裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第十八部
事件番号 平成19年刑(わ)第3182号等
事件名 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名 A6、A1
担当判事 菱田泰臣(裁判長)戸刈左近(右陪席)尾藤正憲(左陪席)
その他 書記官:勝又
日付 2008.3.19 内容 追起訴

 A1は、丸坊主の、ややがっしりとした体格の青年。髭の剃り跡が濃く、うっすらと口ひげがある。色白で、大人しそうな顔立ち。紺色の長袖のジャージの上下を着ている。
 A6は、長めの丸坊主の痩せぎみの青年。眉がやや太い。普通の青年といった印象を与える顔立ち。黒い長袖のジャージの上下。
 検察官は、髪の長い30代ぐらいの女性。
 弁護人は、髪の短い鷲鼻の中年男性と、眼鏡をかけた七三分けの中年男性、眼鏡をかけた太った大熊弁護人の三人。
 裁判長は、眼鏡の中年男性。裁判官は眼鏡をかけた小柄な青年と、30代ぐらいの男性。
 傍聴人は8人ほど居た。

裁判長「それでは開廷します。被告人両名は、前に来て立ってください」
 被告人両名は、証言台の前に立つ。
裁判長「A1被告人とA6被告人ですね。では、前回に引き続き審理しますが、本日は前回に審理できなかった平成20年2月14日付の追起訴状の起訴事実について審理していきますからね。最初に検察官が追記訴状を朗読しますので聞いていてください。では、検察官」

○平成20年2月14日付け追起訴状記載の公訴事実
 被告人A1は、出会い系サイト利用料金等の名目で金銭を詐取する、所謂振り込め詐欺集団の統括責任者。被告人A6は、同集団における被告人A1の補佐ならびに虚偽の債務内容等を記載した文書の作成及び同内容の電子メールの送信等の担当者であり、A2は同集団における電話での偽名による振り込め詐欺実行の責任者。A4は、同集団における同振り込め詐欺実行の現場責任者。A3及びA5千太郎は同集団における同振り込め詐欺実行の担当者であり、同集団は、出会い系サイト利用料金等の名目で、金銭を詐取して利益を得る事を共同の目的とする、多数の構成員からなる継続的結合体であって、被告人A1の指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、一体として行動する組織により、前記名目で金銭を詐取する事を反復して行っていた団体であるが
 被告人両名は、出会い系サイト利用料金等の名目で金銭を詐取しようと企て、前記A2、同A4、同A3、及び同A5らと共謀の上、前記団体の意思決定に基づく行為であって、詐取した金銭は前記団体に帰属するものとして、被告人A1の指揮命令の下、前記任務分担に従い
 平成19年3月20日頃、電子消費者契約通信未納利用料請求督促状「このたびご通知いたしましたのは、貴方様ご名義、(以下乙)でご利用された、有料アダルトコンテンツ、出会い系サイトダイヤルQ2、画像動画ダウンロード未納分について。ご利用通信会社から、ご精算のご連絡を試みたのですが、連絡が取れず、このたび当社(以下甲)が委託を受けましたので、ご連絡差し上げました。協和債権回収組合」等と虚偽の債務内容等を記載した文書を、茨城県常陽市水海道b方に郵送し、同人当時38歳に閲覧させた上、同月26日、午前11時40分頃から、同年4月16日午前10時3分頃までの間、前後二回にわたり、東京都新宿区弁天町105番地、日進ディオステージ新宿官営東通り1201号室において、携帯電話機を使用して、電話により、同人方等に居る同人に対し、アダルトサイト利用料金等の請求権限があるように装い、「貴方はアダルトサイトを使った事があるので、入会金と延滞料金、それと調査料等が未納になっています。未納になっている料金は、アダルトサイトに加入したままの状態で料金が未納になっていて、延滞料金等を合わせると100万円、そして退会手続きをするには、手数料等こみこみの78万円の、合計178万円になるので、これを一括で払ってくれ。振込みをする時には、10万円ずつATMで10回に分けて振り込んでくれ」等と嘘を言うなどし、同人をして、アダルトサイト利用料金等の支払いの義務があるものと誤信させ、よって、同日午後0時5分頃、同人から委託を受けたbチエコをして、茨城県常陽市水海道宝町3377番地株式会社関東筑波銀行水海道支店から、東京都新宿区新宿2丁目8番8号都民ビル1階株式会社東京都民銀行東口支店に開設された、被告人らが管理するタカハシコウジ名義の普通預金口座に、現金100万円を振込み入金させたものである。
 罪名及び罰条・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、同法31項9条、刑法246条1項、60条。
 以上です。

裁判長「それでは、これから、検察官が今読んだ、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の事件を、これまで審理してきた同様の事件とあわせて、審理していきますからね。最初の法廷でも注意したように、黙秘権があるから、言いたくない事は言わなくて良いですからね。では改めて尋ねますが、先ず被告人A1、検察官が今読んだ事実関係についてはどうですか?」
A1「間違いありません」
裁判長「被告人A1の弁護人、ご意見は」
弁護人「被告人A1と同意見です」
裁判長「では、被告人A6、どうですか?」
A6「はい、間違いありません」
裁判長「弁護人、ご意見は」
弁護人「A6と同意見です」
裁判長「では、証拠調べに入ります。元の席に戻ってください」
 被告人両名は、被告席に戻る。
裁判長「では検察官、冒頭陳述をどうぞ」

○冒頭陳述
 検察官が証拠により証明しようとする事実は次の通りです。
・犯行状況等について
 第一回公判冒頭陳述で述べましたとおり、被告人A1は遅くとも平成18年8月以降、本件詐欺グループを率いて振り込め詐欺を行うようになり、同年10月頃からは、被告人A6に架空請求の小道具である督促状の作成や架空請求メールの送信などの事務を行わせるようになりました。
 そうした中で、本件において、被告人A6が、被告人A1の指示により、アダルトサイト利用料金の架空の督促状を作成し、被告人A1がメールを利用してこれをbに郵送し、平成19年3月20日頃、これを見たbに、同月26日頃、督促状に記載されたフリーダイヤルに電話をかけさせ、転送サービスにより、日進ディオステージ新宿官営東通り1201号室で活動していたA4、A5千太郎、A3の3名による騙し役グループの使用携帯電話に転送させました。
 そして同日から、同年4月16日までの間、A4がbに公訴事実記載の文言を告げるなどしてその旨誤信させ、4月16日、bから委託を受けた実母Y2から被告人らの管理する公訴事実記載の口座に100万円を振り込ませて、公訴事実記載の犯行に及びました。
 被告人らは、この詐取金をグループ内の取り決めにしたがって分け、それぞれの取り分を収得しました。
・その他情状等
 以上の事実を立証するため、証拠等関係カード記載の関係各証拠の取調べを請求します。

裁判長「証拠関係につき、弁護人、ご意見」
弁護人「全て同意します」
裁判長「被告人両名の関係で甲乙全て採用して取り調べますので、要旨を告知してください」

○要旨の告知
・甲56,57号証は、被害者のbさんの供述調書。被害状況、口座の状況、被告人らとの通話状況等について供述している。「公訴事実で述べましたような督促状が来ましたので、電話をかけたところ、村田という関西弁の男が出まして、公訴事実記載のような事を言われました。それで私が、すぐに払えといわれてもそれは無理だ。給料日も過ぎたしお金がない、村田に言った所、村田は『金が無いじゃないだろう。知人や親戚でも誰でもいいから金を貸してもらえ。知人や親戚で金が貸して貰えない時は金融会社に行って貸りてこい。オレ達はボランティアでやってるんじゃないんだからな。後でまた電話するからな』と私に怒鳴るように言って電話を切ったのです。一回目の電話から二時間くらいたって、また村田から電話がありました。その着信履歴に気がつきまして、自分から電話をかけたところ、『金は準備できたか』と言われましたので、私が急にはお金は出来ないと答えると、『お金は出来ないじゃないだろう。ちゃんと動いてるのかよ。金が準備で着たら連絡しろよ。絶対に払ってもらうからな』などといって電話を切られました。私は、100万円を超えるお金を親戚に言っても貸してくれるはずもなく、村田に払う金の事で困ってしまっていました。村田は翌日から毎日のように、私の携帯電話に電話をかけてくるようになりました。最初の頃村田が言っていた事は、郵便局が空いているのは午前9時から午後4時までだから、それまでの間に金を準備しろ、という事でしたが、銀行が開いているのは午前9時から午後3時までだからそれまでに金を何とかしろ、という風に変わってきました。このような電話のやり取りが、3月に、私が最初に電話をかけた3月26日の翌日から、3月30日頃までにあったのです。そして週が変わった4月3日、私から村田に電話をかけて、4月10日にお金が準備できると電話をかけたのです。すると、村田は、翌日の4月3日から4月8日までは一度も電話をしてきませんでした。4月9日に、『金は明日で大丈夫か』と尋ねてくるので、大丈夫だと伝えました。4月10日に結局金を借りることが出来ませんでした。そのことを村田に電話をして、4月14日までにはお金を準備すると伝えました。そして結局、母に頼んで、お金を借りてもらって、100万円を準備いたしました。そして、100万円を振込みした事を村田に連絡しますと、『残りの78万は何時できるんだ。早く払ってくれ』と言ってきたのです。私は、100万を振り込んだばっかりで、すぐには78万円ものお金を準備する事はできないという事を伝えた所、『無理じゃねえだろう。お前がダメならお前の親に払ってもらう。お前の家にも電話するからな』等といって電話が切れたのです。そして、翌日の4月17日頃から、自宅の電話にも電話が入ってくるようになりました。父親にもこの事が知れる事になり、父親からおかしいんじゃないかと言われて、警察に相談に行ったのです。そして、警察からアドバイスを受けて、内容証明郵便を送りました。そうした所、あて先がないという事で、返送されてきました。私は村田が電話するようになり、178万円ものお金を請求されて、私は、お金178万円の事や何時村田から電話がかかってくるかわからない事等から、夜もゆっくりと寝れなかったり、仕事中も集中して仕事に専念する事ができませんでした。罪もない私の様な者を苦しめ、私から100万円ものお金を騙し取った犯人を許す事は出来ませんので、厳重に処罰してください」という内容。
・甲58号証は、被害者から頼まれて100万円を被害者の代わりに振り込んだ、Y2さんの調書。振り込んだ状況は冒頭陳述の通り。知人から100万円を借りて振り込んだ。「振込みをした翌日、村田から自宅に電話がかかってきまして、相手の人から『後78万振り込んでもらえないか。100万円作れたんだから78万円も作ることが出来るから』と言ってきました。それで、私が、これ以上お金を借りることは出来ないと答えると、相手の男は『お金を借りることが出来ないじゃないだろう。お金は都合できるから作れよ。何でそんな子供をつくったんだ。お前があんな子供を生んだんだから、お前が責任を取れ。お前が金を作ってお前が払え』等と罵るように言われたのです。お互い言い合いになりまして、その事を横で聞いていた夫の知る事になりました。10分後ぐらいに再度男から電話が入った時には夫が電話に出て、今度は夫が相手の男と言い争っていましたが、相手の男が『これからお前の家にも行くぞ。会社に行って息子が首になっても良いのか』等といった時、夫は、『電話をするならどこにでもしろ。そうなればお金なんか払わないからな』と言った所、相手の男は電話を切ったのです。今話してきたとおり、犯人の村田は、『お前があんな子供を生んだんだからお前が責任を取れ』等と人を侮辱するようなことを言ったのです。私と夫は4月17日に村田と話をしただけですが、3月26日から毎日のように村田からの電話を受けてきたbは大変だっただろうと思います。罪もない人に嘘をついてお金を騙し取った犯人の事を絶対に許す事はできませんので、今後こんな犯罪をしないよう厳しく処分してもらいたいと思います」という内容。
・甲59号証は、被害金を振り込んだ場所の特定。
・甲60号証は、被告人らが被害者に電話をかけた居室から押収された名簿の内容。この名簿のうち、右方に32と書き込んであるページに、本件被害者のbさんの個人情報が載っている。
・甲61〜63号証は、共犯者A4とA5の供述調書。共同犯行状況等について供述。冒頭陳述の通り。
 乙号証について
・乙32〜38は、被告人A1の供述調書。本件犯行状況等について供述している。この中で、36号は、本件に関する備忘録の記載内容について。「私は常に2グループから3グループの振り込め詐欺グループの総括管理者として、グループを管理していましたが、各グループの売り上げを自分の手帳に記載していました。猪狩さんから騙し取った件も書いてあるはずです。グループごとに、黒赤青で色分けして書いており、A4らのグループは黒字で記載してありました。全て万単位で記入しておりました。4月16日のページに、右側に黒字で220.3(α178.9No32.5)と書いてある部分、この日に、A4らのグループが騙して併合した売り上げの、他の被害者の売り上げと合算して記載してありましたので、このbさんから騙し取った100万円が、カッコ欄の中に書いてあるα178.9の中に書き込まれております」そのほかは冒頭陳述の通り。
・乙39、40号証は、被告人A6の供述調書。本件犯行状況について。詳しくは冒頭陳述の通り。

検察官「後、立証趣旨の拡張がございまして、えーと」
裁判長「書面はない?口頭で言うんですか?」
検察官「はい、今回は口頭で。甲7,8、それから、甲29,30、甲35、以上の書証について、立証趣旨の拡張を」
裁判長「立証趣旨の拡張について、意義はありますか?」
弁護人「意義ありません」
裁判長「許可します。改めて取調べする必要はありませんね?この件については以上でよろしいで宜しいですね?今後の予定はどうなさいますか?」
検察官「被告人両名につきまして、3月末までに起訴があります。被告人A6については、それで完了です」
裁判長「従前、3月中と、あるいは3月上旬という話だったと思うんですけど、ちょっと遅れているという事ですか。A6に関してはそれでおしまいと。件数的には複数件?解らない。解りました。A1についてはさらにあるけれど、どれくらい続きそうかわかりますか?」
検察官「ちょっと」
裁判長「今後の進行は、じゃあ、次回はまあ、まだ両名共同として、それからまたどうするかは、次回に判断という事でよろしいですか?A1の追起訴の状況次第で場合によっては、A6は申し訳ないですが、一緒で、あまりにも差がつくようならば、分離も考えるという事で、そのときの状況で把握したいんで、次回までに、A1の追起訴がどの程度どれくらいまで続くか明確になれるようにしてください。それから、前回ちょっと検察官にお尋ねした、12月5日付けの訴因変更書記載の別紙一覧表、詐欺の恐喝化について、ちょっと検討しておいてください」
検察官「今回の事案はですね、なかなかちょっと、詐欺か恐喝かって、ちょっと証明しづらいものでありして、被害者の供述調書では恐喝的な言葉になっているのですが、被害者の内面で、あのー、区別するのは正しくないだろうと、ちょっと思っています。まあ、元々根本問題として詐欺から派生しているものですから、検察官としては、まあ、詐欺の訴因でも」
裁判長「うん、まあ、訴因というか、こう、基本的には、罰条というか、一個の同じ罰条の中に、こういう同じような事件があっても、犯罪の成否は変わるものではないので」
検察官「共謀の・・・まあ、詐欺の共謀の中に一応含まれるかと」
裁判長「具体的にどうするか共謀していれば足りるわけですから、今回の脅し方の文言が、意外なものであればまあ別問題ですけど、そうでないなら問題ないと思いますけど、裁判所も検討しますけど、そういう問題点があるということを、検察官も留意しておいてください」
検察官「はい」

 次回期日は、4月30日1時30分に指定される。内容は検察官立証まで。
 2時30分まで予定されていたが、1時56分に終わった。

 公判の間、A1は俯き、じっと一点を見ていた。閉廷後、弁護人と話をして、退廷した。
 A6は、傍聴席の方に目をやることなく退廷した。

事件概要  被告らは共犯と出会い系サイト利用料金等の名目で金員を詐取したとされる。
報告者 相馬さん


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