裁判所・部 東京地方裁判所
事件番号 平成19年刑(わ)第3182号等
事件名 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反
被告名 A6、A1
担当判事 菱田泰臣(裁判長)戸刈左近(右陪席)尾藤正憲(左陪席)
その他 書記官:勝又
日付 2008.2.20 内容 追起訴

 A1は、丸坊主の、ややがっしりとした体格の青年。髭の剃り跡が濃く、うっすらと口ひげがある。色白で、大人しそうな顔立ち。紺色の長袖のジャージの上下を着ている。
 A6は、長めの丸坊主の痩せぎみの青年。眉がやや太い。普通の青年といった印象を与える顔立ち。黒い長袖のジャージの上下。座ってからは下を向いていることが多かった。
 検察官は、髪の長い30代ぐらいの女性。
 弁護人は、髪の短い鷲鼻の中年男性。
 裁判長は、眼鏡の中年男性。裁判官は眼鏡をかけた小柄な青年と、30代ぐらいの男性。

裁判長「弁護人は3人とも出席される予定なんですよね?」
弁護人「はい」
裁判長「では、しばらく待ちますが宜しいですか?」
 3時1分頃、眼鏡をかけた七三分けの弁護人が「大熊弁護人、もうすぐ来ますから先にはじめておいてください」といいながら入廷する。
 こうして、A1被告らの追起訴審理は、424号法廷で開始された。

裁判長「そうですか、それじゃ、開廷しておいてもよろしいですか」
弁護人「はい」
裁判長「それでは開廷します。被告人両名は、前来て立ってください」
 被告人両名は前に立つ。
裁判長「A1被告人とA6被告人ですね」
 被告人両名は頷く。
裁判長「前回に引き続き審理しますが、先ず最初に、裁判官の方一名が交代しましたので、また裁判手続きの一部をやり直す手続き、審理の更新を行いますからね。既に審理済みの、去年の10月5日付けの詐欺の事件、その後訴因変更があって、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に対する規制法違反の事件に変わったもの、それから同じく、平成19年10月26日付の詐欺で、その後訴因変更があって、同様な事件になったもの。この二点について証拠調べが終わっておりますが、これらについては、公判手続きの更新については、検察官も弁護人も従前通りという事でよろしいですね」
弁護人「はい」
裁判長「裁判官がね、一名交代したので、審理の一部を若干やり直す手続きをしているけど、これまで審理していた事件について、被告人両名の意見等についても今まで通りという事でよろしいですね」
被告人両名「はい」
裁判長「では、今日は、前回審理できなかった、12月5日付の事件について審理していきますからね。更に、その後の、今年の2月14日付にも追起訴がありましたが、これについては本日準備が間に合っていないので、また次回期日に審理という事になりますからね。先ず最初に、検察官が19年12月5日付の追記訴状を朗読するので、その場で聞いていてください。別表については、朗読後に示すという事で、主任弁護人、よろしいですね」
弁護人「はい」

○公訴事実
 被告人A1は、出会い系サイト利用料金等の名目で金銭を詐取する、所謂振り込め詐欺集団の統括責任者。被告人A6は、同集団における被告人A1の補佐ならびに虚偽の債務内容等を記載した文書の作成及び同内容の電子メールの送信等の担当者であり、A2は同集団における電話での偽名による振り込め詐欺実行の責任者。A4は、同集団における同振り込め詐欺実行の現場責任者。A3及びA5は同集団における同振り込め詐欺実行の担当者であり、同集団は、出会い系サイト利用料金等の名目で、金銭を詐取して利益を得る事を共同の目的とする、多数の構成員からなる継続的結合体であって、被告人A1の指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務分担に従って、一体として行動する組織により、前記名目で金銭を詐取する事を反復して行っていた団体であるが被告人両名は、出会い系サイト利用料金等の名目で金銭を詐取しようと企て、前記A2、同A4、同A3、及び同A5らと共謀の上、前記団体の意思決定に基づく行為であって、詐取した金銭は前記団体に帰属するものとして、被告人A1の指揮命令の下、前記任務分担に従い平成19年4月9日、午前11時47分頃、東京都府中市、被告人A1方において、携帯電話機を使用して、静岡県掛川市株式会社Z1掛川工業による、a当時34歳の携帯電話機に、「未払い金があります。担当者に連絡してください」等と、虚偽の債務内容等を記載した電子メールを送信し、同電子メールを同人に閲覧させた上、別紙一覧表記載の通り、同日午後0時41分頃から、同月18日午後0時19分頃までの間、前後2回に渡り、東京都新宿区、Z2官営東通り1201号室において、携帯電話機を使用して、電話により、前記株式会社Z1掛川工業にいる同人に対し、出会い系サイト利用料金等の請求権限があるように装い、前記別紙一覧表記載の文言のような嘘を言うなどし、同人をして出会い系サイト利用料金の支払い義務があるものと誤信させ、よって同月12日午後5時42分頃から同月18日午後3時9分頃までの間、前後6回に渡り、同人または同人から委託を受けたY1をして、静岡県掛川市横須賀1424番地の1株式会社静岡銀行大塚支店等2箇所から、神奈川県横浜市神奈川区松本町2丁目13番地8株式会社横浜銀行タンバツ支店に開設された、被告人らが管理するツチウラ・ヒロシ名義の普通預金口座に、現金合計135万9446円を振り込み入金させたものである。
 罪名及び罰条・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、同法31項9条、刑法246条1項、60条。

 大熊弁護人が、公訴事実陳述中に入廷した。
裁判長「じゃ、別表を示してください」
 検察官は、被告人両名に別表を見せる。
裁判長「最初の法廷でも注意してありますが、黙秘権があるから言いたくない事は無理にいう必要はありませんからね。では、改めて尋ねますが、まず被告人A1について、検察官が今読んだ事実関係については如何ですか」
A1「間違いありません」
裁判長「全部間違いないですか?」
A1「はい」
裁判長「被告人A6は如何ですか?」
A6「はい、間違いありません」
裁判長「全部間違いないですか?」
A6「はい」
裁判長「主任弁護人、両名に対して如何ですか?」
弁護人「被告人両名に関して、被告人両名と同じです」
裁判長「では、証拠調べに入るので、それぞれもとの席に座って聞いていてください」
被告人両名は、被告席に戻る。
裁判長「では検察官、冒頭陳述をどうぞ」

○冒頭陳述
 検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下の通りです。
 前回冒頭陳述で述べましたとおり、被告人A1は遅くとも平成18年8月以降、本件詐欺グループを率いて振り込め詐欺を行うようになり、同年10月頃からは、被告人A6に架空請求の小道具である督促状の作成や架空請求メールの送信などの事務を行わせるようになりました。
 そうした中で被告人A6が、平成19年4月9日、A1の指示により、メールを利用して出会い系サイト利用料金等の支払いを督促する内容のメールを、a使用の携帯電話に送信し、その頃、共犯者A5も、同じ内容のメールを利用して、a使用の携帯電話に電話をかけて、着信履歴を残しました。そして、これらを見たaに履歴を残されていた携帯電話に電話をかけさせまして、転送サービスによりまして、Z2官営東通り1201号室で活動しておりました共犯者A4、A5、A3ら3名による騙し役グループの使用する携帯電話に転送させました。
 そして、A5が、aさんに、公訴事実記載の文言を告げる等してその旨誤信させ、同月12日から18日までの間、aさんから被告人らの管理する公訴事実記載の預金口座に合計135万9446円を振り込ませて、公訴事実記載の犯行に及びました。
 被告人らは、この詐取金をあらかじめ決めた取り分にしたがって分け、それぞれの取り分を収得しました。

○その他情状等
 以上の事実を立証するため、証拠等関係カード記載の関係各証拠の取調べを請求します。
 なお、前回、立証趣旨の拡張を。

裁判長「先ず、本日請求分の、甲42号証以下、それから、乙28号証以下、これについてご意見を」
弁護人「同意いたします」
裁判長「被告人両名の関係について」
弁護人「全部同意します」
裁判長「じゃ、先ずそれを採用します。それから、立証趣旨の拡張分というのはペーパーを用意していますか?」
検察官「ペーパーは用意していないので、口頭で行いたいのですが、前回の訴因変更請求分に関してはちょっと拡張漏れがありまして、それもあわせてやりたいと思っていますが、先ず甲3号証につきまして、12月5日付訴因変更請求書の公訴事実第1、・・・・・および本件12月5日付け追起訴分の拡張、それから、甲7号証につきまして、12月5日付訴因変更請求書記載の公訴事実第1及び本件12月5日付本起訴分の拡張、それから、甲11号証について、本件分、12月5日付追起訴分に基づいて拡張、それから、甲27号証につきまして、12月5日付訴因変更分の公訴事実第一及び本件分の拡張、以上です」
裁判長「12月5日付訴因変更の第1、第2がありますが、第2の方が、最初の起訴分にかかるものの、12月5日付の訴因変更分ですよね?」
検察官「そうですね」
裁判長「それで、第1の方が、後の起訴の分にかかる訴因変更部分ですよね」
検察官「そうですね」
裁判長「で、えーと、最初の期日に証拠調べしたものが、えーと、訴因変更分第1と、今回の起訴分。それから、甲27号証、第1じゃなくて、第2ですね?」
検察官「いや、第1・・・」
裁判長「これは最初からこの事実の対象になってますが」
検察官「なってますね、すみません、本件分のみで」
裁判長「本件分のみ。12月5日付として証拠調べしてよろしいですね」
 甲27,28について、第2と本件分について、関連しているらしい。
裁判長「立証趣旨の拡張のあったものについてご意見は」
弁護人「同意します」
裁判長「証拠採用があったものについて取り調べますので、要旨を述べてください」

○要旨の告知
・甲42,43号証は、被害者のaさんの調書。被害状況について。「出会い系サイト等の未払い料金があります」という事で電話がかかってきまして、それで、母親のY1さんにお願いする等してお金を用立てて、お金を振り込んだ。そして、一回振り込むと、その後まだ更に「他の会社にも振込みの未払いがあります」という事で、他の会社の名前を告げられて、更にお金を振り込まされた。更にその後、「振込みの確認が出来ましたが実は振込み金額が10円違っていましたので、もう一度正しい金額を振り込んでください」と言われました。「返金してください」とお願いしましたが、「以前お客様が返金してくれたお金を横領した者が居て、それ以降会社内の規則が厳しくなって簡単に返金できなくなりました」という風に言われた。それでおかしいと思い、その後はお金を振り込まなくなった。そして、彼らから電話がかかってこないように携帯電話も解約した。しかし、先日刑事さんから私の自宅に電話があり、振り込め詐欺と解った。そして、携帯電話の通話履歴等も確認したうえで、電話がかかってきた時刻は4月13日午後0時41分から4月18日の午後0時19分ごろまで。
 被害感情について「私は現在女手一つで子供を育て、祖母、母の4人で生活をしています。今回私が騙し取られたお金は、母の大切のお金を借りて指定された口座に振り込んでいますので、大切なお金を貸してくれた母に大変申し訳なく思っています。私を騙した犯人は、真面目に仕事をせず、被害者から騙し取ったお金で贅沢な生活を送っていたと聞きました。このような犯人には、二度と今回のような犯罪を繰り返さないためにも、厳しい処分をしてもらいたいです」という内容。
・甲44号証は、お金を実際に振り込んだaさんのお母さんの供述調書。「娘から50万円貸して欲しいと言われて、貸す事にしました。この50万円は、平成13年に仕事中の事故でなくした夫の会社からの見舞金を貯金していたので、そのお金を使う事にしました。その後、娘が更に、89万7625円かかるといわれまして、更にお金を貸す事にしました。これについても同じく、なくなった夫の見舞金を貯金している口座から下ろしました。娘から、平日は仕事で振込みに行く時間がないから代わりに振り込んでもらいたいとお願いされて、振り込みました。はじめからaが犯人から騙されていると解っていれば、なくなった夫の見舞金という大切なお金をaに貸したりしませんでしたし、私自身がお金を振り込みに行く事もしませんでした。aは子供を育てるため、女手一つで朝から晩まで仕事をしています。そんな一生懸命がんばっている娘からお金を騙し取った犯人の事は絶対に許せません。厳しい処分をしてもらいたいと思います」という内容です。
・甲45号証は、被害金の出駅状況。口座の取引履歴。
・甲46号証は、被告人と被害者との間の通話状況を一覧表に纏めたものです。
・甲47号証は、被告人らが被害者に電話をかけた場所から押収されたメールの内容。この中に、今回の被害者、aさんのメールアドレスやパスワード、携帯電話の番号等が記載されています。ニックネームがアルスという名になっていまして、この表で見ると右方の4番と書いてあるページに記載がある。
・甲48号証は、共犯者のA4の居室から押収されたメモの内容。数字やアルファベット等の記号が羅列されている。これについてA4が説明しているが、今回の犯行時に、どれくらいお金をもうけたか書かれている。この中に、aさんから騙し取ったお金についても記載されている。
・甲49号証から51号証は、共犯者A4の供述調書。
・甲49号証は、犯行状況について。
・甲51号証は、詐欺グループの組織体系について。A1が統括するメンバーで、構成員に色々な入れ代わりが激しく、組織としては続いていた、という内容が記載。
・甲51号証は、48号証のメモに関する撮影。このメモを、今回犯行分についても記載されている。
・甲52号証、53号証は、共犯者A5の供述調書。
・甲52号証は、犯行状況。aさんの対応をしたのは自分である、と認めている。
・甲53号証は、A5のメモの説明。激厚のネタ、というノート。自分が仕事の事をメモしたノートである。A1から指示されていた振込先の銀行口座を書いたもの。横線が引いてあるのは、口座が凍結され、使えなくなった口座。横線が引いていない口座は、捜査が入るまで使っていた。毎日A1からの指示で振込みに使う銀行口座を決められていました、という内容。この中に、今回使われた名義の口座も記載されている。
・甲54、55号証は、A3の供述調書。共謀状況及び振り込め詐欺の手口についての供述調書。A3は以前黙秘していたが、概要を喋るようになってきたという事で、共謀関係、詐欺の手口について供述しており、他の共犯者の供述とも一致している。
・乙28から32号証は、被告人A1の供述調書。共謀犯行状況や本件犯行に関する記載内容、分配状況、払い込め仕訳による被害金の状況に関する確認、グループの組織体系等について供述している。
・乙29号証、備忘録について。「私は、自分の管理していた振り込め詐欺グループの騙しの成功額を、自分の手帳、黒色ルイ・ヴィトン製の手帳に記載しておりました。
この手帳には、平成18年12月から、私が逮捕された平成19年9月まで、私が総括管理していた振り込め詐欺グループの騙しの成功額を記録してあり、グループごとに、黒青赤で色分けして書いてありました。A4のグループは黒文字で記載していました。aさんという被害者から騙し取った時の記録については、上下欄外に4月と書いてあるページの中ほどに、黒字で13日209,3(α147)ナンバー62,3と書いてある部分と、その下方に黒字で、18日172,5と書いてある部分で、他の被害者から騙し取った金額と合算して書いてあります。その記載の意味は、平成19年4月13日にA4らのグループが騙して、振り込ませた現金を総合した額が合計209万3000円、平成19年4月18日にA4らのグループが騙して振り込ませた現金を総合した額が、合計172万5000円という事で記載しています。α、γという事がカッコ内に書いてありますが、αシリーズと呼んでいた名簿を使ったか、γシリーズと呼んで使っていた名簿、どう騙したかという事で区別して書き込んでいます。そして、この金額の中にaさんから騙し取ったものが含まれていることに間違いない」という内容。
「aさんから騙し取った合計135万9446円については、私がおろし役に14万円くらい、そして、A2、A4、A3、A5の騙し役に68万円くらい、自分の取り分として54万円くらいを分け前として分配しました。A6には毎日1万円を分け前として渡していました」
・乙33,34号証は、A6の供述調書。本件に関する犯行状況及びグループ内でのA6の役割分担について。今回の犯行について、A6は、A1の住んでいたグランドタワー府中ザアベニュー1910号室で、A1から渡された携帯電話を使い、名簿を見ながら架空の督促メールを送信していた。その督促メールを送った相手について、A4から問い合わせの電話がかかってくる事があり、其の時には問い合わせのあった人について、パソコンで検索し、その人についての情報をA4に連絡させていた。

裁判長「えーと、それで、2月14日付で4件目の起訴がありまして、それについては次回でよろしいのですね?」
検察官「はい」
裁判長「何時ごろまでにできますか?」
検察官「もうできます」
裁判長「それは、速やかにできるという趣旨ですね?」
検察官「はい」

 3月上旬にも追起訴がある。弁護人の意向で、2月の起訴分を3月中にする事になる。最後まで一緒に居た可能性が高いのでこれからも一緒になる可能性が高い、とも裁判長は述べる。
 次回期日は、3月19日1時30分〜2時30分に指定された。

裁判長「それでですね、ちょっと検察官に確認なんですけども、12月5日訴因変更後の第1の事実の別表1番号6なんですけども、欺妄があって、欺妄の後に、けっこう恐喝するような文言になっているようにも思うんですよ。最初の文言をみると、全体が詐欺といえなくもないんですけども、そこの後の部分だけ見ると、欺妄がほとんど無い。で、こう、被害者の調書を検討すると、怖くて出したという趣旨にもなっている。詐欺と恐喝なのか、恐喝だけなのか。もしこれが恐喝だけという事になるならば、詐欺の後の、もう一個の号数を追加してもらう事もありえるかもしれない。ちょっと検討しておいてください」
検察官「はい」
裁判長「では被告人両名、次回は、今日審理できなかった2月14日分の追起訴分の審理を行います。審理自体は沢山続いていく事になります。追起訴を確認し、今後の進行を決めます。次回は3月19日1時30分。出頭してください。本日は以上で終わります」

 3時34分に終わった。4時まで予定されていた。
 被告人両名は、無表情に審理を聞いていた。A1は、閉廷後、弁護人に話しかけられていた。A6も同様である。
 A1は、A6と傍聴席の方に視線をやり、退廷した。A6は、暫く法廷内に留まっていた。

事件概要  被告らは共犯と出会い系サイト利用料金等の名目で金員を詐取したとされる。
報告者 相馬さん


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