裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第二部(単独係)
事件番号 平成19年特(わ)第1632号等
事件名 出資の借り入れ、預かり金及び金利等の取締りに関する法律違反
被告名 B、C、D、E、F
担当判事 神坂尚(裁判官)
その他 書記官:青木
弁護人:大熊裕起、イワムラケン、小川、他1名
日付 2007.12.27 内容 弁論

 5人の被告人のうち、Dは白いスエットで、他の4人は革靴にダークスーツ。FとEは身長180cmぐらいのがっちりした体格のレスラーのような風貌、Dは丸刈りの任侠顔の男性でやや太っている、Cはパーマがかった髪で痩せ型の不動産営業マンのような男性、Bは細くて鋭い目つきで眼鏡をかけ丸刈りの男性だった。Dは170cm、Cは180cm、Bは165cm程度。
 傍聴席には被告関係者の、30歳ぐらいの派手目の女性3人や中年女性がいた。そのうちのFの奥さんとその知人女性は気さくな良い人だった。

−検察官の論告−
 F以外の被告人も4年9ヶ月、3年3ヶ月の期間にわたり、2630万円、1120万円、1950万円の利得を得ている。
 Cは同種前科で、Dは公務執行妨害で罰金前科がある。2年余り高利貸しの犯行を続けていて刑事責任は重大だ。
 2年10ヶ月も本部でパソコン入力をしたBの果たした役割は大きい。
 不法金利事案に対して、出資法での金利の上限が法改正されて厳罰化が図られた経緯があるが、法改正の流れに逆行して、ヤミ金融の問題等が深刻化していったことは周知の事実である。これにはこの種事犯が多くが執行猶予がつくことと、利得に対して罰金が低いことが挙げられる。出資法に罰金刑を併科した趣旨は、弱者を食い物にする悪質な犯行であることを経済的に強く認識させるものである。平成18年10月には危険運転致死罪ができたように、超高金利業者に対する国民の厳罰要請を無視できないので、高額の罰金刑で臨む必要がある。
 求刑はFを懲役3年6月罰金2500万円、Eを懲役2年6月罰金700万円、Dを懲役2年罰金600万円、Cを懲役2年6月罰金900万円、Bを懲役2年罰金500万円にそれぞれ処するのが相当。

−F被告弁護人(私選)の弁論−
 情状であるが、平成13年12月にAから依頼されて本件グループに関わりを持った。Aの指揮・監督のもとで動いていたが、平成18年11月からグループを引き継いだ。統括する立場というよりかは、Aの独走を防ぐために引き継いだに過ぎない。位置づけとしてはAの手足として業務に携わっていたのであって、売り上げの一部でも裁量でやる立場になく、オーナーたるAの承諾を必要としていた。Fは監督役のAの手足に過ぎなかったが、平成18年の11月からAの創始・経営する本件貸金業の経営的立場に立たされたのは、実態はAは平成17年5月に別の貸金業グループが摘発を受けると、完全に裏に回って表に出てこなくなったためだ。売り上げは現金でFに届けさせた。
 平成18年の6月に給料の件で、Fの妻は知人から600万円を借り、またAを問い詰めたところ、曖昧な返答しか返ってこなかったため、やむなく売り上げをAに話さないことにした。よって本件の経営を引き継いだことに、利己的な側面はない。もちろん平成18年の6月頃くらいからは、グループの経営をやめようとした。別の反社会的な行為をするのではなく、飲食店の経営が軌道に乗るまではという思いがあった。
 部下の信頼が厚く、責任感が強いFは、上に立つ者の責任を全うしようとした。
 違法を言うが、本件の貸金業は正規登録されており、一般的に言われるヤミ金ではないし、押し貸し行為もやっていない。
 返済困難と思われる客には、5割ぐらい融資を拒否していた。
 脅迫的な言辞を用いたり、夜遅く自宅に押しかけるなどガイドラインが禁じるようなことはしていない。
 多重債務者に高金利で貸し付けることはそれ自体違法であるが、取立ては悪徳金融業者や090金融のように、アンダーグラウンドな面はなく、金利が高かったことを除けば、ことさら悪質ではない。
 Fの利益について月額一定の給料を得ていたというが、むしろ被告人が得た利益はほとんどない。平成18年の11月から平成19年の4月までに3000万円の利益を上げたが、全部手に入ったわけではなく、六本木のクラブの経営や共犯者が正業に就けるための店舗の購入、ボーナスの支払い、平成19年の4月の給料日には経営がストップしていたことなどで、1200万円を支払っており、計算的には赤字になるぐらいだ。付言すると、暴力団との付き合いもなければ本件で得た利益が暴力団に流れた形跡もない。
 被害弁償についても、450万円を返済および返済の準備がある。被害弁償の450万円は創始者のAが立件されないまま、ともに起訴されたかつての部下に少しでも有利になってほしいと気持ちでなされ、このお金は本件の犯行で得たものではなく、親戚や友人から借り入れたものだ。
 多額の罰金刑の求刑がなされたが、Fは本件の訴追により十分過ぎるほどの制裁を受けている。Fは貸金業で、多くの従業員の面倒を見れるのではないかと思っていたが、立件されてなぜ犯罪なのか真剣に考えた。自分たちの違法行為での多重債務者のことは考えられなかった。
 自分が大切にしないといけないものは何なのか、家族や友人のために公判廷で誓っている。わざわざFの妻は、会えないときもあるのに毎日面会に赴いた。将来はFの子どもを産んで安定した生活を送りたいと述べている。Fが矯正するための妻もおり、2度と裏切らないと言っている。
 本件で最大の責任を生むべきなのは前責任者のAであり、Aが立件されなかった点は、Fや他の共犯者から見れば、このような訴追は不公平である。本件でFを必要以上に厳しい処罰をすることは、Aとの均衡を失し、犯行の実態を知らないとのそしりを免れない。本件訴追は証拠上やむをえないとはいえ、Aは一銭も支払っておらず、財産的な負担は、ペナルティーの面では均衡を失する。
 被告人は30歳で将来限りない可能性があり、今こそ更生するチャンスである。裁判官におかれては、十分に置かれていた状況を考慮して、求刑を減刑して執行猶予、罰金を減額してもらいたい。

−E被告弁護人の弁論−
 (リズミカルな口調で)弁護人のイワムラから。
 被告人に前科・前歴はありません。お金に困っている人にさらに高利貸しでお金を貸す行為を、とある高官は「弱っている債務者からさらにお金を搾り取るハゲタカのようなものだ」と言いましたが、まあ所詮は、ハゲタカ程度の行為です。しかも野生のハゲタカではなく、飼い犬になったハゲタカです。飼い主になって弱り切った獲物を食い物にしていたわけでもありません。暴行を加えていたわけでもなく獰猛でもない、ハゲタカ程度の行為なのです。検察官は法定刑の引き上げの経緯をもとに実刑を求めましたが、殺人犯や強盗犯、振り込め詐欺犯のような極悪非道の人間ではありません。給料をもらっていた雇われ人に過ぎません。共同経営者でもありません。
 妻は上申書を書き、遠いところから傍聴席にも来ている。母親も館山の旅館で働いているのに毎日傍聴に来るのは何故なのか。被告人は社会内で更生していくことを誓っている。大学の理工学部を経てエンジニア、つまりサラリーマンとして稼動する一方、母親思いの優しい性格です。それなのに700万円もの罰金を科したらどうなるか。本件は出資法違反で起訴され、どうせ多額の罰金を科せられるのだから、被害弁償はしないということになって本来の趣旨から外れるのではないか。ここにいる誰もが一度は大きな過ちはあるはずだ。傍聴席にいる母親や妻のもとに被告人を届けてあげてほしい。

−C・D両被告弁護人の弁論−
 弁護人の大熊から。
 本件における債務者は納得して借りている。窃盗や詐欺といった純然とした財産犯とは性質を異にする。本件はずば抜けて長い期間やっていたわけではない。両名とも犯行に誘われて、主犯から指示を受け、あくまで「使われた」のであって、Fさん、この方が主犯です。共犯者の中には、罰金刑で済まされたのもおり、古見さんなんかは累犯前科もあるのに検察官の温情により罰金刑で済まされた。
 Dは逃亡を図ったりしておらず、事件を深く反省し、今後違法行為に手を染めずに、知人のもとで稼動し続けることを誓っている。知人も雇用の監督を誓約している。妻や産まれたばかりの子どもに対する影響が実刑だと大きい。前科は1犯あるが、支部長になったのは、執行猶予が切れて2年も経ったあとだ。かなりの社会的制裁も受けている。
 Cも逃亡を図ったりしておらず、事件を深く反省し、今は親元に住んで、父親のもとで真面目に働いている。Cが公判請求されたのは今回が初めてで、確かに同種の前科はあるがそのときは罰金刑で済まされている。
 両名に対してただちに刑務所に行かせるのは酷で、罰金刑で済まされた共犯者との刑の均衡や経済状態、Cに至っては違法利得が少額であることも考えると、求刑は重過ぎる。

−B被告弁護人の弁論−
 弁護人の小川から。犯罪事実についてはBも認めるところであるが、犯行態様で共犯者と共謀したとあるが、Bは直接顧客の勧誘をしたり、貸付を行ったりしていない。日計表、貸付入金票を入力してFAXしたり、融資状況表をパソコンに入力するなどしていただけである。本部にはいたものの、機械的な事務作業を任されていたに過ぎず、業務上の決済金については全く関与していない。Fと同級生だったためだけで、窓口というのは単なる肩書きに過ぎない。月額は30万、35万、40万で、店長クラスが50万円を支給されていたことに照らすと、劣位に置かれていた。妻が子どもを妊娠したときにFから勧誘され、妻や生まれる子どものためにやむなく続けていた。
 Bは謝罪するとともに、小額ではあるが被害弁償の努力をして、捜査にも協力して、逮捕勾留期間は保釈されるまで2ヶ月間にも及んだ。その勾留生活のなかで多重債務者の苦しみに思いを致らせ、深い反省のうえに立って、今親戚の紹介で電器屋で働いている。働きは無遅刻・無欠勤で、まだ31歳の若年である。罪を償ったら、離婚した妻も復縁しても良いと言っている。前科・前歴もなく、犯罪性向はない。家族と離別するという社会的制裁も受けているのに実刑に処するのは、更生環境がよろしくないことも考えると相当ではなく、今回に限り執行猶予の判決を頂きたい。

 最終弁論が終わると、裁判官は被告人5名を証言台の前に立たせる。

−被告人の最終陳述−
F「とくにありません」
E「仕事を真面目にやっているので、寛大な処分をお願いします」
D「仕事に打ち込んでいきたいので、寛大な処分をお願いします」
C「こういう悪いことをしてきたんだなあと、被害者を出して、迷惑をかけて、こういう場に立って、考えが子どもだったが、これを機に大人になります。父親も後を継げと言っているので、今後は真面目にやっていきたいです」
B「今回の件は一生忘れずに、被害者や家族に対して償って、真面目にやっていきたいです」

 裁判官が判決を1月28日に定めて閉廷したが、1Fロビーで性悪そうなダークスーツの被告人が集団でこそこそ話をするときに醸成する陰湿な雰囲気は、御殿場事件の被告人とよく似ていた。

※:後日、Fに懲役3年・執行猶予5年、罰金2500万円の判決が出た。
報告者 insectさん


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