裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第五部(合議係)
事件番号 平成19年刑(わ)第1877号等
事件名 詐欺(変更後の訴因:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名 A10、A8、A11、A9
担当判事 河本雅也(裁判長)深野英一(右陪席)川瀬孝史(左陪席)
その他 書記官:谷口
検察官:小沢正明、宮地裕美、山田徹、若林大樹、渡邊卓児
日付 2008.6.6 内容 判決

 4被告人はそれぞれ特有の顔立ちをした若い男性たち。敢えて表現するならピアニスト、樵、眼鏡屋、関取と言った感じである。

 開廷すると前回の共犯者と同様、双方から弁論の再開の申し立てがあり、検察官は立証趣旨の拡張で、被害者のiさんとの間で示談が成立したこと、示談金の拠出状況などを証拠をして請求し、弁護人も同意したため全員の関係で再開し、証拠として採用された。弁護人も示談が成立したことを弁論に付け加えるとした。この示談の成立は執行猶予判決に大きく寄与した。

裁判長「検察官、改めてご意見は」
検察官「従前通りで」(=求刑の変更はなし)
裁判長「弁護人の方、ご意見は」
弁護人「従前通りで」
 裁判長が「前に立ってください」と被告人を証言台の前に一列に並ばせる。
裁判長「これで審理を全て終了することになったわけですが、前回からさらに言っておきたいことはありますか」
A10被告人「この1年間拘留されて考えたことは被害者の方に申し訳ないということ。出所後少しでも癒されるなら、すぐに仕事をするなど前向きな形で努力したい。私は現在27歳なのですが、東京拘置所の医師に30歳になるまでに手術を受けないといけないと言われました。どのような病状になろうと受け入れる」
A8被告人「いろんな人に迷惑をかけたが、あとは行動するだけ。今回ご迷惑をかけた被害者の方のためにも、しっかりと罪を償っていきたい」
A11被告人「自分の身勝手な行動を深く反省しています。行動で示して恩返ししていきたい」
A9被告人「真面目にやっていきたいです」
 被告人を証言台に立たせたまま、裁判長が「それでは判決を言い渡します」と宣告手続きに移った。

−主文−
 被告人A8を懲役4年に、被告人A10、被告人A11、被告人A9を懲役3年にそれぞれ処する。未決拘留日数中250日をそれぞれその刑に算入する。被告人A10、被告人A11、被告人A9に対し、5年間その刑の執行を猶予する。被告人A11をその間保護観察に付する。

 以上が主文になります。罪となるべき事実は各起訴状記載の公訴事実の通りです。その事実関係をもとに主文で述べたとおり判決しました。以下理由を述べます。
 執行猶予判決を受けた被告人は安堵した表情で涙を浮かべる者もいた。

−理由−
 本件は被告人が多数の共犯者と共謀のうえ、組織的かつ継続的に融資申し込み者から融資手数料などの名のもとに金員を詐取する、いわゆる振り込め詐欺の事案であるが、本件は15名程度の構成員で、複数の店舗ごとに架空の金融会社を作って、融資申し込み者から手数料等の名のもとに振り込め詐欺を繰り返していた、大規模かつ計画的で組織的、職業的な犯行の一環である。多重債務者の窮地につけ込み、一度融資保証金を振り込ませると、あたかも追加費用が必要であるかのように装って同一の被害者から繰り返し振り込ませようとした。
 起訴分だけでも被害者は42人、被害額は980万円に上り、4名の個々の状況を見てみると、4名はいずれも電話で詐欺の実行行為役を担うなどし、被害損額はA8で被害者42人被害額980万円、A10で被害者27人被害額420万円、A11で被害者24人被害額290万円、A9で被害者27人被害額460万円と多額に上るなど被害者の経済的・精神的苦痛は大きい。
 A8はA1が詐欺グループを作ったその時点から加わり、全ての犯行に関与し、共犯者の供述では730万円もの報酬を得ていたとされる。謝罪文を出すなど反省の態度を示していること、家族が50万円を拠出して、連絡の取れなかった3名を除いて42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、その3名の分の60万円も贖罪寄付したこと、前科がないこと、情状証人が出廷していることなどを最大限考慮しても主文の実刑は免れない。
 被告人3名も、振り込め詐欺グループにA10は8ヶ月間、A11は6ヶ月間加わって同種犯行を繰り返していた。それぞれ月額24万円もの報酬を得ており、刑責は相当に重い。だが被告人3名には以下の通りの事情も認められる。
 まず複数の共犯者において末端の構成員であったこと、A10については10万円、A11については8万円、A9については33万円を被害弁償に拠出し、連絡の取れなかった3名を除いて42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、その3名の分の60万円も贖罪寄付したこと、A11、A9には前科がなく、A10にも罰金前科以外の前科がないこと、情状証人が出廷して監督を誓っていることなどを考慮し、今回は執行猶予の判決で社会内での更生の機会を図ることにした。A11に関してはその生活状況などに鑑み、保護観察に付することにした。

裁判長「この判決に不服がある場合は控訴することができます。控訴をする場合は2週間以内の東京高等裁判所宛ての控訴申し立て書をこの裁判所に出してください」

 執行猶予判決を受けた被告人3名は法廷釈放されたため手錠を掛けられることもなく、安堵したように1回東京拘置所に戻っていったが、唯一実刑判決を受けた背が高い狐目のA8被告人は無表情で刑務官と法廷をあとにした。

 赤ん坊を連れた被告人の妻らしき女性やその知人の眼鏡をかけた女性も嬉しそうな表情を浮かべていた。

※後日、東京地裁は共犯のA5に懲役7年、A6に懲役5年、A23に懲役3年執行猶予5年の判決(いずれも未決250日算入)を下した。A1は判決を不服として控訴、他の被告は控訴せず1審判決が確定した。

事件概要  被告らは共犯と架空の金融会社の社員を装い、融資の手続き費用などの名目で、愛知県知多市や千葉県船橋市等で銀行口座に振り込ませた金を騙し取ったとされる。
報告者 insectさん


戻る
inserted by FC2 system