってください。支払われない場合は裁判を起こします」と嘘を言って同人を誤信させ、関市の関信用金庫本店から被告人らの管理するみずほ銀行京都支店に開設されたフチタカシ名義の口座に32万円を振り込み入金させた。
 第二、被告人5名はA3らと共謀のうえ、東京都足立区竹ノ塚2丁目の第五ショウエイビル201号室から、携帯電話で上記cに「あなたはバナー広告のサイトと8社契約している。1社は支払いが済んでいるが7社は残っている。支払われないと身辺調査終了後裁判を起こします」と言って41万円を関信用金庫から三菱UFJ銀行のフチタカシ名義の口座に振り込み入金させた。もって人を欺き財物を交付させるなどしたものである。
罪名および罰条:詐欺、刑法第246条第1項。

裁判官「これから審理に入りますが裁判を受けるにあたって被告人には黙秘権があります。無理に喋ることはありませんが、発言はすべて証拠になります。今検察官が読み上げた事実に対して言いたいことはありますか。まず右の方から」
少し驚いたことに被告人は起訴事実を否認する意向を示した。
A8被告「あります。まずA3と共謀のうえとありますが共謀した覚えはありません。また詐欺として請求した覚えはありません。僕としては間違いのない利用者に請求しました」
裁判官「請求したこと自体はどうですか」
A8被告「それは僕じゃありません」
裁判官「正規のものとして利用したのであって、要するに騙すつもりもなければ共謀した覚えもないと」
A8被告「はい」
A7被告「僕も同じで、A3と共謀したということは一切なく、詐欺をしているつもりはなかったです」
裁判官「利用者とされる人に請求したことはあるのですか」
A7被告「あります」
裁判官「共謀して詐欺をした覚えはないと」
A7被告「はい」
A6被告「自分もそのように考えています。利用者に対して請求したことはあるが、そういう認識ではない」
A5被告「自分はしっかりと規約どおりに請求していました。騙すつもりもないし共謀したこともない」
A4被告「3人の被害者には一度も連絡したことがなく名前を聞いたのも初めてで、A3と共謀したこともない。私たちは一度もお金を管理したことがなく、振り込め詐欺での金額を受け取っていない。2月にはその場にいなかった」
裁判官「起訴状によるとaさんの事件は1/15、bさんの事件は1/27〜2月の頭、cさんの事件は2/8になっているけど、1月末まではあるということ?」
A4被告「それらの人には一度も連絡したこともないし請求もしていません」
裁判官「弁護人のかた、ご意見は」
弁護人「被告人と同様であります。5名ともアダルトサイトの利用料名目に金員を詐取しようと企てたことはありません。またA3らと共謀した事実もありません。A5を除く4人は電話した事実も請求した事実もありません。A5についても一部はあるが詐取しようとしたのではない、以上です」
検察官「アダルトサイトの利用者に民事裁判を提起しようとしたことへの、被告人、弁護人双方の釈明を求めます」
弁護人「被告人は督促業務だけを担当していて、それは依頼者であるアダルトサイトの会社の判断で、被告人には裁判を起こす権限がないのであります」
 被告人を着席させて検察官の立証に入る。

−検察官の冒頭陳述−
 被告人の身上経歴等についてですが、A8はさいたま県で出生後中学校を卒業後は定職に就かず、逮捕当時は無職でした。婚姻歴はなく家族とは音信不通でした。非行歴が3回ありますが前科はありません。
 A7は高校中退後医療少年院に送致され、逮捕当時は無職でした。婚姻歴はなく交際相手と同居していました。逮捕監禁などの前歴が2件ありますが前科はありません。
 A6は東京都で出生後中学校を卒業後は産廃処理、建設作業員などの職を転々とし逮捕当時は無職でした。婚姻歴はなく、以下に述べる前科で保護観察中でした。平成19年4月26日さいたま地裁で傷害の罪により懲役2年執行猶予3年が言い渡されています。
 A5はさいたま県で出生後高校を中退後は建設作業員や飲食店従業員など職を転々とし逮捕当時は無職でした。婚姻歴はなく、以下に述べる前科があります。平成19年9月11日に宇都宮地裁栃木支部で宣告があり、A4とともに恐喝の罪で懲役1年6月執行猶予3年が言い渡されています。
 A4は高校中退後は製造業や左官工などの職を転々とし逮捕当時は無職でした。婚姻歴はなく、A5と同内容の前科があり、他もA5と同様です。
 平成20年〜の公訴事実の犯行状況ですが、被告人5名はA3を首班とする振り込め詐欺グループの一員として、平成18年11月から平成19年10月にかけて順次グループに加わり、本件同様の行為を繰り返しておりました。騙し役は被告人5名を含めてA2、A1、A10など10人以上いました。全員偽名を名乗って事務所で犯行を行い、詐取額から報酬を得ていました。その他、情状等。以上の事実を立証するために証拠等関係カード記載の各証拠を請求します。

裁判官「それに対するご意見は弁護人いかがでしょう」
弁護人「甲、乙全て同意します。ただA2、A9、A1、A10、これらの者の供述はその信用性を争います。書証は全て同意でいいです」
裁判官「それでは要旨を告げてください」

−要旨の告知−
◆甲号証
・被害者であるaの供述調書で「騙した犯人を許すことはできない。人の弱みにつけ込んで騙すなど決して許せることではない」という内容
・「電話がなければ民事裁判の手続きに入ります」と言われたこと
・ヤマモトユキヤ名義の口座取引照会で入金後即日全額引き出されていること
・共犯者であるA3のUSBフラッシュメモリの解析で被害者の電話番号が記載されている
・同じくA3のUSBフラッシュメモリには売上支出表というエクセルデータのファイルがあり、電話代や家賃などが支出として計上され、個人別入金額という項目に被告人らの名前も記載されていること
・A2立会いのもと第五ショウエイビルの捜査報告書(後で拡張請求予定)
・本件の出し子として逮捕されたA9の供述調書で、平成19年11月頃にA4から仕事関係としてキャッシュカードで現金を引き出すことを紹介され、週1万円の報酬をA4からもらっていた
・A2の供述調書で平成19年10月にY1という男から紹介されA3についてはリーダーという認識であることや共犯者の名前として今回の5名を含む11名の名を挙げている。なお偽名に関してムトウという名前を使っていたのは福田マサヒロ、イタバシという名前を使っていたのはA2、アカイという名前を使っていたのは吉岡ということ
・A8から騙し役のマニュアルを渡されたこと、民事裁判の手続きに入るという文言があるが実際に裁判になったことは一度もなかった
・5万円を支払わせたところ、A8から「5万円じゃダメだ、もっと取らないといけない」と言われたこと
・A3からターゲットとなるリストを渡されて、順番に騙したこと
・被害者に電話をかけた様子で、遅延したら延滞料を支払うなどの記載は一切なかった
・振り込め先はA8が指示していたこと
・この仕事を始めたときからすぐにこれは詐欺だと気づいたこと
・2月6日などは吉岡、山崎、藤浦、加藤などの偽名を使った共犯がいたこと
・別の被害者の被害感情として「人の弱みにつけ込むやつを許すことはできない。厳重に処罰してください」という内容
・捜査関係事項回答報告書で振り込み日時を特定するもの
・犯行場所の吉備郵便局の正式名称
・共犯者であるA2の供述調書で、A3は自分が立て替えているんだと怒鳴っていたこと
・同じくA1の供述調書で、本件犯行を認めている、平成19年にA8から誘われた、自分は滝本とA6は加藤と名乗っていた、請求する金額が高過ぎることから不正な請求で、弁護士を立てたり身辺調査をするという話はすぐ嘘だと分かったことが述べられている
・犯行状況について足立区竹ノ塚の第五ショウエイビル内の様子、仲間内でもこんなのはおかしいという話が度々出ていたこと
・同じくA10の供述調書で、本件犯行を認めている、Y1から「月200万くらい稼げる」とこの仕事を紹介された、あまりにもおかしく自分たちがやっていることは詐欺だったのは間違いないと述べられている

◆乙号証
・A8の供述調書で、身上経歴など、自分たちが行ったことの流れの説明をしているもので、共犯者のA3から指示されたと述べられている
・犯罪歴照会結果、身上犯歴関係
・A7の供述調書で、間違いないと述べていたこと、5名の他に合計13名の共犯者の名前を挙げていたこと
・ビル内で利用料請求の仕事をして、16時か17時頃A8が給料を封筒に入れて配っていた、週に約10万もらった
・A6の供述調書で、偽名で加藤と名乗っていたこと、登録料に関して「これくらいの金額になる」と説明して、マニュアルを見ずに電話するなど慣れていた、請求金額も周りに合わせるようにしていたなどと述べていること
・携帯電話のリストや前科関係
・A5の供述調書で、A3から債権回収の仕事を頼まれた、吉岡という偽名を使っていたと述べていること
・前科調書とその判決謄本
・A4の供述調書で、平成20年12月3日付けで、この犯罪事実について私は知りませんと述べていること
・犯罪歴を照会した報告書、身上経歴や前科関係
・A6の供述調書には違法な請求をしていた、振り込め詐欺をしていたことは間違いなく、今となっては振り込め詐欺をして申し訳ないとの供述があること
・A4の供述調書には、当時A8やA5など5名がおり、平成19年6月にA5と一緒に恐喝事件を起こして平成19年9月に釈放されるまでの期間は関与していない、平成18年12月から平成20年2月まで「仕事」をしていた、A3から本名ではなく偽名を使えと言われてA8は藤浦と、A5は吉岡と名乗っていたなどの供述があること
・同じくA4の供述で請求額が20〜30万と高額で最初からおかしいと思っていたとのこと
・A3からは「いちいち聞いてんじゃない」「それより奴からは取れるだけ取れる」「(露骨に)請求金額が低過ぎる」「一度払った奴、金持ってる奴は誰にも相談できないから払うぞ、もう1回電話をかけたら取れるぞ」と言われたこと

裁判官「今後の進行としては」
検察官「追起訴が5月下旬に終了する予定です、追起訴はさらに続く見込みです」
 裁判官は次回は3通目の起訴状の審理をするとして5月18日14時30分からに指定して閉廷した。

 閉廷後、茶髪の女性から質問をされた弁護人は「被告人の言っていることが本当なら無罪ですね」と応じていた。

事件概要  被告人らは、アダルトサイトのアクセスした電話番号記録を知人のアダルトサイト経理者から入手し、架空請求を繰り返して現金を騙し取ったなどとされる。被害総額は3億円に上ると見られる。
報告者 insectさん


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