裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第五部(合議係)
事件番号 平成19年刑(わ)第1876号等
事件名 詐欺(変更後の訴因:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反)、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名 A3、A1、A2、A4
担当判事 河本雅也(裁判長)深野英一(右陪席)川瀬孝史(左陪席)
その他 書記官:谷口
検察官:小沢正明、宮地裕美、山田徹、若林大樹、渡邊卓児
日付 2008.6.6 内容 判決

 その日は石島泰剛被告人(東京高裁で公判中)の執行猶予取り消し裁判やプロ市民が絡む法政大学生の暴行事件以外で目立った公判がなかったので、531号法廷の傍聴席は一般傍聴の人間や被告人の関係者(若いカップルや年配の夫婦)で多く埋まっていた。
 この法廷は裁判員制度用にモニターなどが設置され、改築されていた。被告人がエレベータのチンとなる音とともに段階的に入廷してくる。A4・A2・A3被告人は髪を伸ばした、痩せていて長身の男性、A1被告人は丸刈りで黒いシャツを来た男性。共犯者の子連れの内妻の話だと、上位者は家にも来たことがあるが羽振りの良い生活を送っていたらしい。
 裁判長は温厚そうな表情と語り口とは裏腹に、セレブ妻バラバラ殺人と同様に示談など被告人にとって酌むべき事情があるのに、それをあまり考慮しない厳しい人だった。
 検察官は若い男性が入れ替わる形で、弁護人はやや恰幅の良い大学教授のような男性と、痩せた中年男性。

 開廷すると前回の共犯者と同様、双方から弁論の再開の申し立てがあり、検察官は立証趣旨の拡張で、被害者のiさんとの間で示談が成立したこと、示談金の拠出状況などを証拠をして請求し、弁護人も同意したため証拠として採用された。弁護人も示談が成立したことを弁論に付け加えるとした。示談金はA1が142万円、A2・A4・A3がそれぞれ71万円。

裁判長「検察官、改めてご意見は」
検察官「従前通りで」(=求刑の変更はなし)
裁判長「弁護人の方、ご意見は」
弁護人「・・・従前通りで・・」
 裁判長が「前に立ってください」と被告人を証言台の前に一列に並ばせる。
裁判長「これで審理を全て終了することになったわけですが、前回からさらに言っておきたいことはありますか」
A4被告人「しっかりと反省して、しっかりと罪を償って、しっかりと更生していきたいです」
A2被告人「僕もしっかり反省して、しっかり更生していきたいです」
A1被告人「罪を犯したことを謝罪します。日々反省して、迷惑をかけた被害者の方や自分の身内にも、社会復帰したら恩返ししていきたいです」
A3被告人「2度とこのようなことはしません。真面目にイチからやり直していきたいです」
 被告人を証言台に立たせたまま、裁判長が「それでは判決を言い渡します」と宣告手続きに移った。追起訴が長引き、1年近い審理期間を要した事件だったが、他の共犯者の判決と同様量刑の理由を早口で説明するだけのやや素っ気ない感じがする宣告だった。

−主文−
 被告人A1を懲役9年に、被告人A2を懲役7年に、被告人A4と被告人A3を懲役6年にそれぞれ処する。未決勾留日数中250日をその刑にそれぞれ算入する。

 以上が主文になります。罪となるべき事実は各起訴状記載の公訴事実の通りです。その事実関係をもとに主文で述べたとおり判決しました。また長期間身柄を拘束されているので、その分は刑期を全員から引くということです。以下理由を述べます。

−理由−
 本件は被告人が多数の共犯者と共謀のうえ、組織的かつ継続的に融資申し込み者から融資手数料などの名のもとに金員を詐取する、いわゆる振り込め詐欺の事案であるが、本件は15名程度の構成員で、複数の店舗ごとに架空の金融会社を作って、融資申し込み者から手数料等の名のもとに振り込め詐欺を繰り返していた、大規模かつ計画的で組織的、職業的な犯行の一環である。多重債務者の窮地につけ込み、一度融資保証金を振り込ませると、あたかも追加費用が必要であるかのように装って同一の被害者から繰り返し振り込ませようとするなど、被害者の経済的・精神的苦痛は大きい。
 起訴分だけでも被害者は42人、被害額は980万円に上り、4名の個々の状況を見てみると、A1は組織的に詐欺を行うことを提案し、詐取金を管理してグループを統括管理し、その維持・拡大に努めており、本件の首謀者と言え、定かでないが得た利得も多額であり、刑責は極めて重い。被害者に謝罪文を出すなど反省の態度を示していること、家族が142万円を拠出して、連絡の取れなかった3名を除いて42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、その3名の分の60万円も贖罪寄付したこと、前科がないこと、情状証人が出廷していることなどを最大限考慮しても主文の実刑は免れない。
 A2はA1の詐欺活動に当初から関与し、売り上げを報告するなどし、利得額も共犯者の供述によると2500万円にも上り、刑責はA1に次いで重い。被害者に謝罪文を出すなど反省の態度を示していること、家族が71万円を拠出して、連絡の取れなかった3名を除いて42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、その3名の分の60万円も贖罪寄付したこと、前科がないこと、情状証人が出廷していることなどを最大限考慮しても主文に述べた通りの刑が相当である。
 A4とA3も当初は自ら電話をかけるなどし、店長として新たにA2やA1に売り上げを報告するなど、共犯のA5らに次ぐ役割を果たし、利得額もそれぞれ1000万円に上るなど、刑責はとりわけ重い。被害者に謝罪文を出すなど反省の態度を示していること、家族がそれぞれ71万円を拠出して、連絡の取れなかった3名を除いて42人中39人の被害者との示談に貢献したこと、その3名の分の60万円も贖罪寄付したこと、前科がないこと、情状証人が出廷していることなどを最大限考慮しても主文に述べた通りの刑が相当である。

裁判長「この判決に不服がある場合は控訴することができます。控訴をする場合は2週間以内の東京高等裁判所宛ての控訴申し立て書をこの裁判所に出してください。それでは閉廷します」
 裁判官は足早に法廷から去っていき、被告人は執行猶予を受けた共犯者と異なり、再び手錠や腰縄を嵌められる。
 A1被告は軽く一礼するなど、被告人らは共犯者と一線を画す厳しい判決でも比較的淡々とした表情だった。

 廊下で弁護人と被告人の関係者は「僕が予想していたよりも半年ぐらい重い」「決まった段階で服役することになる」「やはり地位が上ってことがあるんかな」「控訴したらやはり印象悪い」「A5は8年ぐらい来るな」「刑法では3分の1で仮釈放できるんだけど、実際はあり得ない」などと話していた。

※後日、東京地裁は共犯のA5に懲役7年、A6に懲役5年、舟谷に懲役3年執行猶予5年の判決(いずれも未決250日算入)を下した。A1は判決を不服として控訴、他の被告は控訴せず1審判決が確定した。
※同年A1の控訴棄却、A10はその後の脅迫罪で懲役6月の判決で執行猶予取り消し。

事件概要  被告らは共犯と架空の金融会社の社員を装い、融資の手続き費用などの名目で、愛知県知多市や千葉県船橋市等で銀行口座に振り込ませた金を騙し取ったとされる。
報告者 insectさん


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