裁判所・部 東京地方裁判所
事件番号
事件名 住居侵入、強姦
被告名
担当判事
日付 2006.4.21 内容 判決

 住居侵入と強姦の罪に問われたA被告の判決公判が東京地裁で21日開かれた。

−主文−
 被告人を懲役6年に処する。未決拘留日数のうち110日をその刑に算入する。

−理由−
○罪となるべき事実
(1)被告人は被害女性当時22年を強いて姦淫しようと企て、8月28日午前11時ごろ、板橋区内のマンションにて無施錠の玄関ドアから室内に侵入し、そのとき入浴中であった同女が被告人の侵入に気づいて、浴室に閉じこもったが、ドアをこじあけて中に入り、「言う通りにしないと刺すぞ」「抵抗したら殺すぞ」「普通のセックスしたら、何もしないから」などと申し向け、午前4時ごろまでの間、姦淫した。
(2)正当な理由がないのにマンション内に立ち入った。

○本件の争点
 弁護人は本件について、住居侵入、強姦の事実そのものに疑いがあるとし、被告人もこれに沿う供述をしているので以下検討する。
 被害者の証言によると、平成17年8月28日に外出先から帰宅した被害者は室内でシャワーを浴びていたが、室内に誰かが侵入したことに気づき、浴室内に持ち込んでいた下着を身に着けて、浴室内に閉じこもった。
 数度交際相手から電話があったが、恐怖で出ることができなかった。
 犯人は室内から刃物を持ち出し、ドアをこじ開けて、被害者は持っていたイスを取り上げられた。
 犯人の特徴はストレートの髪で、目が大きくて鋭い、年齢は20歳後半くらいで、身長は170cm前後、煙草と香水の匂いがした。
 本件犯行後、もう関わりたくないとの思いから被害申告を躊躇していたが、交際相手の説得もあって警察に届け出た。
 以上が被害者の証言である。
 その種事案の性質上、被害者があえて虚偽の申告をする理由は見当たらない。内容も不合理・不自然な点はなく、被害を受けた者にしか語れない迫真性もある。また交際相手のY1と被害者の証言は符号している。
 なお弁護人は犯人の侵入後、被害者が異常な恐怖であったはずなのに欲室内で寝ている、忌まわしい体験のあったベッドを使っていることを理由に強姦事件を受けた被害者の行動とは考えられないなどと主張しているが、いずれも不自然であるとは言えない。
 以上によれば被害者が事件に遭ったことは認められる。
 次に本件で最も重要な、被告人が犯人であるか否かである。
 被害者宅の三角コーナーに煙草の吸殻が発見された。Y1と被害者はいずれも喫煙習慣がなく、三角コーナーに煙草があるはずがない。被害者は犯行中犯人から煙草の臭いを感じていた。つまり犯人が煙草の先端部を三角コーナーに漬けて火を消して、遺留したものと強く推認される。
 遺留品のウルトラライトは被告人が愛用していたものである。
 また遺留品に残されたDNA型は被告人の口腔内細胞と同一のもので、それは1億数千人に一人の割合という。
 結局、本件犯行を行ったのは被告人であると強く推認される。
 加えて被害者は犯人の特徴を上記のように証言しているが、被告人は身長173cmで、顔の輪郭や体格、服装などはいずれも被告人と一致している。それに被告人は外出するとき、大抵香水をつけていた。
 そもそも煙草をどこかから持ってきたと弁護人が言うY1には、他者を犯人に仕立て上げるような理由がなく、犯行の経緯も具体的に証言しており十分信用できる。煙草の件で真犯人が捜査の撹乱を図ったというのは考えられない。
 経緯を考えると、家人の在宅が容易に分かったものであり、侵入した当初から強姦の犯意が認められる。刑法130条前段(住居侵入)、177条(強姦)を適用して主文の刑に処するのが相当である。被告人に訴訟費用は負担させない。

−量刑の理由−
 被告人は判示(1)の当日、強姦の目的で住居内に侵入し、3時間に渡って潜んで、家人を待ち受けたうえ、ついには欲室内に押し入って暴行を加えて被害者を姦淫したものである。また2週間後にも同じアパート通路付近に侵入した(2)。
 (1)の犯行は特に被害者の人格を無視した身勝手極まりないものであり、酌量の余地は微塵も認められない。
 入浴中の被害者を発見して、ついには浴室内に押し入って「刺す」「殺す」などと脅迫を加えて、2度も姦淫行為に及び陵辱の限りを尽くした。これにより被害者は転居を余儀なくされるなど、身体的精神的苦痛も甚大である。
 ところが被告人には反省の態度は見られない。
 被害者が「できるだけ長く刑務所に入れてほしい」と厳しい処罰感情を持つのは当然である。そうすると被告人の刑責は重いと言うほかない。
 他方被告人の伯父が見守っていくことを誓っていること、被告人に罰金以外の前科がないことなどを考慮して、被告人を主文の刑にした。

 被告人は被害者の証言に合致した若い男性で、判決を聞いている間、深く俯いていた。
 あとは裁判長が控訴の説明をして終わった。

報告者 騎士ゲルググさん


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