裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第二部(単独4係)
事件番号 平成20年刑(わ)第1250号
事件名 B:窃盗
C、A、E、F、A:詐欺
被告名 B、C、D、E、F、A
担当判事 中山大行(裁判官)
その他 書記官:向原
検察官:中澤康夫、加藤幸裕、福島崇之
日付 2008.6.17 内容 初公判

 裁判員制度に対応した528号法廷には、6名の被告人と12人の刑務官が入廷し、指定されて被告人席に着席し、融資保証金詐欺事件の初公判が行われた。
 傍聴席には刑事2部の男性職員やバインダーを持ったスーツ姿の男性、被告人の両親たちや交際相手の姿などがあった。
 被告人が入廷する時間はバラバラで、土方のような書記官は法廷の扉の前をうろうろしていた。
 弁護人は年配の人が6人いて、裁判官と検察官は頭脳明晰そうな若い男性1人ずつ。
 A被告はスーツを着た男性、F被告は髪がほとんど抜け落ちたような小太りで二重の男性、E被告は髪を短く刈った目の細い薄暗い雰囲気の男性、A被告は角張った丸刈りの男性、C被告は茶髪でがっしりして髭を蓄えた男性、B被告はやさぐれたような背の低い痩せた男性。このうちB被告が現金を引き出すときに、別の振り込め詐欺事件で張り込みをしていた捜査員に捕まり、芋蔓式にグループが検挙された経緯がある。

裁判官「それでは開廷します。被告人6名は証言台の前に並んで立ってください」
 被告人を並ばせて人定質問が開始される。
A被告人・・・昭和49年5月29日生まれ、現住所東京都渋谷区
F被告人・・・昭和52年9月15日生まれ、現住所東京都渋谷区
E被告人・・・昭和58年9月17日生まれ、現住所神奈川県川崎市宮前区
A被告人・・・昭和57年8月7日生まれ、現住所東京都八王子市
C被告人・・・昭和59年12月13日生まれ、現住所東京都目黒区
B被告人・・・昭和51年11月24日生まれ、現住所東京都府中市
 いずれも現在は無職とのこと。
 裁判官が検察官に罪名はBが窃盗だけ、他が詐欺であることを確認する。

−検察官の起訴状朗読−
○公訴事実、
(1)A、F、E、A、Cは「グローバルパートナー」という架空の金融会社を作り、多重債務者にダイレクトメールを送って、融資を申し込んできた者から手数料名目に金員を詐取しようと企て、共謀のうえ、平成20年2月16日に50万円の融資を申し込んできたaに対し、藤和エクシート806号室から、真実は融資を実行する意思もないのにこれがあるように装い、「保証人なしでは借りられませんが、保証協会に保証人になってもらいます。そのためには18万円が必要です」「策定費用として3600円も一緒に振り込んでください」などと言って、前後2回にわたり、長野県佐久市の長野銀行飯村支店から、駿河銀行に開設されたナガサワユウ名義の普通預金口座に合計18万3860円を振り込み入金させた。
(2)Bは被告人5名と共謀のうえ、さいたま県ふじみ野市にあるファミリーマート上福岡支店から、ナガサワユウ名義の口座に振り込まれたお金を、キャッシュカードを入れてATMを作動させて、18万3860円を窃取した。
罪名および罰条:詐欺刑法246条、窃盗刑法235条。

裁判官「被告人には黙秘権があります。言いたくないことは言わなくて構いませんが、この法廷で言ったことは全てこの事件の証拠となります。それでは順番に、今検察官が読み上げた事実に間違いはないですか」
被告人6名は「間違いないです」と起訴事実を認め、弁護人も「公訴事実は争いません」「被告人の陳述と同様であります」「被告人と同意見です」などと述べた。ただCの弁護人は同居している交際相手の住所に現住所は変わっているので後で送ると言っていた。

−冒頭陳述−
 まず被告人6名の身上・経歴ですが、
 Aは高校を卒業後、建設作業員や貸金業者、風俗店従業員などを転々として事件当時は無職でした。その間蓄えた資金をもとに融資保証金詐欺を始めました。前科は1犯あります。
 Fは、高校を中退後、職を転々とし、事件当時は無職でした。前科・前歴はありません。
 Eは高校を中退後、職を転々とし、事件当時は無職でした。同種前科が1犯あります。
 Aは高校を退学になり、一時期家業を手伝うなどしていましたが、事件当時は無職で、同種前科が1犯ありその執行猶予中でした。
 Cは高校を退学になり、土木作業員などをしていたこともありましたが、平成19年10月からは無職でした。前科・前歴はありません。
 Bは高校を中退後、職を転々として平成19年11月からは無職でした。前科・前歴はありません。
 Aを頂点とする詐欺グループが形成される経緯ですが、Aは当時定職に就かず、十分な収入が得られなかったことから融資保証金詐欺を始めることにして、蓄えたお金を200万円Fに出資して、平成19年1月頃からこれを元手に融資保証金詐欺を始めました。同じ名称で融資保証金を詐取していると警察に摘発されやすくなるので、3ヶ月おきに会社名を変えていました。Aは詐欺グループを主体的に拡大させていきました。平成19年の2月か3月頃には同様に融資保証金詐欺を行っていたEを誘い、これらのメンバーで新たにグループを立ち上げました。より多額のお金を詐取しようと、求人広告で詐欺の実行役の募集をして、それを見たAとCがそれぞれ平成20年1月、平成20年2月から、詐欺グループに加わりました。またAは平成17年に同じ風俗店で働いていたBを誘い、平成20年1月からBに対してキャッシュカードで現金を引き出すだけの簡単な仕事と言って帽子とサングラスを用意して、日給1万円から2万円と言ってBも加えた。Bはキャッシュカードの裏面に暗証番号が記載されていたことや法外な報酬を得られることから、それは騙し取ったお金だろうと思うようになった。
 詐欺の枠組ですが、多重債務者の名簿を入手して、融資する気などないのに「借金を一本化して返済を楽にしませんか」と言ったり、「融資には保証人が必要ですが、保証協会に保証人になってもらうための協諾金が必要です」などとデタラメな嘘を言って被告人名義の口座にお金を振り込ませていました。Aは200万円を出資して、アジトや椅子、多重債務者名簿の入手やハガキ代等にかかる経費は全て負担していました。AはFを現場責任者に任命して「何をしてもいいから利益を上げろ」と言い、Fを介して下の者に伝えられ、Fには毎日の業務日報を書かせていました。Aは次々と共犯者を雇い入れ、Fに詐欺のマニュアルを完成させ、部下に当るEらを細かく指導・教育していました。債務者名簿の調達や他人名義の口座の納入はFに任せるところもありましたが、騙し取ったお金は全てAが管理し、貢献度に応じて共犯に支払いを、Bにも引き出した成功報酬に応じて支払いをしていました。Aは資金提供するなど統括的な役割、Fが現場責任者、E・A・Cが詐欺の実行役、Bが引き出し役でした。Dがマニュアルに基づいてaにやったのが本件でした。

 裁判官に意見を問われた弁護側は、A被告の弁護人は甲、乙全て同意したものの他の弁護人が不同意だったり一部不同意だったりしたため、裁判官も頭を抱えて結局全員が同意している分だけ要旨の告知を行い、その余は現段階では採否を留保することになった。

−要旨の告知−
○甲号証
・被害者であるaの供述調書で、被害に至る状況などが記されている
・その方がATMコーナーで振り込んだときのご利用明細書
・振り込んだナガサワユウ名義の口座での取引状況
・検察官の被害者からの調書

○乙号証
・各被告人の検察官調書で冒頭陳述のとおりの記載がなされており、役割分担、引き出す役割は誰かなどが記されている。

 今後の進行について協議が始まり、検察官は全員追起訴があり、直近の分では6月末、それ以降は現状では判明していないと述べた。ただ6月末の追起訴ではBは含まれていないという。
 弁護人は「起訴から2ヶ月も拘留されている」「保釈もダメで」「2グループぐらいに分けられないか」などと言っていた。

 次回期日は大勢の弁護人の予定がなかなか一致しなかったことや追起訴の関係、指定した日が海の日だったことなどで、やや先の8月11日の15時からに指定された。
 被告人6名は再び拘束されたあとに東京拘置所に引き上げていった。
 B被告のみ刑務官から今後について説明を受けていた。

 閉廷後に山形から赴いてきたらしき被告人の家族や交際相手は弁護人と「おそらく他の連中は示談する気ない」「Aとはおそらく会ったこともない」「人を殴ったとかそういうのじゃないから」「今の若いのは楽して稼ぐというのがどうしてもある」などと言っていた。

報告者 insectさん


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