裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第十九部(合議係)
事件番号 平成18年合(わ)第713号等
事件名 集団準強姦、集団準強姦未遂、準強姦、窃盗
被告名
担当判事 角田正紀(裁判長)江見健一(右陪席)宮下洋美(左陪席)
その他 書記官:横溝
日付 2008.6.17 内容 判決

 女性職員が法廷の扉を開けると、被告人が仙人のように伸ばした髪や髭、車イスで両足の膝に白いギプスをつけた異様な姿で刑務官2人と入廷してきた。病人が着る服を着ていて健康状態が危惧された。車イスは刑務官1人が押している。中東系というより東欧的な感じで顔立ちは整っている。法廷通訳として働いていたこともあってか、通訳はつかない。そして証言台の前に立たされる。
 傍聴席はガラガラだったが、中年の外国人夫婦が在廷していた。

裁判長「それでは、車イスいいですね」
 検察官は何か言おうとしていたが、すぐに判決の宣告に入った。

−主文−
 被告人を懲役23年に処する。未決勾留日数のうち380日をその刑に算入する。

こ こで裁判長は被害者の名前をそれぞれアルファベットで呼ぶことを被告人に告げた。

−罪となるべき事実(要約)−
 共犯のBとともに、アルコールやロラゼパムを混ぜた飲料を被害者数人(母やその娘もいた、多くは女性の友人同士2人組)に飲ませて、抗拒不能に陥らせてトイレ内やロフトベッドで姦淫したり、その被害者から時計を窃取するなどした。生理中や抵抗により未遂に終わった被害者もいた。「首筋にキス」など具体的な内容も読み上げられた。

−事実認定(要約)−
 争点に対する判断として、被告人は犯行現場にいたことは争わないが、睡眠薬を使って姦淫行為に及んだ事実も姦淫しようとした事実もないと、窃盗も含め全ての事実につき無罪を主張している。だが、多数の被害者の証言は筋が通っていて格別不自然な点は見当たらない。そもそも本件のような事案につき虚偽の事柄を述べることは考えにくい。
 また被害者は被告人に好意を寄せていた者もいることから、敢えて虚偽の事実を告げて被告人を罪に陥れる動機もない。
 法廷での証言態度は真摯で、被害者2人組の証言は整合していて信用性は高い。また6件の事件の被害者は事件単位では何の関係もないことから通謀した事実もなく、証言は相互に強力に補強し合っている。
 被告人は捜査機関の示唆あるいは誘導を指摘しているが、信用性に疑問はない。次にB証言の信用性だが、これも高い信用性が肯定できる。
 B証言は何度も変遷しているが、本当に反省していて供述の変遷につき一応合理的な説明ができている。記憶の混同などがあるが、供述の信用性を動揺させるものではない。

−量刑の理由−
 本件は被告人が共犯のBと共謀のうえ、睡眠作用のある薬物やアルコールを混入した飲料を飲ませて抗拒不能に陥らせたうえで行った、女性2名に対する集団準強姦、女性4名に対する集団準強姦未遂、被告人単独で行った準強姦、Bと共謀して集団準強姦の被害者1名から高価な腕時計を窃取した窃盗の事案である。
 本件集団準強姦、集団準強姦未遂、準強姦、窃盗の各事案は薬物やアルコールで被害者を意識障害や記憶障害にさせて抵抗を排除して、被告人に姦淫されたという確信を抱くことをできないようにして犯行の発覚を防ぎ、筋弛緩作用のある薬物を使って、アイスクリームを上に載せたり、母国の風習でなどと誤信させて、水タバコや酒を飲ませた計画的で卑劣かつ巧妙な犯行である。
 被告人は3名の被害者を姦淫し、4名の被害者は姦淫しようとしたが抵抗されて未遂に終わった。
 被害者は体を動かすことができず抵抗ができない状態で姦淫され、何をされたか分からないという、そういった不安に今も苦しんでいる。
 15歳の被害者は男性に対して恐怖心を抱くようになり、とくに中東系の男性を見ただけで背筋が寒くなるという。被害者のなかには鬱病で休職状態になった者もおり、厳しい処罰感情を有している。
 被告人は主導的な役割を果たし、共犯者に比して責任は格段に重い。単独で犯行を行った事件もある。だが被告人は慰謝の措置を講じておらず、被害者を侮辱するような身勝手な弁解を繰り返しており、反省の情は微塵も認められない。
 被告人の健康状態や少なくとも本邦において前科・前歴のないこと、共犯者のBとの量刑のバランスなどを考慮しても、主文の通りの刑に処するのが相当である。

 裁判長は懲役23年という主文をもう1回繰り返した。

裁判長「自分の受けた判決の意味は分かりましたね」
被告人「はい」
裁判長「裁判所の意見は今述べたことに尽きているということです」
被告人「はい」
 そして控訴の説明をして閉廷となった。被告人は無表情で手錠を掛けられ、車イスを刑務官に押されて法廷を去っていった。

事件概要  A被告は共犯と共に、複数の女性に薬物を飲ませた上で姦淫し、物を奪ったとされる。
報告者 insectさん


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