裁判所・部 東京地方裁判所・刑事第十一部
事件番号
事件名 三名:身代金目的拐取、拐取者身代金要求、監禁致傷
A、B:銃刀砲剣類所持等取締法違反、銃刀砲剣類所持等取締法違反
A:出入国及び難民認定法違反
被告名 AことA’、村上ことB、H’ことHことH’’
担当判事 小池勝雅(裁判長)品川しのぶ(右陪席)高原大輔(左陪席)
その他 検察官:仁田良行、戸刈左近
日付 2006.10.4 内容 初公判

 A被告らの初公判は、406号法廷で、10時から行われた。
 26枚の傍聴券に対し9時45分の締め切りまでに並んだのは、24人だった。
 弁護人は、眼鏡をかけた中年男性と、前頭部から頭頂部にかけて禿げ上がった白髪の老人。もう一人は、中年男性。開廷前に、書類に目を通していた。
 検察官は、青年二名と、眼鏡をかけた中年男性一名。
 裁判長は、眼鏡をかけた中年男性。裁判官は、髪を短く刈った青年と、30代ぐらいの痩せた女性。
 記者席は17席用意され、全て埋まっていた。
 開廷前、ビデオカメラによる二分間の撮影が行なわれた。
 Aは、髪を短く刈った、ややがっしりとした若い男。眉がやや太く、顎から首筋にかけ、痘痕か吹き出物がある。大人しそうな、それなりに整った顔をしている。動物のデザインが入った、長袖の黒い上下の服を着ていた。俯いて入廷する。日本語が得意らしく、常に流暢な日本語で受け応えをしていた。声は、小さくぼそぼそとしており、消え入りそうだった。
 Bは、白髪交じりの髪を短く刈っており、浅黒く、口が少しとび出ている。何処か眠たげな表情を浮べた、年より老けて初老に見えるが、ごく普通の容貌の男だった。特に兇悪そうでもない。体格は、ややがっしりしている。英語のロゴが入った、長袖の黒い上下の服を着ていた。顔を上げて入廷する。声は小さく消え入りそうだが、力なく、何処か投げ遣りげにも聞こえた。
 Hは、丸坊主の、いかつい顔の初老の男。痩せている。長袖の白いワイシャツ。前を向き、顔を上げ入廷。一番声がはっきりしていた。
 被告人三名は、それぞれ、刑務官二人に挟まれて被告席に座る。

裁判長「それでは開廷いたします。A被告は日本語が理解できないという事なので、A被告人の関係で、通訳を介して審理をします。通訳の方、よろしくお願いします」
通訳「はい」
 証言台の前に立つ。
裁判長「では、宣誓を」
通訳「宣誓、良心に従って誠実に通訳することを誓います」
裁判長「それでは、A被告、裁判所に対して、誠実に通訳することを誓った事を伝えてください」
 通訳入る。A、それに頷く。
裁判長「それでは、被告人三名とも前に立って」
 通訳入る。被告人三名、証言台の前に立つ。
裁判長「その証言台の前に並んで立って。はい。えー、それでは、先ず、A被告ですね(通訳入る)。えー、国籍は何処ですか?」
A「(聞き取れず)市内です」
裁判長「日本語ある程度出来るんですか」
A「はい」
裁判長「あのー、あまり無理しないでね」
A「はい」
裁判長「あのー、わからなかったら通訳を介して。生年月日は何時になりますか?」
A「5月18日です」
裁判長「日本における決まった住居等はありますか?」
A「いいえ」
裁判長「仕事は無職ですか」
A「はい、無職です」
裁判長「次、B被告」
B「はい」
裁判長「はい、名前は何と言いますか?」
B「Bです」
裁判長「村上という名前も使っていたんですか」
B「はい」
裁判長「生年月日は何時ですか?」
B「昭和31年10月24日です」
裁判長「本籍は何処ですか?」
B「岩手県」
裁判長「住所はありますか」
B「ないです」
裁判長「不定でいいですね。仕事も無職で良いですか?」
B「はい」
裁判長「それから、最後は、H被告ですか」
H「はい」
裁判長「えーと、山川という名前を使っていたんですか?」
H「はい」
裁判長「国籍は何処ですか」
H「大韓民国です」
裁判長「生年月日は何時ですか」
H「1952年1月15日です」
裁判長「住所は何処ですか」
H「東京都足立区」
裁判長「Y1方でいいですか?仕事は何をしてます?」
H「仕事は無職です」
裁判長「それではね、これから、三名に対する身代金要求拐取等、それから、A被告それからB被告に対する銃砲刀剣所持等取締法違反、それから、A被告に対する出入国及び難民認定法違反について審理を行います(通約が入る)。それぞれね、先ずはじめに、検察官が起訴状を朗読しますけれど(通約が入る)検察官、一個ずつ、あの、認否を行ないたいと思いますので、先ず起訴状を朗読してもらえますか?」
検察官「それでは、被告人三名に対する、平成18年7月27日付起訴状を朗読します」

○平成18年7月27日付起訴状
 公訴事実
 被告人三名は、a当21年を拐取し、同人を監禁した上、同人の安否を憂慮する同人の実母bの憂慮に乗じて、同人から金員を交付させようと企て、共謀の上
・第一、平成18年6月26日、午後0時25分頃、東京都渋谷区粕山町13番21号東急フランセイタリア本社バス停留所前路上において、バスを待っていた前記aに対し、「bさんの娘さんだよね。雨が降っているから駅まで送ってあげるよ」等と嘘をいい、同人がこれを断るや、同人の頚部を手でつかむなどしながらその身体を同所に停車中の、普通乗用自動車二列目座席に押し込むなどの暴行を加えた上、直ちに同車を発進疾走させて同人を被告人らの支配下に置き、もって、同人の安否を憂慮する前記bの憂慮に乗じて同人から金員を交付させる目的で前記aを拐取し、さらに同日午後0時35分頃から、同日午後11時17分までの間、東京都内等を走行もしくは普通停車中の前記普通乗用車内、または、川崎市中原区富丸町8番町1491番地トップシンマルコ第四305号室において、前後14回にわたり、同人の携帯電話機を使用して、同都渋谷区粕山町12番13号前記b方にいる、同人が使用する携帯電話機に電話をかけ、同人に対し「我々は世界の人が集まった集団で、日本のヤクザもいます。三億ですよ。今までも、私達は、bさんと同じ有名な人たちの大事な人を預かって、みんな誰にも言わずお金を速やかにし払って、何もなかったように生活しています。警察に言えばすぐ殺しますよ。拳銃とか持ってるから。何かあった場合、一番危ないのは娘さんですからね」旨申し向け、前期aの安否を憂慮する前記bの憂慮に乗じて金品を要求する行為をし
・第二、同日午後0時25分頃、前記東急フランセイタリア本社バス停留所前路上において、前記aに対し、前記第一記載の暴行を加え、同人を同所に停車中の上記普通乗用自動車に乗車させて同車を発進疾走させた上、走行中の同車内において、同人に対し、「大人しくしないと命はない。騒いだり逃げたりしたら殺されるよ」等と申し向け、同人の手を取って、ビニール袋に入れた拳銃を、同ビニール袋ごしに触らせるなどして脅迫し、同日午後1時9分頃、同人を前記トップシンマルコ第四305号室に連れ込み、引き続き同室において、同人に対し、「自分たち以外に復讐をするチームが居て、もし警察に連絡したら、そいつ等が家族を殺すかもしれない」等と申し向ける等して脅迫した上、同室内において、同人の行動を終始監視し、同日午後0時25分頃から同月27日午前1時25分頃までの間、同人をして、前記普通乗用車内及び前記トップシンマルコ第四305号室内から脱出する事を不能にし、もって同人を不法に監禁したが、その際、前記暴行により、同人に全治約9日を要する後頚部擦過傷及び頚椎捻挫の傷害を負わせたものである。
罪名及び罰状:第一、身代金目的拐取、拐取者身代金要求。刑法第225条の2、第一項、第二項、第60条。第二、監禁致傷。刑法221条、第220条、第60条。

 以上の事実につき、ご審理願います。

 通訳が入る。
 Aは、やや俯いており、Hも下を向いていた。Bだけが前を向いていた。
裁判長「審理の前に、黙秘権について説明します(通訳)。被告人らは、これからこの法廷でいろいろ質問を受けます(通訳)。しかし、質問に答えたくないのであれば、はじめから終わりまでずっと黙っている事も出来ます(通訳)。また、特定の質問だけに答えるということも出来ます(通訳)。質問に答えないからといって不利益な扱いは受けません(通訳)。勿論、質問に答えることは自由です(通訳)。ただ、その場合には、答えた内容は、有利不利を問わず証拠になります(通訳)。解りましたね(通訳)?それでは先ず、A被告に確認をしますが、今検察官が読み上げた起訴状に、何処か違う点はありますか?(通訳入る)」
A「間違いないです(日本語で答える)」
裁判長「では、B被告はどうですか」
B「間違いありません」
裁判長「それから、H被告はどうですか?」
H「間違いありません」
裁判長「弁護人のご意見を伺いますが、A被告の関係でいかがでしょうか?」
Aの弁護人「被告人と同様です」
裁判長「B被告の関係」
Bの弁護人「被告人と同様です」
裁判長「H被告の関係でどうでしょうか」
Hの弁護人「はい、被告人と同趣旨です」
裁判長「はい。A被告、解ってると思いますが、念のために説明します。弁護人、それぞれ間違いないといいました(通訳入る)。じゃ、まず、H被告そこに座って。それでは、これから両名に対する8月9日付の追記訴状を朗読します(通訳)。それでは、検察官、どうぞ」
検察官「それでは、平成18年8月9日付追起訴状を朗読します」

○8月9日付追起訴状
 公訴事実
・第一、被告人両名は共謀の上、法定の除外事由がないのに、平成18年6月26日午後0時25分頃から同月27日午前1時25分頃までの間、東京都渋谷区粕山町13番21号から川崎市中原区2058番町1941番地のトップシンマルコ第四前にかかる間の道路上を走行または停車中の普通乗用車内及び前記トップシンマルコ第四305号室内等において、自動装填式拳銃一丁を、同拳銃に装填中の拳銃実包二発と共に携帯して所持し
・第二、被告人Aは、中華人民共和国の国籍を有する外国人であるところ、平成14年5月6日、同国政府発行の旅券を所持し、千葉県成田市所在の新東京都国際空港に上陸して本邦に入ったものであるが、在留期間は平成15年11月6日であったのに、同日までに前記在留期間の更新または変更を受けないで本邦から出国せず、平成18年6月28日まで、東京都内などに居住し、もって在留期間を超過して不法に本邦に残留したものである。
罪名及び罰状:第一、銃刀砲剣類所持等取締法違反、刑法第32条の3、第二項、第一項。第三条第一項、刑法第60条。第二、銃刀砲剣類所持等取締法違反、刑法第67条第一項、第五項。

 以上の事実に付き、ご審理願います。

 通訳が入る。
裁判長「それでは先ずA被告に確認しますけどね、今検察官が述べた点、何か違う点がありますか?」
A「間違いありません」
裁判長「えっと、B被告は」
B「間違いないです」
裁判長「弁護人、A被告の関係は?」
Aの弁護人「被告人と同趣旨です」
裁判長「B被告の関係は」
Bの弁護人「被告人と同様です」
裁判長「念のためにA被告に説明してください(通訳)。では、元の席に戻ってください」
A、B両被告も、被告席に座らされる。
裁判長「えー、それでは、これから証拠調べに入ります。その前に、A被告に、これから検察官が証拠によって証明しようとする事実を聞くようにいってください(通訳)では、検察官、冒頭陳述をどうぞ」

−冒頭陳述−
 では、検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下述べる通りであります。

○第一・被告人らの身上経歴
 先ず第一に、被告人の身上経歴であります。
 被告人Aについてでありますが、被告人Aは、以下、被告人Aという風に呼びますが、中華人民共和国で出生し、同国内の高等中学校を卒業後、平成14年5月6日、就学目的で本邦に入国し、日本語学校に通学しながらアルバイト等をしておりましたが、本件犯行時は無職でありました。
 Aは独身でありまして、両親及び姉二人が本国で暮らしております。本邦に置ける前科前歴は見当たりません。
 次に、被告人Bについてであります。被告人B、以下Bと言いますが、は、岩手県で出生いたしまして、神奈川県内の高等学校を中退した後、運送会社等を転々とし、運転手等として稼動していた他、暴力団稲川会遠藤組、ついで、山口組山健組に入り、暴力団構成員として活動するなどしていましたが、平成8年ごろに脱退し、以後定職に就かず、本件犯行時は無職でありました。
 婚姻歴がありまして、長女及び長男を設けておりますが、離婚し、現在は独身であります。
 前科は三犯ありまして、昭和54年および55年に、監禁罪等、また、傷害罪でそれぞれ執行猶予付きの懲役刑の判決を受け、また、平成2年に業務上過失致死傷罪で禁固二年の判決を受けています。また、少年時には窃盗罪の前歴も御座います。
 最後に、被告人山川基浩ことHについてでありますが、以下Hといいますが、川崎市で出生いたしまして、私立大学を卒業後、パチンコ店店員、タクシー運転手等の職を点々としておりましたが、平成15年ごろから、知人からの依頼を受けて、インターネットの配線変換等の工事を行う弱電工として稼動しておりました。
 家族として、妻との間に長男長女および次女を設けましたが、本件犯行当時は、横浜市内に住む妻子の元を離れて、東京都足立区内において稼動していました。
 傷害暴行の罰金前科が一犯あります。

○第二・被害者の身上経歴
 次に、被害者でありますa及びbについてでありますが、被害者bは、昭和33年に茨城県で出生しまして、昭和58年に結婚して昭和60年に長女、aを設けましたが、昭和61年に離婚しまして、以後、aを育成していたものです。
 bは、aを育てながら、大学に通学し、医師免許を習得し、大学病院等での勤務を経て、平成14年、東京都渋谷区内にbクリニックを開業し、同医院で美容整形外科医として勤務する傍ら、高額所得者としてTV番組に出演するなどし、aも同番組に出演する事もありました。
 aは本件犯行当時、港区内にある私立大学の四年生でありまして、本件被害にあう当時は、自宅からバスまたは徒歩で渋谷駅まで行きまして、渋谷駅から電車に乗って大学まで通学したものであります。
 b及びaについては、犯行当時、渋谷区内の自宅で生活しておりました。

○第三・犯行に至る経緯及び犯行状況
 第三に、犯行に至る経緯及び犯行状況等について申し上げます。
 先ず、拳銃の入手経路及び保管状況等であります。
 A及びBは、平成17年5月ごろ、知人を介して互いに知り合い、同年12月頃からは、当時Bが居住しておりました岩手県内のアパートで共同生活をするようになりました。
 A及びBは、平成18年1月頃、Bと親交のありました暴力団構成員のY2から、トラブルになっていたCらを見張るように依頼され、以後、Cらと行動を共にするようになりました。
 Aはその頃、そのアパートにおいて、Y2からサイレンサー付きマカロフ型自動装填式拳銃一丁及び適合実包を譲り受ける事になり、その際、A及びBが、山中で本件拳銃の試射を行って、発射可能である事を確認し、これを所持したものであります。
 その後、A及びBは、千葉県流山市内のC方に移動し、同所でCらと共同生活をするようになりました。

 次に、本件拐取計画の成立した経緯であります。
 Cは、平成17年7月ごろには、A及びB以外の共犯者の間で、金持ちの美容整形外科医としてbに着目し、b本人あるいは娘のaを拐取して、bから身代金を受け取る本件拐取計画を立てまして、実際にb方付近を下見するなどしておりました。A及びBは、平成18年2月頃に、Cから本件拐取計画を聞き、その頃、Cを含む三人でb方付近を下見するなどしましたが、aの姿を確認することが出来ず、また、その頃からCと共に千葉県内等で、本件拳銃を使用した強盗事件を敢行するようになった事等から、本件拐取計画はそれ以上具体化せずに、一時立ち消えになりました。

 次に、本件の共謀状況等であります。
 A及びBは、平成18年3月ごろにCとは別れまして、4月下旬ごろには横浜市内のウイークリーマンションの一室で同居し、生活費や遊興費等をお互いに出し合い、共同生活をするようになりました。その頃Aは、大金を獲得したいとの思いから、Bに対し、「いっしょにbの娘をさらって金を取ろう」等と申し向けて、一旦は立ち消えとなっていた本件拐取計画の実行を持ちかけたところ、Bも、所持金が少なくなっていたため、大金を獲得したいと考え、「解った、やろう」等と答えて、Aと共に本件拐取計画を実行する事を承諾しました。そして、A及びBは、本件拐取計画について更に話し合ってその方法等を具体化し、aを自動車に連れ込んでマンションの一室に連行して同所に監禁し、bには直接会って身代金三億円の交付を要求する事を決めた上、その他の準備として、b方付近を再度下見して道路の状況等を把握する事、自動車の運転手役の共犯者を確保する事、拐取したaを監禁する部屋を確保する事、運転手役や監禁する部屋の確保は日本人であるBが担当する事、これらを決めました。また、bから交付された三億円の分け前としては、運転手役の共犯者には一千万円程度を渡し、その残りをA及びBで交付するという事で合意しました。
 A及びBは、同年5月中旬頃、b方付近に赴いて下見をし、同人方の防犯カメラの設置状況等を確認しましたが、aの行動パターンまでは解らなかった事等から、これを把握するために、探偵に調査を依頼する事にしました。そこで、Bは、5月中旬頃に、品川区内の調査事務所に赴き、偽名を用いてaの行動パターンの調査を依頼し、同月25日頃、この調査事務所から、aの大学に通う様子を撮影したビデオテープ及び写真、aの行動パターンが記載された調査報告書等を受け取りました。
 A及びBは、5月下旬ごろ、先ほど言いましたウィークリーマンションにおいて、調査事務所から受け取ったビデオテープをビデオデッキで再生してみたり、調査報告書を読む等して、aが月曜日九時頃に自宅であるb方を出て大学に向かう事を知った事から、月曜日に本件拐取計画を実行する事を話しあって決めました。そして、A及びBは、調査結果を踏まえて本件拐取計画の具体的実行方法について更に話し合い、通学途中のaに対し、bの友達を装って自動車に乗るように誘い、aがその誘いに応じなければ無理やりaを車内に押し込んで監禁し部屋に連行する事、aに声をかけて自動車に誘う役目については、bと年齢が近くて自然に日本語が話せる日本人のBが担当する事とし、aが誘いに応じない場合にはA及びBが二人係でaを車内に押し込む、といった事で合意いたしました。更に、aを拐取する自動車についても、aを無理やり車内に押し込む事も想定されたため、ドアが多く車内も広いワゴン車で、窓硝子にスモークが張られて車内の様子が見えにくい車が良いという事も話し合いました。また、この頃までには、A及びBがbに身代金を要求する等している間に、部屋に監禁したaを監視する役については、運転手役の者にやらせる事に合意しました。
 B及びHは、数年前に長野県に居住して、何れもパチンコをしていた事から数年前に知り合いになりまして、一時交際の途切れた時期もありましたが、平成17年暮れ頃ないし、平成18年初め頃から再び連絡を取り合うようになったところ、Bは、運転手役を探すにあたり、Hであれば本件のような違法行為にも比較的抵抗を感じないのではないかという風に考えまして、Hを誘う事に決めました。しかしBは、最初から本件拐取計画の内容を話すと、Hが拒否するかもしれないと考え、5月中旬頃、Hに対して「運転するだけで報酬を1000万円渡すからやってみないか」等と言って、本件の内容を話さないまま運転手役をして欲しい旨持ちかけ、Hも、その報酬額等から何らかの犯罪である事を認識しつつ、これに応じる旨返答しました。そして、Bは、その後もHとの連絡を取り、6月中旬までには、Hに対し電話で「金持ちの娘をさらって、監禁し、その娘の親から金を取るんだ」等と言って本件拐取計画の概要を伝えましたが、Hは一千万円の報酬欲しさから、本件への加担の意図を変えず、その事をBに返答いたしました。
 Aは、6月20日頃までには、本件拐取計画において、aを脅迫したり、警察に追われた際に発射して逃げたりするために本件拳銃を使用する事を決意し、その頃、本件拳銃が正常に作動し発射したりできる状態に保つため、本件拳銃を手入れしようと考え、Bに依頼して本件拳銃の手入れのための油を買ってきてもらい、先ほど言いましたウィークリーマンションにおいて、Bの面前で油を使用して拳銃の手入れをしていました。その際、本件拳銃には少なくとも四発の弾が装填されておりました。Bは、その様子を見て、Aが本件でaを脅迫したり警察から逃げたりするため等に本件拳銃を使用する気である事、本件拳銃には少なくとも四発の弾が込められている事を認識して了解しました。このようにしてA及びBは、本件において、Aが本件拳銃をaを脅迫する手段等に利用する事についての合意が成立したものであります。
 Bは、6月23日頃、知人の女性に川崎市内の短期自宅マンション、トップシンマルコ第四、以下本件マンションと言いますが、その305号室を賃借してもらい、aを監禁する部屋を確保いたしました。そして、A及びBは、本件マンション305号室の滞留期間が6月25日から一週間であり、aが月曜日の9時頃に通学していた事から、その期間内の月曜日である同月26日を本件拐取計画実行日に設定し、その前日に横浜市内の先程述べたウィークリーマンションから本件マンションに引っ越す事にして、BがHに引越しの手伝いを依頼しました。
 6月25日、Hは、引越しの手伝いの為に横浜市内のウィークリーマンションを訪れた際、BからAを紹介され、このウィークリーマンションで、調査事務所から受け取ったaを撮影した写真及びビデオを見せられ、さらに、そのウィークリーマンション及び引越し先の本件マンションで、A及びBから、「この女をさらって、親と話をつける。女の親や相手との交渉は俺達がやるから、山川さんは運転手を頼むよ。約束の報酬はちゃんと渡すから。女をさらったら、金の話がつくまでこの部屋に監禁しておく。山川さんには女を見張ってもらうから。場合によっては縛っておけば良いから」等と言って、本件拐取計画の詳細を伝えると共に、本件拐取計画を翌26日に実行するので、外から車内が見えにくいスモークガラス、またはカーテンつきの大型のワゴン車のレンタカーを借りてくる事を依頼しました。Hは、一千万円の報酬欲しさから、本件の破綻を少なくする為に、レンタカー代として二万円を受け取り、ここにおいて、A、B、及びHにおいて、本件犯行の共謀が成立したものであります。

 次に、本件犯行状況等であります。
 犯行当日であります平成18年6月26日朝、Hは、当日実行予定となっていた本件拐取計画の参加を一旦断ろうと考え、Bに電話をかけて参加を断ろうとしましたが、B及びAから予定通り参加するように説得されて、再度参加の意思を固め、自宅を出て品川区内のレンタカー会社で、スモークガラスが貼られた緑色のホンダステーションワゴン、以下本件車両と言いますが、この本件車両を借りた上、B及びAのウィークリーマンションに到着し、「俺も腹をくくりましたよ」等と言って、本件拐取計画に参加する決意を伝えました。
 そして、この日の午前、A、B、及びHは、Hの運転する本件車両の助手席にBが、二列目座席にAが乗車して、本件マンションを出発し、それぞれ渋谷区のb方に向かいました。その際、Aは、aを脅迫する等の手段として使用する為、本件拳銃を青色の布袋に入れ、これをビニール袋に入れた状態で、本件マンション305号室から持ち出しました。A、B、及びHは、適当な拐取場所を探す為に本件車両を走行させていた際、その前方を歩いていたaを発見しまして、事前の計画通り、aを本件車両内に押し込む為、Bが本件車両から降車しましてaの後を追い、Hも本件車両を運転してその後を追いました。そして、その日の午後零時25分ごろ、Bは、東京都渋谷区カスヤマ町13番21号イタリア本社バス停駐車場前路上前において、バス停を使用していたaに近付いていき、aに対し、bの友人を装いながら、「bさんの娘だよね。雨が降っているから送ってあげるよ」等と言って、本件車両に乗車するように薦めました。その際、Hは本件車両をB及びaの側まで寄せ、AもB及びaに面した左側スライドドアを開けました。しかし、aが、「バスに乗るから大丈夫よ」等といってその誘いを断ってきた事から、Bはaが誘いに乗らない以上は、事前の計画通り無理やりaを車内に押し込んで連れ去るしかないと考え、いきなりaの背後からaの両肩を掴み、本件車両左側スライドドアからaを座席に向けて強く押し、車内で様子を見ていたAも、ただちにBの意図を察知し、手でaの頚部を掴む等して、車内に強く引っ張り、aを本件車両後部座席に無理やり連れ込みました。その後、Hは、Bの指示により、左側スライドドアのスイッチを操作してそのドアを閉め、Bが助手席に乗り込んだ後、本件車両を同所から発進させ、このようにしまして、A、B、Hは、aを拐取して、本件車両車内に監禁したものであります。Aは、aを本件車両車内に連れ込んだ際、aが悲鳴を上げていたことから、手でaの頚部を後方から掴みまして、その顔面を自分の腹部に押し付けて悲鳴を上げさせないようにし
Aその結果aは全治約10日間を要する後頚部擦過傷及び頚椎捻挫の傷害を負いました。Hは本件車両を発車させた後、事前の計画通り、本件マンションにおいて、車両を停車しました。本件車両が発信した直後、Aは、二列目座席の床上に座り込んだaに対して、ビニール袋に入れた青色布袋入りの本件拳銃を示しながら「大人しくしないと命はない」等と申し向けて、脅迫しました。その後、Aはいったんaを二列目左側座席に座らせたものの、二列目座席からの出入り口が左側スライドドアだけである本件車両の構造から、aの逃走防止のため、aをして二列目右側座席にaを移動させまして、自らは左側座席に座りました。そして、Aは、aの腕を取って本件拳銃の入ったビニール袋を触らせ、「音しないよ」等と申し向け、本件拳銃の存在を知らせる等し、さらにaに対し、「これからマンションに着くけど、車降りた時に騒いだり逃げたりしたら殺されるよ」等と言いながら、aの前でビニール袋に入れた青色布袋入りの本件拳銃を抱えて示す等して、脅迫する等しました。
 Aは、当日零時35分ごろ、走行中の本件車両内において、aにおいて、aの携帯電話機、本件携帯電話機と言いますが、本件携帯電話機からbの携帯電話機に電話をかけさせ、aがbに、無理やり車に乗せられた等と伝えた後に、aと電話を代わりまして、bに対して「警察に言えばすぐに殺しますよ」等と脅迫しました。
 次いでAは、午後零時50分頃、本件電話機をしてbの携帯電話機に電話をかけ、bに対し「今までも有名な人の誘拐を行い、身代金を受け取って人質を開放した事があります」旨を伝えたうえ、bから、「今お金が用意できるのは四、五百万くらいです」と言われ、要求額を尋ねられた事に対し、「娘の価値はそんなものですか。色々な人がいるから採算を考えて三つ、三億ですよ」等と申し向け、aの身代金として、三億円の交付を要求しました。Aは、事前の計画では、bと直接会って三億円の交付を要求する予定でありましたが、bが直接会うことが出来ない旨言った事から、電話で三億円の交付を要求する事にし、B及びHも本来の計画と違うと感じたものの、結果的に三億円入ればいいと考え、Aが電話で交付の要求をするのを傍聴しました。
 bは、Aから身代金を要求する脅迫電話を受けて、実の兄を通じまして警察に通報すると共に、取引銀行の担当者に連絡し、身代金の準備をお願いしました。
 Hの運転する本件車両は、犯行当日の午後1時9分頃に、本件マンション前に到着しまして、aを本件車両から降車させ、B、a、Aの順で、本件マンションの階段及び廊下を進み、aの前後をBとAで挟みながら、305号室まで連行しました。その際、Aは、ビニール袋に入れた青色布袋入りの本件拳銃を持って、本件車両から降車しまして、これを305号室内に持ち込み、この室内の窓際の流し場の下におきました。HはBの指示で本件車両から降車せず、この車内で待機しました。
 A及びBは305号室内にaを連行した後、この室内の椅子にaを座らせた上、A及びBは、それぞれ同室内のベッド、または備え付けられた事務机の上に座ってaを監視し、Aが電話し、「自分たち以外に復讐するチームがいて、もし警察に連絡したら、そいつらが家族を殺すかも知れない」と脅迫する等しました。そして、午後1時17分頃から午後三時頃までの間、Aは305号室内において、三回にわたって本件電話を使用してbの携帯電話機に電話をかけ、bに対し、「我々はアメリカ、ヨーロッパというような世界の人が集まった集団で、日本のヤクザのようなものです」等と申し向け、自分たちの背後に大きな組織がある旨伝えて脅迫し、三億円の交付を要求したほか、aを電話口に出させてbに対応させる等しました。これに対しbは、身代金の準備ついて銀行の担当者と交渉中である旨伝える等しました。
 なお、Aは、305号室でaを監視していたが、本件電話機を持ったままこの部屋に居続けると、本件電話機の位置を探知されるのではないかと心配し、Bに対し、本件電話機を持って暫く305号室から出て行って欲しい旨依頼し、Bもこれに応じて、本件電話機を持って、いったん305号室を出ました。そして、Bは、本件マンション近くの路上に停車していた本件車両に乗り込みまして、この車両内で待機していたHから、身代金要求の進行具合を尋ねられると、特に問題は起きていない事、身代金についてはAが電話で交渉中である事、こういった事を伝えました。
 Aは、Bが再び本件305号室に戻ってきた後、警察から本件電話機の位置を探知されて自分たちの居場所を発見される事を防ぐため、Hが運転する本件車両に乗車して、移動しながらbに身代金を要求する脅迫電話をかけようと考え、Bに対し、Hと共にbに交渉しに出かける旨伝え、本件電話機を持って305号室を出て行き、Hが待機する本件車両の助手席に乗り込み、Hに対して、適当に走行するよう指示して、本件車両を発車させました。なお、Aは、この部屋を出る際に、本件拳銃を窓際の机上に置いたままにして、これを持ち出してはおりません。
 その後、Aは、Hに川崎市内を走行させたり、駐車場等で停車させたりしながら、午後4時20分頃から、午後11時17分頃までの間、本件車両の助手席から数回にわたって、本件電話機を使用してbの携帯電話機に電話をかけ、bに対して、「拳銃とか全部持っているから、何かトラブルあった場合に一番危ないのは娘さんですからね」等と脅迫しながら、三億円の交付を要求した他、自分の携帯電話機からBの携帯電話機に電話をかけ、aを電話口に出させた上、本件電話機と自分の携帯電話機を重ね合わせて、そうした状態でbとaを会話させる等もしました。その間、A及びHは、a及びBの夕食等をコンビニエンスストアで購入し、いったん本件マンションまで戻り、Aがそれを305号室に届ける等しました。またAは、本件車両車内からbに電話をかけ続ける一方で、自分の携帯電話機を通じて、Bの携帯電話機に電話をかけて、bとの交渉の状況を伝える等しました。なお、bから身代金の準備を依頼された銀行のbの担当者が、現金を準備して、渋谷警察署に保管して、3000万円の受け渡しが可能となった事が、Aからの電話において、bはAにその旨を伝えましたが、Aは三億円の身代金の金額は変更できない、と伝えました。
 警察におきましては、aの拐取を目撃した通行人が、書きとめた本件車両のナンバーの一部等に基づいて、a及び拐取犯人の所在捜査を行っていました。この日の午後4時58分頃に、川崎市内でA及びHが乗車した本件車両を発見して、この車両を追尾しておりました。その後、A及びHは、自分たちの本件車両が警察に尾行されているのに気付きまして、Aは、日にちが変わった6月27日午前0時半ごろに、自分の携帯電話機からBの携帯電話機に電話をかけて、本件マンションでaを監視しているBに対して「尻尾が離れない。どうも警察につけられているみたいだ。何かあったら女を消しちゃって」等と言い、警察に尾行されているようなので、自分と連絡がとれなくなったらaを殺すように伝え、Bは「おう」等と答えました。
 その後、A及びHは、川崎市内で本件車両を停止させられて、警察官から職務質問を受けましたが、その際本件犯行を認めると共に、警察車両に乗車して、本件マンションに警察官を案内する事にしました。
 他方、Bは、Aが本件マンション305号室を出て行った後、ビニール袋に入れられた青色布袋入りの本件拳銃を、自分が座っていた事務机近くのラックと壁の隙間に置きまして、aを監視していた所でありますが、Aから先ほど述べましたような電話を受けて、暫くテレビを見る等しておりましたが、その後、A及びHの各携帯電話機に電話をしても、Aらはこれらに出ませんでした。Bは、先ほど言いました隙間に置いてあったビニール袋及びその中の青色布袋から本件拳銃を取り出しまして、右手で本件拳銃を持って、「裏切られたみたいだな」などと言いながら、椅子に座っていたaの顔に銃口を向けました。ちょうど其の時に、A及びHの案内で、本件マンション305号室前に到着した警察官が、Aに同室のインターホンを押させ、Bは本件拳銃を右手に持ち、玄関に立ってドアスコープを覗いて玄関前にAが立っているのを確認したうえで、玄関ドアを開けました。その直後、警察官らは、305号室玄関前廊下から同室玄関内に突入し、これに対しBは本件拳銃を一回発射しましたが、弾丸は本件銃口内で停弾いたしました。Bはその直後、警察官らによって制圧されて、監禁罪の現行犯人として逮捕されました。A及びHも同罪で現行犯人逮捕されて、aは救出されるに至りました。
 押収された本件拳銃に装填されていた実包様の物三発を鑑定した結果、内二発が本件拳銃に適合する拳銃実包である事が確認されております。
 また、Aは、平成14年5月6日に就学の資格で本邦に入国し、在留期間中にその更新を受けないで、平成15年11月6日まで在留資格を延長しましたが、同日までにその更新等を受けることなく、同日を過ぎても本邦に残留したものであります。

 その他情状等でありますが
 以上述べました事実を立証するために、証拠等関係カード記載の書証を請求するものであります。

 冒頭陳述と同時に通訳が行われた。通訳は10時55分ぐらいに冒頭陳述が終わってからも暫くは続き、11時1分ぐらいに終わった。

裁判長「えっと、被告の進行について、弁護人のご意見を伺いますが、まず、A被告の関係ではいかがでしょうか?」
Aの弁護人「えっと、開示を受けたものは解りませんし、照合できなかったもので」
裁判長「現時点です」
Aの弁護人「全て同意いたします」
裁判長「B被告の関係ではいかがでしょうか?」
Bの弁護人「全て同意します」
裁判長「えっと、H被告の関係ではいかがですか?」
Hの弁護人「えっと、甲号証は全部同意。乙号証拠については、Hの関係、42し45号証不同意、42,49、カードによりますと、関係被告人Bの関係というふうな記載になっておりますが、Cの間違いで良いですね」
検察官「はい」
Hの弁護人「そうしますと、それも含めて同意。その他の乙号証については不同意または留保」
裁判長「確認させていただきますが、42から・・・・、42以降が同意という事で」
Hの弁護人「そうです」
裁判長「1から41までは留保されるという事ですか」
Hの弁護人「はい、そうです。あのー、1から、Cにかかっていない所は同意します」
裁判長「という主旨ですね」
Hの弁護人「はい、そういう事です」
裁判長「同意されるのが、42、43、44、45、46,47で」
弁護人「そうです」
裁判長「その1から41は今のところ留保されると」
弁護人「はい」
裁判長「そういう事ですね」
Hの弁護人「はい」
裁判長「それでは、同意のあった部分は採用して、取り調べをいたします。Aに説明してください。えっと、検察官の証拠の申請について、A被告とB被告の弁護人は、何れも証拠とする事に同意しました(通訳が入る)。えー、H被告の弁護人は、あー、甲号証は同意をしたけれども、乙号証については、H被告の供述調書と身上関係の証拠は同意をしたけれども、ほかには意見を留保しました(通訳入る)。えっと、裁判所は、三人の弁護人が同意をした、甲号証と、乙号証の42以下を採用して取調べをいたします(通訳が入る)。これから、検察官が証拠の内容を読み上げます(通訳が入る)。それでは、要旨告知をお願いいたします」
 要旨の朗読と共に、通訳が行われた。

○要旨の告知
・甲第1号証は、現行犯逮捕報告書でございまして、現行犯逮捕した経緯等について、冒頭陳述どおりの内容が記載されています。
・甲第2号証ないし第五号証につきましては、被害者aの供述調書でございまして、被害状況等、被害感情等、傷害の状況等について記載されております。
 被害状況は冒頭陳述記載の通りでございますが、監禁されていた車内においての記載について、一部若干朗読いたします。
「Aから、ビニール袋の中身をビニール袋ごしに触らされました。なんだろうと思いながらそのビニール袋の中身を何度か掴んでみた所、中身は凄く硬い感じがしました。Aは、私に対して、『音しないよ』と言いました。私は、その言葉を聴いたとき、これは拳銃なんだ、これはバンという音がしない、特別な拳銃だ、と、このおじさんは言っているんだと思いました。私は、拳銃だと解り、ますます恐ろしくなりました」
 305号室で監禁されていた際、終盤の話について、若干朗読いたします。
「Bが、携帯電話のボタンを押して、携帯電話機を耳に当て、何も喋らないまま耳から離し、再び携帯電話のボタンを押して、携帯電話機を耳に当てる、という動作を何度かしました。私は、Bのその様子を見て、Bが誰かに何度か電話をかけるものの、相手が出ないという状況なんだろうと思いました。その後、Bは、荷造りを始めました。Bは、その後、立ち上がり、拳銃が入ったビニール袋の中から拳銃を取り出しました。Bは、右手に拳銃を持って、椅子に座っていた私に近づいて来ました。Bは、私の右斜め前に立った直後、私に対して、『裏切られたみたいだな』と言いながら、私の顔に拳銃を向けました。Bが私に向けた拳銃の先は、まっすぐ私の目の辺りに向いていました。私は、Bからこのようにして私の顔に拳銃を向けられ、もう駄目だ、殺される、と思い、とっさに私の両手で両耳の辺りを覆うようにして、耳を塞ぎました。私がこのようにもう駄目だと思った時、ブーッという呼び鈴のブザーが鳴りました。その後、バンという大きな音がして、沢山の人が部屋に入ってきました。私は、BやAが仲間割れをしたのだと思っていたので、Bたちの仲間が部屋に乗り込んできたのだと思い、怖くてたまらず、震えていました。すると男の人が私に、『aさんですね』と言い、警察手帳を見せてくれました。私はそこで初めて、助かったと思いました。そう思ったとたん、涙が溢れてきました。このようにして、私はBから殺される寸前に助け出されたのです。私は、今回本当に怖い思いをしました。Aから拳銃を持っていると教えられた時は、殺されるかも知れない、生きて帰れないかも知れないと思い、不安でたまりませんでした。Bが305号室で、私めがけて拳銃を構えた時は、もう駄目だ、殺される、と思い、目の前が真っ暗になりました。このつらい記憶は、私の頭から消え去る事はありません。私はこんな目に合わされる前の私に戻りたいです。私と母をこんなつらい目にあわせ、今も苦しめ続けている犯人三人については、刑務所から一生出して欲しくありませんし、外国人の人には二度と日本に来てほしくありません」
等と供述しております。
・甲第6号証から甲第8号証までは、bの供述調書であります。身代金要求電話が初めてかかってきた際の状況について若干朗読いたします。
「午後0時35分頃、私の携帯電話にaちゃんの携帯電話から電話がかかってきて、電話に出ました。aちゃんは、少し沈んだ感じの声で、『今、ママの昔の知り合いって言う人に、車に無理やりに乗せられてしまったの』等と言っていました。aちゃんの声に続いて、男の声で、『bさん、私たちは拉致したのではないのです。bさん次第で決まりますよ。警察に言えばすぐ殺しますよ』等と言って、脅してきたのです。私は、この電話で、aちゃんが拉致された事がわかり、心配するあまり、半泣きになりながら、秘書の松下や自分の母に電話をかけました。私は半泣きになりながら母に電話し、『aちゃんが誘拐されちゃった』等と言うと、母も『えーっ、aが』等と言いながら泣き出しまい、兄が母から電話を代わったため、私が兄に説明すると、兄は強い口調で、『警察だ、何が何でも警察だよ』等と言ってきたため、自分を取り戻し、警察に通報してaちゃんを取り戻してもらおうと思いました」
 aについてのbの供述について、若干朗読いたします。
「私は、aちゃんが一歳の時に当時の夫と別れました。私には、私の所為でaちゃんを父親のいない子にしてしまったと、申し訳なく思う気持ちがあって、それだから一層aちゃんが愛おしく思いました。母親一人で、aちゃんを育てなければならなくなったという状況の中、aちゃんに不自由な暮らしをさせたくない、aちゃんを幸せにしたいという一心で、aちゃんを育てながら、医師になる事を目指して、大学医学部に入学するための受験勉強に独学で取り組みました。aちゃんが保育園に行っている間の数時間を勉強に当ててがんばり、その一方で、私がお弁当を作って、aちゃんと公園に行ったりもして、育児と勉強を両立しようとがんばりました。勉学等のためにどんなに忙しくても、aちゃんの食事については、私の造ったものを食べさせたいと思い、毎日がんばって手料理を作って食べさせました。aちゃんに、さびしい思いをさせたくないという気持ちがいつも私の頭にあり、私は実家の親にも他人にも育児を任せず、自分ひとりでがんばって、aちゃんを育てたのです。私は様々な苦労、犠牲を伴いながら、苦労して努力してaちゃんを育ててきました。だからこそ、私にとってaちゃんは可愛くてたまらない存在で、私の体の一部と言って良いくらいの、大事な、大事な宝物なのです。しかし、この事件後、私やaちゃんの置かれた状況は一変しました。マスコミは、この事件について連日のように報道し、その中には、お金持ちのセレブとしてマスコミに出ていた私達が悪いかのような事を言う、心無い報道もありました。あるテレビの番組で、私たち親子を中傷する発言をコメンテーターがしているのを見て、私は腹が立ってテレビ局に抗議しようとしたことがありました。しかし、其の時aちゃんを見ると、aちゃんはベッドに顔をうずめて、両手を耳に当てて、何も聞きたくないというような格好をして、泣いていたのです。私はそんなaちゃんを見て、今回の事件で一番怖い思いをしてショックを受けたのは、aちゃんなんだ、と改めて思い知って、取り乱してしまった自分を本当に反省しました。私達は今回の事件の被害にあったばかりに、今でも苦しんでいます。大切なaちゃんに怖い思いをさせ、私達の人生を一変させてしまった犯人達の事は絶対に許せません。今後犯人達には一生社会に出てきて欲しくありませんので、厳重に処罰して欲しいと思います」
と述べています。
・甲9,10号証は、被害者親子関係の身上関係の戸籍であります
・甲11号証ないし14号証は、被害者のaの傷害に関する診断書、及び医者の供述調書等でありまして、被害者の傷害が公訴事実記載の通りであるという事が示されております。
・甲15号証は、被害者aの当時の服装及び外見を写真撮影報告した報告書であります。
・甲16号証も、同じく被害者の着衣を写真撮影した報告書であります。
・甲17,18号証は、本件身代金要求電話を録音していたテープの採録結果、及びその身代金要求電話の荷電状況の時刻等についての報告書であります。
・甲19号証は、bが身代金を取引銀行との間で準備した状況等についての報告書であります。
・甲20から22号証は、被害者aが立ち会った被害状況等の再現の報告書であります。
・甲23号証は、被害者を監禁していた部屋に突入した警察官らの再現による、その際の再現の実況見分調書であります。
・甲24号証は、逮捕時の拳銃発砲の可能性の実験結果についての報告書でありまして、引き金を引く意思がなければ発砲することはない、引き金に指を添えただけでは発砲する事は無い、旨の結果が記載されております。
・甲25号証26号証は、本件犯行、被害者を拉致した現場で拉致状況を目撃した目撃者の、犯行状況の目撃状況に関する供述調書であります。
・甲27号証は、目撃者が犯行車両のナンバーを記載した紙片の内容に関する報告書であります。
・甲28号証は、犯行使用車両の車検証。
・甲29号証は、その車両を検証した鑑定の検証調書であります。
・甲30号証は、被告人Hに犯行使用車両を貸した、レンタカーの職員の供述調書であります。
・甲31,32号証は、その車両の賃借関係に関する書面を複写した報告書、及びその金銭の報告書であります。
・甲33号証は、犯行現場のトップシンマルコ第四の検証調書であります。
・甲34号証は、同トップシンマルコ第四305号室での捜索差し押さえ調書でありまして、被害者が監禁中座らされていた椅子とか、本件拳銃を入れていた白いビニール袋、青色布袋等が発見押収されております。
・甲35号証は、Bが本件犯行の準備のために購入した被害者方付近の地図等が撮影された報告書であります。
・甲36証ないし38号証は、被告人Bに依頼されてaを尾行、調査した調査事務所の職員の供述調書であります。
・甲39,40号証は、その調査事務所の職員が作成し、Bに交付した調査報告書やビデオテープの内容等を報告したものであります。
・甲41号証は、BとAが、本件犯行現場である305号室に引っ越す前に居住していたウィークリーマンションに関する通訳関係の報告書であります。
・甲42号証は、そのウィークリーマンションにビデオデッキがあることを示した写真撮影報告書であります。被告人らは、このマンションのビデオデッキで探偵から受け取ったビデオテープを見た旨供述しています。
・甲43号証は、Bの知人の女性の供述調書でありまして、305号室の賃貸借契約をBに依頼されて、締結した状況等について、供述しています。
・甲44号証は、Bの行きつけの居酒屋の主人の供述調書でありまして、店に来たBがビデオテープの入った茶封筒を見せてきて、「この中に三億円入ってるんだ」などといった内容が供述されています。
・甲45号証、46号証は、冒頭陳述でも出てきましたCの供述調書でありまして、冒頭陳述記載の通り、BとAと共に被害者方の下見に行った事とか、Aが本件拳銃を持っていた事とか、あるいは、AやBと共に強盗事件を繰り返した事等が供述されております。
・甲47号証、48号証、49号証は、被告人三名の犯行当時の服装等を写真撮影した報告書であります。
・甲50号証51号証は、被告人Aの立会いの犯行再現調書でありまして、50号証が、ステップワゴンに押し込んだ後、車内の状況。51号証は、305号室の状況が再現されております。
・甲52号証、53号証は、被告人B立会いの犯行再現状況の実況見分調書でありまして、52号証がステップワゴン車内に押し込む状況。53号証は305号室の状況が再現されています。
・甲54号証は、被告人Hの犯行再現状況に関する実況見分調書であります。
・甲55号証は、被告人Hが立ち会った犯行関係現場の引き当たりに関する報告書であります。
・甲56号証は、被害者を拐取したバス停から、トップシンマルコ第四305号室までの所要時間を測った捜査報告書でありまして、所要時間は43分となっております。
・甲57号証は、被告人らの借財の状況に関する報告書であります。
・甲58号証は、本件拳銃等を捜索、差し押さえした関係の詳細調書であります。
・甲59号証60号証は、本件拳銃に関する鑑定嘱託書及び鑑定書でありまして、拳銃としての機能を有するもの、という鑑定結果が出されております。
・甲61,62号証は、本件実包に関する鑑定嘱託書、鑑定書でありまして、実包のうち二発については本件拳銃の適合実包であるという鑑定結果が出されています。
・甲63号証は、本件拳銃や実包等を写真撮影した報告書であります。
・甲64号証ないし67号証は、被告人A及びBが拳銃所持の許可があるかどうかの照会に関する証拠でありまして、何れも許可はないという結果でございます。
・甲68号証は、被告人Aの身上調書に関する照会回答でございまして、その内容は冒頭陳述記載の通りであります。
・甲69号証は、被告人Aの通っていた日本語学校職員の供述調書でありまして、被告人Aの生活状況等について記載されております。
・甲70号証は、被告人Hを住み込みで雇っていた加藤ヤスヒコの供述調書でありまして、被告人Hの生活状況等について記載されております。
・甲71号証は、被告人Hの妻の生活状況等に関する供述調書でございまして、殆ど実家に帰ってこない状況等が供述されております。
・甲72号証は、被害者を305号室に連れ込んだ時刻の特定に関する報告書でありまして、バス停で車内に押し込んで出発したのは0時26分、そこから、トップシンマルコまで先ほどの所要時間が43分という事で、足して1時1分頃と測定した理由が挙げられています。

検察官「続いて、乙号証でありますが、乙42号証から・・・・」
裁判長「先ず、甲号証をください」
 甲号証は、裁判官に渡される。
裁判長「それでは、一連の犯行にかかる拳銃は」
検察官「それは、後で提出します」
裁判長「それでは、乙42号証を」

・乙42号証は、被告人Hの身上経歴等に関する供述調書であります。
・乙43号証ないし45号証は、被告人Hの本件犯行に至る経緯、犯行状況等に関する供述調書であります。Bから本件犯行に誘われて、1000万円の報酬欲しさについていった事等、冒頭陳述記載の通りの内容が供述されています。
・乙46号証は被告人Hの身上に関する回答書。
・乙47号証は、被告人Hの前歴に関する照会結果報告書であります。
 以上です。

裁判長「それで、進展についてですが、A被告とB被告については、他の裁判所に公訴されているという事で、それと一括して期日が変更になると思いますが、H被告の関係での余罪というのはあるんですか?」
検察官「ございません」
裁判長「弁論を分離しようと思うのですが、よろしいですか?」
Hの弁護人「はい」
裁判長「検察官も」
検察官「はい、構いません」
裁判長「それでは、この段階で、H被告については弁論を分離します。それでは、次回に何事も無ければ、H被告の関係では、結審まで行くと」
Hの弁護人「はい」
裁判長「期日を取らせていただきますが、11月2日の午前中はいかがでしょうか?」
Hの弁護人「えーっと、私がちょっと、この日は、東京にいなくて」
裁判長「そうですか。11月1日の3時半以降はよろしいですか?」
Hの弁護人「11月1日、水曜ですね?はい」
裁判長「よろしいですか。じゃあ、H被告、前に来て」
H「はい」
 Hは、証言台の前に立つ。
裁判長「あなたについてはね、今日はここまでにします」
H「はい」
裁判長「次回は、11月1日水曜日の午後3時30分。わかりましたか?この日に出頭してください。今日はここまで」
 Hは、縄と手錠をかけられ、退廷する。退廷時は下を向き、傍聴席、被告席の方を見る事は無かった。したがって、B・Aと目を合わせる事も無い。
Hの弁護人「3時半から」
裁判長「3時半から」
Hの弁護人「終わりまで」
裁判長「はい。・・・・それでは、あの、先ほどH被告の関係で意見が留保されておりました関係で、採用取調べをいたしませんでした、乙の1ないし41、この段階で採用して取調べをいたします。それでは被告人に説明してください。まずね、A被告とB被告については、余罪の関係があって、えー、H被告の関係ではないということなんで、H被告の事件については弁論の分離をしています(通訳入る)。えー、これから証拠調べの関係で、先ほどA被告とB被告の弁護人が証拠とする事に同意をして、H被告の弁護人が意見を留保した、乙1から41について、裁判所は取調べをいたします(通訳入る)。それでは、検察官がこれから証拠の内容を説明します(通訳入る)。はい、それでは検察官お願いします」

○要旨の告知
・乙1号証は、被告人Aの身上経歴等についての供述調書であります。
・乙2号証ないし6号証は、被告人Aの、本件犯行を計画した状況、犯行に至る経緯、共謀状況等に関する供述調書であります。本件計画は自分が考え出したものではない事、探偵等を雇ってBと共に犯行を準備した事、Hに探偵から入手したビデオを見せてたりして説得し犯行参加の承諾を得た事、等を供述しております。
・乙7号証ないし9号証は、本件身代金目的拐取、監禁等の、あるいは身代金要求等の犯行状況に関する調書であります。内容は冒頭陳述記載の通りであります。
・乙10号証は、本件拳銃の保管所持状況に関するAの供述調書であります。
・乙11号証は、犯行中、Bと身代金要求の進捗状況等を連絡していた事に関する被告人Aの供述調書であります。
・乙12号証は、被告人Aが被告人Bに被害者を殺すよう依頼した旨の被告人Aの供述調書であります。
・乙13号証は、被告人Aが被告人Bによる拳銃発射の場面を目撃した状況に関する被告人Aの供述調書であります。
・乙14号証は、拳銃の知識、手入れの経緯状況等に関する被告人Aの供述調書であります。
・乙15号証、16号証については、被告人Aの供述調書でありまして、拳銃入手状況、保管状況、本件犯行当時の所持状況等について、冒頭陳述記載の通りに述べています。
・乙17号証は、被告人Aの不法残留に関する供述調書であります。内容は冒頭陳述記載の通りであります。
・乙18号証は、被告人の居住身分証、特記事項などを翻訳した報告書であります。
・乙19号証は、被告人Bに関する身上関係についての供述調書であります。
・乙20号証ないし24号証までは、被告人Bの犯行に至る経緯、共謀状況等に関する供述調書であります。内容は冒頭陳述記載のとおりでありまして、本件犯行の計画は元々Cらとの間でもあったこと、Cも含め三人でも下見に行った事、Aと二人で犯行の準備を始めてやった事、運転手としてHを誘って最終的に承諾を得た事等が記載されております。
・乙25号証ないし29号証は、被告人Bの監禁、身代金目的拐取、身代金要求等に関する、犯行状況に関する供述調書であります。内容は冒頭陳述の通りであります。

・乙30号証は、被告人Bが被告人Aから被害者を殺すよう依頼された際の状況に関する、被告人Bの供述調書であります。
・乙31号証ないし32号証は、被告人Bの本件拳銃の入手状況及び保管状況、所持状況等に関する供述調書でありまして、内容は冒頭陳述記載の通りであります。
・乙33号証は、逮捕直前に本件拳銃を発射した状況に関する被告人Bの供述調書であります。
・乙34号証は、被告人Bの戸籍。
・乙35号証は、被告人Bの前歴関係の回答書
・乙36号証は、被告人Bの前科調書。
・乙37号証ないし41号証は、被告人Bの前科に関する判決書きの謄本等であります。
以上です。

裁判長「そうすると、A被告とB被告人に関する余罪の関係の状況っていうのはどういう風になるのでしょうか」
検察官「今、一件追起訴済みでありますけれども、恐らくまた、再逮捕される方針で、まもなく、今月の中旬ぐらいに、一件追起訴がありまして、もう一件の追起訴は取り下げています。この時点で最終的にどういうスケジュールになるのか確定していないのでありますけれども、検察も、まもなく、一件が追起訴済みであるのと、もう一件の追起訴が取り消される予定であります」
裁判長「それは、千葉の関係?」
検察官「千葉の関係です」
裁判長「その辺の進行はどうなるか解らないのですか?」
検察官「多府県の強盗事件もあるようでありますので、その事件で捜査、再逮捕する事になるか・・・・」
裁判長「まあ、あの、ちょっと漠然としてるんですけれども、まあ、今の段階では、全体像が見えないっていうのはやむをえないかなあと思うんですが、もう少し、その、次回期日までに、そこの辺りをはっきり、ある程度はっきりさせて頂けないと」
検察官「二件は恐らく出来ます。そういった形で・・・・」
裁判長「え、あの、ま、とりあえず、それはおいといてね、要するに裁判所がお願いしたいのはですね、次回の期日で、最終的なとこまで、ま、計画を示せ、とは申しませんけれども、今日はちょっと漠然としすぎていますので、ある程度もう少し、はっきりした所を、ですね、もう少し。そうしないと、これからの審理計画が立てられません、という事で、お願いをしております」
検察官「次回期日までに大体のメドを示したいと思います」
裁判長「ところで、千葉の事件が、今月の終盤ぐらいですか?に起訴をされるという事で、手続きもありますので、一回12月ぐらいにやりたいですね。それで、三月ぐらいにある程度の起訴を出尽くした上で、審理計画を立てたい、という風に、裁判所としては考えています。」
眼鏡の弁護人「それは構わないですけども、それしかないと思うんですけども、ただですね、現在も千葉に行っていてですね、それで接見が大変だから、という事があるんですけども、更に、行くのはもっと地方だという風に聞いておるのですよ。そうすると、次回期日までに、そこまで打ち合わせできないという事があるので、打ち合わせ未了のままで望む事になるかも知れない」
裁判長「あの、ある程度前に、検察から話をして東京拘置所に戻していただいてですね、弁護人との、その、打ち合わせの時間を取れるような手配を検察官の方からもしていただきたいと」
検察官「例えば、今千葉で、次に静岡の時、東京拘置所に・・・・」
裁判長「ま、拘置所の中かどうかはともかくとして、そうしないと打ち合わせが出来ないという事ですので、その辺りを、ちょっと、検察官も配慮していただきたいと思います。で、とりあえず、次回はそういう形にしていただいて、検察官のほうからある程度お話をしていただけると思いますので、その関係も含めてですね、その段階でご意見を出していただきたいと考えています」

 公判の妨げになるような捜査はしていただきたくない、と裁判長は述べる。そして、少し協議をした末、12月27日10時〜12時に次回は指定される。しかし、その期日は結局つぶれ、2007年2月14日に、第二回公判は持ち越されることになるのだった。

裁判長「それでは、両名とも前に立って(通訳入る)」
 AとBは、証言台の前に立つ。
裁判長「ちょっとね、二人の関係で余罪があるのでね、その訴追を待ちながらという事に(通訳)。それで、次回は少し先になりますが、12月27日水曜日の午前10時(通訳入る)。二人とも解りましたね(通訳入る)」
被告人両名「はい」
裁判長「それでは、其の時に出頭するように(通訳入る)。それでは、本日はこれで終わります」

 12時まで予定されていたが、11時45分に公判は終わった。
 Aは、終始俯いており、Bは前を向いていた。退廷時に縄をかけられる時も、Aは硬い表情で俯いていたが、Bは刑務官と談笑さえしていた。そうした点で、二人はやや対照的に見えた。

事件概要  被告達は、2006年6月26日、身代金目的で東京都渋谷区の路上で女子大生を誘拐し、女子大生の実母に身代金を要求したとされる。
報告者 相馬さん


戻る
inserted by FC2 system