裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第五部(合議係)
事件番号 平成19年刑(わ)第1876号等
事件名 A7:詐欺(変更後の訴因:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、大麻取締法違反
A13、A15、A14:詐欺(変更後の訴因:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名 A14、A13、A15、A7
担当判事 山口雅高(裁判長)深野英一(右陪席)國井香里(左陪席)
その他 書記官:真壁
検察官:小沢正明、宮地裕美、山田徹、若林大樹、渡邊卓児
日付 2008.6.6 内容 判決

 それぞれの弁護人は法廷のなかで互いに話していた。傍聴人が起立・礼をして裁判官が入廷してきてから、4被告人は6人の刑務官と入廷してくる。オールバックの目の細い男や大人しそうな濃くて丸刈りの男、テキヤ風の男や角張った筋肉質の痩せた濃い顔立ちの男など。

 開廷すると双方から弁論の再開の申し立てがあり、検察側は2点新たに証拠請求をして、jの事件の振り込め詐欺の金融機関の特定、kの事件のみちのく銀行の支店の所在地などを追加した。弁護人は被害者のiさんとの間で9万1500円を支払うことで示談が成立し、42名の被害者のうち39名と示談が成立し、連絡が取れないcやlの分も6月3日付けで贖罪寄付したことを記した贖罪寄付の領収書や弁護士会の領収書を証拠として請求・採用された。弁護人は示談が成立したことを弁論に付け加えるとした。この示談の成立は従犯の執行猶予判決に大きく寄与した。

裁判長「検察官、改めてご意見は」
検察官「従前通りで」(=求刑の変更はなし)
裁判長「弁護人の方、ご意見は」
弁護人「従前通りで」
裁判長が「前に立ってください」と被告人を証言台の前に一列に並ばせる。
裁判長「これで審理を全て終了することになったわけですが、前回からさらに言っておきたいことはありますか」
A14被告人「ありませんっ」
A13被告人「今後は更生していきたいです」
A15被告人「ありません」
A7被告人「前回もお話しましたが、彼ら(共犯者)の件を宜しくお願いします。6月10日のA5も宜しくお願いします」
 被告人を証言台に立たせたまま、裁判長が「それでは判決を言い渡します」と宣告手続きに移った。

−主文−
 被告人A7を懲役5年に、被告人A13、被告人A14、被告人A15を懲役3年にそれぞれ処する。未決拘留日数中250日をそれぞれその刑に算入する。被告人A13、被告人A14、被告人A15に対し、5年間その刑の執行を猶予する。

 以上が主文になります。罪となるべき事実は各起訴状記載の公訴事実の通りです。その事実関係をもとに主文で述べたとおり判決しました。以下理由を述べます。
 実刑を受けたA7被告人は共犯が執行猶予に付されたことに深く一礼し、執行猶予の3被告人は感激で号泣したり、目を潤ませていた。

−理由−
 本件は被告人が多数の共犯者と共謀のうえ、組織的かつ継続的に融資申し込み者から融資手数料などの名のもとに金員を詐取する、いわゆる振り込め詐欺の事案であるが、本件は15名程度の構成員で、複数の店舗ごとに架空の金融会社を作って、融資申し込み者から手数料等の名のもとに振り込め詐欺を繰り返していた、大規模かつ計画的で組織的、職業的な犯行の一環である。多重債務者の窮地につけ込み、一度融資保証金を振り込ませると、あたかも追加費用が必要であるかのように装って同一の被害者から繰り返し振り込ませようとした。
 起訴分だけでも被害者は42人、被害額は980万円に上り、4名の個々の状況を見てみると、4名はいずれも電話で詐欺の実行行為役を担うなどし、被害損額はA7で被害者42人被害額980万円、A13で被害者34人被害額551万円、A14で被害者30人被害額504万円と多額に上るなど被害者の経済的・精神的苦痛は大きい。
 A7はA1が詐欺グループを作ったその時点から加わり、全ての犯行に関与し、平成18年9月からは店舗の店長として詐欺の実行行為や構成員の指導・監督をし、売り上げ等を管理し、月額40万円程度の報酬を得ていた。関与の度合いは共犯者と比べて明らかに大きく、大麻取締法違反と併せて刑責はとりわけ重い。
 A13は平成18年9月から、A14は平成18年9月中旬から、A15は平成18年12月から本件犯行に関与し、店舗の構成員として月額20万円程度の報酬を得ていたのであり、3名の刑責も相応に重い。
 他方共犯者と合わせて1000万円以上の被害弁償金を支払い42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、連絡が取れなかった3名の分の60万円も贖罪寄付したという事情も認められる。
 3名の個々の情状について見ていくと、A7は叔母の努力で55万円を、A13は32万円、A14は200万円、A15は20万円の被害弁償をして、反省の態度を示し今後は正業に就くことを誓っている。また店舗内では上位者の指導を受ける従属的な立場だったこと、前科がないこと、親や兄弟、交際相手などが情状証人として出廷していることなども認められる。
 そこでA7については本件犯行に関与した期間、果たした役割などを考えると主文の実刑は免れない。A13、A14、A15については、関与した期間や示談が寄与して被害の回復がなされていることを考えると、主文の通り懲役3年執行猶予5年という執行猶予が相当である。

裁判長「理由は以上の通りです。A7は実刑、3名についても今回実刑か執行猶予か限界的な事案でした。執行猶予期間中些細なことでも犯罪に問われると、今回の執行猶予は取り消され刑務所に行くことになるので注意してください。この判決に不服がある場合は控訴することができます。控訴する場合は2週間以内に東京高等裁判所宛ての控訴申立書をこの裁判所に提出してください」

 執行猶予に付された3被告は涙目で、退廷するときよろけて刑務官に支えられる者もいた。
 A7被告人は再び手錠を掛けられて「はいー右向いて」などと指示されていた。
 弁護人もほっとした表情で、閉廷後被告人の家族や交際相手と喜んでいた。

 その後4人で円になって弁護人同士で「A7さんはしっかりしていた」「社会的にはどうかという問題はありますけどね」と話していた。

※後日、東京地裁は共犯のA5に懲役7年、A6に懲役5年、A23に懲役3年執行猶予5年の判決(いずれも未決250日算入)を下した。A1は判決を不服として控訴、他の被告は控訴せず1審判決が確定した。

事件概要  被告らは共犯と架空の金融会社の社員を装い、融資の手続き費用などの名目で、愛知県知多市や千葉県船橋市等で銀行口座に振り込ませた金を騙し取ったとされる。
報告者 insectさん


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